ペルセウス座は、ギリシャ神話に登場する英雄ペルセウスの姿を表した星座です。ペルセウスはゼウスとアルゴスの王女ダナエの間に生まれた息子で、ギリシャ神話における最も偉大な英雄の一人とされています。
参考)ペルセウス座 - Wikipedia
物語の発端は、セリポス島の王の弟ポリュデクテスが、ペルセウスの母ダナエを我がものにするため、ペルセウスに難題を命じたことから始まります。その難題とは、髪の毛が蛇で、その顔を見た者はたちまち石になってしまうという恐ろしい怪物メドゥーサの首を取ってくることでした。
参考)ペルセウス座ってどんな星座?【神話も紹介】
ペルセウスはこの困難な任務に挑むにあたり、神々から様々な支援を受けました。女神アテナからは鏡のように磨かれた盾を、伝令神ヘルメスからは翼のついたサンダル(タラリア)を、冥界の神ハデスからは姿を消せる隠れ兜を授かりました。ペルセウスはこれらの神具を駆使し、盾に映したメドゥーサの姿を見ながら近づき、見事に首を切り落とすことに成功しました。
参考)ギリシャ神話にみる「ペルセウス座」の由来
ペルセウス神話の詳細 - ギリシャ神話専門サイト
メドゥーサ退治の後、ペルセウスは天馬ペガススに乗って帰路につきます。その途中、海岸の岩に鎖で縛られたアンドロメダ姫を発見しました。アンドロメダは母カシオペアが自分の美しさを誇ったために、海の怪物ケートス(くじら座)の生贄にされようとしていたのです。ペルセウスは倒したばかりのメドゥーサの首を使い、怪物を石に変えてアンドロメダを救出しました。この英雄的行為により、ペルセウスとアンドロメダは結婚し、後に二人とも星座となって天に上げられたと伝えられています。
参考)ペルセウス座の神話|ウェザーニュース
興味深いことに、メドゥーサから流れ出た血からは天馬ペガスス(ペガスス座)が誕生したとされており、このエピソードに登場する人物や生き物の多くが星座として夜空に配置されています。ペルセウス座を中心に、アンドロメダ座、カシオペア座、ケフェウス座、ペガスス座、くじら座が秋の夜空に集まっており、まるで天空に神話の一場面が描かれているかのようです。
参考)ペルセウス座とは?神話・星座・流星群まで丸ごと解説【星空に刻…
ペルセウス座は全天88星座の中で24番目の大きさを持ち、面積は約615平方度です。この星座には1等星はありませんが、2つの2等星が輝いており、比較的見つけやすい星座となっています。
参考)ペルセウス座|やさしい88星座図鑑
最も明るいのはα星のミルファク(Mirfak)で、見かけの明るさは1.79等です。太陽系から約506光年の距離にあり、スペクトル型F5Ibの白色超巨星に分類されます。ミルファクという名前はアラビア語の「Mirfaq al-Thurayya」に由来し、「プレアデスのひじ」という意味を持っています。かつてはペガスス座γ星と同じ「アルゲニブ」という固有名でも呼ばれていましたが、2016年7月20日に国際天文学連合(IAU)によって正式にミルファクの名称が承認されました。
参考)ペルセウス座アルファ星 - Wikipedia
ペルセウス座で最も有名な星は、β星のアルゴル(Algol)です。アルゴルはアラビア語で「悪魔」を意味し、ペルセウスが手に持つメドゥーサの額に位置することから、この不吉な名前がつけられました。アルゴルは代表的な食変光星として知られ、2つの星が互いの周りを回り合い、重なったり横並びになったりすることで見かけの明るさが変化します。
参考)「ペルセウス座」の見つけ方や誰かに教えたくなる星の話 - 星…
その変光周期は2日20時間49分(約68.8時間)で、通常は2.1等級ですが、食が起こると3.4等級まで暗くなります。この規則正しい明るさの変化は古代から知られており、古代ギリシャの時代にも既にその変光に気づいていた可能性があると言われています。アルゴルはアルゴル型変光星(食変光星)のプロトタイプとなっており、天文学的に非常に重要な星です。
参考)食変光星「アルゴル」の主極小予報
国立科学博物館 - 食変光星の解説
その他の主要な星として、η星(3.79等の赤色超巨星)、κ星(3.81等の黄色巨星、ミサムという固有名を持つ)、ξ星(4.06等、メンキブという名前)などがあります。特にξ星は、カリフォルニア星雲を輝かせている青色巨星として知られています。
