こと座神話と構成する星|ベガ夏の大三角オルフェウス

夏の夜空に輝くこと座の神話と、その美しい星々の構造をご存知ですか?織姫星ベガから神話の竪琴まで、知られざる魅力をたっぷり解説します。あなたは夏の大三角を正しく見つけられますか?

こと座の神話と構成する星

この記事でわかること
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オルフェウスの竪琴神話

こと座に秘められた悲しくも美しい愛の物語と竪琴の由来

ベガと構成する星々

織姫星ベガをはじめとする主要な星とダブルダブルスターの神秘

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夏の大三角との関係

夏の夜空を飾る代表的な星の並びとこと座の位置

こと座のオルフェウス神話と竪琴の由来

 

こと座は古代ギリシャ神話に登場する吟遊詩人オルフェウスが奏でた竪琴を表した星座です。オルフェウスは芸術の神アポロンの息子として生まれ、ギリシャ一番の琴の引き手として知られていました。彼がアポロンから贈られた竪琴を演奏すると、森は静まり返り、川の水も流れを止め、ライオンでさえも猫のようにおとなしくなったと伝えられています。

 

参考)こと座 - Wikipedia

オルフェウスは美しいニンフのエウリディケと結婚し、幸せな日々を過ごしていましたが、ある日エウリディケが毒蛇に噛まれて命を落としてしまいます。愛する妻を失った悲しみに暮れたオルフェウスは、エウリディケを取り戻すために冥界へと向かいました。冥界の入り口には三つの蛇の首を持つ番犬ケルベロスが立ちはだかりましたが、オルフェウスは竪琴で美しい音楽を奏で、番人カロンとケルベロスを魅了することに成功します。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/koto.shtml

こと座の神話の詳細な解説 - 星座図鑑
オルフェウスとエウリディケの物語全体が詳しく紹介されています。

 

冥界の王プルトーンの前で竪琴を演奏したオルフェウスの音色は、冥界のすべてを感動させました。王妃ペルセフォネの説得もあり、プルトーンは一つの条件付きでエウリディケを地上に戻すことを許可します。その条件とは「地上に戻るまで決して振り返ってエウリディケの顔を見てはならない」というものでした。しかし地上の光が見えてきた時、オルフェウスは喜びのあまり思わず振り返ってしまい、エウリディケは再び冥界へと引き戻されてしまいます。二度目の願いは聞き入れられず、オルフェウスは絶望のあまり川に身を投げたとされています。

 

参考)http://www.bao.city.ibara.okayama.jp/stardb/sky/data/sky0051.html

残された竪琴は大神ゼウスによって拾われ、オルフェウスの才能と悲しい物語を偲んで夜空に上げられたのがこと座の起源だと伝えられています。この竪琴は島に流れ着いた後もひとりで美しい調べを奏でていたという伝説も残されています。

こと座ベガ|織姫星と夏の大三角の輝き

こと座のα星ベガは0.0等星という非常に明るい輝きを持つ星で、全天でも5番目に明るい恒星です。夏の夜空では天頂付近で白く輝き、すぐに見つけることができます。日本では古くから七夕の「織姫星」として親しまれており、望遠鏡で観測すると青白い美しい光を放っています。

 

参考)https://ryutao.main.jp/mythology_40.html

ベガは「夏の大三角」を構成する3つの1等星の一つです。この夏の大三角は、こと座のベガ、わし座のアルタイル(彦星)、はくちょう座のデネブの3つの明るい星を結んでできる大きな三角形を指します。夜9時頃に東の空高くを見上げると、最も明るく輝いているのがベガで、その右下にアルタイル、左下にデネブが位置しており、少し細長い三角形を形作っています。

 

参考)こと座|やさしい88星座図鑑

星座八十八夜「こと座」の詳細 - アストロアーツ
こと座の見つけ方と主要な天体について詳しく解説されています。

 

