ぎょしゃ座の最も有名な神話は、アテネの第三代王エリクトニウスの物語です。鍛冶の神ヘーパイストスと美の女神アフロディーテの子として生まれた彼は、生まれつき足が不自由でした。一説には下半身が蛇の姿であったとも伝えられています。
参考)ぎょしゃ座にまつわるお話
しかし、身体的なハンディキャップを補って余りある知恵を授けられていたエリクトニウスは、知恵の女神アテーナーに育てられ、馬を飼い馴らす方法を学びました。彼の最大の功績は、4頭立ての二輪戦車を発明したことです。戦争が起こると、この戦車を巧みに操って真っ先に敵陣に突っ込み、勇敢に戦いました。その英知と武勇を称賛した大神ゼウスにより、彼は天に上げられて星座となったのです。
参考)ぎょしゃ座 - Wikipedia
興味深いことに、エリクトニウスは子ヤギを抱いた姿で描かれますが、古代ギリシャではヤギは幸運のシンボルとされていました。実際に遺跡からは、ヤギを抱いた人の姿が描かれたものが多く発掘されているそうです。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/gyosha.shtml
ぎょしゃ座には、もう一つの暗い物語が伝えられています。それは、伝令の神ヘルメスの息子である馭者ミュルティロスの悲劇です。
参考)「ぎょしゃ座」の探し方と一等星カペラ、ミルティロスとペロプス…
ピサという国の王オイノマーオスは、「娘の婿に殺される」という神託を恐れ、娘ヒッポダメイアの結婚希望者に戦車競走を挑み、敗者の首をはねるという残酷な決まりを作りました。王の戦車は軍神アレースから授かった神馬が引く無敵のもので、多くの若者が命を落としました。この戦車を操っていたのがミュルティロスです。
参考)古典作品に見る星座神話㉑ぎょしゃ座|丹取惣吉
そこへ美青年ペロプスが現れ、ミュルティロスに「味方してくれれば領土の半分を与える」と約束します。ミュルティロスはこれを承知し、王の戦車に細工をして車輪を外れやすくしました。競走中に王は転げ落ちて死にますが、その際「ペロプスに殺されてしまえ」とミュルティロスに呪いをかけます。
しかし、ペロプスは約束を破り、ミュルティロスを海に突き落として殺してしまいました。悲しんだ父ヘルメスは、息子の姿を星座として天に留めたと伝えられています。ミュルティロスもまた、海に飲み込まれながらペロプスとその一族に呪いをかけ、ペロプスの子孫は「呪われた一族」として悲惨な運命をたどることになったのです。
ぎょしゃ座の一等星カペラには、星座本体とは別の独立した神話が伝えられています。カペラはラテン語で「牝の仔やぎ」を意味し、ゼウスを育てたヤギ、アマルテイアに関係しているとされます。
参考)アストロノート:カペラの星解説
ゼウスの兄弟たちは生まれてすぐに父クロノスに飲み込まれましたが、ゼウスだけは母レアの機転で難を逃れ、クレタ島の洞窟で密かに育てられました。このとき、牝山羊アマルテイアの乳でゼウスを育てたと伝えられています。
参考)アマルテイア - Wikipedia
ある伝承によると、成長したゼウスは感謝の印として、アマルテイアの角を折って彼女に渡し、「望むものがなんでも手に入る」と約束しました。これが「コルヌー・コピアイ」すなわち豊饒の角の起源とされています。
カペラは全天で6番目に明るい一等星で、天の北極に最も近い一等星でもあります。興味深いことに、古代から嵐を示す星として重要視され、ギリシャの詩人アラートスは「嵐を呼ぶ星」「難破した人間を見つめる星」と呼んでいました。このため、ぎょしゃ座とは別に単独の神話が語り継がれてきたと考えられています。
ぎょしゃ座は冬の夜空で比較的見つけやすい星座です。最も簡単な方法は、まず一等星カペラを探すことです。オリオン座のベテルギウスとおおいぬ座のシリウスを結んで北に延ばしていくと、カペラが見つかります。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/huyu/gyoshamain.shtml
カペラを見つけたら、その周辺に五角形(野球のホームベースのような形)に並んだ星の並びを探します。この五角形は、カペラの一等星、メンカリナンなどの二等星2つ、三等星2つという明るい星で構成されているため、特徴的で見つけやすいのです。
参考)ぎょしゃ座とは?見つけ方や見どころ
ぎょしゃ座はペルセウス座の東、ふたご座の北西に位置しています。また、「冬のダイヤモンド(冬の大六角形)」と呼ばれる大きな六角形の一角をカペラが担っているため、この六角形からも探し出すことができます。冬のダイヤモンドは、カペラ、ふたご座のポルックス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウス、オリオン座のリゲル、おうし座のアルデバランで構成されています。
なお、五角形の最も南に位置する星は、実はおうし座のエルナトで、雄牛の角の先を表しています。つまり、ぎょしゃ座は隣の星座から一つ星を借りて五角形を形作っているのです。
参考)ぎょしゃ座|星や月|大日本図書
ぎょしゃ座の五角形の中を冬の天の川が流れており、この天の川の中に3つの美しい散開星団が並んでいます。北からM38、M36、M37の順に、おうし座β星とぎょしゃ座θ星を結ぶ線に直交するように一列に並んでいるのが特徴です。
参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m36-j.shtml
M36の特徴
M36は3つの中で最も小さいながら、明るい粒の星がコンパクトにまとまっています。眼の良い人なら肉眼でもその位置が分かるほど明るい星団です。7×50の双眼鏡では明るい星が十数個観察でき、10cm望遠鏡では約60個の星に分解できます。80倍程度の倍率では、中心付近にほぼ同じ明るさの二重星がいくつか見えます。
参考)https://ryutao.main.jp/dig_m36_ef200.html
M37の特徴
M37は3つの中で最も均整がとれた姿を持ち、最も大きく見える星団です。20cm望遠鏡で低倍率で観察すると、ひとつひとつの星に美しく分解できます。
M38の特徴
M38は大きく広がっていますが、やや暗めの星団です。三者三様の形態を持つこれらの星団は、双眼鏡でギリギリ同じ視野に入るため、見比べて楽しむことができます。
この一帯は冬の天の川の中にあるため、微光星が視野に散りばめられて非常に美しい眺めが楽しめます。焦点距離200mmの望遠レンズとデジタルカメラを使えば、3つの散開星団と周囲の散光星雲(IC405とIC410)を一枚の写真に収めることもできます。
星座八十八夜のぎょしゃ座解説(アストロアーツ)
※ぎょしゃ座の基本情報と見どころについて詳しく解説されています。
メシエ天体ガイドM36の詳細解説(アストロアーツ)
※散開星団M36、M37、M38の観測方法と特徴が口径別に紹介されています。