食変光星アルゴルは、ペルセウス座β星として知られる代表的な食変光星で、2.867日という非常に規則正しい周期で2.12等から3.39等まで明るさが変化します。この変光の仕組みは、2つの星がお互いを隠し合う「食」という現象によって起こります。
アルゴルの連星系は、明るく重いB8型主系列星(主星A)の周りを、暗く軽いK2型準巨星(伴星B)が2.867日の周期で公転しています。伴星が主星の前を横切ると、主星の光が遮られて全体の明るさが大きく低下します。これを「主極小」と呼び、約10時間かけて減光が進行します。
参考)アルゴル - Wikipedia
一方、主星が伴星を隠す「副極小」では、わずか約0.1等しか暗くならないため、肉眼では気づきにくい変化です。このような食現象による変光は、17世紀のイタリアの天文学者モンタナリによって最初に確認され、18世紀にジョン・グッドリックが周期性を発見しました。
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アルゴルは単なる二重連星ではなく、実際には三重連星系という複雑な構造を持っています。主星Aは太陽質量の約3.39倍、伴星Bは約0.77倍の質量を持ち、これらの外側約3AU(天文単位)の軌道を、太陽質量の約1.58倍のAm星(伴星C)が1.86年の周期で公転しています。
参考)http://arxiv.org/pdf/1506.01254.pdf
この三重連星系の構造は、高解像度分光観測によって詳細に解明されてきました。主星Aはスペクトル型B8Vの青白い星で、半径は太陽の約3.7倍です。伴星Bは準巨星で、半径が太陽の約3.8倍もあり、質量に対して非常に大きく膨張しています。
参考)https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1993/pdf/19930611.pdf
さらに最新の研究では、アルゴルのO-C図(観測と計算の差を示す図)に約33年周期と約188年周期の変動が見つかっており、アルゴルCの他にもD、E、F、G、Hといった多重連星である可能性が指摘されています。これらの追加天体の公転周期は1.9年から119.4年の範囲と考えられています。
参考)アルゴルの観測・研究 href="https://www.ananscience.jp/variablestar/?page_id=107" target="_blank">https://www.ananscience.jp/variablestar/?page_id=107amp;#8211; 日本変光星研究会
食変光星アルゴルの観測は、望遠鏡を使わずに肉眼でも楽しめる天体観測の一つです。秋から冬にかけて、ペルセウス座は北東から北の空に見え、11月であれば夜8時頃には観測しやすい位置に昇ってきます。
ペルセウス座の中で最も明るい約1.7等のミルファクという星を目印にすると、その近くに約2.1等で輝くアルゴルを見つけることができます。カシオペヤ座のW字型から探すのも効率的な方法です。アルゴルの明るさの変化を観測するには、主極小予報時刻の4時間前から4時間後までの時間帯がおすすめです。
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観測方法は比較的簡単で、10~30分おきに周辺の星と明るさを比較して、目測で変化の程度を確認します。減光は予報時刻の約5時間前から始まり、極小に達した後、また5時間ほどかけて元の明るさに戻ります。この全行程は約10時間にも及びます。
参考)https://ollcp.net/space/astronomy/observations/variablestar/vstar_obs.html
アルゴルという名前は、アラビア語の「ラス・アルグル(悪魔の頭)」に由来しており、日本語に訳すと「悪魔」を意味します。この不吉な名前は、古代から明るさが変わる不気味な星として恐れられていたことに関係しています。
参考)「ペルセウス座」の見つけ方や誰かに教えたくなる星の話 - 星…
ペルセウス座の星座絵では、アルゴルは勇者ペルセウスが手に持つメドゥーサの首の額(ひたい)の部分に位置しています。ギリシャ神話のメドゥーサは、見る者すべてを石に変える恐ろしいゴルゴンの怪物で、もともとは美しい女性でしたが、女神アテナの怒りを買って蛇の髪を持つ怪物に変えられたとされています。
参考)メドゥーサの能力「石化」とそれにまつわる伝説
英雄ペルセウスはこのメドゥーサを退治し、その首を切り落としました。メドゥーサの首はその後、アテナの盾「アイギス」に据えられ、恐怖と守護の象徴となりました。アルゴルがメドゥーサの額に配置されたことで、この星は神話と結びついた特別な意味を持つようになったのです。
アルゴルは食変光星の中でも「アルゴル型変光星」という分類のプロトタイプ(典型例)となっています。アルゴル型食変光星は、連星の食現象に起因する変光星で、食以外のときは一定の光度を示し、食の出入りの位相がよく決まるという特徴があります。
この型の食変光星は、2つの星が比較的離れている連星系で、球形もしくはわずかな楕円形をしており、楕円変光や反射成分の寄与が小さいのが特徴です。周期は10時間から数十年と幅広く、食の期間以外は光度が平坦な曲線を描きます。
他の食変光星のタイプとしては、こと座β型やおおぐま座W型があります。こと座β星は12.9日の周期で3.4~4.6等の範囲を変光し、カシオペヤ座RZは食の変化速度が速く観測しやすい食変光星として知られています。食変光星の研究は、連星系の進化や質量移動のメカニズムを理解する上で重要な役割を果たしています。
参考)食変光星 - Wikipedia
倉敷科学センター「食変光星アルゴルの主極小予報」 - アルゴルの観測ガイドと主極小予報の詳細情報
アストロアーツ「秋の食変光星、アルゴルとカシオペヤ座RZを観測しよう」 - アルゴルとカシオペヤ座RZの観測方法の解説
日本変光星研究会「悪魔の星アルゴル」 - アルゴルの歴史と研究成果の詳細