おとめ座のモデルは、ギリシャ神話に登場する農業の女神デーメーテル、またはその娘ペルセポネと言われています。デーメーテルは大神ゼウスとの間に生まれた娘ペルセポネを深く愛していましたが、ある日冥界の王プルトーン(ハデス)が突然大地を裂き、ペルセポネを冥界へとさらってしまいました。娘を失ったデーメーテルは深い悲しみに沈み、農業の女神である彼女の嘆きによって地上では草木が枯れ、作物は一切育たなくなりました。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/otome.shtml
大神ゼウスはこの惨状を見て、プルトーンを説得しペルセポネを地上へ戻すことを約束させました。しかしプルトーンは策略を用い、ペルセポネが地上に戻る前に冥界のザクロの実を食べさせていました。このザクロを食べた者は完全には地上の人間に戻れないという呪いがあったため、ペルセポネは一年のうち三分の二を地上で過ごし、残りの三分の一は冥界で過ごさなければならなくなりました。
参考)https://hoshi.furby.co.jp/greek-virgo/
この神話は四季の起源を説明する物語としても知られています。ペルセポネが地上にいない期間、デーメーテルは悲しみに沈み、その間は作物が育たない冬が訪れます。春になり娘が地上に戻ると、母と娘は再会を喜び、野には花が咲き始め、穀物が実る季節がやってくるのです。おとめ座が夜空に見えない時期には大地は凍てつき、再び空に昇る春には生命が芽吹くという、自然のサイクルと星座の動きが見事に重なっています。
別の説では、おとめ座は正義の女神アストライアの姿だとも言われています。アストライアは大神ゼウスと女神テミスの娘で、人間が争いを繰り返す時代に最後まで地上に残り、正義を教え続けた女神です。しかし最終的には人間に失望し、天に昇っておとめ座になったとされています。アストライアは翼を持つ姿で描かれることが多く、星座絵に翼が描かれている場合はこちらの説に基づいています。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology_15.html
おとめ座で最も明るく輝く星は、1等星のスピカです。スピカという名前はラテン語で「穀物の穂」や「尖ったもの」を意味し、星座絵では女神が左手に持つ麦の穂の先端部分として描かれています。全天で15番目の明るさを誇るこの星は、青白い光を放つことから日本では「真珠星」という美しい和名でも親しまれています。
参考)おとめ座 - Wikipedia
実はスピカは単一の星ではなく、スピカAとスピカBという2つの星から成る連星系です。これらの星は非常に接近して公転しているため、望遠鏡でも2つに分離して見ることはできません。互いの重力によって楕円形に歪んでおり、系全体の光の80%はより大きく質量の多いスピカAから放たれています。スピカAは青白い巨星で、太陽の2000倍以上の明るさで輝いており、直径は太陽の約10倍もあります。
参考)https://starwalk.space/ja/news/spica-virgo-brightest-star
スピカは黄道に近い位置にあることから、古くから航海や航法の基準点として重要な役割を果たしてきました。現在でも57の航法星の1つとしてリストアップされており、宇宙船や人工衛星の航法における基準点として活用されています。また月や惑星がスピカに接近して通過する現象も頻繁に観測されるため、天体観測の愛好家にとっても注目度の高い星となっています。
おとめ座にはスピカ以外にも、固有名を持つ興味深い星々が存在しています。γ星(ガンマ星)は「ポリマ」という名前で呼ばれ、ローマ神話に登場する予言と出産のニンフの名前に由来します。この星は黄色い輝きを持つ連星系で、2つの3.5等星が組み合わさっており、171年の周期で互いに公転しています。2007年には2つの星が大接近する様子が観測されました。ポリマは星座絵では乙女の左腕の位置にあたります。
参考)https://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/seiza2000/data/const/vir/index.html
ε星(イプシロン星)は「ヴィンデミアトリクス」という長い名前を持ち、その意味は「葡萄を積む女」です。この星は2.8等星で、星座絵では乙女の右腕部分に位置しています。β星(ベータ星)は「ザヴィヤヴァ」という名前の3.6等星で、乙女の肩の辺りに輝いています。
