ギリシャ神話におけるアポロンの誕生物語は、嫉妬と試練に満ちた劇的なエピソードです。主神ゼウスが女神レトと関係を持ったことで、正妻ヘラの激しい嫉妬を買い、レトは出産の地を求めてさまよい続けることになりました。ヘラは大地の女神ガイアに命じて、レトがいかなる土地でも出産できないよう妨害しました。
参考)【最も有名なTHE・ギリシャの神、実は外来の人】光明の神アポ…
この苦難の中、レトを受け入れたのがデロス島でした。この島で最初にアルテミスが誕生し、すぐさま母の出産を手伝ってアポロンが生まれたと伝えられています。アポロンとアルテミスが生まれた瞬間、世界は光に満ちあふれたとされ、この神話的描写はアポロンが光明神としての本質を持つことを象徴しています。
参考)《神話-5》太陽神アポロン|Aya
誕生時から全身から黄金の光を放ったというアポロンは、たくましい美男子として描かれ、ギリシャ人の理想的な青年神の象徴となりました。双子の姉アルテミスが月の女神とされるのに対し、アポロンは太陽神として対をなす存在ですが、実はアポロンは本来「光明神」であり、後に太陽神ヘリオスと統合されて「太陽神アポロン」となった経緯があります。
参考)ギリシャ神話きっての美神アポロン【世界の神々】 - ラブすぽ
アポロンの神話で最も重要なエピソードの一つが、巨大な蛇の怪物ピュトン退治です。ピュトンは大地の女神ガイアの泥から生じた大蛇で、古き時代のデルフォイの神託所を守護していました。しかしピュトンは、自分がレトの子によって殺されるという予言を受けており、妊娠中のレトを執拗に追い回したとされています。
参考)【古のデルフォイの神託所を守護したガイアの子】蛇の怪物ピュト…
生後わずか4日目のアポロンは、母レトへの仇討ちのために弓矢を手にしてパルナッソス山へと赴きました。デルフォイの聖なる洞窟で鍛冶神ヘパイストスから受け取った弓と矢を使い、アポロンは巧みにピュトンを射抜いて退治しました。この戦いの最中、デルフォイのニンフたちは「ヒー・ペーアン」と叫んでアポロンを励まし、これが後に勝利の雄叫びとして定着しました。
参考)資料用Apollo:Wikipedia英語版翻訳その3~神話…
ピュトン退治は単なる怪物との戦いではなく、混沌とした荒々しい自然の力(ピュトンが象徴)と、秩序立った天上的な力(アポロンが象徴)との衝突を意味していたと考えられています。この戦いの後、アポロンはピュトンを倒した場所に神殿を建て、そこがデルフォイの神託所となりました。こうしてアポロンは予言の神としての権威を確立し、デルフォイはギリシャ世界で最も重要な神託の中心地となったのです。
参考)太陽神アポロン徹底解説!竪琴やダフネの形見がアトリビュート
アポロンの神話の中でも特に有名なのが、ニンフのダフネとの悲恋物語です。この物語の発端は、アポロンと愛の神エロス(キューピッド)との間の諍いでした。ピュトン退治の直後、自信に満ちたアポロンが弓の技術でエロスを見下したため、怒ったエロスはアポロンに「相手に恋する金の矢」を、川遊びをしていた美しいニンフのダフネには「相手を拒む鉛の矢」を放ちました。
参考)ダプネー - Wikipedia
金の矢の効果でダフネに激しく恋したアポロンは、日がな彼女の姿を追い求め、夢の中にまでダフネの姿が現れるほどでした。一方、鉛の矢の効果を受けたダフネは、一生独身を貫くつもりでいたこともあり、アポロンを拒絶し続けて逃げ回りました。追い詰められたダフネは河の神である父ペネウス(またはラドン)に助けを求め、自分の見た目を変えてほしいと懇願しました。
参考)どの本よりわかりやすいギリシャ神話:太陽神アポロンとダフネの…
父神は娘の願いを聞き入れ、ダフネを月桂樹に変えてしまいました。アポロンが捕らえ抱き寄せた瞬間、ダフネは一瞬にして月桂樹へと姿を変えていました。三日三晩、アポロンは月桂樹の下で泣き続け、永遠の愛の証として月桂樹の枝から冠(月桂冠)を作り、永遠に身に着けることを誓いました。アポロンは月桂樹を冬でも枯れない常緑樹にし、人間たちはその枝を編んで月桂冠を作り、勝利の栄冠とするようになったのです。
