超新星爆発の最も有力な仕組みは「ニュートリノ加熱メカニズム」です。太陽質量の約10倍を超える大質量星は、進化の最終段階で鉄でできた中心コアが自重を支えきれなくなり、重力崩壊を起こします。このとき中心部には超高密度の原始中性子星が形成され始め、その表面に落下する物質が外側へ弾かれることで「反射衝撃波」が発生します。
参考)大質量星の超新星エンジンをX線観測で解明—ニュートリノ加熱に…
この衝撃波は当初、物質を核子に解離するエネルギーを消費して停滞してしまいます。しかし、原始中性子星から大量に放出されるニュートリノの一部が周囲の物質と反応し、そのエネルギーのわずか1%程度でも物質の加熱に使われると、衝撃波が復活して星の表面まで到達し、超新星爆発が起こるのです。実際、1987年に観測された超新星1987Aでは、カミオカンデがニュートリノの検出に成功しており、このメカニズムの証拠となっています。
参考)爆発するのか、しないのか - 超新星爆発の鍵を握る流体現象と…
ニュートリノ加熱の過程では、対流や上昇流といった非対称効果が重要な役割を果たします。カシオペア座Aの超新星残骸では、X線観測によってこの上昇流の痕跡が初めて発見され、大質量星の「超新星エンジン」ともいうべき仕組みが観測的に証明されました。
重力崩壊型超新星の中心では、原始中性子星という特殊な天体が誕生します。鉄コアが崩壊すると、内部コアは原子核密度(約5×10^14 g/cm³)程度まで圧縮され、これ以上圧縮できない固い核物質となって強い核力で跳ね返されます。この「コアバウンス」と呼ばれる現象により、超音速で落下する外部コアとの間にバウンス衝撃波が形成されるのです。
参考)https://www.lowbg.org/ugnd/workshop/groupC/sn20150316/files/sn2015_1.pdf
原始中性子星は誕生直後、温度が10^11〜10^12 Kという超高温状態にあり、流体として振る舞います。この段階では中心に大量のニュートリノが閉じ込められており、約20秒ほどかけてゆっくりと放出されます。これらのニュートリノが物質を加熱することで、前述のニュートリノ加熱メカニズムが作動し、爆発へと繋がります。
参考)https://www.asj.or.jp/nenkai/archive/2023b/pdf/N29a.pdf
原始中性子星の冷却過程では、ニュートリノ放出により中性子過剰な状態へと変化していきます。爆発後も数十年から数百年にわたって熱を放出し続け、最終的に通常の中性子星へと進化するのです。
参考)https://bridge.kek.jp/lecture/10-sumiyoshi/1401_HPCI-lecture6.SNneutrino.pdf
超新星爆発時には、カルシウム、チタン、ニッケルなどの中重核が合成される「爆発的元素合成」が起こります。特にチタン-44は、超新星爆発時の上昇流内で大量に合成されることが、カシオペア座Aの観測によって初めて明らかになりました。
参考)https://www2.jpgu.org/meeting/2002/pdf/p053/p053-028.pdf
チタン-44の空間分布を詳しく調べると、超新星残骸の内部で多層構造を持って光っていることが分かります。これは爆発が非対称に進行した証拠であり、ニュートリノ加熱によって生じた対流や上昇流が、重元素の合成と分布に大きな影響を与えていることを示しています。チタンやその他の重元素は、衝撃波によって星の外層ガスとともに宇宙空間へ放出され、次世代の星や惑星を形成する材料となります。
参考)吾妻鏡に記された超新星が遺した奇妙な天体href="https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240708-13282.html" target="_blank">https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240708-13282.htmllt;brhref="https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240708-13282.html" target="_blank">https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240708-13282.htmlgt;—歴史的記録…
超新星爆発で生成される元素の種類と量は、爆発中心付近のエントロピーなどの物理パラメータに依存しており、X線観測によってこれらを推定できるようになってきました。
Ia型超新星は、重力崩壊型とは異なる仕組みで爆発します。連星系に属する白色矮星が伴星からの質量降着を受けて、チャンドラセカール限界質量(約1.4太陽質量)を超えると爆発が起こります。また、白色矮星同士が合体することで瞬間的に限界を超え、崩壊を始めるケースもあります。
参考)超新星
白色矮星は縮退圧によって支えられているため、温度が上昇しても膨張して冷却することができません。炭素と酸素に富む白色矮星の中心部で核融合が始まると、温度が急激に上昇し、熱暴走を起こして暴走核融合反応が進行します。この反応は数秒の間に白色矮星の物質のかなりの部分を燃焼させ、1〜2×10^44ジュールもの莫大なエネルギーを放出します。
参考)Ia型超新星 - Wikipedia
このエネルギーは白色矮星の重力結合エネルギーよりも十分に大きいため、個々の粒子はバラバラに飛んでいくのに十分な運動エネルギーを得ます。その結果、白色矮星は完全に破壊され、物質は光速の約6%、すなわち5,000〜20,000km/sの速度で放出されるのです。
核融合が点火する場所から周囲に広がる際、衝撃波を伴う場合は「爆轟波」、伴わない場合は「爆燃波」と呼ばれ、どちらのモードで進行するかが爆発の詳細を決定します。
参考)https://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/Theses/M_Harada.pdf
超新星爆発に伴って放出される物質は超音速で周囲の星間物質と相互作用し、強力な衝撃波を形成します。この「超新星残骸衝撃波」は周囲の物質を圧縮して衝撃波面を作り、荷電粒子は磁場との散乱によって衝撃波の上流と下流を往復しながらエネルギーを獲得します。このプロセスは「衝撃波加速」と呼ばれ、宇宙線の起源として重要な役割を果たしています。
参考)衝撃波加速
衝撃波によって加熱された星間物質は1,000万度以上の高温になり、X線を放射します。実際の観測では、例えば超新星残骸W44の衝撃波の膨張速度が12.9±0.2 km/秒であることが、ミリ波・サブミリ波帯の高温・高密度分子ガスの観測から明らかになっています。
参考)https://titania.ciao.jp/koueiyougo.htm
超新星の電波観測も重要な手法です。アルマ望遠鏡を用いた近傍銀河M77の超新星SN2018ivcの観測では、爆発から約1年後に「再増光」という珍しい現象が捉えられました。これは超新星の衝撃波が星周物質と相互作用することで生じる現象で、連星系における質量放出の歴史を解明する手がかりとなります。
参考)プレスリリース - 超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋 …
ハッブル宇宙望遠鏡などの可視光・紫外線観測では、爆発前の星の性質や爆発後の残存天体を調べることができ、超新星理論の検証に貢献しています。
参考)本当にあった!消えた黄色超巨星跡に青い星ー超新星理論の予測を…
立教大学の研究グループによるカシオペア座Aのニュートリノ加熱の観測的証拠
計算基礎科学連携拠点による超新星爆発とニュートリノ加熱の詳細な解説
アルマ望遠鏡による超新星電波再増光の観測成>アルマ望遠鏡による超新星電波再増光の観測成果