とかげ座の神話と構成する星:特徴から見つけ方まで

とかげ座は暗い星ばかりで目立たない星座ですが、ジグザグに並ぶ8個の星が特徴的です。構成する星の性質や見つけ方、新しい星座ゆえの興味深い背景を知れば、秋の夜空がもっと楽しくなると思いませんか?

とかげ座の神話と構成する星

この記事でわかること
神話と由来

17世紀に誕生した新しい星座の背景と、神話を持たない理由を解説します

構成する星の特徴

α星や8番星など、とかげ座を形づくる主要な恒星の性質を詳しく紹介します

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観測のポイント

暗い星ばかりの星座を効率的に見つける方法と、注目すべき天体を紹介します

とかげ座に神話がない理由と設定者ヘベリウス

とかげ座は17世紀末にポーランド生まれの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスによって考案された新しい星座です。ヘヴェリウスの死後1690年に妻によって出版された著書『Prodromus Astronomiae』に収められた星図に記載されたのが初出であり、古代から伝わる星座ではないため、ギリシャ神話やローマ神話のような物語は存在しません。ヘヴェリウスは、カシオペヤ座とはくちょう座の間にある星座の空白地帯に、自らの観察結果からトカゲの姿を見出してこの星座を設定しました。

 

参考)とかげ座 - Wikipedia

当時、ヘヴェリウスは複数の新しい星座を設定しましたが、とかげ座はそのなかでも比較的特徴的な星の並びを持つ星座として知られています。ヘヴェリウス自身は、この星座を「いもり座」にしようとしたという説も伝わっており、両生類と爬虫類の区別が曖昧だった時代背景を反映しています。現在では「とかげ座(Lacerta)」として正式に認められており、ラテン語で「トカゲ」を意味する名称が定着しています。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/aki/tokagemain.shtml

ヘヴェリウスが設定した星座の多くは暗くて見つけにくいものばかりですが、とかげ座は8個の星がジグザグのように並んでいて、小さな「W」字に似た形をしているため、慣れれば比較的見つけやすいという特徴があります。星座の物語こそありませんが、科学的観測の時代に生まれた星座として、天文学の歴史を物語る存在といえるでしょう。

 

参考)星座八十八夜 #24 ジグザグした形がかわいい「とかげ座」 …

とかげ座を構成する主な星の特徴

とかげ座には明るい恒星がなく、4等星と5等星から形作られている暗い星座です。最も明るい星はとかげ座α(アルファ)星で、視等級3.77等ととかげ座で最も目印になる恒星として知られています。とかげ座α星は白色の主系列星で、とかげの頭や首の部分にあたる位置に輝いており、この星座を探す際の基準点となります。

 

参考)とかげ座ってどんな星座?【神話も紹介】

全体では約70個の肉眼星から構成されており、そのなかでも8個の星がジグザグと互い違いに並んでアルファベットの「W」または「M」が連なったような形を描いています。この独特な星の配列が、暗い星ばかりにもかかわらず、とかげ座を他の星座と区別する重要な特徴となっています。暗い星ばかりで構成されているため、トカゲの姿を星の並びから想像することは難しく、「星座の少ないエリアに無理やりはめ込まれた星座」とも評されることがあります。

 

参考)とかげ座とは?見つけ方や見どころ

とかげ座の面積は約200.688平方度で全天88星座中68位の大きさであり、20時正中は10月24日頃です。概略位置は赤経22時25分、赤緯+43度付近で、南中高度は約北79度と非常に高い位置に昇ります。北半球では夏の星座とされたり秋の星座とされたりしますが、一年中北の空に見ることができる周極星座に近い位置にあります。

 

参考)とかげ座|やさしい88星座図鑑

とかげ座8番星の四重星システム

とかげ座8番星は、白っぽい輝きを放つ「四重星」として天文ファンに知られる興味深い天体です。肉眼では一つの星に見えますが、望遠鏡を使うと5.7等級、6.5等級、9.3等級、10.5等級の4つの星々に分離して観測することができます。とかげ座8番星は、とかげ座の尻尾のあたりに位置しており、地球からの距離は約639光年です。

 

参考)http://etplace.justhpbs.jp/renseijuseibaier.html

口径13cm前後の望遠鏡があれば、青白く輝く複数の星々を確認することができ、アマチュア天文家にとっては観測の楽しみが多い対象となっています。四重星システムは重力的に結びついた星の集団であり、これらの星々は互いの重力の影響を受けながら複雑な軌道運動をしています。このような多重星系の観測は、恒星の形成過程や進化を理解する上で貴重なデータを提供します。

