アルゴ船 星座と神話や分割された理由

古代から伝わるアルゴ船座は、なぜ4つの星座に分割されたのか。イアソンと英雄たちの冒険物語、現在の星座の見つけ方まで、壮大な神話と天文学の歴史を紐解きます。星座に秘められた物語を知りたくありませんか?

アルゴ船 星座の歴史と分割

この記事でわかること
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アルゴ船座の由来

プトレマイオスの48星座に含まれる古代の巨大な星座の成り立ち

4つへの分割理由

ラカイユによる分割の経緯とりゅうこつ座・とも座・ほ座・らしんばん座への変遷

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神話と観測方法

イアソンの冒険物語と日本から見える時期・見つけ方

アルゴ船 星座の起源とプトレマイオスの48星座

 

アルゴ船座(アルゴ座)は、2世紀にプトレマイオスによってまとめられた「トレミーの48星座」の一つとして知られる南天の星座です。この星座は古代ギリシアの伝承に登場する船アルゴー号をモチーフとしており、古代メソポタミア起源の他の星座とは異なり、古代エジプトにその起源を持つと考えられています。

 

参考)アルゴ座 - Wikipedia

プトレマイオスの星座体系において、アルゴ船座は全天の8分の1を占めるほど巨大な星座でした。紀元前4世紀の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書『ファイノメナ』の中にも既にその名前が記録されており、紀元前3世紀後半のエラトステネースの『カタステリスモイ』や1世紀初頭のガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩』でも、船首を欠く姿で星座となっていると記述されています。

 

参考)https://www.asahi-net.or.jp/~nr8c-ab/88winargo.htm

興味深いことに、アルゴ船座は「ノアの方舟」とも同一視されることがありました。バイエルの『ウラノメトリア』では複数ある星座名の1つとして「Archa Nohæ(ノアの方舟)」と紹介されており、プランシウスも1613年に製作した天球儀上でArca Noehi(ノアの方舟)と改名し、3本マストの近代的な帆船を描いています。

アルゴ船 星座が分割された理由と経緯

アルゴ船座があまりに巨大であったため、18世紀にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカイユが、この星座を4つの星座に分割することを提案しました。ラカイユは、はちぶんぎ座レチクル座とけい座なども設定した天文学者として知られています。

 

参考)失われた星座・アルゴ座:サラリーマン、宇宙を語る。

1928年に国際天文学連合が現在の88星座を制定した際、アルゴ船座は正式にりゅうこつ座(竜骨座)、とも座ほ座の3つに分割されました。らしんばん座については、他の3つとは制定時期や理由が異なるため、実質的には3分割と考えられることもありますが、一般的には4つの星座に分かれたとされています。

 

参考)アルゴ座

分割後も興味深い特徴が残されています。ほ座には、δ、κ、λ、μ、ο、φ、ψの星はありますが、α星やβ星などが存在しません。これは、かつてアルゴ船座が4つの星座に分割された際、バイエル符号がそのまま引き継がれたためです。バイエルは明るい星から順にギリシア文字の符号をαからωまで付し、さらにラテン文字の小文字でsまでの符号を付していました。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/minami/ho.shtml

プトレマイオス星座は1928年の国際天文学連合の制定以前と以後で定義が異なりますが、大雑把に見てもプトレマイオス星座は全て存続しています。アルゴ船座も、とも座・ほ座・りゅうこつ座の総称として存続しましたが、実際に天文学者によって使われることがなく、通例はアルゴ船座を除く47星座が現存しているとされています。

 

参考)トレミーの48星座 - Wikipedia

アルゴ船 星座に登場する英雄イアソンと黄金の羊毛

アルゴ船座の由来となったギリシャ神話の物語は、英雄イアソンが黄金の羊毛(金羊毛)を求めて冒険する壮大な物語です。イアソンはペリアス王に王座を奪われており、王位を取り戻すための条件として、遠くコルキスの地にある「黄金の羊毛」を持ち帰ることを命じられました。黄金の羊毛は強大な力を持つ秘宝として知られており、ペリアスはこの難題を課すことでイアソンを追い払おうとしたのです。

 

参考)アルゴ船座(とも座、ほ座、りゅうこつ座、らしんばん座の神話

イアソンは女神アテーナーの助言を受けて、プリクソスの子で船大工のアルゴスに50の櫂を持つ巨船を建造させ、船名をアルゴスの名から「アルゴー」(「快速」の意)と名付けました。この船の舳先には、人の言葉を話すという樫の木が取り付けられたと伝えられています。

 

参考)アルゴナウタイ - Wikipedia

この遠征隊には、ギリシャ神話を代表する英雄たちが集まりました。ヘラクレスヘルクレス座)、双子の勇者カストルポルックスふたご座)、千里眼のリュンケウス、琴の名手オルフェウスこと座)など、50人の勇者たちが参加し、彼らは「アルゴナウタイ(アルゴ号乗り)」と呼ばれました。まさにギリシャ神話の「ドリームチーム」と呼ぶべき一団です。

 

参考)http://playmate.nobody.jp/i/astrology/Argo.htm

遠征隊は数々の困難を経てエーゲ海から黒海に入り、コルキスにたどり着きます。そこでイアソンは運命の出会いを果たします。王女メディアと出会い、彼女の助けを借りて黄金の羊毛を手に入れることになるのです。

 

