ケフェウス座神話と構成する星に秋の夜空を彩る家族の物語

秋の夜空に輝くケフェウス座は、ギリシャ神話のエチオピア王と深紅のガーネットスター、未来の北極星など魅力的な星々で構成されています。その神話と星々にはどんな物語が隠されているのでしょうか?

ケフェウス座の神話と構成する星

この記事の概要
ギリシャ神話のエチオピア王

カシオペア王妃の夫として登場し、娘アンドロメダを救うため苦渋の決断を迫られた王の物語

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五角形を描く主要な星々

アルデラミン、エライ、アルフィルクなど、未来の北極星候補を含む明るい星々の特徴

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深紅の宝石ガーネットスター

天文学者ハーシェルが命名した赤色超巨星と、周辺に広がる巨大な星雲IC1396の神秘

ケフェウス座の神話とギリシャの王の運命

 

ケフェウス座は、古代ギリシャ神話に登場するエチオピア王ケフェウスを象った星座です。この王は妻カシオペアと娘アンドロメダを持つ家族の長でしたが、カシオペアが自身の美しさを誇り海の精ネレイデスを侮辱したことで、一族に大きな試練が訪れます。

 

参考)ケフェウス座 - Wikipedia

海神ポセイドンは激怒し、怪物ケートスをエチオピアに送り込み、国土を大津波で襲わせました。神託によれば、この災厄を鎮めるには愛する娘アンドロメダを生贄として差し出すしかありませんでした。王として国民の命を守る責任と、父として娘を守りたい気持ちの板挟みになったケフェウス王は、苦渋の決断で娘を岩に鎖で繋ぎました。幸いにも英雄ペルセウスが通りかかり、メドゥーサの首を使って怪物を石に変えてアンドロメダを救出します。

 

参考)ギリシャ神話にみる「ケフェウス座」の由来

この一連の神話の登場人物たちは、女神アテナによって天に上げられ、ケフェウス座、カシオペヤ座アンドロメダ座ペルセウス座くじら座として、北の夜空に家族の物語を今も語り続けています。

 

参考)星座八十八夜 #32 アンドロメダの父「ケフェウス座」 - …

ギリシャ神話にみる星座の由来 - エウロパ日本ギリシャ協会(ケフェウス座の詳しい神話解説)

ケフェウス座を構成する主要な星々の特徴

ケフェウス座は細長い五角形の星の並びが特徴的な星座で、カシオペヤ座と北極星の間に位置しています。主要な星は3等星が中心で、暗い星が多いためあまり目立ちませんが、それぞれの星には興味深い特徴があります。

 

参考)https://ryutao.main.jp/mythology_31.html

星座を形作る主な星々とその特徴は以下の通りです。

  • α星アルデラミン:等級2.44の最も明るい星で、アラビア語で「右腕」を意味します。約5530年後の西暦7500年頃には北極星となる運命にあります

    参考)http://yumis.net/space/star/greece/cep-g3.htm

  • γ星エライ:等級3.2の星で、アラビア語で「羊飼い」の意味を持ちます。西暦3100年から5100年頃まで北極星を務める予定です

    参考)Names of stars in Cepheus.

  • β星アルフィルク:等級3.2の星で「羊の群の星々」を意味し、周期0.19日で変光するおおいぬ座β型変光星です。西暦5100年頃から6500年頃まで北極星となります

    参考)http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~kato/8mus_pla/seiza/kato_const/Cep.htm

  • δ星:ケフェウス座δ型変光星(ケフェイド変光星)の代表で、5日8時間48分の周期で4.1等から5.2等まで変光します

    参考)ケフェウス座の見つけ方

  • ξ星クラー:アラビア語で「馬の額にある白い斑点」を意味しますが、命名の由来は不明です​

これらの星々の中で、複数が未来の北極星候補となっている点は非常に興味深く、地球の歳差運動による天の北極の移動を物語っています。

ケフェウス座のガーネットスターと深紅の輝き

ケフェウス座μ星は「ガーネットスター」という美しい通称で知られる、天文学的に極めて特異な赤色超巨星です。この名前は天王星の発見者として有名な天文学者ウィリアム・ハーシェルが、あまりにも深い赤色に驚いて「ざくろ石(ガーネット)」と表現したことに由来します。

