とも座神話と構成する星|アルゴ船の歴史と輝く恒星たち

とも座は古代ギリシア神話のアルゴ船に由来する南天の星座で、ナオスやアズミディなど特徴的な恒星が輝いています。かつて巨大なアルゴ座として存在していた星座の一部が、18世紀に分割されて現在の姿になりました。とも座の神話や構成する星々について、どのような魅力があるのでしょうか?

とも座の神話と構成する星

とも座の特徴
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アルゴ船の船尾を表す星座

古代ギリシア神話の英雄イアソンが乗った伝説の船、アルゴ号の船尾部分を表現した南天の星座です

2等星ナオスが最も明るい

とも座で最も明るい恒星は2.25等星のζ星ナオスで、ギリシア語で「船」を意味する名前を持ちます

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散開星団M46・M47が見どころ

南天の二重星団と呼ばれる美しい散開星団が隣り合って輝き、双眼鏡や望遠鏡での観測に適しています

とも座の神話|アルゴ船の冒険

とも座の起源は、古代ギリシア神話に登場する英雄イアソンと五十人の英雄たちが乗り込んだ伝説の船「アルゴ号」にあります。イアソンは奪われた王位を取り戻すため、悪王ペリアスから黄金の羊毛を手に入れるよう命じられ、地の果てコルキスへの危険な航海に旅立ちました。

 

アルゴ号には、竪琴の名手オルフェウス(こと座)、双子の英雄カストルとポルックス(ふたご座)など、錚々たる英雄たちが乗船しました。航海の途中では、美しい歌声で船乗りを惑わすセイレーンの誘惑や、通り抜ける船を押し潰す岩シュムプレーガデスなど、数々の試練に見舞われましたが、英雄たちの活躍とオルフェウスの琴の音色によって難を逃れました。

 

コルキスに到着したイアソンは、王女メディアの魔法の助けを得て、火を吐く牛を従え、竜の牙から生まれる戦士を倒し、眠らぬ竜が守る黄金の羊毛を見事に手に入れました。帰路も波乱に満ちていましたが、アルゴ号は無事に故郷へ戻り、この偉業を称えて船は天に上げられ星座となったと伝えられています。

 

興味深いことに、古代の星座絵では船首部分が欠けた姿で描かれており、紀元前3世紀の詩人アラートスは「船首から帆柱までは靄のかかったようで星もないまま進む」と表現しました。これは南天の星が見えにくかったためとも、航海の試練を象徴しているともいわれています。

 

アルゴー号の冒険の詳細なあらすじを知りたい方は、神話ログの解説記事が参考になります

とも座を構成する星|ナオスとアズミディ

とも座には特徴的な恒星が数多く輝いており、2023年6月現在、国際天文学連合によって6個の恒星に固有名が認証されています。

 

とも座で最も明るい恒星

  • ζ星ナオス:2.25等星で、とも座で最も明るい恒星です。太陽系から約1,080光年の距離にある青色超巨星で、スペクトル型はO4I(n)fpに分類されます。ギリシア語で「船」を意味する「ナオス(Naos)」という固有名を持ち、肉眼で色を識別できる程度に明るい恒星の中では最も青く見える星として知られています。太陽の60倍以上の質量を持つ超巨星で、強力な恒星風を吹き出しており、その光点が生み出す渦構造が観測されています。
  • ξ星アズミディ:3.30等星の黄色超巨星で、太陽系から約1,020光年の距離にあります。スペクトル型G6Ibで、「アズミディ(Azmidi)」という固有名が2018年に国際天文学連合によって正式に承認されました。
  • ρ星トゥレイス:2.81等星の輝巨星で、太陽系から約63光年と比較的近い距離にあります。アラビア語で「小さな盾」を意味する「トゥレイス(Tureis)」という固有名を持ち、化学特異星のAm星に分類されています。約0.14日の周期で2.68等から2.87等の範囲で変光するたて座δ型変光星でもあります。

その他の注目すべき恒星

  • π星:2.70等星の赤色巨星で、半規則型変光星に分類されています
  • σ星:3.25等星の橙色巨星で、太陽系から約192光年の距離にあります
  • τ星:2.93等星の橙色巨星で、太陽系から約176光年の距離にあります
  • ν星:3.17等星の青色巨星です

とも座には珍しい特徴があり、α星からε星までの恒星が存在しません。これは後述するアルゴ座の分割の歴史に由来するもので、18世紀にラカイユが付けたギリシア文字の符号がそのまま3つの星座に分割されたためです。

 

超巨星ナオスの特殊な恒星風構造については、アストロアーツの解説記事で詳しく紹介されています

とも座の天体|南天の二重星団

とも座には、散開星団や惑星状星雲など、観測に適した多彩な天体が存在します。特に冬の天の川の中に位置するため、双眼鏡を向けると大小無数の星が輝く美しい領域です。

 

メシエ天体

  • M46:太陽系から約4,930光年の距離にある散開星団で、1771年にフランスの天文学者シャルル・メシエによって発見されました。淡い星が密集した美しい星団で、望遠鏡で観測すると約100個の星を確認できます。
  • M47:太陽系から約1,640光年の距離にある散開星団です。M46よりも約3倍近い位置にあり、より明るく大きな星で構成されています。実際には1654年にシチリアの天文学者オディエルナが発見していましたが、メシエが座標を間違えて記録したため、1959年まで見失われた天体となっていました。

M46とM47は隣り合って見えることから、ペルセウス座の二重星団になぞらえて南天の二重星団と呼ばれることもあります。実際には太陽系からの距離が大きく異なり、見かけ上近くに見えるだけですが、双眼鏡や小型望遠鏡での観測対象として人気があります。

