おおぐま座には、ギリシャ神話における月と狩りの女神アルテミスに仕える美しいニンフ、カリストの物語が伝えられています。大神ゼウスはカリストの美しさに心を奪われ、アルテミスに姿を変えてカリストに近づきました。やがてカリストはゼウスの子を授かりますが、この事実を知ったアルテミスは怒り、カリストを追放してしまいます。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/ooguma.shtml
ゼウスの妻ヘラの嫉妬はさらに深く、呪いの魔法によってカリストを一頭のクマの姿に変えてしまいました。美しい姿を失ったカリストは、その姿を恥じて深い森の中へと身を隠します。一方、残された子どもアルカスは親切な人に拾われ、20年後には立派な狩人として成長しました。
参考)おおぐま座 - 新興出版社啓林館・文研出版 万博プロジェクト
ある日、狩りに出たアルカスは大きなクマに遭遇します。このクマこそが母カリストだったのですが、アルカスは気づかずに矢をつがえます。カリストは息子だと分かり喜びの声をあげて抱きつこうとしますが、アルカスには恐ろしいクマが襲いかかってくるようにしか見えません。まさに矢が放たれようとした瞬間、天上から見ていたゼウスが激しい竜巻を起こし、母子のクマを共に天空へと舞い上げました。こうして二頭のクマはおおぐま座とこぐま座になったと伝えられています。
興味深いことに、ゼウスがしっぽをつかんで天に放り上げたため、おおぐま座のしっぽは通常のクマよりも長く伸びているという説もあります。また別の説では、アルカスはうしかい座となり、おおぐま座を追いかけるように夜空を回っているとも言われており、これは母を探し続ける息子の姿だとされています。
おおぐま座で最もよく知られているのが、大熊の腰から尻尾にかけての部分を形作る北斗七星です。この七つの星は、ひしゃくの形に並んでいることから「ひしゃく星」とも呼ばれています。北斗七星は6つの2等星と1つの3等星で構成されており、非常に見つけやすい星の並びです。
参考)おおぐま座 - Wikipedia
コップ側の端から順に、各星には以下の固有名が付けられています。
参考)https://starwalk.space/ja/news/ursa-major-constellation-guide
📍 北斗七星を構成する7つの星
これらの星々のうち、ミザールの傍には4等星のアルコルが存在し、視力の良い人なら裸眼でも見つけることができます。北斗七星のドゥーベとメラクを結んだ線を延長すると北極星を見つけることができるため、古くから航海や方角を知る目印として重宝されてきました。
参考)「おおぐま座、こぐま座」の見つけ方や誰かに教えたくなる星の話…
おおぐま座全体では、北斗七星以外にも頭部や爪の部分に複数の星が配置されており、全天で3番目に大きい星座となっています。北斗七星を起点に星を結んでいくと、北の空に大きな熊の姿を浮かび上がらせることができます。
参考)おおぐま座|やさしい88星座図鑑
北斗七星の柄の部分、先端から2番目に位置するミザール(おおぐま座ζ星)は、おおぐま座の中でも特に注目される星です。このミザールのすぐ近くには、アルコルという4等星が寄り添うように輝いています。
参考)二重星ミザールとアルコル - ぐんま天文台
ミザールとアルコルの離角は約12分角(満月の直径の半分弱)で、明るさはミザールが2等星、アルコルが4等星です。目が良い人なら肉眼でアルコルを見つけられるため、古くからこの星が見えるかどうかが視力検査に使われたと言われています。アルコルという名前には「かすかなもの」という意味があり、この星が肉眼で見える人は目に自信を持てたそうです。
参考)https://www.city.owariasahi.lg.jp/uploaded/attachment/25754.pdf
🔬 ミザールの驚くべき構造