参考)【完全保存版!】アルゴー号の冒険あらすじまとめ

アルゴ船 星座と魔女メディアの魔法

コルキスの王女メディアは、ただの王女ではありません。黒海の東にあるコルキスの国の王アイエーテスの王女であり、伯母にあたるキルケから魔法を習って、あらゆる薬草に通じ、魔術の天才として知られていました。メディアはイアソンに一目惚れし、彼を助けるために魔法の力を使います。

 

参考)http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/episode/witch.html

イアソンが黄金の羊毛を手に入れるためには、炎を吐く牡牛を手なずけ、竜の牙を畑に蒔いて生えてくる戦士たちを倒すという、常人には不可能な試練を乗り越えなければなりませんでした。メディアの魔法の助けを借りたイアソンは試練を乗り越え、竜が見張る黄金の羊毛をついに手に入れることに成功しました。

 

参考)ギリシャ神話の「アルゴー船の冒険」伝説とは

黄金の羊毛を手にしたイアソンとメディアはアルゴー船で帰路につきますが、道中でもさまざまな困難に見舞われました。アルゴー船の選手に飾ってあった女神像が突然しゃべりだし、「メディアを殺すのはやめなさい。メディアはすぐ近くにあるアイアイエ島へ行って、そこの魔女キルケに罪を清めてもらえばいい」と告げる場面もありました。

メディアの物語はアルゴー船の冒険の後も続き、壮絶な復讐劇へと発展していきますが、彼女の魔法の力がなければイアソンの冒険は成功しなかったことは間違いありません。この物語は、友情や勇気、知恵の象徴としてギリシャ神話の中でも特に有名な冒険譚として語り継がれています。

アルゴ船 星座を構成するりゅうこつ座とカノープス

りゅうこつ座(竜骨座)は、アルゴ船の本体を支える竜骨の部分を表す星座で、全天で2番目に明るい星カノープスが目印となります。カノープスはマイナス0.7等の輝きを持ち、おおいぬ座シリウス(マイナス1.5等)に次ぐ明るさです。

 

参考)星座八十八夜 #59 アルゴ船の船体を支える竜骨「りゅうこつ…

しかし、日本の多くの地域でカノープスの南中高度は非常に低く、見つけにくい星として知られています。北日本では地平線より上に昇らないため見ることができませんが、南の地域ほど高く昇るため、比較的見つけやすくなります。南中高度があまりに低いため、日本でも南の地域でないと、しかも冬から春という2月頃でないとなかなか見ることができません。

 

参考)カノープスを見つけよう

興味深いことに、中国にはこの星カノープスを見ると長生きできるという言い伝えがあるそうです。このため「南極老人星」とも呼ばれ、縁起の良い星として古くから親しまれてきました。

 

参考)https://main-saipla.ssl-lolipop.jp/sshort/26argo.html

りゅうこつ座の観察に最適な時期は冬から初春にかけてで、南の地平線近くに見えます。日本からはその一部分しか見ることができない南天の星座ですが、船本体の骨格の部分をかたどっている星座で、先端に1等星カノープスが輝いています。オーストラリアのシドニー近郊など南半球では、アルゴ船座全体をより明瞭に観察することができます。

 

参考)【今週のミニ知識】らしんばん座/りゅう座/りゅうこつ座/わし…

アルゴ船 星座の見つけ方と観測時期

アルゴ船座から分割された4つの星座は、日本からも観測できますが、南の空の地平線スレスレに現れるため、周囲に高い建物や山などがない開けた場所を選ぶ必要があります。南下すればするほど、これらの星座をクリアに見ることができます。

 

参考)らしんばん座とは?見つけ方や見どころ

とも座は、1等星のシリウスを持つおおいぬ座の尻尾、η(イータ)星のすぐそばにあるいびつな五角形として見つけることができます。らしんばん座は、とも座とほ座の間に位置しています。沖縄あたりまで南下すると、すぐ下のほ座や、となりのとも座が見つけやすくなるので、アルゴ船全体を想像しながら羅針盤を探してみることができます。

 

参考)星座八十八夜 #61 アルゴ船の行方を決める「らしんばん座」…

ほ座は、とも座とらしんばん座を見つけた後に探した方が良いでしょう。とも座の中程で輝く2等星アルドラを見つけ、そこから東へゆっくり目を向けると見つけやすくなります。ほ座は、りゅうこつ座の隣、みなみじゅうじ座の北に位置し、少し歪んだ形をした大きな六角形の星の並びとして認識できます。

 

参考)冬の星座「ほ座」の見つけ方を紹介します

観測時期としては、1月の深夜すぎにとも座、らしんばん座、ほ座、りゅうこつ座が姿を現します。ほ座の20時南中は4月10日頃で、冬から初春にかけて南の地平線近くに見えます。らしんばん座のおすすめの観測時期は冬の3月頃で、20時南中は3月31日です。

 

参考)星座八十八夜:沖縄で見える星座 - アストロアーツ

ほ座のδ星とκ星、そして、りゅうこつ座のι星とε星は大きな「十字」の形をつくっているので、これを目印にすることもできますが、この四つの星がつくる十字は「ニセ十字」と呼ばれていて、みなみじゅうじ座(南十字星)とよく似ているので、間違わないように注意が必要です。また、ほ座は天の川の綺麗なところにあるので、大体の見当をつけたら、星座図などを参考にして全体の姿を描くようにしてみると良いでしょう。

国立天文台のカノープス観察ガイド - りゅうこつ座のカノープスを見つけるための詳しい観測方法と時期が解観測方法と時期が解説されています

 

 


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