こいぬ座の主要な星は、1等星のプロキオンと3等星のゴメイサのわずか2つで構成されています。プロキオンは地球からの距離が11.4光年という比較的近い位置にある恒星で、全天21の1等星の1つとして知られています。この星の名前は「犬の前に」という意味のギリシャ語に由来し、おおいぬ座のシリウスよりも先に東の空に昇ることから名付けられました。
参考)こいぬ座 - Wikipedia
プロキオンは視等級0.37の明るさを持ち、地球から見える恒星の中で8番目に明るい星です。質量は太陽の1.50倍、表面温度は約6500ケルビンで、半径は太陽の2.1倍、光度は太陽の7.2倍という特徴を持っています。興味深いことに、プロキオンの周りには小さな白色矮星が40.65年の周期で公転しており、この伴星は1896年にアメリカの天文学者がリック天文台の90センチ天体望遠鏡を使って発見しました。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology_34.html
プロキオンは冬の夜空で非常に目立つ存在で、オリオン座のベテルギウスとおおいぬ座のシリウスとともに「冬の大三角」を形成しています。この三角形の東の角に位置するプロキオンは、冬の星空を探索する際の重要な目印となっています。
参考)こいぬ座|星や月|大日本図書
こいぬ座を構成するもう1つの星が、3等星のゴメイサ(こいぬ座β星)です。この星の固有名「ゴメイサ」は、アラビア語で「小さな涙ぐんだもの」を意味する言葉に由来しています。実はこの名前は元々プロキオンに付けられていたものが、近年誤ってβ星に使われるようになったという興味深い歴史があります。2016年7月20日、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループは正式にゴメイサをこいぬ座β星の固有名として承認しました。
参考)オリオンの忠実な友達、おおいぬ座とこいぬ座の物語|神話で解き…
ゴメイサはB型主系列星に分類され、視等級は2.89で、2.84から2.92の範囲で変光するBe星という特殊な星です。この星の最も特徴的な点は、太陽の125倍もの速さで自転していることです。この高速自転により、星から放出された物質が星を円盤状に囲んでおり、その円盤からの放射によってスペクトルに特徴的な輝線が見られます。
参考)こいぬ座ベータ星 - Wikipedia
地球からゴメイサまでの距離は約162光年で、質量は太陽の3倍以上、半径は太陽の4倍、光度は太陽の250倍という大きな星です。プロキオンの少し西に位置するこの星とプロキオンの2つだけで、こいぬ座の主要な構成を成していますが、残念ながらこの2つの星を結んで犬の姿を描くことは難しいとされています。
参考)こいぬ座ベータ星とは - わかりやすく解説 Weblio辞書
こいぬ座にまつわる最も有名な神話は、狩人アクタイオンと彼の猟犬たちの悲劇的な物語です。狩の名手であったアクタイオンは、ある日猟犬たちと共に鹿狩りをしていましたが、いつの間にか森の奥深くに迷い込んでしまいました。そこは月と狩の女神アルテミス(ローマ神話ではディアナ)が水浴びをする神聖な谷でした。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/koinu.shtml
茂みの向こうから聞こえる女性の声に誘われて覗き込んだアクタイオンは、女神アルテミスとニンフたちが裸で水浴びをしている姿を見てしまいます。自分の裸を見られたことに激怒したアルテミスは、泉の水をアクタイオンにかけ、彼の姿を鹿に変えてしまいました。鹿になったアクタイオンが叫ぶと、その声は鹿のうめき声となり、主人の声と気づかなかった50頭の猟犬たちが獲物だと間違えて彼に噛みつき、殺してしまったのです。
参考)「こいぬ座」の神話を紹介します。
この悲劇を哀れに思った女神が、猟犬のうちの1頭を天に上げて星座にしたのがこいぬ座だと伝えられています。一説では、おおいぬ座もアクタイオンの猟犬の1頭だとされ、こいぬ座とおおいぬ座は一緒に星座になったという説もあります。この神話は、神々の領域を侵した者への厳しい罰を象徴する物語として、古代ギリシャで広く語り継がれてきました。
こいぬ座にはもう1つ、イカリオス王と忠犬メーラの感動的な神話が伝わっています。アテネの北、土壌の豊かなイカリア地方を治めていたイカリオス王は、酒神ディオニュソス(バッカス)を信仰していました。ある日、感謝の印としてディオニュソスは、イカリオス王にぶどうの木とワインの製法を授けました。
参考)こいぬ座
イカリオス王は初めてワインを作り、羊飼いたちに振る舞いましたが、ワインを飲んだことがなかった羊飼いたちは酔いつぶれてしまいました。目覚めた羊飼いたちは毒を盛られたと勘違いし、イカリオス王を殺害してしまいます。王の娘エーリゴネーと愛犬メーラは王を探し回りましたが、メーラが遺体を発見し、エーリゴネーは悲しみのあまり首をくくって命を絶ちました。
忠犬メーラはイカリオス王に大変可愛がられており、メーラもよく王に従っていました。王が亡くなった後、メーラはその前を動かず、食事も食べずに、終には後を追うように死んでしまったのです。この忠節を讃えられ、メーラは死後天に昇って「こいぬ座」になったと伝えられています。ディオニュソスはイカリオス王をうしかい座、娘エーリゴネーをおとめ座、そして忠犬メーラをこいぬ座として天に上げたという説もあります。
参考)冬の星座~こいぬ座
