やまねこ座は、おおぐま座とぎょしゃ座の間に位置する比較的新しい星座です。17世紀末にポーランドの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスによって考案され、1690年に妻によって刊行された著書『Prodromus Astronomiae』で初めて紹介されました。オリオン座に匹敵する広さを持ちながら、明るい星がほとんどないため、全く目立たない星座として知られています。
やまねこ座は17世紀に新しく設定された星座であるため、古代ギリシャ神話や伝説などは一切伝えられていません。古代ローマの学者クラウディオス・プトレマイオスは、2世紀頃の著書『アルマゲスト』の中で、現在のやまねこ座の領域にある星々を「星座に属さない星」として記録していました。この領域は長い間、どの星座にも属さない空白地帯だったのです。
参考)やまねこ座ってどんな星座?【神話も紹介】
ヘヴェリウスがこの星座を設定した際、当初は「山猫、または虎」という曖昧な名前で呼ばれていました。なぜ最終的に「やまねこ」を選んだのか、その理由は現在でも明確にはわかっていません。ただし、ヘヴェリウスは『Prodromus Astronomiae』の中で興味深い発言を残しています。「誰もがオオヤマネコではなくオオヤマネコのような(鋭い)目を持つ訳ではないので、ここにやまねこ座を設定したのだ」と述べており、この星座を見つけるには山猫のような鋭い目が必要だという意味が込められていたことが分かります。
やまねこ座を構成する星は全て3等星以下の暗い星ばかりで、全体的に非常に暗い星座となっています。肉眼で確認できる星は約90個存在しますが、そのほとんどが4等星以下の暗さです。
やまねこ座で最も明るい恒星は、やまねこ座α(アルファ)星で、光度は3.1等星です。この星は「エルバシャク」という固有名を持つ橙色巨星で、星座絵ではやまねこのしっぽの先端部分に位置しています。興味深いことに、やまねこ座の中でギリシャ語のアルファベットと星座名を組み合わせた名前が付けられている恒星は、このα星だけという特徴があります。
参考)やまねこ座とは?見つけ方や見どころ
天頂から北東よりに、このα星を先頭に4等星より暗い星が4~5個連なった形でやまねこ座を見つけることができます。大きく形も単純なのですが、暗い星で形作られているため、探すのが非常に困難な星座となっています。
参考)やまねこ座|やさしい88星座図鑑
やまねこ座には、望遠鏡で観測すると美しい姿を見せる二重星や三重星がいくつか存在します。特に注目すべきは、やまねこ座5番星と12番星です。
やまねこ座5番星は二重星として知られ、山猫のおでこの近くに輝いています。口径6cm前後の望遠鏡を使って観測すると、この星を2つの星に分けて見ることができます。主星はオレンジ色をしているのに対し、伴星は青白い色をしており、両者のコントラストが非常に美しいと評価されています。色の違いがはっきりとわかるため、天体観測の初心者にもおすすめの天体です。
やまねこ座12番星は、さらに興味深い三重星です。やまねこ座の頭頂部に位置するこの星は、3つの星々から構成されており、それぞれの明るさは5.4等級、6.0等級、7.3等級となっています。口径10cmを超える望遠鏡であれば、この3つの星を分離して観察することができます。実際に観測してみると、3つの星が直列に並んでいる姿を確認できる貴重な天体です。
参考)http://www5a.biglobe.ne.jp/~m-hokuto/lynx.html
やまねこ座の星座の中ほどあたりには、NGC2419という球状星団が存在します。この球状星団は、天の川銀河の中にある球状星団の中で最も遠いものとして知られており、約25万5千光年から30万光年という驚異的な距離に位置しています。
参考)やまねこ座のNGC2419とNGC2424を光害地から 夜空…
NGC2419は1788年12月31日にウィリアム・ハーシェルによって発見されました。光度は10.4等級と暗く、見かけの大きさも小さいため、観測には一定以上の口径を持つ望遠鏡が必要です。しかし望遠鏡で捉えることができれば、星々が密集した美しい姿を見ることができます。
