コルキスどこにあったか|黒海東岸ジョージア古代王国神話

古代ギリシャ神話に登場するコルキスは、現在のどこにあったのか。黒海沿岸の古代王国の場所や、金羊毛伝説の舞台となった神秘的な土地について詳しく紹介します。星座とも深い関わりがあるこの地域について、あなたは知っていましたか?

コルキスどこにあったか

コルキスの場所と特徴
🗺️
現在の位置

ジョージア西部、黒海東岸に位置した古代王国

神話との関係

金羊毛伝説とアルゴナウタイの冒険の舞台

🌿
現代の遺産

世界遺産に登録された雨林・湿地群として保護

コルキスどこの地域か|ジョージア西部黒海沿岸

コルキスは、現在のジョージア(旧グルジア)西部に位置していた古代王国です。黒海の東岸、ファシス川(現在のリオン川)流域に広がっており、具体的にはサメグレロ、イメレティ、グリア、アジャリア、スヴァネティ、ラチャ、アブハジア各地方に相当します。また、現在のトルコのリゼ県やトラブゾン・アルトヴィン県の一部も含まれていました。

 

北は大カフカース山脈に接し、山脈の向こうにはサルマタイ人が住んでいました。東はイベリア王国と小カフカース山脈、南はアルメニア、南西部はポントス王国と境を接していました。西側は黒海に面し、Corax川(現在のアブハジアのBzybi川付近)から広がる豊かな土地でした。

 

主な都市としては、現在のスフミに相当するディオスクリア(ローマ帝国時代にはセバストポリスと呼ばれた)が黒海沿岸にあり、他にファシス(現ポティ)、ピテュス(現ピツンダ)、アプサロス(現ゴニオ)など、重要な港湾都市が点在していました。これらの都市は古代ギリシャとの交易拠点として繁栄しました。

 

コルキス王国歴史|紀元前13世紀古代文明

コルキス王国の起源は紀元前13世紀頃にさかのぼります。この地方に定住した部族の合併が進み、その結果として強力な王国が形成されました。歴史家によれば、現在のジョージアで最初の重要な国家がこのコルキス王国であったとされています。

 

ウラルトゥ人の記録にはクルハ(Qulha、またはKolkha、Kilkhi)という名称で登場しており、紀元前1千年紀の中頃には高度に発達した文化国家として描写されています。ファシスやコブレティのリゾート地ピチヴナリなどの都市国家が栄え、交易と文化の中心地として機能していました。

 

古代ギリシャ人にとって、コルキスは「最遠の航海」の果てに辿り着く、ギリシャ社会が知る最も東の地、日のいずる場所と考えられていました。興味深いことに、コルキスはアレクサンドロス大王の征服した土地の外側にあり、ギリシャ文化圏の辺境として神秘的な存在でした。

 

ファシスとディオスクリアはともに、少数の商人が寡頭政治を敷くギリシャ人都市として発展し、地中海世界とカフカース地方を結ぶ重要な交易拠点となっていました。紀元前1世紀頃までこの王国は存続し、その後ローマ帝国の影響下に入っていきました。

 

コルキス神話メーデイア|金羊毛アルゴナウタイ伝説

ギリシャ神話において、コルキスは英雄イアーソーン率いるアルゴナウタイの冒険の目的地として極めて重要な役割を果たしています。この地には伝説の金羊毛(黄金の羊の毛皮)が保管されており、コルキス王アイエーテースが所有していました。

 

アイエーテースは太陽神ヘーリオスの息子で、金羊毛を神アレースの聖なる杜にある樫の木に打ち付け、眠らない竜に守らせていました。イアーソーンがこの宝を求めてコルキスに到着すると、アイエーテース王は簡単に渡すつもりはなく、「火を吐く牡牛に鋤を引かせ、竜の歯を蒔き、そこから生まれる兵士を討て」という不可能に近い試練を課しました。

 

ここで登場するのが、コルキスの王女メーデイア(メディア)です。彼女は女神ヘカテーの魔法に長けたヘカテー神殿に仕える巫女でもあり、イアーソーンに一目惚れしました。メーデイアは魔法の力でイアーソーンを助け、試練を乗り越えさせ、金羊毛の獲得を成功に導きます。その後、メーデイアはイアーソーンと夫婦の契りを交わし、アルゴー船に乗ってギリシャへ向かいました。

