連星シリウスと白色矮星の神秘的な輝き

夜空で最も明るく輝くシリウスは、実は二つの星から成る連星系です。主星シリウスAと伴星シリウスBが織りなす天文学の謎や観測の魅力について、あなたはどこまで知っていますか?

連星シリウスとは

連星シリウスの3つの特徴
全天で最も明るい恒星

視等級-1.46等で輝き、太陽を除けば地球から見える最も明るい星として冬の夜空を彩ります

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二つの星から成る連星系

明るい主星シリウスAと白色矮星シリウスBが約50年周期で互いに公転する実視連星です

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地球から8.6光年の近距離

太陽系から5番目に近い恒星系として、おおいぬ座に位置しています

シリウスは、おおいぬ座で最も明るく輝く恒星で、視等級-1.46等という圧倒的な明るさを誇ります。太陽を除けば地球上から見える最も明るい恒星として知られ、冬の夜空で誰もが容易に見つけられる存在です。地球からの距離は8.6光年と、太陽系から5番目に近い恒星系に位置しています。

 

参考)シリウス - Wikipedia

肉眼では一つの星に見えますが、実際には「シリウスA」と呼ばれるA型主系列星と、「シリウスB」と呼ばれる白色矮星から成る連星系です。二つ以上の恒星がお互いの周りを公転している天体を連星と呼び、シリウスは望遠鏡で二つの星として観察できることから「実視連星」とも呼ばれています。

 

参考)特集 シリウスB

連星系としてのシリウスは、太陽系では太陽-天王星間の距離に相当する約20au離れた位置で、50.1年の周期で公転しています。公転軌道が楕円形のため、シリウスAとシリウスBの角距離は2秒角台から11秒角台まで大きく変化します。このため、約50年おきに観測しやすい期間が訪れるという特徴があります。

 

参考)https://sendaiuchukan.jp/data/gallery/ex/sirius-bep20220227.html

連星シリウスの主星Aの特徴

シリウスAは、太陽よりも大きいA型主系列星で、推定される表面温度は約9,940Kに達します。視等級は約-1.4等と極めて明るく、夜空で見えるシリウスの輝きのほとんどはこの主星によるものです。青白い光を放つシリウスAは、おおいぬ座の中心的存在として冬の星座の目印となっています。

 

参考)https://starwalk.space/ja/news/sirius-the-brightest-star

主星シリウスAは、質量が太陽の約2倍と推定されており、通常の主系列星として核融合反応を続けています。その明るさと色温度の高さから、A型恒星の典型例として天文学の研究対象となってきました。冬の大三角形を構成する星の一つとしても知られ、オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオンと共に冬の夜空の代表的な星座配置を形成しています。

 

参考)[1703.10625] The Sirius System…

シリウスAの光度は太陽の約25倍とされ、その輝きは地球から8.6光年という比較的近い距離と相まって、夜空で圧倒的な存在感を放っています。青白く瞬きながら夜空を移動する様子は、古代から多くの文化圏で注目され、様々な神話や伝説の題材となってきました。

 

参考)https://starwalk.space/ja/news/top-7-brightest-stars-in-the-sky

連星シリウスの伴星Bと白色矮星の謎

シリウスBは、視等級約8.4等の白色矮星で、主星シリウスAとは約9.8等級もの光度差があります。白色矮星とは、恒星が寿命を迎えた後に残される天体のことで、内部に核融合反応のような熱源を持たない天体です。シリウスBの直径は約12,000kmで地球の約98%とされ、白色矮星としては比較的大きい方に分類されます。

 

参考)シリウスの伴星の観察に挑戦しよう - アストロアーツ

シリウスBの存在は、1844年頃にドイツの天文学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルによって予言されました。ベッセルは、シリウスAの位置が周期的にふらつくことを観測し、目に見えない伴星の存在を理論的に導き出したのです。その後、1862年にアメリカの望遠鏡製作家アルヴァン・グラハム・クラークによって実際に観測され、予言が証明されました。

 

参考)シリウスBとは

かつてシリウスBは、太陽の約5倍の質量を持つ明るい恒星でしたが、主星よりも先に寿命を迎え、約1億2000万年前には赤色巨星となりました。その後外層を失い、現在の白色矮星になったとされています。現在の表面温度は約25,200K(24,927℃)ですが、内部に熱源を持たないため、今後20億年以上かけてゆっくりと冷えていくと予測されています。

 

参考)http://seiten.o.oo7.jp/Sirius-b.htm

シリウスBのシリウスAからの距離は、楕円軌道上で8.2auから31.5auの間で変化し、50.1年で一周します。これは太陽と天王星の距離(約20au)前後で変動することを意味します。2019年頃から2028年頃までは離角が11秒角台と大きくなり、観測しやすい期間となっています。

連星シリウスの公転周期と軌道の特徴

連星シリウスの公転周期は約50年(正確には50.1年)で、この周期でシリウスAとシリウスBが互いの周りを回っています。公転軌道はかなりの楕円形をしており、この楕円軌道のため、地球から見た二つの星の角距離は大きく変化します。

 

参考)https://www.eyebell.com/siriusB.htm

最も接近した時には角距離が約2秒角台まで小さくなり、最も離れた時には約11秒角台まで広がります。主星シリウスAが-1等級と極めて明るく、伴星シリウスBとの光度差が約9.8等級もあるため、二星の離角が小さい時期には伴星を観測することが非常に困難になります。

