真空ポンプの仕組みと油の役割、種類ごとの構造と選び方

真空ポンプが真空を作り出す仕組み、そして重要な役割を担う「油」。この記事では、油回転式や油拡散式など種類ごとの構造の違いから、性能を左右する油の選び方、交換時期までを解説。あなたの知らない真空の世界を覗いてみませんか?

真空ポンプの仕組みと油

真空ポンプと油の重要性
🔧
仕組みと構造

ポンプがどうやって空気を吸い出し、真空を作り出すのか、特に油回転ポンプの内部構造に焦点を当てて解説します。

💧
油の役割と選び方

潤滑から冷却まで、ポンプの性能を支える油の5つの重要な役割と、用途に合わせた最適なオイルの選び方を紹介します。

🌌
真空の科学

ポンプが作る真空と、遥か彼方の宇宙空間の真空との違いは何か?意外と身近な真空技術の世界を探ります。

真空ポンプの基本的な仕組みと油回転真空ポンプの構造

 

真空ポンプと聞くと、何か特別な機械を想像するかもしれませんが、その基本的な原理は非常にシンプルです。注射器のピストンを引くと内部の空気が吸い込まれ、圧力が下がるのをイメージしてみてください。真空ポンプは、この「容器内の気体分子を外部に排出することで、容器内の圧力を大気圧より低くする」という動作を連続的に行う機械です 。
真空ポンプには様々な種類がありますが、ここでは最も広く利用されている「油回転真空ポンプ」の仕組みを詳しく見ていきましょう 。このポンプは、その名の通り「油」を内部で使いながら、ローター(回転子)を回転させることで真空を作り出します 。「ロータリーポンプ」とも呼ばれ、大気圧から比較的高い真空度(中真空)まで効率よく排気できるため、多くの産業や研究分野で活躍しています 。
油回転真空ポンプの心臓部は、シリンダー(ケーシング)と、その内部で偏心して回転するローター、そしてローターに組み込まれた2枚の羽根(ベーン)です 。

  1. 吸入工程: ローターが回転すると、遠心力で飛び出したベーンがシリンダー内壁に接しながら動きます。この時、吸気口側の空間が広がり、容器内の気体がポンプ内部に吸い込まれます 。
  2. 圧縮工程: ローターがさらに回転すると、ベーンによって仕切られた空間が排気口側へ移動しながら狭くなっていきます。これにより、吸い込んだ気体は圧縮され、圧力がどんどん高まります 。
  3. 排気工程: 圧縮された気体の圧力が大気圧以上になると、排気弁を押し開けてポンプの外部へと排出されます 。

この一連のサイクルを高速で繰り返すことで、接続された容器内は徐々に真空状態に近づいていくのです 。そして、この全ての工程で重要な役割を果たすのが「真空ポンプ油」です。油は、回転するローターとベーン、そしてシリンダーの隙間を埋めることで、気密性を保ち、気体の逆流を防ぎます。同時に、部品同士が滑らかに動くための潤滑剤としても機能します 。もし油がなければ、部品はすぐに摩耗し、気密性が失われて十分な真空を作り出すことはできません。まさに、油回転真空ポンプの性能は、この油によって支えられているのです。
以下のリンクでは、油回転真空ポンプの構造がアニメーションで分かりやすく解説されています。

 

ULVAC 油回転真空ポンプの構造と動作原理

真空ポンプを支える油の重要な5つの役割と種類

油回転真空ポンプがその性能を最大限に発揮するためには、真空ポンプ油が不可欠です。この油は、私たちが普段目にする潤滑油とは少し異なり、真空という特殊な環境で機能するために、いくつかの重要な役割を担っています。専門的には、潤滑、気密、冷却、洗浄、防錆の「5大役割」があると言われています 。