参考)http://yumis.net/space/star/greece/vir-g3.htm
ι星(イオタ星)は「シュルマ」という名前で知られ、ギリシア語で「痕跡」や「ひきずる」を意味する言葉がラテン語化されたものと考えられています。この名前は、長くひきずった女神の衣の裾の印象から与えられたと言われており、4.1等星として輝いています。δ星(デルタ星)は「ミネラウバ」という名前を持つ3.4等星ですが、この固有名の意味は現在でも解明されていません。
これらの星々は、おとめ座の全体像を形作る重要な要素となっています。星座絵では、ポリマが左腕、δ星がおへそ、ε星が右腕という配置になっており、これらを結ぶことで乙女の上半身のシルエットが浮かび上がります。全天で2番目に大きい星座であるおとめ座は、横に大きく広がった形状をしており、これらの主要な星を頼りに全体の姿を辿ることができます。
おとめ座の1等星スピカは、春を代表する星の配置である「春の大三角」を構成する重要な星の1つです。春の大三角は、おとめ座のスピカ、うしかい座のアークトゥルス、しし座のデネボラ(またはレグルス)を結んでできる大きな三角形のアステリズムで、春の夜空を特徴づける星の並びとして広く知られています。アークトゥルスは0等星、スピカは1等星、デネボラは2等星と、それぞれ明るさと色が異なるため見分けやすい特徴があります。
参考)https://starwalk.space/ja/news/spring-triangle-asterism
春の大三角を見つけるには、まず北斗七星を手がかりにするのが最も簡単な方法です。北斗七星の柄の部分が描くカーブをそのまま延長していくと、オレンジ色に輝くアークトゥルスに到達します。このカーブをさらに南へ伸ばしていくと、青白く輝くスピカにたどり着きます。この曲線は「春の大曲線」とも呼ばれ、春の星空を楽しむための基本的な道しるべとなっています。
参考)おとめ座|星や月|大日本図書
スピカの見つけ方には別の手がかりもあります。春の南東の空を見上げると、スピカの南側のすぐそばに4つの3等星で作られた歪んだ台形が見えます。これは「からす座」で、この小さな台形を見つけることができれば、その北側に輝く青白い1等星がスピカだと確認できます。
春の大三角が形作る領域には黄道が通っているため、月や太陽、惑星たちが頻繁にこの領域を通過します。そのため、スピカの近くに明るい天体が見える場合は、それが惑星である可能性が高く、天体観測において興味深い光景を楽しむことができます。おとめ座は春先には南東の空に姿を現し、ゆったりと南、そして西へと傾いていきます。スピカとアークトゥルスは「春の夫婦星」とも呼ばれ、春の夜空を彩る美しいペアとして親しまれています。
おとめ座の領域には、天文学的に極めて重要な「おとめ座銀河団」が存在しています。この銀河団は約1300個から2000個もの銀河が密集した、宇宙における大規模構造の1つです。その中にはメシエカタログやNGCカタログに登録された有名な銀河が多数含まれており、小型の望遠鏡でも観測可能なものが数多くあります。
おとめ座銀河団に含まれる銀河の多くは大きな質量を持っており、そのためブラックホール候補の天体も多数確認されています。この銀河団の構造は渦巻銀河と楕円銀河が不均一に混ざり合った複雑な形態をしており、銀河の進化や相互作用を研究する上で重要な観測対象となっています。
特に有名な天体としては、M49(NGC4472)という9.3等星の楕円銀河や、M87(NGC4486)という9.6等星の楕円銀河があります。また、からす座との境界近くには「ソンブレロ銀河」の愛称で知られるM104が位置しており、メキシコの帽子に似た独特の形状から人気の高い天体となっています。このソンブレロ銀河は9.2等星の明るさで、口径10cmの望遠鏡でも中央の膨らみを確認することができます。
おとめ座銀河団は地球から約5000万光年の距離にあり、我々が属する局所銀河群を含む、より大きな「おとめ座超銀河団」の中心部を構成しています。この領域を観測することは、宇宙の大規模構造や銀河の形成・進化のプロセスを理解する上で不可欠な研究となっており、アマチュア天文家から専門の研究者まで、幅広い層の関心を集め続けています。神話の時代から人々を魅了してきたおとめ座の領域が、現代においては宇宙の深淵を探る窓として機能していることは、星座と人類の関わりの深さを物語っています。
おとめ座の観測ガイドと銀河団の詳細な情報 - AstroArts

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