シリウスBは、おおいぬ座の一等星シリウスAの伴星として存在する白色矮星です。この天体の直径は約12,000kmで地球の98%程度のサイズしかありませんが、質量は太陽とほぼ同等の約1太陽質量を持つという驚異的な特徴があります。この極端な質量と大きさの組み合わせにより、シリウスBは1立方センチメートルあたり数トンにも達する超高密度の天体となっています。
参考)シリウス - Wikipedia
白色矮星は恒星が寿命を迎えた後に残される天体で、電子の縮退圧によって自身の重力を支えている状態にあります。シリウスBの場合、その構成物質は主に炭素と酸素からなると考えられており、かつて恒星の中心部で水素の核融合反応によって生成された元素が凝縮した形で残っています。現在の表面温度は約25,200K(約24,927℃)と非常に高温ですが、内部に核融合反応のような熱源を持たないため、今後20億年以上かけてゆっくりと冷却していくと予測されています。
シリウスBの視等級は8.4等で、マイナス1.4等の主星シリウスAと比較すると約10万分の1の明るさしかありません。この巨大な光度差が、シリウスBの観測を非常に困難なものにしている主な要因となっています。
参考)http://seiten.o.oo7.jp/Sirius-b.htm
シリウスBは現在こそ暗い伴星ですが、かつてはシリウスAよりも質量が大きく明るい恒星でした。約1億2000万年前、シリウスBは太陽の約5倍の質量を持つB型主系列星(スペクトル型B4-B5程度)として輝いていたと推測されています。質量が大きい恒星ほど寿命が短いという天文学の原則により、シリウスBはシリウスAよりも早く進化の段階を進み、赤色巨星へと膨張しました。
参考)特集 シリウスB
赤色巨星の段階では、シリウスBは外層を宇宙空間へ放出し、中心核だけが残る過程を経ました。この中心核が電子の縮退圧で支えられる状態になり、現在の白色矮星シリウスBが誕生したのです。白色矮星は太陽質量の8倍未満の恒星が最後を迎えた天体であり、核融合反応を終えた恒星の「死骸」とも表現されます。
参考)太陽に似た恒星の最期を予感させる観測結果
この進化過程は、将来の太陽の運命を予見させるものでもあります。太陽も約50億年後には赤色巨星を経て白色矮星となり、恒星としての一生を終えることになると考えられています。
シリウスBはシリウスAとの連星系を構成しており、両者は共通の重心を中心に50.13年の周期で公転しています。この公転軌道は楕円形をしており、シリウスBのシリウスAからの距離は近日点で8.2天文単位、遠日点で31.5天文単位の間で変化します。参考として、20天文単位は太陽と天王星の距離にほぼ相当する規模です。
参考)[1703.10625] The Sirius System…
この楕円軌道のため、地球から見たシリウスAとシリウスBの角距離(離角)も大きく変動し、2秒角台から11秒角台まで変化します。離角が小さい時期には、シリウスAの強烈な光芒にシリウスBの微弱な光が完全に埋もれてしまい、観測が極めて困難になります。逆に離角が最大になる時期は、約50年に一度の観測好機となるのです。
参考)シリウスの伴星の観察に挑戦しよう - アストロアーツ
シリウスの連星系は、1844年にフリードリヒ・ベッセルが主星の位置の揺らぎから伴星の存在を予測し、1862年にアルヴァン・グラハム・クラークが実際に観測することで確認されました。シリウスBは発見された2番目の白色矮星として、天文学史上重要な位置を占めています。
現在、シリウスBは約50年に一度の観測好機を迎えています。2021年から2024年頃にかけて、シリウスAとシリウスBの離角が最大の11.3秒角に達し、相対的に観測しやすい状況となっています。この離角は、有名な二重星であるはくちょう座のアルビレオの約3分の1程度に相当します。
参考)https://koukaitenmondai.jp/convention/2023_himeji/2023_syuroku.pdf
観測には一定以上の口径を持つ望遠鏡が必要で、シリウスAの眩しい光芒を遮る工夫も求められます。2019年頃から2028年頃までは離角が11秒角台と大きくなって確認しやすい状態が続きますが、今回の好機を逃すと次の観測好機は40年以上先となってしまいます。
参考)http://www.ananscience.jp/siriusb/wp-content/uploads/2022/09/TSUKADA_SiriusB_poster.pdf
シリウス自体の観測時期については、北半球では11月下旬から5月中旬にかけて夕方と夜に最もよく見える時期となります。シリウスは全天で最も明るい恒星であり、マイナス1.46等の明るさで夜空に輝いているため、冬の夜空で容易に見つけることができます。オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオンとともに「冬の大三角」を形成する星としても有名です。
参考)シリウスBとは
アストロアーツ「シリウスの伴星の観察に挑戦しよう」
シリウスBの観測方法や離角の変化について、詳しい解説と観測のコツが紹介されています。
白色矮星は核融合反応を行わないため、時間とともに徐々に冷却していく運命にあります。シリウスBの場合、現在の表面温度は約25,000Kと高温ですが、今後20億年以上かけてゆっくりと冷えていくと予測されています。白色矮星の冷却過程は数十億年から数百億年という気の遠くなるような時間スケールで進行します。
参考)白色矮星
興味深いことに、最近の研究では白色矮星の内部で結晶化が進む過程で重力エネルギーが放出され、表面温度が80億年以上も一定に保たれることがあると判明しました。固化した小さな塊が浮上することによって生じるこの加熱プロセスは、白色矮星が予想よりも「年を取らない」現象を引き起こしています。また、一部の白色矮星では表面で核融合反応が発生し、老化を遅らせるメカニズムも発見されています。
参考)白色矮星が80億年以上 “年を取らない” ことがある理由を解…
最終的に白色矮星は完全に冷却し、理論上は「黒色矮星」と呼ばれる光を発しない天体になると考えられていますが、宇宙の年齢(約138億年)はまだこの過程が完了するには不十分であり、黒色矮星は現時点では理論上の存在に留まっています。シリウスBもまた、想像を絶する時間をかけてこの最終段階へと向かっていくのです。
参考)太陽の誕生と進化と地球「GPT先生に聞いてみたシリーズ」|S…
白色矮星は単独で静かに冷却していくだけでなく、連星系において劇的な天文現象を引き起こすことがあります。特に白色矮星が伴星から物質を降着させる系では、新星、矮新星、さらにはIa型超新星といった激変星現象が発生します。
新星は白色矮星の表面に降着した水素が臨界量に達し、熱核反応爆発を起こす現象です。一方、Ia型超新星は白色矮星が伴星から質量を受け取り続け、チャンドラセカール限界(約1.4太陽質量)に達した際に発生する大爆発で、宇宙の距離指標として天文学において極めて重要な役割を果たしています。
参考)最も高密度な白色矮星による超新星爆発の痕跡を特定 - アスト…
これらの激変星現象には「降着円盤」という構造が関わっており、伴星から流れ込んだガスが白色矮星の周囲で渦巻き状の円盤を形成します。シリウスBは現在のところこのような激変星活動を示していませんが、白色矮星一般の理解において、こうした多様な天体現象との関連性は見逃せない要素です。
西はりま天文台「特集 シリウスB」
シリウスBの詳細な特徴や観測情報について、天文台による専門的な解説が掲載されています。