りゅうこつ座の神話と構成する星の特徴

りゅうこつ座は全天で2番目に明るいカノープスを擁し、かつてアルゴ座の一部だった南天の星座です。イータカリーナ星雲など見どころも豊富なこの星座には、どんな神話や星々が隠されているのでしょうか?

りゅうこつ座の神話と構成する星

この記事でわかること
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りゅうこつ座の成り立ち

巨大なアルゴ座から分割された歴史と竜骨の役割

主要な構成星

カノープス、ミアプラキドゥス、アヴィオールなど明るい星々

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アルゴ船の神話

イアソンと50人の勇士が黄金の羊毛を求めた冒険

りゅうこつ座の神話とアルゴ船伝説

 

りゅうこつ座自体は18世紀に新しく設定された星座であるため、独自の神話や伝説は伝わっていません。しかし、この星座が設定される前の「アルゴ座」は、ギリシャ神話に基づいた壮大な物語を持っています。アルゴ座は、英雄イアソンと50人のアルゴナウタイ(船乗りたち)が黄金の羊毛を求めて旅した「アルゴ船」を表しています。イアソンはペリアス王に王座を奪われており、王位を取り戻すための条件として、遠くコルキスの地にある「黄金の羊毛」を持ち帰ることを命じられました。黄金の羊毛は、強大な力を持つ秘宝として知られており、ペリアスはこの難題を課すことでイアソンを追い払おうとしたのです。

 

アルゴ船の冒険とりゅうこつ座の関係について詳しく解説
イアソンとアルゴナウタイたちは、さまざまな苦難を乗り越えながら目的地に辿り着きました。メディアという王女の魔法の助けを借りたイアソンは試練を乗り越え、ついに黄金の羊毛を手に入れることに成功しました。苦難の連続の航海を乗り越え、無事金色の羊の毛皮を持ち帰ることに成功したイアソンは、叔父ペリアスを倒して王になりました。このアルゴ船の背骨にあたる部分の竜骨を独立させたのが「りゅうこつ座」です。竜骨は船の底部を支える最も重要な構造材であり、航海の成功に不可欠な部分でした。

 

りゅうこつ座を構成する主要な星々

りゅうこつ座には、全天で2番目に明るいカノープスをはじめ、多くの明るい恒星が含まれています。りゅうこつ座α星のカノープスは、見かけの明るさがマイナス0.7等で、おおいぬ座のシリウスに次いで全天で2番目に明るい恒星です。スペクトル型F0Ⅱの黄色い一等星で、日本では「見ると長寿になる」と言い伝えられています。日本では南中の時でも地平線すれすれの低空にしか見えず、北日本では地平線より上に昇らないため見ることができません。

 

りゅうこつ座β星のミアプラキドゥスは、見かけの明るさ1.69等の2等星で、りゅうこつ座で2番目に明るい星です。スペクトル型A2Ⅳの白色の準巨星で、現在2等星の中では天の南極に最も近い位置にあります。この固有名は1856年にイライジャ・バリットが出版した「Geography of the Heavens」という星図に初めて登場し、アラビア語のMiah(水の複数形)とPlacidus(穏やかな)を組み合わせたものと考えられています。

 

りゅうこつ座ε星のアヴィオールは、見かけの明るさ2.01等の2等星で、橙色の主星と青白色の伴星からなる分光連星です。2つの星を合わせた光度は太陽の6000倍にも及びます。船舶や航空機の天測航法でよく用いられる57の恒星のうち、この恒星とくじゃく座α星の2個のみが固有名を持っていなかったため、1930年代にイギリス空軍機用の天測暦を作成するにあたってアヴィオール(Avior)という固有名が与えられました。2016年7月20日、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループは、りゅうこつ座ε星の固有名としてAviorを正式に承認しました。

 

りゅうこつ座η星とイータカリーナ星雲の神秘

りゅうこつ座η星は、明るさをコロコロと変える不思議な恒星として知られています。ある時には8等星や4等星、またある時にはマイナス1等星と、非常に幅広く明るさを変える変光星です。1841年には大きな擬似的超新星爆発を起こし、一時的に全天で2番目に明るい恒星となりました。この爆発により、りゅうこつ座η星のすぐ周囲に「人形星雲」として知られるより小さな星雲が形成されました。

 

イータカリーナ星雲は、りゅうこつ座の中に見える巨大な星雲で、日本からは見えない南天の天の川の中、南十字星の近くにあります。全天でも最も大きく明るく見える星雲で、オリオン星雲の4倍の大きさがあり、肉眼でも見ることができます。その中心にあるりゅうこつ座η星は太陽の100倍以上もの質量があり、太陽より数百万倍もの明るさで輝いていると考えられています。地球からは6500光年から1万光年離れていると推定されています。

 

