きりん座には古代ギリシャ神話や伝説が存在しません。これは、きりん座が17世紀に入ってから作られた比較的新しい星座であるためです。古代の48星座(トレミーの48星座)には含まれておらず、大航海時代以降、ヨーロッパの天文学者たちによって新設された星座の一つとなっています。
きりん座の設定には複数の天文学者が関わっています。まず1613年にオランダの天文学者ペトルス・プランシウスが天球儀にこの星座を記しました。その後、ドイツの数学者ヤコブス・バルチウスが1624年に発行した星図で世間に広め、最終的に1687年にポーランドの天文学者ヨハネス・ヘベリウスの星図で「きりん座(Camelopardalis)」として正式に設定されました。
キリンはアフリカ大陸の中南部に生息する動物であり、古代ギリシャやエジプト時代のヨーロッパ人は実物を見る機会がありませんでした。大航海時代を経て初めてヨーロッパにキリンの存在が知られるようになり、その珍しい姿が星座の題材として選ばれたのです。
きりん座は広大な面積(756.83平方度で全天18位)を持つ星座ですが、明るい星が少なく、4等星以下の暗い星々で構成されています。そのため都会の明るい夜空では全く見えず、星空の綺麗な場所での観測が必要です。
🌟 主要な構成星の一覧
きりん座の学名「Camelopardalis」はラテン語でキリンを意味しますが、興味深いことに、この名前には「ラクダ(Camel)」と「ヒョウ(Pard)」という2つの動物の名前が組み合わされています。これは、古代の人々がキリンを「ラクダとヒョウが混ざった動物」として認識していたことに由来します。
実は、きりん座のモデルとなったのは本来キリンではなくラクダだったという説が存在します。バルチウスが当初、旧約聖書に登場する美女リベカの嫁入りを手伝ったラクダの姿をもとに「らくだ座」を描いたと伝わっています。その後、星座が正式に設定される際、ヘベリウスが似たスペルを持つラクダ(Camel)とキリン(Camelopardalis)を取り違えてしまい、「きりん座」として定着してしまったというのです。
このエピソードは、星座の歴史における偶然の産物であり、現代まで続く名称の混乱を物語っています。もし正確に翻訳されていれば、私たちは今頃「らくだ座」を夜空に探していたかもしれません。
きりん座は北天に位置する周極星座であり、日本では一年中見ることができます。特に見頃は秋から冬にかけて(10月から2月頃)で、20時南中は2月10日頃となり、このときの高度は約56度です。北極星のあるこぐま座とぎょしゃ座の1等星カペラの間の領域に広がっています。
🔭 観測のポイント
きりん座は周極星座であるため地平線下に沈むことがなく、北半球の中緯度地域では常に空のどこかに存在しています。ただし、季節によって位置が変わるため、冬の夜空で最も高く昇る時期が観測に適しています。
きりん座には明るい星は少ないものの、望遠鏡や双眼鏡で観測すると興味深い天体が数多く存在します。特に深宇宙天体(ディープスカイオブジェクト)の観測に適した星座として天文ファンに知られています。
🌌 主な観測対象天体
きりん座の二重星も観測の魅力の一つです。β星の二重星は望遠鏡で分離でき、11番星と12番星の青とオレンジの色彩対比は、カラフルな宝石のような美しさを見せてくれます。