 

この神話は古代ギリシャ人の冒険心と東方への憧れを象徴しており、コルキスは恋あり、復讐あり、魔術あり、秘宝を奪う大冒険ありの物語の舞台として、今も人々の想像力をかき立てています。

 

メーデイア(Wikipedia):コルキスの王女メーデイアの詳細な神話と生涯について

コルキス星座おひつじ座|金羊毛の由来

コルキスの金羊毛伝説は、星座のおひつじ座とも深い関わりがあります。この金羊毛の起源となった羊こそが、天に上げられておひつじ座になったとされているのです。

 

神話によれば、ボイオティア王アタマスの息子プリクソスと妹ヘレは、継母イーノーの陰謀により生贄にされそうになりました。その危機を救ったのが、黄金の毛を持つ神秘的な羊でした。この羊は兄妹を背に乗せて空高く飛び、コルキスへと逃避行を続けました。しかし、空高く上昇した際、妹ヘレは海へ落ちてしまいます(この海域はヘレスポントスと名付けられました)。

 

兄プリクソスを乗せた金毛の羊は、やがてコルキスの地へ辿り着きました。事情を聞いたコルキスの王アイエーテースは、プリクソスを温かく迎え入れ、自分の娘カルキオペーとの結婚を許しました。プリクソスは感謝の印として、命を救ってくれた金の羊をゼウス神に捧げ、その毛皮をアイエーテース王に献上しました。この羊が後に天に上げられ、おひつじ座となったのです。

 

おひつじ座は秋から初冬の20時ごろ、天頂付近に広がる「秋の四辺形」とすばるの真ん中あたりに位置します。2等星と3等星が仲良く並んでいるのが目印で、神話に登場する金の羊の姿を今も夜空に見ることができます。

 

占星術では、おひつじ座生まれの人はエネルギッシュで情熱的、強いリーダーシップを持つ一方で、スピード重視で守りが弱いという特徴があるとされています。これは神話の金の羊が、一刻も早くプリクソスをコルキスへ運ぼうとした性質を反映しているのかもしれません。

 

星座八十八夜「おひつじ座」(アストロアーツ):おひつじ座の詳しい観測情報と神話について

コルキス世界遺産雨林湿地群|現代に残る自然

古代のコルキス王国があった地域は、現代では「コルキスの雨林・湿地群」として2021年にユネスコ世界自然遺産に登録されています。ジョージア西部の黒海沿岸に約80kmにわたって広がるこの地域は、温暖湿潤な気候と高い降水量に恵まれた特異な生態系を持っています。

 

この世界遺産は、ムティララ国立公園、キントリシ国立公園、コブレティ保護区、コルケティ国立公園など7つの構成資産から成ります。コルケティ国立公園は別名「ジョージアのアマゾン」とも呼ばれ、1998年に設置されて以来、黒海東岸からパリアストミ湖流域を含む広大な保護区として機能しています。

 

非常に湿度の高い広葉樹の温帯雨林は、世界でも古い部類に入る森林で、1000万〜1500万年にわたって進化が見られる貴重な生態系です。氷河期を何回も乗り越えて存在し続けた森林として、学術的にも極めて高い価値を持っています。

 

この地域には極めて多様な動植物が生息しており、特に絶滅危惧種のコルキス・チョウザメ(コルキスチョウザメ)を含む19種の水生動物が確認されています。また、コイ、オジロワシ、ミサゴ、マミジロゲリ、カタシロワシ、カオジロオタテガモ、ユーラシアカワウソなどの貴重な野生動物の生息地となっています。

 

さらに、この地域は渡り鳥にとって最重要の中継地「バトゥミのボトルネック」を含んでおり、毎年数百万羽もの鳥類がこのルートを通過します。古代から神話の舞台として知られたコルキスの地は、現代においても自然の宝庫として世界的な注目を集めているのです。

 

世界遺産の雨林に浸るコルキス(日本ジョージア商工会議所):コルキスの雨林・湿地群への訪問情報と観光ガイド