  • 1. 潤滑作用 ⚙️
    ポンプ内部では、ローターやベーンといった部品が高速で回転・摺動しています。油はこれらの部品の間に油膜を形成し、金属同士が直接接触するのを防ぎます。これにより、摩擦や摩耗を減らし、ポンプのスムーズな動作を支え、寿命を延ばす重要な役割を果たします 。
  • 2. 気密作用 🌬️
    真空を作り出す上で最も重要な役割の一つです。油は、ミクロン単位のわずかな部品の隙間にも入り込み、その空間を完全に満たします。この油による「シール効果」によって、高圧の排気側から低圧の吸気側へ空気が逆流するのを防ぎ、高い真空度を達成・維持することができるのです 。
  • 3. 冷却作用 ❄️
    気体を圧縮する過程では、物理法則に従って熱(圧縮熱)が発生します。また、部品同士の摩擦によっても熱が生じます。真空ポンプ油はポンプ内部を循環することで、これらの熱を吸収し、外部に放出する冷却液の役割も担っています。油による冷却が不十分だと、ポンプがオーバーヒートし、性能低下や故障の原因となります 。
  • 4. 洗浄作用 🧼
    長期間の運転により、部品の摩耗によって生じる微細な金属粉や、外部から吸い込まれたゴミなどがポンプ内部に蓄積することがあります。循環する油は、これらの汚れや異物を洗い流し、フィルターで捕捉することで、ポンプ内部を常にクリーンな状態に保つ働きをします。
  • 5. 防錆作用 🛡️
    ポンプを停止している期間や、水分を含む気体を吸引した場合、ポンプ内部の金属部品が錆びてしまう可能性があります。真空ポンプ油は金属表面に膜を張り、空気や水分が直接触れるのを防ぐことで、錆の発生を抑制します 。

これらの役割を果たすため、真空ポンプ油には低い蒸気圧(真空中で蒸発しにくい性質)や、化学的な安定性が求められます 。一般的に使用されるオイルには、コストパフォーマンスに優れた「鉱物油」のほか、耐熱性や耐薬品性を高めた「合成油(エステル系など)」、さらには非常に過酷な化学的プロセスにも耐えうる「フッ素オイル(PFPE)」といった種類があり、用途に応じて最適なものが選ばれます 。

真空ポンプの性能を維持する油の交換時期と選び方

真空ポンプの性能を新品同様に保つ秘訣は、適切なオイル管理にあります。真空ポンプ油は消耗品であり、使っているうちに必ず劣化します。この劣化を放置すると、ポンプの性能が著しく低下するだけでなく、致命的な故障につながる可能性もあるため、定期的な点検と交換が非常に重要です 。
油の劣化サインを見逃さないで!
オイルの劣化は、主に以下の3つのサインで判断できます。

  • 色の変化: 新品の真空ポンプ油は、通常、無色透明か淡い黄色をしています。しかし、使用するにつれて徐々に茶色く濁り、最終的には黒っぽく変色していきます。これはオイルが酸化したり、摩耗粉や不純物が混入したりしている証拠です。油の色が濃い茶色になってきたら交換のサインです 。
  • 水分の混入(乳化): 空気中の水分や、プロセスガスに含まれる水蒸気を吸い込むと、オイルと水が混ざり合い、「乳化」という現象が起こります。オイルが白く濁っている状態がこれにあたります。水分が混入すると、油の潤滑性や気密性が著しく低下し、到達真空度が悪化するだけでなく、ポンプ内部に錆を発生させる原因にもなります 。
  • 異物の混入: ポンプの油量計(オイルレベルゲージ)を覗いたときに、沈殿物や浮遊物が見られる場合は注意が必要です。これらは外部からのゴミや、内部部品の摩耗粉である可能性があり、ポンプの寿命を縮める原因となります。

交換時期の目安は、ポンプの使用頻度や使用環境によって大きく異なりますが、多くのメーカーでは「3ヶ月~半年に1回」もしくは「運転時間500時間ごと」などを推奨しています。ただし、上記のような劣化サインが見られた場合は、推奨期間を待たずに速やかに交換することが大切です。
用途に合わせたオイルの選び方
真空ポンプ油には様々な種類があり、それぞれ特性が異なります。間違ったオイルを選ぶと、性能が発揮できないばかりか、ポンプを損傷させてしまう可能性もあります。オイル選びのポイントは、「ポンプの推奨オイル」と「使用用途」です。