参考)ギリシア神話、「アポローンとダフネの物語」に登場する月桂樹|…
デルフォイの神託所は、アポロン神が直接人々に予言を伝える場所として、古代ギリシャ世界で絶大な影響力を持っていました。この神託所の起源は、アポロンがピュトンを討伐した後、その地を征服して自らの神託所として再建したことに遡ります。デルフォイの神託は多くの政治家や戦争指導者にとって重要な指針となり、国家の政策決定にまで影響を及ぼしました。
参考)https://manapedia.jp/text/7923
神託を伝えるのは「ピュティア」と呼ばれる巫女(女性の祭司)でした。彼女はアポロン神と直接交信すると信じられており、神殿内の地下室に入り、三脚台に座って予言を行いました。予言の儀式では、ピュティアはアポロンの神聖な木である月桂樹の葉を噛みながら、トランス状態に入って普段とは違う声色で話し始めたとされています。
参考)デルフォイの神託の合意形成機能〜意味なんてなくていい!|sh…
神託を受けるためには特定の儀式が必要でした。相談者はまずカスタリアの泉で身を清め、その後カッソティスの水を飲みました。予言は通常、デルフォイの月の7日目、すなわちアポロンの誕生日とされる日に行われました。ピュティアの謎めいた言葉は隣にいる男性神官が書き留め、その意味を解釈して「韻文」の形に直されるという複雑なプロセスを経ました。このシステムにより、デルフォイの神託は多様な解釈を許容し、古代社会における重要な合意形成機能を果たしていたと考えられています。
アポロンはギリシャ神話において、音楽と医術の双方を司る多才な神として描かれています。竪琴(リラ)はアポロンの最も重要な象徴の一つであり、彼が奏でる音楽は神々や人間を魅了しました。伝説の音楽家オルフェウスに竪琴を与えたのがアポロンだとされ、音楽と詩の力で人々を感動させたオルフェウスの姿は、まさにアポロンの芸術的側面を受け継いでいます。
参考)アポロンとは? 意味や使い方 - コトバンク
医術の面では、アポロンは息子アスクレピオスを通じて医療の系譜を築きました。アスクレピオスはアポロンと人間の娘コロニスとの間に生まれた半神半人の存在で、ケンタウロスの賢者ケイロンに育てられて優れた医術を身につけました。アスクレピオスは死者すら蘇らせる技術を持ち、医神として現在も医学の象徴的存在となっています。ギリシャ神話の医神の系譜は、アポロン、その息子アスクレピオス、そして孫娘である健康の女神ヒュギエイアへと続きます。
参考)http://organfabri.med.keio.ac.jp/For%20those%20who%20challenge%20to%20master%20medicine%20(Jpn).pdf
アポロンの医療的側面を示すエピソードとして、トロイア戦争での役割も興味深いものです。アポロンは「銀の矢」をギリシャ軍の陣地に撃ち込んで疫病を蔓延させたと伝えられており、これは疫病と治癒の両面を司る神としての性格を表しています。また、アポロンは音楽の神として牧神パンとの歌競べに勝利したという話も残されており、芸術分野における圧倒的な優位性を示しています。
参考)ギリシャ神話:トロイア戦争(トロイ戦争)|Calling
アポロンの神話には多くの恋愛譚が存在しますが、その多くは悲劇的な結末を迎えています。ダフネとの悲恋が最も有名ですが、他にも印象的なエピソードがあります。美少年ヒュアキントスとの物語もその一つで、オウィディウス著『変身物語』では「アポロンは誰よりも彼を愛した」と記されるほど、アポロンに深く愛された存在でした。
参考)http://apollonize.her.jp/greekmyth/apllolovers.html
ヒュアキントスはラケダイモン(スパルタ)のアミュークラース王の子息で、他に比べようのないほど美しい少年でした。金色に輝くアポロン神は彼と出会い、限度を超えた熱烈さで愛しました。しかし、二人が円盤投げを楽しんでいた際、アポロンが投げた円盤が不運にもヒュアキントスに当たり、少年は命を落としてしまいました。悲しんだアポロンは、ヒュアキントスの血から美しい花(ヒヤシンス)を咲かせ、彼を永遠に偲びました。
