しし座のモデルは、ギリシア神話に登場するネメアの森に棲む人食いライオンです。このライオンは、怪物テュフォンとエキドナの子として生まれた不死身の存在で、鋼のように硬い皮膚を持っていました。ネメアの森に棲みついてから、度々村人や旅人を襲い、多くの若者が退治に向かいましたが誰一人として帰ってくることはありませんでした。
参考)しし座 - 新興出版社啓林館・文研出版 万博プロジェクト
困り果てた村人たちの祈りを受け、大神ゼウスは英雄ヘルクレス(ヘラクレス)に獅子退治を命じます。この任務は、アルゴス王エウリュステウスがヘルクレスに課した「12の功業」の第1番目の試練でした。ヘルクレスは怪力と強力な弓矢、樫の木から作った棍棒を持ってネメアの森に向かいますが、あらゆる武器がライオンの硬い皮膚に弾かれてしまいます。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/sisi.shtml
武器が通用しないと悟ったヘルクレスは、自らの怪力を活かす戦法に切り替えました。ライオンを洞窟に追い込み、素手でその首を締め上げ続けること三日三晩、ついに不死身と言われたライオンを倒すことに成功します。ヘルクレスはこのライオンの皮を剥いで身にまとい、終生肩にかけていたと伝えられています。この功績を称え、大神ゼウスがライオンを天に上げて星座としたという伝承が「カタステリスモイ」や「天文詩」に記されています。
参考)しし座の神話
興味深いのは、ヘルクレスを憎んでいた女神ヘラの関与です。獅子はヘラクレスの事情を知らずに戦いましたが、結果的にヘルクレスを苦しめたことから、ヘラが獅子を称えて夜空に上げたという別の物語も存在します。
参考)しし座の神話・伝説
しし座の神話と星座の詳細 - 新興出版社啓林館
しし座は、プトレマイオスによって設定された48星座の一つで、面積947平方度、肉眼で見える星数は118個にのぼる春の代表的な星座です。黄道十二星座の一つとしても知られ、紀元前600年頃には既に存在していたとされる古い星座です。
参考)【獅子座】フーコと読む星座神話 #6 - Εὕρηκα!
主要な星の構成
参考)しし座 - Wikipedia
レグルスには特別な特徴があります。この星は約16時間で1回転する非常に速い自転速度を持つため、遠心力によって赤道付近が膨らみ、卵のような形をしています。これは太陽が1回転するのに27日かかるのと比較すると、驚異的な速さです。
参考)https://starwalk.space/ja/news/regulus-star
しし座の最大の特徴は、ライオンの頭部から胸にかけての星の並びです。レグルス(α星)を起点として、λ-ε-μ-ζ-γ-η-αの7つの星を繋ぐと、「?」マークを左右反転させたような形が現れます。この特徴的な配置は「ししの大鎌(The Sickle)」と呼ばれ、しし座を見つける際の最も重要な目印となっています。
参考)しし座|星や月|大日本図書
ししの大鎌を形成する星の中で注目すべきは、γ星です。この星は実は連星系で、見かけの明るさ2.37等のA星(γ1)と3.64等のB星(γ2)から構成されています。A星はスペクトル型K1-IIIFe-1、B星はG7IIIbという特性を持ち、互いに回り合う美しい天体です。
しし座の形を捉えるコツは、まずレグルスとデネボラの2つの明るい星を見つけ、この2星を結んで胴体を作ることです。その後、レグルスの上(北)にある星々をつないで頭部と大鎌の形を完成させます。春の夜空では比較的形がはっきりとしており、初心者でも見つけやすい星座として親しまれています。
参考)「しし座」の見つけ方や誰かに教えたくなる星の話 - 星座図鑑…
古代から多くの民族が、レグルスを中心とした星の並びにライオンの姿を見出してきました。古代バビロニアの天文資料「ムル・アピン粘土板」では、「ライオン」「王」「ライオンの尾」という3つの星群として記録されており、これらが現在のしし座を構成する星々と考えられています。
参考)https://gakuen.gifu-net.ed.jp/~contents/virtualmuseum/sanpo/s_guide/s_no08/05.htm
しし座は、数千年前から様々な文明で認識されてきた歴史の深い星座です。古代バビロニアの「ムル・アピン粘土板」には、「大きな双子」「小さな双子」「カニ」に続いて「ライオン」が登場し、その後「王」「ライオンの尾」と続く記述があります。これら3つの星群が、現在のしし座を構成する星々に対応していると考えられています。
レグルスが「王の星」と呼ばれた背景には、ライオンが百獣の王として古代世界で広く認識されていたことがあります。王や王国を象徴する動物とみなされていたため、占星術においてしし座は「王や王国の命運をにぎる星」と考えられていました。この信仰は、メソポタミアからギリシャ、ローマへと受け継がれ、現代の星占いにも影響を与えています。
また、しし座は黄道十二星座の一つとして、太陽の通り道である黄道上に位置します。古代の人々は、太陽がしし座の領域を通過する時期(現在の暦では7月下旬から8月中旬頃)を特別視し、農業や宗教儀式のカレンダーとして活用していました。
参考)しし座(獅子座)|やさしい88星座図鑑
古代エジプトでは、ナイル川の氾濫期と太陽がしし座に入る時期が重なっていたため、この星座は豊穣と再生の象徴として崇められていました。ライオンの頭部を持つスフィンクスの向きが春分点の方向を指していることも、しし座との関連を示唆する研究があります。
しし座の領域には、美しい深宇宙天体が数多く存在します。中でも有名なのが「しし座の三つ子銀河」です。これはM65、M66、NGC 3628という3つの渦巻銀河が相互作用しながら回り合うグループで、見かけの等級は8.9~9.5等、満月の約1.5倍の大きさに広がっています。天体望遠鏡で観測すると、銀河同士の重力の影響で形が歪んでいる様子を確認できます。
参考)https://starwalk.space/ja/news/leo-constellation-guide
しし座にはメシエ天体が5個存在し、アマチュア天文家の観測対象として人気があります。春の夜、しし座が南中する頃(3月から5月頃の夜8時~10時頃)が最も観測に適した時期です。デネボラから形作られる春の大三角を目印にすれば、夜空でしし座の位置を容易に特定できます。
参考)しし座|月と星|暦生活
しし座流星群も見逃せない天文現象です。毎年11月中旬頃に活動し、33年周期で大出現することが知られています。放射点(流星が飛び出してくるように見える点)がしし座のししの大鎌付近にあることから、この名前が付けられました。
観測のコツとしては、まず春の夜空で最も明るいアークトゥルスを見つけ、そこから南西方向に視線を移すとスピカが見つかります。この2星とデネボラで春の大三角を形作り、デネボラから西へ視線を移すとレグルスとししの大鎌が見えてきます。都市部の明るい場所でも、レグルスとデネボラは比較的容易に見つけられるため、初心者の星座探しにも適しています。
しし座の見つけ方と観測ガイド - Honda星座図鑑