 

参考)https://www.sendai-astro.jp/nishikouen/photo/con_album/con_aut/Cep.html

この星の際立った特徴は以下の通りです。

項目 詳細
等級

4.02等(3.6等~5.1等まで変光)
参考)https://turupura.com/guide/star/gaanetto.html

距離

約3,060~3,500光年
参考)ガーネット・スター - Wikipedia

直径 太陽の約1,420~1,500倍​
表面温度 約2,000K(太陽は6,000K)​
光度 太陽の約35万倍​
変光周期 約2年(不規則変光星)​


表面温度が2,000度という極端な低温により、この星は他のどの星よりも赤く見えます。肉眼では色の確認が難しいですが、双眼鏡を使うと紫に近いほど深い赤色が観察でき、その異常な美しさを堪能できます。太陽の位置にこの星を置いた場合、木星の軌道まで飲み込んでしまうほどの巨大さです。

仙台市天文台:ケフェウス座の見どころ(ガーネットスターの観測情報)

ケフェウス座のIC1396星雲と象の鼻の神秘

ケフェウス座には、ガーネットスターの周辺に広がる巨大な散光星雲IC1396が存在します。この星雲は直径約3度という非常に大きな広がりを持ち、北アメリカ星雲を凌ぐサイズですが、極めて淡いため肉眼での観測は困難です。

 

参考)https://ryutao.main.jp/stl_ic1396.html

IC1396は地球から約2,400~3,000光年の距離にあり、ほぼ円形をした散開星団と巨大なHII領域の複合体です。星雲内部には複雑な形状の暗黒星雲が分布しており、その中で最も有名なのが「象の鼻星雲(IC1396A)」と呼ばれる暗黒星雲です。

 

参考)象の鼻星雲 - Wikipedia

象の鼻星雲の特徴。

  • 🐘 可視光で見るとゾウの頭と長い鼻のような形状に見える​
  • ⚡ 大質量星HD 206267からの紫外線によって縁が明るく輝く​
  • 📏 鼻のように伸びる部分は約20光年にも達する​
  • 🌟 わし星雲の「創造の柱」と同様に活発な星形成が進行中

    参考)星空の写真

  • 💨 強力な恒星風によって形成された構造​

この星雲は、星がどのように誕生するかを研究する上で非常に重要な天体であり、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡による観測で、その美しく複雑な構造が明らかになっています。

佐賀大学 - ケフェウス座の散光星雲 IC1396(詳細な天体写真と解説)

ケフェウス座と日本の伝統的な呼び名

ケフェウス座は紀元前6世紀頃から知られており、プトレマイオスの48星座の一つにも数えられる古い星座ですが、興味深いことに日本でも独自の呼び名が存在していました。

日本の四国地方、特に備前地方では、ケフェウス座を「備前の箕(みの)」と呼んでいました。箕とは竹を編んで作る農作業用の道具で、穀物を選別したり風を送ったりするのに使われる伝統的な農具です。ケフェウス座の五角形の星の並びをこの箕の形に見立てたもので、実際に見比べてみると確かに箕のように見えてきます。

この呼び名は、豊かな田畑が広がっていた日本の農村文化ならではの発想で、西洋のギリシャ神話とは全く異なる視点から星座を捉えていた点が非常に興味深いです。同じ星の並びでも、文化や生活環境によって全く異なるものに見立てられるという好例であり、天文学と民俗学が交差する魅力的な事例と言えるでしょう。

日本各地には他にも様々な星座の地方名が存在しており、それぞれの地域の生活や文化が反映されています。ケフェウス座の「備前の箕」という呼び名は、星を見上げた昔の人々の豊かな想像力と、日常生活に根ざした観察眼を今に伝える貴重な文化遺産です。

 

 


ケフェウス座 Cepheus(ケフェウス)