スピカ(Spica)は、おとめ座で最も明るく輝く一等星で、ラテン語で「麦の穂」を意味します。おとめ座の女神が左手に握る麦の穂先の位置で輝いているため、この名前がつけられました。日本では「真珠星」という美しい和名でも呼ばれ、その純白で清らかな輝きが古くから多くの人々を魅了してきました。
参考)https://starwalk.space/ja/news/spica-virgo-brightest-star
スピッツがこの星の名前を楽曲タイトルに選んだのは、偶然ではありません。スピカは地球から見える恒星の中で15番目に明るく、春の夜空で最も目立つ星の一つです。実はスピカは単一の星ではなく、スピカAとスピカBという2つの星からなる二重星系で、非常に近い距離を公転しています。望遠鏡でも2つの星として識別できないほど接近しており、お互いの重力によって楕円形に歪んでいるという特徴があります。
参考)スピッツ「スピカ」の歌詞の考察 - しょうの雑記ブログ
星座に興味がある方なら、スピカが春の大三角を構成する重要な星であることもご存知かもしれません。うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラを結んだ三角形は、春の訪れを告げる象徴的な星の配置です。スピッツの「スピカ」という楽曲が1998年7月7日に発売されたのも、七夕という星にまつわる日であることから、制作側の細やかなこだわりが感じられます。
参考)https://starwalk.space/ja/news/spring-triangle-asterism
「幸せは途切れながらも続くのです」というフレーズは、この楽曲の核心を表現しています。多くのリスナーがこの歌詞に衝撃を受けたと語っており、それまでのスピッツの楽曲とは異なる現実的な視点が込められています。従来のスピッツの曲が「嫌なことがない世界」や幻想的な平穏を表現していたのに対し、スピカは幸せが途切れることを示唆する、なまの現実を描いた作品なのです。
参考)78時限目:スピカ (スピッツ大学ランキング 第1位) - …
歌詞の中で繰り返される「割れものを手渡すように」という比喩表現は、関係性の繊細さや壊れやすさを象徴しています。大切なものほど慎重に扱わなければならない、という人間関係の本質を表現した言葉です。また「粉のように飛び出す せつないときめき」というフレーズには、感情が一瞬で広がっていく様子が描かれており、恋愛の初々しさと儚さが同時に表現されています。
参考)スピカ/スピッツ 歌詞の意味を徹底考察|儚くも続いていく幸せ…
多くの考察では、この楽曲が結婚生活や長年のパートナーシップを描いたものという解釈があります。喧嘩することもあるし、ドキドキも色褪せるかもしれないけれど、やっぱり大切な人とずっと過ごすことが幸せだという、リアルで温かいメッセージが込められているのです。この楽曲が結婚式で選ばれることが多いのも、そうした普遍的な愛の形を歌っているからでしょう。
「スピカ」は1998年7月7日に発売された19枚目のシングルで、「楓」との両A面という形でリリースされました。8thアルバム『フェイクファー』のセッションで録音されながらアルバムには未収録となった「スピカ」と、アルバム収録曲の「楓」という組み合わせです。両曲ともに高い人気を誇り、ファンの間では「楓派」「スピカ派」という言葉が生まれるほどです。
参考)楓/スピカ - Wikipedia
興味深いのは、8cmシングルのジャケットデザインです。裏表紙も表表紙のようなデザインになっており、表と裏が逆になっているバージョンも存在するため、事実上ジャケットが2種類あるという凝った作りになっています。これは両曲が対等な関係であることを示す、制作側のメッセージとも受け取れます。
世間一般の認知度では「楓」の方が高い傾向にありますが、スピッツファンの中では「スピカ」を好む人も非常に多く、ファン投票では第1位に輝いたこともあります。楓が有名になった一方で、スピカはファンにとっての隠れた名曲として、深く愛され続けているのです。両A面シングルという形式が、2つの異なる魅力を持つ楽曲の個性を引き立てていると言えるでしょう。