七夕伝説では、ベガ(織姫)とアルタイル(彦星)の間には天の川が流れています。この2つの星は実際には約15光年も離れていますが、夏の夜空では美しい物語を思い起こさせる配置となっています。東アジアの伝承では、ベガとアルタイルは年に一度だけ会うことを許された恋人同士とされ、中国の星座体系では、ベガまたはベガとζ星とε星の3つの星が「織女」という星官に配されていました。

 

参考)【星空マスター便り vol.25】 こと座

ベガの近くには暗い星でできた平行四辺形があり、これが竪琴の形を表しています。街中では見つけるのが困難ですが、条件の良い場所ではこの小さな平行四辺形を確認することができます。こと座は小さくまとまった星座ですが、北の空に位置しているため、時間を問わなければ一年を通して夜空のどこかで見ることができる星座でもあります。

 

参考)https://www.astroshop-tomita.com/post/%E5%A4%8F%E3%81%AE%E6%98%9F%E5%BA%A7-%E3%81%93%E3%81%A8%E5%BA%A7-1

こと座の構成する星|ダブルダブルスターとβ星γ星

こと座を構成する主要な星々には、ベガのほかにも興味深い天体が数多く存在します。特に注目されるのがこと座ε星、通称「ダブルダブルスター」です。この星は肉眼では約4.7等級の1つの星に見えますが、双眼鏡で観察すると4.6等と4.7等の2つの星に分離して見えます。

 

参考)星座八十八夜 #1 「こと座」の「織り姫」を探そう - アス…

さらに望遠鏡で100倍以上に拡大すると、それぞれの星がさらに2つずつに分かれ、合計4つの星が見えることからダブルダブルスターと呼ばれています。この4つの星はそれぞれが互いに回り合っている連星で、ε1星の公転周期は1165年(一説には1725年)、ε2星の公転周期は585年(一説には724.31年)という非常に長い周期を持っています。両者の位置角は約90度異なっているため、一方が横に並んでいればもう一方は縦に並んで見えるという特徴があります。

 

参考)こと座イプシロン星 - Wikipedia

  • こと座α星(ベガ): 0.0等星、全天5番目の明るさを誇る青白い星
  • こと座β星(シェリアク): 3.3~4.3等星の変光星、12.9日周期で変光する食変光星の代表
  • こと座γ星(スラファト): 3.3等星の安定した明るさの星
  • こと座ε星(ダブルダブルスター): 4.6等星×4つの多重星系
  • こと座δ星群: 中国の星座体系では「漸台」という星官を構成

こと座β星シェリアクは変光星として知られており、3.3等星から3.9等星に減光した後、再び3.5等星に戻ってから4.3等星まで変光するという特徴的なパターンを示します。このタイプは「こと座β型食変光星」の代表例として天文学の教科書にも登場します。

 

参考)こと座の見つけ方

こと座の星々の配置を見ると、ベガとその南東に位置する3~4等星の平行四辺形が竪琴の形を作り出しています。古代バビロニアの天文文書『ムル・アピン』では、こと座の星は「牝ヤギ」を表す星座とされ、ベガは単独で女神ランマを表すものとされていました。また中国の星座体系では、ベガを含む3星が「織女」、δ2・β・γ・ιの4星が「漸台」(池の中に作られた島)、R・η・θの3星がはくちょう座の2星とともに「輦道」(宮中の天子専用の道路)という星官に配されていました。

こと座のリング星雲M57|惑星状星雲の美しき姿

こと座にはM57という有名な惑星状星雲があり、「リング星雲」または「ドーナツ星雲」の愛称で親しまれています。この天体はこと座β星シェリアクとγ星スラファトの間に位置しており、9.7等星(一説には9.3等星)の明るさを持っています。地球からの距離は約2150光年(一説には2600光年)で、見かけの大きさは83×59秒角という小さな天体です。

 