望遠鏡を使ってミザールを観察すると、さらに驚くべき事実が明らかになります。ミザール自身が2つの星(ミザールAとミザールB)に分かれて見える望遠鏡二重星なのです。さらに、ミザールA、ミザールB、アルコルのいずれも分光連星(スペクトルの観測から連星であることが分かる星)であることが判明しています。つまり、肉眼では2つに見えるこの星系は、実際には6つ以上の星から構成される複雑な多重星系なのです。
参考)二重星
ミザールとアルコルは、肉眼二重星の代表例として天文学の教材にもよく登場します。双眼鏡や小型望遠鏡でも美しい二重星の姿を楽しむことができ、アマチュア天文家にも人気の観測対象となっています。
おおぐま座には、北斗七星以外にも魅力的な天体が数多く存在します。特に有名なのが、おおぐま座の頭部近くに位置するM81(ボーデの銀河)とM82という二つの銀河です。
参考)M81、M82、渦巻銀河 −天の川のほとりで星空散歩−
M81は美しい渦巻銀河で、視等級6.9等、視直径25.7分角の広がりを持っています。一方、M82はスターバースト銀河として知られる不規則銀河で、視等級8.4等、視直径11.2分角です。両銀河とも地球から約1200万光年の距離に位置しており、互いに引力の影響を受け合うことで独特の形が作られています。
参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m82-j.shtml
🌌 M81とM82の見つけ方
北斗七星のコップ(容器)の先の方角に、これら二つの銀河は位置しています。望遠鏡で低倍率で観察すると、二つの銀河がハの字に並んで同一視野に収まり、それぞれの星雲の広がり方の違いを観察できます。M81では渦巻き模様は小型望遠鏡ではっきり見ることは難しいものの、濃淡の差を観察することは可能です。
おおぐま座の位置は天の川銀河のディスク面から離れているため、星間物質に邪魔されることなく、数多くの他の銀河を観測できるという特徴があります。M81とM82は、すぐ近くにある渦巻銀河との相互作用によって、M82では爆発的な星形成が進行し不規則な形になったと考えられており、銀河の進化を研究する上でも重要な天体です。
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おおぐま座は日本からほぼ一年中いつでも北の空のどこかに見ることができる星座ですが、最も観測に適した季節は春から夏にかけてです。特に5月の午後8時頃には北の空高く昇り、一番見やすくなります。
参考)おおぐま座とは?見つけ方や見どころ、神話まで
北の空でひしゃくの形に並ぶ七つの明るい星、北斗七星がおおぐま座の目印です。北斗七星が熊の胴体からしっぽの部分にあたり、これと爪の部分にそれぞれ2つずつ並んだ星を結びつけると、大きな熊の姿が夜空に浮かび上がります。
🌟 観測のコツと注目ポイント
4月中旬の夜21時ごろには、北の空の高いところに北斗七星が昇っています。星図を見ると、北斗七星の水を汲む部分が熊の腰、柄の部分が尻尾にあたることが分かります。一番高く昇ると、北斗七星は伏せた傾きになり、大熊は走り高跳びの背面跳びのような仰向けの角度になります。
参考)星空案内 - 2023年4月の星空
おおぐま座は全天で3番目に大きい星座であり、その大きさゆえに全体像を捉えるには時間がかかるかもしれません。しかし、北斗七星をたどっていけば、案外簡単に姿を捉えることができます。北斗七星は7つの星のうち1つが3等星で、残りはすべて2等星なので、北斗七星自体も簡単に見つけることができるはずです。
おおぐま座は紀元前1200年頃には既に知られていた古い星座で、洋の東西を問わず様々な神話や伝説が伝えられています。古代メソポタミアでは荷車座、古代エジプトではメスケティウと呼ばれるなど、文化によって異なる見方がされてきた歴史があります。北斗七星は北極星を探し出す目印として古くから注目されており、航海術の発展にも大きく貢献してきました。
星座図鑑・おおぐま座の神話・伝説 - おおぐま座の詳細な神話と星座絵の解説
ホンダ公式サイト - おおぐま座とこぐま座の見つけ方や星の話
AstroArts - M81とM82銀河の詳細な天体写真と観測情報