ミザール アルコル距離と連星系の謎

北斗七星の柄にあるミザールとアルコルは、視力検査に使われるほど近い位置関係にありますが、実際の距離はどうなのでしょうか?この二重星の距離と連星の可能性について、詳しく解説します。連星なのか偶然の重なりなのか、あなたは判断できますか?

ミザール アルコル距離

ミザールとアルコルの基本情報
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地球からの距離

ミザールまで約86光年、アルコルまで約82光年

📏
両星間の実距離

約4光年の空間的な隔たりがある

👁️
見かけの角距離

約12分角(満月の半径程度)の離角

ミザール アルコル間の実際の距離測定

 

ミザールとアルコルの距離は、ヒッパルコス衛星の精密観測によって明らかになりました。地球から見てミザールは約86光年、アルコルは約82光年の位置にあり、両星の間には約4光年の空間的な隔たりが存在します。この距離は太陽から最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリまでの距離とほぼ同じで、宇宙的スケールでは決して近い距離ではありません。年周視差による正確な測定により、これまで推測されていた距離が科学的に裏付けられました。

 

参考)ミザール - Wikipedia

しかし別の観測データでは、両星とも地球から約78光年の距離にあり、ミザールとアルコルの間は0.3光年という報告もあります。このような測定値の違いは、観測時期や使用した衛星の精度によって生じるものですが、いずれにせよ両星が数光年の範囲内に位置していることは確実です。これらのデータから、ミザールとアルコルが物理的に関連する連星系なのか、それとも偶然同じ方向に見える見かけの二重星なのかという議論が続いています。

 

参考)アルコル - Wikipedia

ミザール アルコルの見かけの角距離と視力検査

ミザールとアルコルの見かけの角距離は約12分角で、これは満月の直径の半分弱に相当します。視力1.0の人の分解能が1分角に相当するため、理論上は視力0.1以上あれば両星を見分けることができます。このことから、かつてアラビアでは兵士の視力検査にこの二重星が使われていたという歴史があります。

 

参考)http://www.starclick.ne.jp/backnumber/2000Spr/uma/uma-2.html

視力検査としての使用については興味深い記録が残っています。14世紀のアラビアの辞典編集者マジドッディーン・フィールーザーバーディーによれば、この星は「al-Ṣaidak(テスト)」と呼ばれ、2つの星が分離して見えるかどうかで視力を試していました。ただし現代の都市部では光害によってアルコル自体を見ることが困難になっており、視力検査としての実用性は失われつつあります。明るさはミザールが2等星、アルコルが4等星で、この明るさの差も視力検査の要素となっていました。

 

参考)二重星ミザールとアルコル - ぐんま天文台

ミザールの望遠鏡観測による連星発見

17世紀に望遠鏡が発明されると、ミザールは単独の星ではなく、ミザールAとミザールBという2つの星からなる連星であることが判明しました。これは望遠鏡で分離できる実視連星として、天文学史上非常に重要な発見となりました。両星は約14秒角離れており、小型の望遠鏡でも分離して観測することが可能です。

 

参考)https://www.city.chino.lg.jp/uploaded/attachment/12550.pdf

さらに19世紀末に分光観測技術が発達すると、ミザールAが分光連星であることが確認されました。分光連星とは、望遠鏡の画像では分離できないものの、スペクトルの観測によって連星であることが判明する星のことです。現在では、ミザールAだけでなくミザールBも分光連星であることがわかっており、ミザール全体で4重連星系を構成しています。さらに2009年にはアルコルにも8.8等の伴星が発見され、アルコルも連星であることが明らかになりました。

 

参考)二重星や連星のはなし(その1)|KODA

ミザール アルコルと連星系の可能性

ミザールとアルコルが真の連星系なのか、それとも偶然同じ方向に見える見かけの二重星なのかについては、確かな結論はまだ出ていません。連星であるかどうかを判断する方法として、星同士の距離と固有運動の観測があります。固有運動とは、星が宇宙空間を移動する際の見かけの位置変化のことで、真の連星であれば両星の固有運動はほぼ同じ方向と移動量になります。

 

参考)ミザールとアルコルを見よう(2024年4月)

両星はともにおおぐま座運動星団に属していることがわかっています。おおぐま座運動星団は、北斗七星の両端2つを除く5つの星を含む散開星団で、構成する星は同じ方向に固有運動しています。この星団は拡散段階にあり、かつて一緒に誕生した星々が徐々に離れつつある状態です。ミザールとアルコルも同じ星団に属するため、同じ起源を持つ「家族」であることは確実ですが、重力的に束縛された連星なのかどうかは依然として議論が続いています。

 

参考)おおぐま座運動星団|閏賀みつき

ミザール アルコル観測の歴史と現代技術

ミザールとアルコルは、天文観測技術の進歩とともに、そこに存在する星の数が2個だけではないことが明らかになっていった興味深い天体です。古代から肉眼観測で二重星であることが知られていましたが、望遠鏡の発明、分光観測技術の発達、そして人工衛星による精密測定と、技術革新のたびに新たな発見がありました。

ヒッパルコス衛星による年周視差の測定は、両星までの正確な距離を明らかにしました。将来のJASMINE計画では、さらに高精度な位置天文観測が予定されており、ミザールとアルコルの連星判定の信頼度も大きく向上すると期待されています。現在では、ミザールとアルコルは合計6個の星(ミザールの4重連星系とアルコルの連星)の組み合わせであることが判明しており、一見シンプルに見える二重星が実は複雑な多重星系であることがわかっています。

 

参考)https://turupura.com/guide/star/arukoru.html

ミザール アルコル観測における季節と方角

ミザールとアルコルを観測するには、北斗七星が見える季節と方角を知ることが重要です。4月の宵の空では、北斗七星は真北より東寄りの高い位置に見え、観測に適した時期となります。北斗七星の柄の部分、端から2番目の星がミザールで、そのすぐそばにアルコルがあります。

肉眼での観測には、できるだけ光害の少ない場所を選ぶことが推奨されます。都市部では街灯やビルの照明により、4等星のアルコルを見つけることが困難になっているためです。双眼鏡や小型望遠鏡を使えば、より確実に両星を分離して観測でき、さらに100倍程度の望遠鏡を用いればミザールAとミザールBも分離できます。天体望遠鏡メーカーのミザールテックは、この星にちなんで社名をつけており、同社の望遠鏡でこの二重星を観測するのも一興です。

 

参考)http://www.nanyo-eye.com/06section55.html

国立天文台:ミザールとアルコルを見よう - 二重星の観測方法と歴史的背景の詳細
群馬県立ぐんま天文台:おおぐま座の二重星 ミザールとアルコル - 望遠鏡での観測画像と分光連星の解説

 

 


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