ベッセルが伴星の存在を示唆した1844年頃には、シリウスBはシリウスAのかなり近くに位置していたため、当時の技術では発見が不可能でした。しかし、クラークが発見した1862年頃には、シリウスBはシリウスAからかなり離れた位置にあったため、望遠鏡による観測が可能となったのです。

 

参考)http://fnorio.com/0191Discovery_of_white_dwarf/Discovery_of_white_dwarf.html

西はりま天文台「特集 シリウスB」
シリウスBの公転軌道や観測条件について詳しい情報が掲載されています。

 

公転軌道の計算により、シリウスAとシリウスBの質量比も明らかになっており、動力学的質量はそれぞれ約2.06太陽質量と約1.02太陽質量と測定されています。この質量測定は、ハッブル宇宙望遠鏡による長期観測や19世紀まで遡る歴史的な測定データを組み合わせることで、高精度に決定されました。

連星シリウスの観測方法と冬の大三角

連星シリウスを観測する最も簡単な方法は、冬の大三角形を目印にすることです。冬の大三角形は、オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンの3つの1等星で構成されています。12月から2月頃に南東の空を見上げると、この大きな三角形を見つけることができます。

 

参考)冬の大三角を探してみよう!星の名前や色、覚え方などを知って楽…

シリウスは全天一明るい星なので、冬の夜空を見回せばすぐに見つかります。晴れた日には宵の口から南東の空にギラギラと輝き始め、青白く瞬きながらだんだん高く昇っていきます。観測の際には、スマートフォンのコンパスアプリを使って南東方向を確認すると便利です。

 

参考)宇宙で一番綺麗な星はどれ?三つの名星を紹介!シリウス・ベガ・…

オリオン座を先に見つけてから探す方法もおすすめです。オリオン座は明るい星が多く特徴的な形をしているため、南東の星座の中でも見つけやすい星座です。オリオン座の左上に赤く光るベテルギウスを見つけたら、そこから南東方向に視線を移すとシリウスが輝いています。

伴星シリウスBを観測するには、口径の大きな望遠鏡と良好な観測条件が必要です。主星との光度差が大きいため、シリウスAの眩しい光の中から暗いシリウスBを見つけ出すのは、アマチュア天文家にとっても挑戦的な観測対象となっています。2019年から2028年頃までは離角が大きく、観測に適した期間とされています。

古代エジプトとシリウスの深い関係

古代エジプトでは、シリウスは極めて重要な星として崇められていました。シリウスが夏の明け方、太陽が昇る直前に東の空に姿を現すと、ナイル川の氾濫が始まる時期を告げる天文現象として認識されていたのです。約5000年前から始まる古代エジプト文明が繁栄した要因の一つは、ナイル川沿岸の肥沃な土地にありました。

 

参考)冬空に輝くシリウスが、古代エジプトでは夏に重要な星だった理由…

ナイル川は毎年決まった時期に氾濫し、上流から農作物の肥料となる栄養豊富な土壌を運んできました。「エジプトはナイルの賜物」と言われる所以です。氾濫の時期を正確に知ることは、農作の計画を立てる上で極めて重要であり、その大切な時期を知らせてくれるのがシリウスだったのです。

古代エジプトではシリウスを「ソティス」と呼び、女神イシスと同一視していました。7月頃、太陽が昇る直前にシリウスが地平線に上がってナイル川の氾濫時期が来ることを告げるこの現象は、「ソティスの出現」として重要な暦の基準となりました。ナイル川の水量が最も少なくなる5月頃、シリウスは地平線から上に上がらず約70日間見えなくなり、その後再び現れると氾濫の季節が訪れました。

 

参考)エジプト旅行記③ 〜ナイル川の氾濫がもたらすもの〜|YUMI…

BE-PAL「冬空に輝くシリウスが、古代エジプトでは夏に重要な星だった理由」
古代エジプトにおけるシリウスとナイル川氾濫の関係について詳しく解説されています。

 

興味深いことに、古代エジプトでは1470年というサイクルを認識していたようです。これは、シリウスがナイル川の氾濫開始を告げるタイミングと、エジプト暦の新年が一致する周期です。実際、この二つが一致すると、極めて珍しいこととして盛大に祝われたと記録されています。

さらに驚くべきことに、古代の文献にはシリウスが赤く見えていたという記述が残されています。紀元前1000年頃のアッシリアの記録には、シリウスを「銅のような色」として赤い星と記しているものがあり、時代が下るほどシリウスの色は青白い色として記されるようになります。これは「赤いシリウス」ミステリーと呼ばれ、紀元前から2世紀頃までシリウスが赤く見える時代があったのではないかと推測されています。

 

参考)秋の澄んだ夜空に輝きはじめた「シリウス」の迷宮入りミステリー…

この謎について、一つの有力な科学的仮説として、シリウスBが赤色巨星だった時代の影響が考えられています。約1億2000万年前に赤色巨星となったシリウスBの赤い光が、人類史のある期間においてシリウス全体を赤く見せていた可能性が指摘されています。地球から8.6光年という比較的近い距離にあるシリウスは、他の星々よりもその変化が観測されやすい位置にあったのですの変化が観測されやすい位置にあったのです。

 

参考)https://www.sendai-astro.jp/archive/soralist_vol.53_kaisetsu.pdf