参考)環状星雲

リング星雲M57は惑星状星雲の中で最も有名な天体の一つであり、その特徴的なリング状の姿から多くの天文ファンに愛されています。中心には白色矮星があり、太陽と同程度の質量を持つ星が寿命を迎えた姿だと考えられています。この白色矮星から放出されたガスが中心星からの光を受けて丸型蛍光灯のように輝いているのです。

望遠鏡による眼視観測では米粒のように小さく見えますが、9等星と比較的明るいため小望遠鏡でも見つけることができます。注意深く観察すれば、米粒の中に暗い穴があることを感じ取ることができるでしょう。その昔はより美しいリング状をしていて、しかも織姫星で有名な「こと座」にあったことから、織姫の指輪として親しまれていたこともあります。

 

参考)リング状星雲-M57-NGC6720はどんな天体か紹介します…

環状星雲M57の詳細な天体写真 - かがやく★ひかり
高精細な撮影画像と観測データが掲載されています。

 

M57は星雲としては明るいため、ラッキーイメージング撮影の好対象天体としても人気があります。最新のCMOSカメラを使用した撮影では、ノイズが少なく16bitの広いダイナミックレンジにより、リングの微細な構造まで捉えることが可能です。ナローバンドフィルターを使用することで、さらに詳細な星雲の構造を浮かび上がらせることもできます。

こと座と七夕伝説|東アジアの文化的つながり

こと座のベガは東アジアの文化において特別な意味を持つ星として、古くから人々に親しまれてきました。日本の七夕伝説では、ベガは織物を織る天女「織姫」として登場し、天の川を挟んだ対岸にいるわし座のアルタイル「彦星」と年に一度だけ会うことを許された恋人同士として描かれています。

 

参考)今日は旧暦の7月7日「伝統的七夕」 夜空に織り姫と彦星を探し…

旧暦の7月7日は「伝統的七夕」と呼ばれ、この日の夜空にはベガとアルタイルが天の川を挟んで輝く様子を観察することができます。両星は日が沈む頃にはすでに東の空に現れており、深夜には南の空高くに昇ります。実際の夜空を見上げると、七夕伝説の通りに天の川が2つの星の間を流れていることが確認でき、古代の人々が星空に物語を見出した理由がよく理解できます。

星の名称 星座 等級 七夕での役割 実際の距離
ベガ こと座α星 0.0等 織姫(織女) 地球から25光年​
アルタイル わし座α星 0.77等 彦星(牽牛) 地球から17光年
デネブ はくちょう座α星 1.25等 夏の大三角の頂点

地球から1400光年
参考)https://starwalk.space/ja/news/summer-triangle-asterism


中国の星座体系では、ベガを含むα・ε1・ζ1の3星が「織女」という星官を構成しており、布を織る娘を表すとされていました。この配置は紀元前500年頃に製作された天文文書にも記録されており、古代から人々が特別な意味を見出してきた証拠です。織女という名称は、ベガの青白い輝きが織物を作る娘の清らかなイメージと重なり合って名付けられたものと考えられています。

こと座は古代メソポタミアの天文学でも認識されていました。紀元前500年頃の粘土板文書『ムル・アピン』では、こと座の星は「牝ヤギ」を表す星座Mul Uzとされ、ベガは単独で女神ランマを表すとされていました。このように、世界各地の異なる文化圏でこと座とベガは特別な存在として認識され、それぞれの神話や伝説の中に組み込まれてきたのです。

現代の七夕では7月7日に祝われることが多いですが、これは新暦での日付であり、本来の七夕は旧暦7月7日(2025年は8月28日)に行われるものでした。旧暦の七夕の方が梅雨明け後となることが多く、実際に織姫と彦星を夜空に見上げる機会に恵まれやすいという特徴があります。こと座のベガと七夕の織姫という結びつきは、天文学と文化が融合した美しい例として、今も多くの人々に愛され続けています。

 

 


見える子ちゃん