オイルの種類 主な特徴 適した用途
鉱物油 (ミネラルオイル) 最も一般的で安価。標準的な用途に適している。 一般的な真空排気、乾燥、物理実験など。
合成油 (エステル系など) 鉱物油より耐熱性、酸化安定性に優れる。長寿命。 高温環境での連続運転、クリーンな真空が求められる用途。
フッ素オイル (PFPE) 耐薬品性、耐熱性に非常に優れる。化学的に極めて不活性。 腐食性ガスや反応性ガスを扱う半導体製造プロセス、化学合成など。

原則として、ポンプメーカーが指定する純正オイルを使用するのが最も安全で確実です 。純正品以外のオイルを使用して故障した場合、保証の対象外となる可能性もあるため注意が必要です。オイル交換の手順は機種によって異なりますが、基本的にはドレンプラグから古い油を排出し、新しい油を規定量まで給油口から入れるという流れです 。
こちらのサイトでは、各種真空ポンプオイルの特徴や選び方が詳しく解説されています。

 

Leybold - 適切な真空ポンプオイルの選択方法

真空ポンプの油が引き起こす意外なトラブルと対策

真空ポンプの安定稼働に不可欠な油ですが、その管理を怠ると様々なトラブルを引き起こす原因にもなります。「たかが油」と侮っていると、高価な真空ポンプを修理に出さなければならない事態にもなりかねません。ここでは、油が原因で起こりうる代表的なトラブルとその対策について解説します。
トラブル1:到達真空度が悪くなる、または時間がかかる 😫

  • 原因: 最も多い原因が、油の劣化や水分の混入(乳化)です 。劣化した油は粘度が変化し、気密性が低下するため、ポンプの排気性能が落ちてしまいます。また、油が白く濁っている場合は水分が混入しており、水の蒸気圧の分だけ真空度が頭打ちになってしまいます。
  • 対策: まずは油量ゲージで油の状態を確認し、劣化や乳化が見られる場合は速やかに新しい油に交換しましょう。水分を多く含む気体を排気する用途の場合は、「ガスバラスト機構」が付いているポンプを選ぶと効果的です。これは、圧縮工程で少量の乾燥した空気をポンプ内に導入し、水蒸気が液化する前に気体のまま排出させる機能です。

トラブル2:オイルの逆流(バックストリーム)による汚染 😱

  • 原因: これは真空ポンプのトラブルの中でも特に厄介な現象です。ポンプを停止した際に適切な手順を踏まないと、ポンプ内の油が大気圧に押されて、配管を逆流し、真空チャンバー(真空にしたい容器)内を汚染してしまうことがあります 。特に、停電などで突然ポンプが停止した場合に起こりやすいです。
  • 対策: ポンプを停止する際は、必ず真空容器側とポンプをバルブで遮断し、ポンプ内部に空気を導入(リーク)してから電源を切る、という正しい手順を守ることが重要です。また、多くのポンプには逆流防止弁が内蔵されていますが、万一に備え、真空容器とポンプの間に「コールドトラップ」という装置を設置するのも有効です。これは液体窒素などで冷却した面で、油の蒸気や逆流してきた油を凍らせて捕捉する装置です 。

トラブル3:ポンプからの異音や停止、焼き付き 💥

  • 原因: 油不足の状態で運転を続けると、潤滑が不十分になり、内部の金属部品が異常摩耗して異音が発生します。これを放置すると、最終的には部品が熱で変形・融着する「焼き付き」を起こし、ポンプは完全に停止してしまいます 。また、劣化した油や異物が混入した油を使い続けることも、摩耗を促進させる原因となります。
  • 対策: 何よりも日々の始業点検が重要です。運転前に必ず油量ゲージでオイルが規定範囲内にあるかを確認する習慣をつけましょう。異音が聞こえ始めたら、それは危険信号です。直ちに運転を停止し、専門の業者に点検を依頼してください。