こいぬ座は冬の夜空を代表する「冬の大三角」を構成する重要な星座です。冬の大三角は、オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、そしてこいぬ座のプロキオンという3つの1等星を結んで形成される大きな三角形のアステリズムです。この三角形は冬の星座や星を見つける際の重要な目印となっています。
参考)「こいぬ座」の見つけ方や誰かに教えたくなる星の話 - 星座図…
こいぬ座は天の川を挟んでおおいぬ座と向かい合った位置に存在します。オリオン座の東側、おおいぬ座の左上に位置する小さな星座で、プロキオンはこの冬の大三角の東の角を形成する星となっています。興味深いことに、プロキオンの名前の由来である「犬の前に」という意味は、古代エジプトでナイル川の氾濫期を知らせる重要な星であったシリウスよりも先に昇ることから付けられました。
参考)プロキオン(こいぬ座α星)|やさしい88星座図鑑
こいぬ座の探し方は比較的簡単です。まずオリオン座のベテルギウスとおおいぬ座のシリウスを見つけ、この2つの星とあともう1つの明るい星をつないで冬の夜空に大きな三角形を作ると、その東の角がこいぬ座のプロキオンです。プロキオンは非常に明るい1等星なので、都会でも見ることができます。
こいぬ座を観測するのに最適な時期は冬から春にかけて、特に12月から4月頃です。その中でも1月から2月がベストシーズンとされており、3月上旬の午後8時頃には南の空60度ほどの高さまで昇り、見ごろを迎えます。冬の大三角は1月になると午後7時ごろから見え始め、午後8時頃には南の空に最も高く昇ります。
参考)こいぬ座|やさしい88星座図鑑
実は冬の大三角は、真夜中や夜明けまで起きているなら秋でも見ることができます。午後8時ごろに観測するなら、1月中旬から3月初めが最も見やすい時期ですが、観測時間帯を変えることで、より長い期間楽しむことができるのです。2月15日午後8時頃(または1月15日午後10時頃)の東京の南の空では、日が沈む午後5時半過ぎには既に南東の空に冬の大三角が昇っており、午後9時頃には南の空に最も高く昇ります。
参考)冬の大三角と星座|やさしい88星座図鑑
こいぬ座そのものは、プロキオンとゴメイサの2つの星しかない小さな星座で、星を結んで犬の姿を想像するのは難しいのが実情です。そのため、まず冬の大三角を目印にプロキオンを見つけることが、こいぬ座を探す最も確実な方法となります。プロキオンは地球から比較的近い11.4光年という距離にあるため明るく、シリウスやベテルギウスと並んで冬の夜空で目立つ存在です。
参考)[宇宙の豆知識]宇宙の奥行きを感じる“星と地球の距離”|『宇…
こいぬ座の詳しい観測情報と星図(スタディスタイル自然学習館)
こいぬ座の季節ごとの見え方や、プロキオンの詳細な天文データが掲載されています。
こいぬ座の歴史は非常に古く、紀元前1200年頃には既に知られていた星座です。当時は「海の犬座」と呼ばれており、この名前はフェニキアで「海の犬」とされていた星座に原型があると考えられています。一方、おおいぬ座は紀元前300年頃のギリシャでは単に「犬座」と呼ばれていました。
古代において、こいぬ座は犬座(おおいぬ座)よりも早く東の空に姿を見せることから、「プロキオン(犬の前)」という名前が付けられたのです。この観測事実は、古代の人々が天文現象を注意深く観察していたことを示しています。実際、プロキオンはシリウスに先立って昇ってくるため、古代エジプトでは重要なナイル川の氾濫期がまもなく訪れることを知らせる星として注目されていました。
こいぬ座と現在呼ばれるようになったのは、中世の頃にアラビアに伝わってからのことです。プトレマイオスの48星座の中にも登場しており、その存在は古くから認められていました。プロキオンが非常に明るく、シリウスとペアで昇ってくることから、おおいぬ座と対比させて「こいぬ座」と名付けられたのかもしれません。こうした古代からの観測の積み重ねが、現在の星座の名前や神話として私たちに受け継がれているのです。
こいぬ座の見つけ方と星の話(Honda星座図鑑)
こいぬ座の基本情報と、冬の大三角を使った探し方が分かりやすく解説されています。
冬の大三角を構成する3つの1等星は、地球からの距離が大きく異なることが分かっています。最も近いのはおおいぬ座のシリウスで、地球からわずか8.7光年という距離にあります。次にこいぬ座のプロキオンが11.4光年の距離に位置しています。この2つの星は比較的地球から近いところにある星だと言えます。
一方、オリオン座のベテルギウスだけが500光年と気の遠くなるような距離に位置しており、他の2つの星とは桁違いに遠い場所にあります。このように、冬の大三角は見た目には同じような明るさで三角形を形成しているように見えますが、実際には3つの星が宇宙空間の全く異なる距離に散らばって存在しているのです。
この距離の違いは、宇宙の奥行きを感じさせる興味深い事実です。シリウスとプロキオンは太陽系の比較的近くにある恒星であるため明るく見えますが、ベテルギウスは500光年も離れているにもかかわらず、その巨大な質量と光度のために1等星として輝いているのです。冬の夜空を見上げるとき、この3つの星が実は三次元空間の全く異なる場所に位置していることを知ると、宇宙の広大さをより実感できるでしょう。
| 星座と星の名前 | 地球からの距離 | 位置 |
|---|---|---|
| おおいぬ座シリウス | 8.7光年 | 冬の大三角の南側 |
| こいぬ座プロキオン | 11.4光年 | 冬の大三角の東側 |
| オリオン座ベテルギウス | 約500光年 | 冬の大三角の西側 |

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