オリオン座のモデルとなったのは、ギリシャ神話に登場する巨人の狩人オーリーオーンです。海神ポセイドンとアマゾン国の女王エウレアレの間に誕生したとされ、ポセイドンの血を引くことから海の上を自由に歩くことができたと伝えられています。オリオンは狩りの名人として知られ、力も強く荒々しい性格でしたが、その最期には複数の神話が存在します。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/orion.shtml
最も有名な物語では、狩猟の女神アルテミスとの悲恋が語られます。アルテミスはオリオンの狩りの腕前に惹かれ、二人は一緒に狩りをするようになりました。しかし、純潔の守護神でもあるアルテミスとオリオンの関係を快く思わなかった兄のアポロンが、川を渡るオリオンに日光を当てて黄金色に輝かせ、「あの鹿を射ることはできないだろう」とアルテミスを挑発します。狩猟の女神であるアルテミスの矢は的を外すことなく、川岸に打ち上げられたのは胸を貫かれたオリオンの姿でした。悲嘆に暮れたアルテミスは父ゼウスに願い出て、オリオンを星座として夜空に昇らせたと言われています。
参考)オリオン座の神話|ウェザーニュース
別の神話では、オリオンが自らの力を過信して「どんな獣も倒せる」と豪語したため、女神ヘーラが大きなサソリを送り込んでオリオンを刺し殺したとも伝えられています。このサソリはさそり座となり、オリオン座はサソリが昇ると西に沈むため、今でも夜空で宿敵を避けているかのように見えます。また、オリオンが暁の女神エーオスに恋をしたため、神々の嫉妬によってアルテミスの矢で射殺されたという説も残されています。
オリオン座を特徴づけるのは、対照的な性質を持つ二つの一等星です。左上に位置する赤いベテルギウスと、右下に輝く青白いリゲルは、見た目だけでなく星としての進化段階も大きく異なります。
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ベテルギウスは赤色超巨星と呼ばれる老いた星で、直径は太陽の約1000倍にも達します。アラビア語で「巨人の腋の下」を意味する名前の通り、オリオンの肩に位置し、赤みを帯びた光を放っています。星の一生の最終段階を迎えており、いずれ超新星爆発を起こすと考えられています。実際の明るさは太陽の約14万倍とされ、地球からの距離は約640光年です。ベテルギウスは半規則型変光星でもあり、明るさが0.0等から1.6等まで変化します。
参考)https://starwalk.space/ja/news/orion-constellation-guide
一方のリゲルは、アラビア語で「ジャウザーの足」を意味し、オリオンの左足に相当する位置にあります。誕生してから数百万年しか経っていない若い青色超巨星で、表面温度は約12,000度と太陽の2倍もの高温です。この高温のため青白く見え、直径は太陽の約70倍、実際の明るさは太陽の約3万倍にも達します。地球からの距離は約860光年とベテルギウスの2倍近く離れているにもかかわらず、平均視等級は0.13等とオリオン座で最も明るく輝いています。
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日本では古来、この二つの星を平家の赤旗と源氏の白旗になぞらえ、ベテルギウスを「平家星」、リゲルを「源氏星」と呼んでいました。三つ星を挟んで対照的な色で輝く様子は、まさに源平合戦を彷彿とさせる美しい光景です。
参考)星座八十八夜 #50 星座界の超有名人「オリオン座」 - ア…
オリオン座の中心を飾るのが、ほぼ等間隔に並ぶ三つの二等星です。欧米ではギリシャ神話のオーリーオーンの腰部分になぞらえて「オリオンのベルト」と呼ばれますが、日本では「三つ星」「三連星」「からすき星」「参星」「参宿」など、さまざまな和名で親しまれてきました。
参考)冬の王者「オリオン座」観測で楽しめるのはベテルギウスとリゲル…
関東北部では「三星様(サンジョサマ)」と呼ばれ、冬の夜なべ仕事を終える時刻の目安にしたり、夜明け前に西へ沈む様子を観察して雪が降る季節の到来を知る指標としていました。和歌山県では農具の「唐鋤」に見立てた「唐鋤星(カラスキボシ)」という呼び名があり、東の空に昇る時期を麦播きの目安にしていたという記録も残っています。また、愛媛県壬生川地方では「土用三郎(ドヨウサブロウ)」という名で、土用の時期に三つ星が3日にまたがって水平線から一つずつ現れ、縦一文字に出揃う様子を楽しんでいたそうです。
参考)https://www.goto.co.jp/news/20190924/
三つ星のすぐ南には「小三つ星」と呼ばれる3つの4~5等級の星が南北に並んでいます。この中央付近には、肉眼でもぼうっと光がにじんだように見える有名なオリオン大星雲(M42)が位置しています。M42は散光星雲で、その大きさは24光年、質量は太陽の約2,000倍と推定され、地球から約1,300光年の距離にあります。星雲の中では次々と星が誕生しており、まさに「星の製造工場」となっています。双眼鏡で見ると鳥が羽を広げたような姿が観察でき、暗い空のもとでは感動的な迫力を見せてくれます。
参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m42-j.shtml
国立天文台 - オリオン大星雲で星が生まれる現場の詳細な観測データ
オリオン座は冬を代表する星座であり、観測のベストシーズンは12月から3月にかけてです。特に夜20時頃に南の空に昇る1月下旬から2月初旬が最も観察しやすい時期とされています。12月には東の空に現れ始め、2月以降は少しずつ西に移動していき、3月いっぱいまでは夜20時頃でも見ることができます。