イータカリーナ星雲の詳細な観測データと画像
りゅうこつ座η星とHD 93129Aという、銀河系で最大級の重さと光度を持つ恒星の2つがこの星雲の中にあります。りゅうこつ座η星がイータカリーナ星雲に及ぼす効果は直接観測することが可能で、暗いボック・グロビュールやその他の天体は、重い恒星の方から尾を引いているように見えます。

 

りゅうこつ座の観測方法と見つけ方のポイント

りゅうこつ座を見つける最大の目印は、一等星のカノープスです。東北地方中部より南の本州であれば、南の空の地平線ギリギリに、カノープスが確認できるでしょう。観測に最適な時期は1月から3月頃で、冬の大三角やおおいぬ座のシリウスを目印にして、南の地平線すれすれを探すとカノープスを見つけやすくなります。カノープスは南の地域ほど高く昇るため、比較的見つけやすくなります。

 

カノープスから東南方向にあるみなみじゅうじ座に向かって視線を動かすと、アルゴ船の船底を支えるりゅうこつ座の横に長い姿を確認できます。カノープスもみなみじゅうじ座も南天の空ではひときわ明るく目立つ星たちなので、見つけるのは難しくありません。りゅうこつ座が輝くのは、無数の星々がひしめくとても美しいエリアです。

 

りゅうこつ座を構成する星の中には、「ニセ十字」と呼ばれる「十」の字を形づくる星があります。これはりゅうこつ座のι星とε星、そして、ほ座のδ星とκ星によって形成されます。南天では本物のみなみじゅうじ座と間違えやすいため、「ニセ十字」という呼び名が付けられました。日本からの観測では地平線下にあって見ることができない部分も多くありますが、カノープスの観測だけでも価値があります。

 

りゅうこつ座の歴史と分割の経緯

りゅうこつ座は、18世紀半ばにプトレマイオスの48星座の1つアルゴ座の中に設けられた小区画を起源とする新しい星座で、船の竜骨をモチーフとしています。アルゴ座はあまりにも巨大(全天で最も巨大)だったため、18世紀フランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカイユが、1750年頃に分割を考案しました。1763年出版されたラカイユの星図ではアルゴ座を3つに分けており、それぞれ、りゅうこつ(竜骨)座、とも(船尾)座、ほ(帆)座になりました。

 

実際には、ラカイユ自身が説明しているように、ラカイユはアルゴ座の一部を削ってらしんばん座を設け、残るアルゴ座の領域を3つの小区画に区分けしただけであり、アルゴ座を4つの星座に分割したという事実はありません。1922年5月にローマで開催された国際天文学連合(IAU)の設立総会で現行の88星座が提案された際、ラカイユ以降に「アルゴ座」とされていた領域は、Carina(りゅうこつ座)、Puppis(とも座)、Vela(ほ座)の3つに分割されることが決定されました。

 

アルゴ座の分割の詳細な歴史と経緯
分割後も、ギリシア文字の符号はそのままに、星座名の部分だけが変更されました。ラテン文字の符号は、変光星の命名法「アルゲランダー記法」と競合しないよう、いくつかの星で変更されています。現在ではこれらに加え、らしんばん座がさらに独立しており、かつての巨大なアルゴ座は「ほ座」「とも座」「らしんばん座」「りゅうこつ座」の4星座に分割されています。りゅうこつ座はその中でももっとも南よりに位置していて、大部分の地方では南半分が地平線下にあって見ることはできません。

 

りゅうこつ座と長寿伝説の文化的意義

カノープスは日本では古くから「寿老人星」や「南極老人星」と呼ばれ、見ると長寿になるという言い伝えがあります。この伝説は中国の道教思想に由来し、七福神の一柱である寿老人と関連付けられてきました。カノープスは日本の多くの地域で地平線すれすれにしか見えないため、よく晴れた夜に南の空が開けた場所でないと観測できません。この希少性が、長寿の象徴としての価値を高めたと考えられています。

 

南半球ではりゅうこつ座はよく知られた人気の星座のひとつですが、北半球の日本からは観測が困難な星座です。それでもカノープスを一目見ようと、多くの天文愛好家が冬の夜に南の地平線を注視します。カノープスとシリウスは、冬の夜空で最も明るい2つの恒星として並んで輝き、シリウスを手がかりにカノープスを探すことができます。よく晴れた夜に南の空が開けた場所で、冬の大三角やおおいぬ座のシリウスを目印にして、南の地平線すれすれを探すとカノープスを見つけやすくなります。

 

りゅうこつ座を構成する星々は、航海術の発展にも貢献してきました。カノープスやアヴィオールは天測航法で重要な役割を果たし、船舶や航空機が自分の位置を知るための基準星として使われてきました。現代ではGPSが普及していますが、かつては星の観測が唯一の位置確認手段であり、りゅうこつ座の明るい星々は航海者にとって命綱でした。このように、りゅうこつ座は神話、文化、科学技術の多様な側面で人類と深く関わってきた星座です。

 

 


りゅうこつ座