参考)#36566: NGC2419 Nov. 2016 by P…
この球状星団の特徴は、その極端な遠さにあります。通常の球状星団が天の川銀河の周辺に分布しているのに対し、NGC2419はあまりにも遠方にあるため、かつては「銀河間放浪者」とも呼ばれていました。最近の研究では、NGC2419には赤色巨星の2つの異なる集団が存在することが明らかになっており、複雑な形成史を持つ天体であることが示唆されています。
参考)https://x.com/Astropics_bb/status/1888431285636575616
やまねこ座の南西の端に位置し、やまねこ・ふたご・ぎょしゃの3つの星座に囲まれた領域にあるため、周りには目印になる明るい星がなく、探すのには工夫が必要です。
参考)https://stellarscenes.net/object/ngc2419.html
やまねこ座は北半球の星座で、冬から春にかけて観測することができます。特に3月から4月にかけては観測しやすい時期で、3月16日に20時頃に南中します。南中高度は約79°と非常に高いため、日本からは頭上近くで観測できる好条件の星座です。
参考)やまねこ座(Lynx)/星座の基本を学ぼう② » 趣味は天体…
やまねこ座を探す最も効果的な方法は、北斗七星を目印にすることです。北極星と北斗七星を見つけた後、北斗七星の西側を注意深く観察してください。この領域がちょっと暗くなっているのが分かるはずです。その暗い空間にあるのがやまねこ座です。
参考)やまねこ座はどこにある?マイナーな星座の見つけ方と誕生秘話
おおぐま座にある北斗七星は、おおぐまの尻尾にあたる部分に位置しています。やまねこ座は、おおぐま座、しし座、ふたご座、ぎょしゃ座などに囲まれた星の少ない領域を埋めるように配置されています。星座絵では、やまねこ座の頭の上にはきりん座が位置し、足元にはふたご座とかに座が、背後にはこじし座とおおぐま座が控えています。
参考)春の星座「やまねこ座」の見つけ方を紹介します
やまねこ座を構成する星は暗いものばかりなので、観測する際には光害の少ない場所を選ぶことが重要です。また、ヘベリウスが述べたように「山猫のような鋭い目」が必要とされるほど見つけにくい星座なので、視力検査の気分で挑戦してみるのも面白いでしょう。実際、視力検査代わりに有名な天体としては、北斗七星のミザール(2等星)とアルコル(4等星)の二重星がありますが、本気で探せばやまねこ座も見つけることができます。
参考)http://www.cc9.ne.jp/~lynx/cosmic/170205.html
やまねこ座は、複数の有名な星座に囲まれた独特の位置にあります。きりん座にぎょしゃ座、ふたご座、かに座、こじし座、おおぐま座などに囲まれた「星の非常に少ないエリア」に位置しており、これらの星座の間を埋めるような形で存在しています。
この配置は、ヘヴェリウスが星座を設定する際の意図が表れています。ヘヴェリウスは、プランシウスがかつてヨルダン座を置いた領域を、やまねこ座・りょうけん座・こじし座の3星座に改めました。やまねこ座が置かれた領域は、1つの3等星を除けばどれも4等星以下の暗い星ばかりで構成されていました。
概略位置は、赤経7時50分、赤緯+45°で、概略面積は545平方度と、全天の星座の中で28位の大きさを持っています。これはオリオン座に匹敵する広さですが、明るい星がないため印象は大きく異なります。
参考)http://www.ksky.ne.jp/~tatsuo/siki/3gatu/005.htm
ちなみに、ヘヴェリウスがつくった星座のうち現存するものは、やまねこ座のほか、こぎつね座、こじし座、とかげ座、りょうけん(猟犬)座、ろくぶんぎ(六分儀)座、たて(楯)座があります。これらの星座は全て17世紀に設定された新しい星座で、古代からの神話を持たない点で共通しています。
やまねこ座の詳細な歴史と天文学的データ - Wikipedia
やまねこ座の見どころと観測ガイド - アストロアーツ