意外な落とし穴:廃油の処理
真空ポンプから排出した使用済みの油(廃油)は、下水に流したり、普通のゴミと一緒に捨てたりすることは法律で禁じられています。これらは「産業廃棄物」として、専門の処理業者に委託して適切に処理する必要があります 。企業の規模によっては、使用済みオイルを回収し、再生処理を行って再利用するサービスもあります 。環境保護の観点からも、最後まで責任を持った対応が求められます。

【宇宙の真空との違い】真空ポンプが作る真空と圧力の話

「真空」と聞くと、多くの人が何もない無の空間、例えば広大な宇宙空間を思い浮かべるかもしれません。星座や銀河が輝くあの宇宙も真空ですが、実は真空ポンプが作り出す「真空」とは、少し意味合いが異なります。天体に興味がある方なら、この違いを知るとさらに面白いかもしれません。
真空ポンプが作る「人工の真空」
科学や産業の世界でいう「真空」とは、厳密には「大気圧よりも低い圧力状態にされた空間」のことを指します 。つまり、物質が完全にゼロになった状態(絶対真空)を意味するわけではありません。真空ポンプは、容器の中にある気体分子を汲み出して、その数を減らすことで人為的に低圧状態を作り出す装置なのです。どれだけ高性能なポンプを使っても、容器内に気体分子がわずかに残ってしまうため、地上で完全な無を作り出すことは理論上不可能です。
真空の度合いは「圧力」という指標で表され、単位には「Pa(パスカル)」が使われます。地上の大気圧が約10万Pa(1013hPa)なのに対し、真空ポンプの世界では、この圧力がどこまで低いかで真空のレベルが分けられています。

  • 低真空: 100 Pa ~ 100,000 Pa
  • 中真空: 0.1 Pa ~ 100 Pa
  • 高真空: 10-5 Pa ~ 0.1 Pa
  • 超高真空: 10-9 Pa ~ 10-5 Pa
  • 極高真空: 10-9 Pa 以下

油回転真空ポンプが得意とするのは、主に低真空から中真空の領域です 。さらに高い真空度が必要な場合は、油拡散ポンプやターボ分子ポンプといった、異なる原理で動作するポンプを組み合わせて使用します。
宇宙空間という「自然の真空」
一方、私たちが夜空を見上げる宇宙空間は、地球の周りでも約10-5 Pa、月と地球の間では約10-8 Pa、そして銀河系の星間空間に至っては10-14 Pa以下というとてつもない高真空状態になっています。これは、地上の最新鋭の装置でも到達が極めて困難なレベルです。宇宙空間では、1立方センチメートルあたりに数個から数百個程度の原子・分子しか存在しないと言われています。
真空技術と天体観測の意外な関係
実は、この真空を作り出す技術は、星座や天体を観測する上で欠かせない役割を果たしています。例えば、高性能な天体望遠鏡の鏡やレンズには、光の反射率を上げたり、特定の波長の光だけを通したりするための薄い膜(コーティング)が施されています。この精密な膜は、真空状態の容器の中で金属や化合物を蒸発させて付着させる「真空蒸着」という技術で作られています。不純物が一切ない真空中でなければ、均一で高性能な膜を作ることはできないのです。
また、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰ったサンプルの分析など、地球外物質を研究する際にも超高真空環境は必須です。地球の大気に触れさせてしまうと、サンプルが汚染されて正確な分析ができなくなるためです。このように、地上で宇宙に近い環境を再現するために、真空ポンプは宇宙科学研究の最前線で活躍しているのです。次に星空を眺めるとき、地上ではその星の光を捉えるために真空技術が使われている、と思い浮かべてみるのも一興かもしれませんね。 🌌

 

 


アサダ VP150 充電式真空ポンプ 1.5CFM-BN(バッテリなし)