春の大三角は、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラ(またはレグルス)を結んだ星の配置で、春の夜空の目印として親しまれています。この三角形の中を黄道が通っているため、月や太陽、惑星たちが頻繁にこの領域を通過する特徴があります。3月の春分ごろから空に現れ始め、4月に最もよく見えるようになります。
スピカを見つける方法として、北斗七星を利用した「春の大曲線」という探し方があります。北斗七星の柄(取っ手)のカーブを伸ばしていくと、うしかい座のアークトゥルスを経て、おとめ座のスピカに到達します。さらに曲線を延ばすとからす座に届くため、初心者でも比較的簡単にスピカを見つけることができます。
参考)春の大曲線(だいきょくせん)、春の大三角(だいさんかく) -…
スピカは春に観られる星で、種まきの時季を伝える星ともされてきました。農業が生活の中心だった時代には、スピカの出現が新しい季節の始まりを告げる重要な指標だったのです。「スピカ」という名前がラテン語で「麦の穂」を意味し、原義は「尖っている」から来ていることも、農耕文化との深い結びつきを示しています。スピッツの楽曲「スピカ」に登場する「古い星の光 僕たちを照らします」という歌詞は、このような何千年も前から人類を見守ってきた星の歴史を感じさせます。
参考)音楽で星空とあなたの心を繋ぐ「天体ソング」10 (2019/…
「今だけは逃げないで 君を見つめてよう」というフレーズには、一時的であることを認めながらも、その瞬間の真剣さを大切にする姿勢が表れています。永遠の愛を誓うのではなく、「今だけは」という限定的な表現を使うことで、むしろリアルで誠実な愛の形が描かれているのです。これは理想化された恋愛ソングとは一線を画す、スピッツならではの視点と言えます。
「やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる」という歌詞については、君と真剣に向き合う夜という意味に解釈できます。相手の素晴らしさに触れて、涙が出てくるような感動を表現していると考えられます。日常の中で突然訪れる、深い感情の揺れ動きを捉えた繊細な描写です。
特に注目したいのは、「世界中 何も無かった それ以外は」という歌詞です。これは、古代から現代まで、人類がずっと同じような恋愛のストーリーを繰り返してきたことを示唆しています。しかし同時に、「僕」と「君」のベタなこのストーリーは、二人にしか作れない世界にかけがえのないものである、という矛盾した真実を表現しているのです。ありふれているようで唯一無二、という恋愛の本質を見事に言い当てた歌詞と言えるでしょう。
スピッツの草野正宗が作詞・作曲したこの楽曲は、「女の子の中で最も輝いている君」を歌った曲だからこそ、最も明るく輝くおとめ座の星「スピカ」というタイトルになったのです。このタイトルの選び方の巧みさに気づいた時、多くのファンが「なるほど! そういう意味か! うまいな」と感嘆したと語っています。
「スピカ」は結婚式のBGMとして選ばれることが多い楽曲です。「幸せは途切れながらも続くのです」という歌詞が、これから始まる夫婦生活のリアルな姿を表現しており、理想だけでなく現実も受け入れる覚悟を示すメッセージとして共感を呼んでいます。完璧な幸せではなく、途切れながらも続いていく幸せこそが本物だという考え方は、長い結婚生活を象徴しています。
参考)スピッツ「スピカ」と結婚式|ワーカカ
人生の転機を迎えた時にこの曲を聴くと、新たな気づきがあるかもしれません。「この坂道もそろそろピークで」という冒頭の歌詞は、人生の困難な時期が終わりに近づいていることを示唆しています。坂道を人生の比喩として捉えると、苦労の先に待っている幸せを予感させる希望のメッセージになります。
星座観察をしながらこの曲を聴くという楽しみ方もおすすめです。春の夜空でスピカを実際に探してみると、歌詞の中の「古い星の光 僕たちを照らします」というフレーズが、より深く心に響くでしょう。スピカの光は何百光年も前に放たれたもので、その光が今、私たちを照らしているという事実は、時間の壮大さと人間の営みの儚さを同時に感じさせてくれます。
おとめ座のスピカについて詳しく知りたい方は、こちらの天文ガイド(スピカの見つけ方や観測時期など)をご覧ください
春の大三角の詳細な観測方法については、こちらの記事(観測に最適な時期や見つけ方)が参考になります