早い時期からオリオン座を楽しみたい場合は、真夜中2時半頃であれば9月頃から観測が可能です。一方、春から夏にかけてはオリオン座が西の空に早く沈んだり、昼間の空に現れたりするため観測が困難になります。5月初旬の日没直後が観測できる最後のチャンスとなり、6月から8月は基本的に観測できません。
オリオン座のベテルギウスは、「冬の大三角」を構成する重要な星の一つです。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、そしてベテルギウスを結ぶことで形成されるこの三角形は、冬の星空の目印として広く親しまれています。さらに、オリオン座のリゲルは「冬の大六角(冬のダイヤモンド)」の一角を担っています。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、ふたご座のポルックス、ぎょしゃ座のカペラ、おうし座のアルデバラン、そしてリゲルを結んでできる六角形は、6つもの一等星が集まった華やかな星の配置です。
参考)オリオン座 - 冬の星座 - 星空 - Yahoo!きっず図…
見つけ方としては、まず三つ星を目印にするのが最も簡単です。ほぼ等間隔に並ぶ二等星の三つ星は非常に目立ち、その上下に赤いベテルギウスと青白いリゲルが輝いている様子は、初心者でもすぐに識別できます。オリオン座全体の形は、三つ星を中心に両肩と両足に相当する星を結ぶと、狩人が棍棒とライオンの毛皮を持った姿として捉えることができます。
日本では古来、オリオン座に独特の和名や文化的解釈が与えられてきました。最も代表的な和名は「鼓星(つづみぼし)」で、三つ星を鼓の胴に見立て、それを挟むように位置するベテルギウス・リゲルと2つの二等星の合計4つの星を鼓の両端として捉えた名称です。この名前は日本の伝統楽器である鼓を星座に重ねた、まさに日本文化を代表するような呼び方と言えるでしょう。
参考)https://news.livedoor.com/article/detail/10701183/
タイに伝わる神話では、オリオン座の三つ星は全く異なる解釈がなされています。三つ星は王様に追われて天に駆け上がった3頭の鹿が星になったものとされ、三つ星の近くで赤みがかった光を放つベテルギウスは、鹿の血で染まった矢が星になったものと言われているのです。このように、同じ星座でも文化圏によって全く異なる物語が紡がれているのは興味深い点です。
参考)オリオン座の3つ星は鹿の化身? タイに伝わる悲恋の伝説とは……
日本の各地域では、オリオン座の星々に農業や生活に密着した名前が付けられていました。「初霜星」は、夕方の東の空にオリオン座が煌めき始める頃に初霜を見ることから名付けられた呼び名です。また、三つ星を「三大師」と呼ぶ地域もあり、星々は単なる天体ではなく、人々の暮らしや季節の移り変わりを知らせる重要な存在として親しまれてきました。
興味深いのは、ベテルギウスとリゲルを「平家星」「源氏星」と呼ぶ伝統です。赤いベテルギウスを平家の赤旗、青白いリゲルを源氏の白旗に見立てたこの呼び方は、日本の歴史と星空を結びつけた文化的な表現として、清少納言が愛した「すばる」と並んで趣のある和名とされています。このように、オリオン座は日本において単なる西洋星座の受容にとどまらず、独自の文化的解釈を加えられた特別な星座だったのです。
参考)http://ananscience.jp/science/hoshizoraannai/201601.pdf
オリオン座は肉眼でも十分に観察できる明るい星座ですが、双眼鏡や望遠鏡を使うことでさらに深い魅力を発見できます。特にオリオン大星雲(M42)は、肉眼では小さな雲の切れ端のようにボーっと見えますが、双眼鏡で観察すると鳥が羽を広げたような姿がはっきりと浮かび上がります。
参考)https://turupura.com/guide/nebuler/m042.htm
望遠鏡を使った観測では、まず低倍率で星雲全体を捉えることをお勧めします。空が暗い場所では、星雲がほんのりとしたピンク色に見えることがあり、この色彩は感動的な体験となるでしょう。星雲の中心部には「トラペジウム」と呼ばれるθ星があり、これはオリオン大星雲を照らし出している中心星です。低倍率で観察すると、この星が台形のような配列をした4重星であることが分かります。さらに詳しい観測では、実は6重星であることも知られています。
10cmの望遠鏡で100倍程度の倍率をかけると、星雲のガスの流れの濃淡がはっきりと浮かび上がり、宇宙の神秘的な構造を間近に感じることができます。オリオン大星雲のような発光星雲は、水素が発光した時の光(Hα)を多く出しているため、赤外線を通すように改造したデジタル一眼レフカメラを使うと、比較的簡単に美しい写真撮影ができます。
参考)M42、M43、オリオン大星雲 −天の川のほとりで星空散歩−
観測時の注意点としては、月明かりの影響を避けることが重要です。月が沈んだ後や新月の時期を選ぶことで、暗い星雲の構造まで観察しやすくなります。また、都市部の光害を避けて、できるだけ暗い場所で観測することで、星雲の色や微細な構造をより鮮明に捉えることができるでしょう。
参考)オリオン座流星群 観測ガイド(極大日、方角、見え方)
観測記録として、以下の表にオリオン座の主要な星の特徴をまとめました:
| 星名 | 種類 | 等級 | 色 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ベテルギウス | 赤色超巨星 | 0.0~1.6 | 赤 | 老いた星、超新星爆発間近 |
| リゲル | 青色超巨星 | 0.13 | 青白 | 若い星、オリオン座で最も明るい |
| ベラトリクス | 青色超巨星 | 1.59~1.64 | 青 | 「女戦士」の意味を持つ |
| 三つ星(δ、ε、ζ) | 二等星 | 約2等 | 青白 | オリオンのベルト、ほぼ等間隔に配置 |