ミルファクは、ペルセウス座で最も明るく輝く恒星で、バイエル符号ではペルセウス座α星と呼ばれています。視等級は約1.79等で、全天で見られる明るい星の中でも上位に位置する2等星です。この星は黄白色に輝くF型超巨星で、白色にも見えると記録されています。
ミルファクの名前はアラビア語の「プレアデスのひじ」が語源とされており、別名「アルゲニブ」とも呼ばれることがあります。この名称は、ペルセウス座が天球上でプレアデス星団(すばる)の近くに位置することに由来しています。
参考)https://www.shitennojigakuen.ed.jp/sgjh/cosmos/2016/12/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF/
ペルセウス座α星 - Wikipedia(ミルファクの詳細な天文学的データを参照できます)
ミルファクは地球から約600光年の距離に位置しており、太陽と比較すると非常に巨大な星です。この星は太陽の約8.5倍の質量を持ち、サイズは太陽の約60倍にまで膨張した超巨星です。有効温度は約6,350Kで、太陽の光度の約5,000倍もの明るさで輝いています。
参考)アルファペルセウス座 href="https://www.hisour.com/es/data/alpha_persei/" target="_blank">https://www.hisour.com/es/data/alpha_persei/amp;#8211; HiSoUR Arte…
視等級1.79という明るさは、日本全国どの地域からでも肉眼で観測可能なレベルです。明るい恒星のランキングでは、全天で35番目に明るい星として位置づけられています。この明るさと見やすさが、ミルファクを秋の星座観察における重要な目印にしています。
天体までの距離を測定する方法として、ミルファクのような明るい星では、スペクトル分類から真の明るさを推定し、見かけの明るさと比較する測光視差法が用いられます。
参考)天文部「天体の距離」をくわしく解説!
ペルセウス座は、ギリシャ神話に登場する英雄ペルセウスが星座になったとされています。ペルセウスは、怪物メドゥサを退治し、その首を使って海の怪物からアンドロメダ姫を救った勇敢な英雄です。
参考)ペルセウス座|星や月|大日本図書
物語では、ペルセウスの母ダナエを我が物にしようとした王の弟ポリュデクテスが、ペルセウスに不可能な難題として三姉妹の怪物ゴルゴンの一人メドゥサの首を持ってくるよう命じます。女神アテナから鏡の盾、神ヘルメスから翼のサンダル、ハデスから隠れ兜を授かったペルセウスは、これらの神器を駆使してメドゥサを倒すことに成功しました。
参考)ペルセウス座の神話|ウェザーニュース
帰路の途中、ペルセウスは海岸の岩に縛られていたアンドロメダ姫を発見します。母の美しさを自慢した王妃カシオペヤに怒った海の神ポセイドンが放った怪物クジラの生贄にされようとしていた姫を、ペルセウスはメドゥサの首で怪物を石化させて救出しました。この英雄譚は「怪物に立ち向かい、弱き者を助ける」という英雄物語の典型として語り継がれています。
ギリシャ神話にみる「ペルセウス座」の由来(神話の詳細な解説が読めます)
ミルファクを見つけるには、まず秋の夜空の目印となる「秋の四辺形」(ペガスス座の四辺形)を探すことから始めます。秋の四辺形は10月であれば夜9時頃に天頂からやや東寄りの空に見える、少し歪んだ四角形の星の並びです。
秋の四辺形の東側の星アルフェラッツから、東へ2列に伸びるアンドロメダ座をたどっていくと、その先に2等星ミルファクを含む複雑な星の並びが見つかります。ミルファクはペルセウス座の中心部に位置し、いくつもの3~4等星と共に輝いています。
参考)星座八十八夜 #13 流星群で人気「ペルセウス座」 - アス…
別の探し方としては、北の空に見える「W」字型のカシオペヤ座を目印にする方法があります。カシオペヤ座から南東方向の低い位置を見ると、カタカナの「ヒ」や漢字の「人」の字に似た星の並びがペルセウス座です。11月であれば夜8時頃には北東の空にミルファクが約1.7等で輝いて見えます。
ペルセウス座は秋の星座として分類されていますが、秋から冬にかけての長い期間観測できます。特に10月から12月にかけては、夜間の観測に適した高度に昇るため、じっくりと観察することができます。
参考)【11月の天体ドーム】ペルセウス座二重星団や惑星が観測好機。…
ミルファクの周辺には、双眼鏡や望遠鏡で観察できる魅力的な天体が複数存在します。最も注目すべきは、ミルファクを取り巻くように分布する「ペルセウス座α星団」(Melotte 20、またはMel 20)です。
参考)ペルセウス座アルファ星団 - Wikipedia
ペルセウス座α星団は散開星団で、地球から約172パーセク(約560光年)の距離にあります。星団のコア半径は約11.4光年、半質量半径は18光年、潮汐半径は70.6光年で、潮汐半径内には517もの構成星が識別されています。この星団は約5,000万年という若い年齢を持ち、明らかな質量分離を経ており、端に近づくにつれ構成星の平均質量が減少している特徴があります。
2等星ミルファク(ペルセウス座α星)自身も星団の主要な構成星で、F5Ibというスペクトル分類の黄色超巨星です。その他の主要構成星には、δ Per(3.01等、B5III)、ε Per(2.88等、B1V)など、多数の若く明るい青白い星が含まれています。
さらに、ペルセウス座とカシオペヤ座の境界付近には、有名な「二重星団h-χ(エイチカイ)」(NGC869とNGC884)があります。二重星団は2つの散開星団が重なるように近くに見える珍しい天体で、肉眼でもぼんやりとした姿が眺められます。両星団とも約300個の星々が密集して集まっており、双眼鏡や小型望遠鏡で観察すると、宝石をちりばめたような美しい光景が楽しめます。
参考)二重星団 - Wikipedia
二重星団の年齢は両方とも約1,400万年とされ、E(B-V)は0.52~0.55、距離指数は11.8~11.85と、ほぼ同じ性質を持つことから同一の起源を有すると考えられています。
参考)Redirecting...