四重星の各成分の離角(見かけ上の角度距離)は、81.8秒角、48.8秒角、22.4秒角と報告されており、比較的分離しやすい配置となっています。そのため、中型の望遠鏡でも観測しやすく、星座観察の際に注目すべき天体の一つといえるでしょう。

とかげ座BL型天体という特別な存在

とかげ座には「とかげ座BL型天体(BL Lacertae object、BL Lac object)」と総称される有名な天体が存在しています。これは活動銀河核を持った活動銀河の一種で、プロトタイプ銀河であるとかげ座BLから名付けられました。この天体は当初、変光星として発見されましたが、後に銀河であることが判明し、活動銀河の研究において重要な役割を果たしています。

 

参考)とかげ座BL型天体とは - わかりやすく解説 Weblio辞…

とかげ座BL型天体は、ジェット天体の一種として分類され、銀河の中心から高速のジェットが噴出している特徴を持ちます。観測データによると、とかげ座BL型天体は常に不規則に明るさが変わり、高い偏光度を示す傾向にあることが確認されています。この特性は、同じジェット天体でもクェーサー型とは異なる挙動であり、とかげ座BL型にはクェーサー型には存在しない「常に明るい光源」がジェットに存在していることを示唆しています。

 

参考)ジェット天体を分類するための特徴抽出

広島大学の「かなた望遠鏡」などでこれらの天体を観測した研究では、とかげ座BL型とクェーサー型の違いが定量的に確認され、ジェットの構造や活動に関する新たな知見が得られています。とかげ座という暗い星座のなかに、宇宙の謎を解き明かす鍵となる天体が存在していることは、現代天文学にとって非常に意義深いことといえるでしょう。

とかげ座の見つけ方と観測のコツ

とかげ座は4等星と5等星から形づけられている暗い星座で、とかげ座だけを探し出すのはなかなか困難です。効率的に見つけるポイントは、カシオペヤ座とはくちょう座を頼りにすることで、とかげ座はこの二つの星座の真ん中あたり、天の川の中に位置しています。カシオペヤ座は特徴のある「W」字の形をしていますし、はくちょう座には1等星デネブが輝いているので、どちらの星座もすぐに分かるでしょう。

カシオペヤ座とはくちょう座を見つけたら、その真ん中を探してみると、8個の星がジグザグのように並んでいるところが見つかります。また、とかげ座はペガスス座とケフェウス座の間でもあるので、こちらの星座からも探し出すことができます。東をアンドロメダ座、北東をカシオペヤ座、北をケフェウス座、西をはくちょう座、南をペガスス座に囲まれており、北半分は天の川に掛かっています。

20時正中は10月下旬頃で、秋の宵、北の空高く横たわる淡い天の川のなかで観測できます。南中高度が約北79度と非常に高いため、北半球の中緯度地域では一年中北の空に見ることができる利点があります。暗い星ばかりですが、真っ暗なところに行くと、はくちょう座の後ろにギザギザ状に星が並んでいるのが確認でき、慣れれば特徴的な形として認識できるようになります。

 

参考)【星座夜話 55/88 とかげ座】|ほーんら

とかげ座と中国星官の関係

とかげ座の領域は、中国の伝統的な星官(星座)体系においても独自の意味を持っていました。中国星官では、とかげ座の4・α・β・9の4星が、アンドロメダ座、カシオペヤ座、ケフェウス座、はくちょう座の星とともに、「騰蛇(とうじゃ)」という星官を構成していました。騰蛇は空を飛ぶ蛇の妖怪を表す星官で、中国天文学における室宿(28宿の一つ)の一部として位置づけられています。

この事実は、西洋でヘヴェリウスがとかげ座を設定する以前から、東洋の天文学者たちがこの領域の星々に注目し、独自の意味を与えていたことを示しています。西洋では17世紀末まで星座の空白地帯だった領域が、中国では古くから神話的な生き物の一部として認識されていたという対比は、文化による星空の見方の違いを象徴する興味深い例といえます。

中国星官の騰蛇は、とかげ座だけでなく周辺の複数の星座にまたがる大きな星官であり、古代中国の宇宙観や神話世界を反映した配置となっています。このように、同じ星々でも文化圏によって異なる物語や意味が与えられてきた歴史は、天文学と文化の深い結びつきを物語っているといえるでしょう。

とかげ座の詳細な特徴と歴史について - Wikipedia
とかげ座の形や見つけ方の解説 - アストロアーツ