りょうけん座は17世紀後半にポーランドの天文学者ヨハネス・ヘベリウスによって設定された比較的新しい星座です。元々はおおぐま座の一部でしたが、ヘベリウスはうしかい座の牧夫が連れているとされる2頭の猟犬を独立した星座として設定しました。北側の犬はアステリオン、南側の犬はカーラと名付けられ、おおぐま座の熊を追い立てているようにも見える配置になっています。
参考)りょうけん座|やさしい88星座図鑑
新興星座であるため、ギリシャ神話のような古代の神話は伝えられていません。しかし、古い星図ではうしかい座の牧夫が猟犬の手綱を握りながら夜空を昇る様子が描かれており、熊を護るものという意味を持つアークトゥルスとともに、熊を護るかのような構図が表現されています。りょうけん座は明るい星が少なく目立ちませんが、春の星座を探す重要な目印となっています。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/haru/ryoukenmain.shtml
りょうけん座で最も明るい星はα星のコルカロリで、3等星の明るさを持っています。コルカロリは「チャールズ王の心臓」という意味を持ち、1649年に清教徒革命で処刑されたイギリス王チャールズ1世の鎮魂、あるいは1660年に王政復古を果たした息子のチャールズ2世を讃えたものとされています。伝説によれば、チャールズ2世の即位前夜にこの星が突然異常なほど明るく輝き、それを目撃した王の侍医が天文学者ハレーに伝え、ハレーがこの名前を付けたといわれています。
参考)りょうけん座とは?見つけ方や見どころ
コルカロリは実視連星としても有名で、口径6cmの望遠鏡で2つの星に分かれて見えます。主星であるα2星は回転変光星の一種である「りょうけん座α型変光星」のプロトタイプとされており、天文学的に重要な天体です。β星はカーラ(かわいい犬という意味)と呼ばれる4等星で、コルカロリと平行に並んでいます。この2つの星は北斗七星の柄の部分の南側に位置し、りょうけん座を見つける目印となっています。
参考)りょうけん座 - Wikipedia
りょうけん座アルファ星の詳細情報 - Wikipedia
コルカロリの物理的特性や変光星としての詳しい情報が掲載されています。
コルカロリは春の夜空で非常に重要な役割を果たしています。うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラの3つの1等星で形成される「春の大三角形」にコルカロリを加えると、大きな菱形の星の並びができます。この菱形は「春のダイヤモンド」と呼ばれ、春の星座を探す際の重要な道しるべとなっています。
参考)【4月の天体ドーム】りょうけん座の連星コル・カロリが魅せる春…
春の1等星はアークトゥルス、スピカ、レグルスの3つしかないため、3等星のコルカロリは目立たないものの、この幾何学的な配置によって見つけやすくなっています。北斗七星のアルカイドとしし座のデネボラの中間あたりに位置するコルカロリを繋げることで、春のダイヤモンドが完成します。コルカロリの明るさははくちょう座のアルビレオと同じ程度ですが、この星座配置における位置的重要性は非常に高いといえます。
りょうけん座は明るい恒星は少ないものの、メシエ番号のついた星雲星団が5つもあり、観測対象の非常に多い星域です。特に有名なのが子持ち銀河と呼ばれるM51で、渦巻銀河NGC5194のすぐ近くに伴銀河NGC5195を伴っていることから名付けられました。この銀河は1773年にシャルル・メシエが発見し、直径はおよそ10万光年、地球から約3700万光年離れた位置にあります。
参考)http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/KYO/TENMON/hst/01.html
口径の大きい望遠鏡で眺めると、M51の特徴的な渦巻状の姿を見ることができます。大小2つの銀河がすれ違った際に、強い引力で引っ張り合ったために現在の姿ができたと考えられており、数億年前の銀河同士の相互作用の痕跡を今も残しています。また、球状星団M3も見逃せない天体で、シャルル・メシエが彗星に似た天体をカタログにまとめる契機となった重要な天体とされています。
参考)M3 (天体) - Wikipedia
子持ち銀河の詳細 - Wikipedia
M51銀河群や伴銀河との関係性について詳しく解説されています。
りょうけん座は春の星座で、観測に最適な時期は4月から6月頃です。20時に南中するのは6月2日で、この時期には頭上高く見ることができます。北斗七星を目印にして、ひしゃくの柄の部分から天頂の方に目を向けると3等星のコルカロリが見つかります。春の大三角と北斗七星の間にぽつんと見える星がコルカロリの目印です。
参考)りょうけん座 - 春の星座 - 星空 - Yahoo!きっず…
星座を形作る星が暗い3等星と4等星の2つしかないため、見つけるのは難しいかもしれません。しかし、隣にあるうしかい座に連れられている様子を思い浮かべながら、おおぐま座の近くで猟犬が大熊を追い立てるように東から西へと動いていく姿を追うと、その存在を感じることができます。双眼鏡や小口径の望遠鏡を使えば、コルカロリの二重星の姿や、多数の銀河を観察することができ、より深く楽しむことができます。
りょうけん座にはM51やM3以外にも、M63(ひまわり銀河)、M94(渦巻銀河)、M106(渦巻銀河)といった魅力的な深宇宙天体が含まれています。M106は地球から2100万光年離れた位置にある渦巻銀河で、その中心には超巨大なブラックホールがあると考えられています。これらの銀河は小口径の望遠鏡向きの観測対象として人気があり、天文ファンにとっては宝の山のような星域です。
参考)りょうけん座の天体と位置がわかる星図や写真|天体写真ナビ
変光星も複数存在し、V星は6.5等星から8.6等星まで変化する192日周期の変光星、R星は6.5等星から12.9等星まで変化する329日周期の変光星として知られています。さらに25番星は5.0等星と7.1等星の重星で、望遠鏡での観測に適した対象です。りょうけん座は一見地味な星座に見えますが、実は天体観測において非常に豊かな内容を持つ星域であり、長時間の観測を楽しむことができる魅力的なエリアなのです。
参考)春の星座「りょうけん座」の見つけ方を紹介します
球状星団M3の観測ガイド - アストロアーツ
M3の観測方法や口径別の見え方について詳細な情報が記載されています。