参考)[西洋の古い物語]「ヒュアキントスの死」|百合子
また、テッサリアの王女コロニスとの恋も悲劇に終わりました。アポロンは白い羽を持つカラスをコロニスの見張りとして遣わしていましたが、カラスがコロニスの浮気を告げたため、怒ったアポロンは彼女を殺してしまいました。その後、彼女の胎内にいた子供(後の医神アスクレピオス)だけは救い出されました。アポロンの恋愛は、神の力を持ちながらも人間的な感情に振り回される姿を描いており、ギリシャ神話の複雑な人間性を表現しています。
参考)【死者すらも蘇らせ神に罰された最強の名医】医療の神アスクレピ…
トロイア戦争において、アポロンはトロイア側の守護神として重要な役割を果たしました。神々も両派に分かれて戦ったこの戦争で、トロイア側にはアポロン、アルテミス、アレス、アプロディテが、ギリシア側にはアテナ、ヘラ、ポセイドンが味方につきました。アポロンがトロイア側についた理由の一つは、傲慢なギリシャ軍総大将アガメムノンを嫌っていたためで、アポロンはギリシャ軍最大の敵として機能しました。
参考)https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%A2%E6%88%A6%E4%BA%89
アポロンの戦争における活躍は多岐にわたります。トロイアの王子で防衛戦の総大将であったヘクトルが、ギリシャ最強の戦士アキレウスに追い詰められた時、アポロンはヘクトルを疲れ知らずの体に変えて逃げ切れるよう助けました。しかし、アテナがヘクトルの弟デイポボスの姿に化けて加勢があるように見せかけ、ヘクトルを欺いたため、最終的にヘクトルはアキレウスに討たれてしまいました。
また、アポロンはトロイア戦争の初期にギリシャ軍に対して疫病をもたらしたという伝承もあります。「銀の矢」をギリシャ軍の陣地に撃ち込んで疫病を蔓延させ、ギリシャ軍に甚大な被害を与えました。この行為は、アポロンが疫病と治癒の両面を司る神であることを示すとともに、トロイア側への強い肩入れを表しています。双子の姉アルテミスもアポロンと同じくトロイア側につき、出征直前のアガメムノンに侮辱されたことを恨んでいました。
アポロンの神話は古代から現代まで、文化や芸術に多大な影響を与え続けています。最も象徴的な例がアメリカ航空宇宙局(NASA)の「アポロ計画」です。この計画名は「太陽の馬車に乗って大空を駆ける」アポロンのイメージから命名されましたが、実は古典上この姿は太陽神ヘリオスのものでした。しかし、時代が下るにつれてアポロンがヘリオスと同一視されるようになったため、現代ではアポロンが太陽神の代表として認識されています。
参考)ギリシャ神話のアポロン、アルテミス、ふたりの関係は?
月桂冠も現代まで受け継がれているアポロン神話の影響です。ダフネの変身した月桂樹をアポロンが神木とし、その枝で作った冠を身に着けたことから、月桂冠は勝利と栄光の象徴となりました。古代のピュティアの競技大会では優勝者に月桂冠が与えられ、この伝統は現代のオリンピックなどにも引き継がれています。
参考)アポロ——主神ゼウスの息子で秩序を重んじる光と神託の神|音楽…
医療分野でも、アポロンの影響は色濃く残っています。アポロンの息子アスクレピオスは医神として医学の象徴となり、アスクレピオスの杖(1匹の蛇が絡みついた杖)は現代でも医療関係のシンボルマークとして世界中で使用されています。ギリシャの旧10000ドラクマ紙幣にもアスクレピオスが描かれていたほど、医療の神としての地位は確固たるものです。芸術・音楽・医療・予言といった多岐にわたる分野で、アポロン神話は今なお私たちの文化の基盤となっているのです。
参考)https://www.med.or.jp/nichinews/n240105m.html
アポロン神話の詳細な解説と光明神としての役割について
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