赤緯赤経とは?天球座標系の基本と星座観測の方法

星座観測に不可欠な赤緯赤経について、天球座標系の基本から春分点との関係、望遠鏡への導入方法まで詳しく解説します。歳差運動が座標に与える影響もご存知ですか?

赤緯赤経と天球座標系

この記事のポイント
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赤緯赤経の基本

天球上の位置を表す座標系で、地球の経度緯度に対応した概念

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望遠鏡での活用

赤道儀の目盛環を使って目的の天体を正確に導入できる

時間による変化

歳差運動により座標が年々変化するため元期の考慮が必要

赤緯赤経の定義と天球座標における役割

 

赤緯赤経は、天球上の天体位置を表す赤道座標系の基本要素です。赤緯(Declination、Dec)は天の赤道を0°として、天の北極を+90°、天の南極を-90°とする角度で表されます。一方、赤経(Right Ascension、RA)は春分点を基準として東回りに測定され、通常は0時から24時までの時間単位で表記されます。

 

参考)LECTURE

地球上の経度緯度に対応する概念として、赤緯は地球の緯度に相当し、赤経は経度に相当します。天球とは、地球を中心として無限大の半径を持つ仮想的な球面のことで、全ての天体がこの球面上に投影されているように考えます。この天球上に座標系を設定することで、任意の天体の位置を数値で正確に表現できるようになります。

 

参考)https://starwalk.space/ja/news/celestial-coordinates

赤道座標系は地球の自転を基準とした座標系であり、星図や天文カタログで広く使用されています。地球の赤道面を天球に延長したものが天の赤道となり、地球の自転軸を延長した点が天の北極と天の南極になります。この座標系により、天体の絶対位置を時間や場所に依存せずに表現できる利点があります。

 

参考)天文の基礎知識:2. 天球と座標系 - アストロアーツ

赤経の時間表記と角度変換の方法

赤経が時間単位で表される理由は、地球の自転と深く関係しています。地球は24時間で360度回転するため、1時間あたり15度の角度に対応します。したがって、赤経1時間は15度、1分は15分角、1秒は15秒角に相当します。

 

参考)赤経・赤緯を時分秒・度分秒から十進法表記に変換する(逆もあり…

赤経を時分秒から角度(十進法)に変換する計算式は次の通りです。赤経が(α時、β分、γ秒)の場合、角度は「α×15 + β×15/60 + γ×15/3600」度となります。例えば、こと座ベガの赤経18時間36分56.3秒を角度に変換すると、279.2345833度になります。

逆に角度から時分秒への変換も可能です。角度αを時分秒に変換する場合、時間は「floor(α/15)」、分は「floor((α/15 - floor(α/15))×60)」、秒は「{(α/15 - floor(α/15))×60 - floor((α/15 - floor(α/15))×60)}×60」で求められます。赤緯の場合は角度をそのまま度分秒で表記しますが、負の値を持つ場合は絶対値で計算してから符号を付けることが推奨されます。

赤経赤緯を時分秒・度分秒から十進法表記に変換する詳しい計算例

赤緯赤経と春分点の関係

春分点は赤経の基準点として極めて重要な役割を果たしています。春分点とは、太陽が天の赤道を南から北へ横切る点のことで、春分の日に太陽がこの位置に来ます。赤経はこの春分点を0時(0度)として、天の赤道に沿って東回りに測定されます。

 

参考)赤道座標系

黄道と天の赤道は地球の自転軸の傾き(約23.5度)によって交差しており、その交点が春分点と秋分点です。太陽が天の赤道を北から南へ横切る点が秋分点であり、太陽が最も北に離れる点が夏至点、最も南に離れる点が冬至点となります。

 

参考)https://www.isas.jaxa.jp/home/ebisawalab/ebisawa/TEACHING/Komaba/Komaba/node9.html

春分点の位置は固定されておらず、歳差運動により黄道上を毎年約50秒角ずつ西向きに移動しています。この現象は地球の自転軸が約26000年周期で首振り運動をすることに起因します。そのため、天の赤道や春分点も移動し、それに伴って赤経線と赤緯線も変化するため、恒星の赤緯赤経も徐々に変化していきます。

 

参考)https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2009_1.html

赤緯赤経を用いた望遠鏡への天体導入

赤道儀には赤緯環と赤経環という2つの目盛環が備わっており、これらを使って目的の天体を正確に導入できます。導入手順として、まず赤緯赤経が既知の明るい基準星を望遠鏡で捉え、その天体の座標値に目盛環を合わせます。次に目標天体の赤緯赤経値に目盛を調整することで、視野内に天体を導入できます。

 

参考)http://www.ne.jp/asahi/nakaegaw/piz/topics/tn005.html

例えば、はくちょう座デネブ(赤緯+45°16'49"、赤経20時間41分25秒)を基準星として導入した後、アルビレオ(赤緯+27°57'35"、赤経19時間30分43秒)を導入する場合を考えます。まず赤緯方向のクランプを緩めて赤緯環の基準線を+27°57'35"に合わせ、次に赤経方向のクランプを緩めて赤経環を調整すれば、望遠鏡にアルビレオが入ります。

この方法を使用する前提として、赤道儀の極軸が正確に北極星の方向に向いていることが必要です。極軸合わせが不十分だと、目盛環による導入精度が大きく低下してしまいます。また、星座早見盤に赤緯赤経の目盛が記されている場合、特定の天体の位置や南中時刻を調べることも可能です。

 

参考)https://www.astron.pref.gunma.jp/teachers/telescope_manual.pdf

赤道儀の目盛環を使った実際の天体導入方法の詳細

赤緯赤経の歳差運動による経年変化とJ2000.0元期

地球の自転軸は約26000年周期で首振り運動(歳差運動)をしており、これに伴って春分点や天の赤道が移動します。その結果、天球に固定されている恒星の赤緯赤経の値も年々変化していきます。赤緯の年変化は星の赤経に依存し、赤経の年変化は赤緯と赤経の両方に依存する複雑な関係があります。

 

参考)http://fnorio.com/0100precession1/precession1.html

この変化を補正するため、天文学では特定の時点を基準とする「元期」という概念が使われます。現在最も広く使用されているのはJ2000.0という元期で、これは2000年1月1日12時(世界時)を基準としています。天体カタログや星図に記載されている赤緯赤経は、この元期における値として表記されています。

 

参考)天体写真に役立つ赤経赤緯とJ2000.0の話 夜空の観測所

さらに章動という短期的な変動も存在し、これは月や太陽の引力によって引き起こされる数年から十数年周期の揺れです。視赤経・視赤緯は歳差と章動を考慮した見かけの位置であり、平均赤経・平均赤緯は章動を平均化した値を指します。数千年後には座標系が大きく変化しているため、観測時期に応じた元期の選択や座標変換が不可欠となります。

 

参考)恒星時について 2015年版(平成27年版)

天体写真撮影や精密な観測を行う際には、元期の違いを考慮して座標を現在の値に変換する必要があります。これにより、望遠鏡の自動導入装置で正確に天体を捉えることができます。

国立天文台による歳差・章動と地球の向きに関する詳細解説

 

 


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