参考)カリフォルニア星雲 NGC1499(散光星雲、ペルセウス座)
アルゴルの変光を観測することは、天文学に興味を持つ方にとって入門的な観測対象として最適です。肉眼でも明るさの変化を確認できるため、特別な機材がなくても楽しむことができます。
参考)秋の食変光星、アルゴルとカシオペヤ座RZを観測しよう - ア…
アルゴルの主極小(最も暗くなる時)の予報は、天文関連のウェブサイトで公開されています。変光の様子を観測するには、主極小の前後数時間を狙うのがポイントです。明るい時は2.1等で、周囲の星と比較しても目立つ明るさですが、極小時には3.4等まで暗くなり、明らかに暗くなったことが分かります。
観測時には、近くにある比較星と見比べることで変光の様子をより正確に把握できます。ペルセウス座のα星ミルファク(1.7等)や、近隣の星座の明るい星と比較しながら観測すると良いでしょう。変光の周期が約2.9日と比較的短いため、天気の良い日が続けば、数日間で複数回の変光を観測することも可能です。
参考)アルゴル - Wikipedia
アルゴルの変光メカニズムは食変光星特有のもので、2つの星が互いに公転し合い、一方の星が他方の星を隠すことで明るさが変わります。主極小は暗い星が明るい星の前を通過する時に起こり、約10時間かけて暗くなり、また明るさを戻します。この現象を観測することで、宇宙における連星系の動きを実感することができるのです。
参考)https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/stars/stars07.html
ペルセウス座には、天文ファンに人気の高い天体がいくつも存在しますが、その中でも特に有名なのが二重星団です。この天体は、NGC869とNGC884という2つの散開星団が接近して見える美しい天体で、「h-χ(エイチ・カイ)」とも呼ばれています。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/aki/peruseusumain.shtml
二重星団はカシオペア座とペルセウス座の境界付近に位置しており、地球からの距離はおよそ7600光年です。NGC869は4.4等、NGC884は4.7等の明るさで、条件の良い夜空では肉眼でもぼんやりと見ることができます。双眼鏡を使えば2つの星団を同時に視野に収めることができ、望遠鏡で観察すれば数百個の星が密集する壮大な光景を楽しむことができます。
参考)NGC869,884 二重星団h-href="https://www.tsm.toyama.toyama.jp/?tid=102168" target="_blank">https://www.tsm.toyama.toyama.jp/?tid=102168amp;chi; (散開星団:ペ…
NGC869には約350個の星が、NGC884には約300個の星が含まれており、どちらも若い星団です。それぞれの星団の見かけの大きさは約36分角で、実際の大きさは約77光年と推定されています。2つの星団は互いに数百光年離れていると考えられていますが、天球上では非常に近くに見えるため、双眼鏡や小型望遠鏡での観測に最適な対象となっています。
富山市科学博物館 - 二重星団の詳細解説
二重星団は秋から冬にかけて観測しやすく、特に11月頃には夜8時頃に北東の空に見えるため、観測の好機となります。星図や星座アプリを使って位置を確認し、カシオペア座のW字型を目印にして探すと見つけやすいでしょう。
参考)悪魔の星アルゴル href="https://www.ananscience.jp/variablestar/?page_id=105" target="_blank">https://www.ananscience.jp/variablestar/?page_id=105amp;#8211; 日本変光星研究会
ペルセウス座には二重星団以外にも、観測価値の高い天体が数多く存在します。その中でも特徴的なのが**カリフォルニア星雲(NGC1499)**です。
参考)ペルセウス座の天体と位置がわかる星図や写真|天体写真ナビ