星座八十八夜 #13 ペルセウス座 - アストロアーツ(観測のコツや天体写真が豊富です)
ペルセウス座は、毎年8月に活動する「ペルセウス座流星群」の放射点がある星座としても有名です。ペルセウス座流星群は、7月17日から8月24日にかけて活動し、8月12日~13日頃に極大を迎える三大流星群の一つです。
参考)ペルセウス座流星群
流星群の放射点は、ミルファクの近くに位置するアルゴルという星の周辺にあります。アルゴルは約2.1等で光る変光星で、「悪魔の星」という意味を持つ有名な星です。放射点は夕方には地平線の上にありますが、実際に流星を目にし始めるのは放射点が高くなる午後9時から午後10時頃からとなります。
ペルセウス座流星群の極大時には、空が暗い場所で1時間あたり100個程度の流星が期待できますが、月明かりや街灯の影響により実際に見える数は減少します。観察する際は、放射点の高度が時間とともに上がっていくため、明け方に近づくほど多くの流星が見られる傾向があります。
参考)https://starwalk.space/ja/news/all-you-need-to-know-about-the-perseids
流星観測の際は、広場や校庭、河川敷など視界の開けた場所を選び、月や街灯の光を直接目に入れないようにすることが重要です。また、目が屋外の暗さに慣れるまで最低でも15分ほどは観察を続けることで、より多くの流星を捉えることができます。
参考)ペルセウス座流星群2025年いつまで見える?…見やすい時間帯…
ペルセウス座流星群 | 国立天文台(流星群の詳細情報と観測ガイド)
ミルファクのスペクトル分類はF5Ibで、これは黄白色に輝くF型超巨星を示しています。恒星のスペクトル分類は表面温度と光度階級を表しており、F型は温度が約6,000K~7,500Kの範囲にある星を指します。ミルファクの有効温度は約6,350Kで、太陽(約5,800K)よりもやや高温です。
光度階級Ibは「低輝度超巨星」を意味し、ミルファクが既に主系列星の段階を終えて進化した巨大な星であることを示しています。太陽の約60倍にまで膨張したこの星は、太陽光度の約5,000倍という膨大なエネルギーを放射しています。
恒星の明るさは「等級」という尺度で表現され、1等級の差は約2.512倍の明るさの違いに相当します。5等級の差は正確に100倍の明るさの差となり、これは人間の目が対数的に明るさを感じることに基づいた尺度です。ミルファクの視等級1.79は、見かけの明るさが非常に明るいことを示しており、日本全国どこからでも観測可能です。
参考)天体の見かけの等級と絶対等級 - 物理のメモノート
一方、絶対等級は星を10パーセク(約32.6光年)の距離に置いたと仮定した場合の明るさで、星の真の明るさを比較する際に用いられます。ミルファクは約600光年という遠距離にありながら1.79等に見えるため、その絶対等級は非常に明るい値となり、本質的に大変明るい星であることがわかります。
ミルファクが属するペルセウス座は、天の川の中に位置する星座です。天の川は私たちの銀河系を内側から見た姿で、無数の星々が帯状に連なって見える領域です。ペルセウス座は天の川のほぼ中央部に位置しているため、この領域には多くの散開星団や星雲が存在します。
実はペルセウス座α星団(Mel 20)は、「Cas-Tau」と呼ばれるより大きな恒星ストリーム構造の中核部分を担っていることが、ガイア衛星の観測データから明らかになっています。Cas-Tauとペルセウス座α星団は固有運動がよく似ており、約5,000万年という年齢も一致していることから、両者は同一の起源を持つと考えられています。
この発見は、ミルファクが単独の星ではなく、銀河系の中で共に誕生し移動する星々の集団の一員であることを示しています。ペルセウス座α星団はCas-Tauに包まれるように分布しており、より大きなスケールでの星形成史を物語る貴重な天体となっています。
さらに、ペルセウス座α星団には潮汐テイル(潮汐尾)の存在の兆候が認められます。これは銀河潮汐力によって星団から星が引き剥がされている証拠で、星団が銀河系の重力場の中でどのように進化していくかを研究する上で重要な観測対象となっています。
天体観測の際にミルファクを見る時、そこには単なる明るい星以上の意味があります。約5,000万年前に同じガス雲から誕生した数百の星々が、今も共に銀河系の中を旅している壮大な物語を想像することができるのです。