 

  • M93:太陽系から約3,360光年の距離にある散開星団で、くさび形の特徴的な形状をしています。

その他の注目天体

  • NGC 2477:太陽系から約4,700光年の距離にある散開星団で、コールドウェルカタログの71番に選ばれています
  • NGC 2440:太陽系から約4,800光年の距離にある惑星状星雲で、中心星の表面温度は約200,000Kと非常に高温です
  • とも座A:太陽系から約6,500光年の距離にある超新星残骸で、約4,550年前の超新星爆発の痕跡と考えられています

とも座の見つけ方と観測時期

とも座は南天の星座ですが、日本からも観測することができます。赤緯−11°.25から−51°.10まで南北に長い領域を持ち、日本では居住地域の全てからこの星座の一部を見ることができ、北緯38.9度以南ではその全域を見ることができます。

 

観測時期と見える方角
とも座の観測に適した時期は2月上旬から3月上旬で、3月13日の20時頃に南中します。ただし南の低い位置にあるため、南の地平線が開けた見晴らしの良い場所での観測が必要です。高度は約20度から24度程度と低めですが、2等星のナオスは明るいため比較的見つけやすい星座です。

 

見つけ方の手順

  1. まず冬の大三角形の南の一角、おおいぬ座のシリウスを探します。シリウスは全天で最も明るい恒星(-1.46等星)なので、すぐに見つかります。
  2. シリウスから南東に下がったところに、おおいぬ座の尻尾にあたる2等星のウェズンとアルドラの2つの星があります。
  3. その左側(東側)に、とも座の3等星が2つ見つかります。そこを先端として真下に向かうと、2等星のナオスが輝いています。
  4. もう一方を西へ緩やかに下がる線を3等星で結んでいくと、いびつな台形を2つ繋げたような形になります。

観測のポイント

  • 南の地平線まで見渡せる開けた場所を選びましょう
  • 光害の影響を受けにくい場所での観測が理想的です
  • 双眼鏡があれば、M46とM47の散開星団を同時に視野に入れることができます
  • 望遠鏡を使えば、散開星団内の個々の星を分離して観測できます

冬の星座は1等星が多く華やかですが、その中でもとも座は南天の低い位置で控えめに輝いています。おおいぬ座のシリウスを目印にすれば、比較的容易に見つけることができるでしょう。

 

アルゴ座から分割された歴史

とも座の歴史を語る上で欠かせないのが、巨大な星座「アルゴ座」の存在です。現在のとも座、ほ座、りゅうこつ座、らしんばん座は、かつて1つの巨大な星座として扱われていました。

 

古代から18世紀まで
アルゴ座は紀元前1000年頃には既に存在していたと考えられ、紀元前4世紀の古代ギリシアの天文学者クニドスのエウドクソスの著書に既に名前が登場しています。2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの『アルマゲスト』では、45個の星がアルゴ座に属するとされ、この時点で現在のとも座の原型が整っていました。

 

大航海時代以降、南天の観測記録が欧州にもたらされるようになると、アルゴ座の領域は東と南に拡張されていきました。1603年にドイツのヨハン・バイエルが製作した全天星図『ウラノメトリア』では、アルゴ座の星々に明るい順にギリシア文字の符号が付けられました。

 

ラカイユによる小区画の設定
18世紀のフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカイユは、1756年に巨大なアルゴ座に改変を加えました。ラカイユは、アルゴ座の一部を削って航海用コンパスを擬した星座「la Boussole」(後のらしんばん座)を設け、残るアルゴ座の領域に以下の3つの小区画を設けました。

  • Corps du Navire(船体):後のりゅうこつ座
  • Pouppe du Navire(船尾):後のとも座
  • Voilure du Navire(帆):後のほ座

ただし、この時点ではあくまで1つのアルゴ座の中に設けられた小区画であり、独立した星座ではありませんでした。よく「ラカイユがアルゴ座を4つの星座に分割した」と紹介されることがありますが、これは誤りです。ラカイユ自身はプトレマイオスの権威を尊重し、アルゴ座を1つの星座と見なしていました。

 

グールドによる分割
1879年、アルゼンチン国立天文台の所長だったアメリカの天文学者ベンジャミン・グールドは、南天の星表『Uranometria Argentina』を刊行する際に、大きすぎて不便なアルゴ座をCarina(りゅうこつ座)Puppis(とも座)、**Vela(ほ座)**の3つの星座に分割しました。グールドはラカイユが付けたギリシア文字の符号をそのまま残し、星座名の部分だけを変更しました。

 

この改変により、とも座にはζ・ν・ξ・π・ρ・σ・τの7個のギリシア文字を持つ星だけが残され、α星やγ星は存在しないという珍しい星座となりました。これらの明るい星は、りゅうこつ座やほ座に配分されたためです。

 

国際天文学連合による正式決定
1922年5月にローマで開催された国際天文学連合(IAU)の設立総会で、現行の88星座が提案された際、アルゴ座の領域は正式にCarina(りゅうこつ座)Puppis(とも座)Vela(ほ座)の3つに分割されることが決定されました。とも座の略称はPupと定められました。

 

こうして、プトレマイオスの48星座の中で唯一、現代の88星座に選ばれなかった星座となったアルゴ座ですが、その壮大な姿は分割された3つの星座に受け継がれています。とも座は今でも、古代ギリシアの英雄たちの冒険の物語を夜空に伝え続けているのです。

 

失われたアルゴ座の詳細な歴史については、サラリーマン、宇宙を語る。の解説が参考になります