カリフォルニア星雲は、その形がアメリカ合衆国のカリフォルニア州に似ていることから名付けられた散光星雲で、ペルセウス座ξ星の近くに位置しています。この星雲は、ペルセウス座ξ星(4等星の青色巨星)からの強烈な放射を受けて、星間の水素ガスが励起されて輝いているものです。非常に大きな星雲で、見かけの大きさは満月の数倍にも及びますが、表面輝度が低いため肉眼での観測は困難です。天体写真での撮影対象として人気があり、特にHα(水素のアルファ線)フィルターを使用すると赤く美しい姿を捉えることができます。
興味深いことに、カリフォルニア星雲はたまたまこの領域にあった分子雲がペルセウス座ξ星からの放射を受けて輝いているため、ξ星が移動してしまえばいずれ輝きを失ってしまうと考えられています。宇宙の時間スケールで見れば、今この瞬間の一時的な現象を観測していることになります。
もう一つの見どころは散開星団M34です。M34は地球から約1400光年の距離にあり、双眼鏡でも観測可能な明るい散開星団です。メシエカタログに登録されている天体の一つで、秋の星空観測の定番対象となっています。
さらに、ペルセウス座には惑星状星雲M76(小亜鈴状星雲)や、IC348などの散光星雲、ペルセウス座銀河団(Abell-426)などの銀河も存在します。特にペルセウス座銀河団は、X線天文衛星「ひとみ」による観測でも注目された天体です。
参考)X線天文衛星「ひとみ」が見た意外と静かなペルセウス座銀河団中…
| 天体名 | 種類 | 等級 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| NGC869+NGC884 | 散開星団 | 4.4等+4.7等 | 二重星団、双眼鏡で美しい |
| NGC1499 | 散光星雲 | - | カリフォルニア星雲、撮影向き |
| M34 | 散開星団 | - | 約1400光年、双眼鏡で観測可能 |
| M76 | 惑星状星雲 | - | 小亜鈴状星雲 |
| IC348 | 散光星雲 | - | 星形成領域 |
ペルセウス座は秋の星座で、北東から頭上にかけて輝く位置にあります。20時に南中するのは1月6日頃で、南中高度は約北80度と非常に高い位置を通過します。このため、秋から冬にかけて長時間観測することができる星座です。
見つけ方として最も簡単なのは、カシオペア座を目印にする方法です。カシオペア座の特徴的なW字型は一年中見ることができ、非常に見つけやすい星座です。カシオペア座のγ星とδ星を結び、ぎょしゃ座の0等星カペラの方向へ線を伸ばすと、ペルセウス座のγ星・α星・δ星が作る曲線にたどり着きます。α星ミルファクは1.7等と明るく、1等星と見間違うほどの輝きを放っているため、目印として最適です。
参考)https://mirahouse.jp/begin/constellation/Perseus.html
アンドロメダ座から探す方法もあります。ペガススの大四辺形の北東角にあたるアンドロメダ座α星を確認し、そこから等間隔に並ぶアンドロメダ座β星・γ星をたどり、さらに同じ間隔で東へ進むとペルセウス座β星アルゴルに到達します。これら4つの星は全て2等星で明るさも揃っているため、飛び石を飛ぶように簡単にたどることができます。
おうし座のプレアデス星団(すばる)も良い目印になります。カシオペア座とプレアデス星団の間あたりに、「人」の字のように見える星の並びがペルセウス座です。この星の配置は、右手に剣を掲げ、左手にメドゥーサの首を持つペルセウスの姿を表しています。
観測に適した時期は、8月下旬であれば21時頃、7月中旬なら0時頃、5月下旬なら3時頃に東の空に昇ってきます。特に秋から冬にかけての夜半前が観測しやすく、ペルセウス座流星群が活発になる8月中旬も注目のタイミングです。
ペルセウス座が南中する時期には天頂近くを通過するため、首が痛くなることもあります。観測する際は、少し低い位置に見えている時間帯を選ぶか、寝転んで観測できる環境を用意すると快適に楽しむことができます。
星座早見盤や星座アプリを使って事前に位置を確認しておくと、実際の夜空でもスムーズに見つけられるでしょう。ペルセウス座周辺には神話に関連する星座が集まっているため、一つ見つければ他の星座も芋づる式に見つけることができます。
参考)ペルセウス座を中心に繰り広げられる秋の星空の神話絵巻を楽しみ…