秋の夜空は、一等星が一つしかなく少し寂しく感じられるかもしれませんが、その分、二等星の美しい輝きや、有名な星座の形を見つけやすい季節でもあります。 今回ご紹介する「ミラク」は、そんな秋の夜空で輝くアンドロメダ座の恒星です。 ミラクを見つけるには、まずアンドロメダ座そのものを見つける必要があります。
一番簡単な方法は、秋の星座探しの目印となる「秋の四辺形(ペガススの四辺形)」を手がかりにすることです。 秋の四辺形は、天頂近くに昇る4つの2等星が形作る大きな四角形で、非常に目立ちます。 その四辺形の一角、北東の角にある星が「アルフェラッツ」という星です。実はこのアルフェラッツは、アンドロメダ座の頭の部分にあたる星でもあるのです。
参考)アンドロメダ座の見つけ方
アルフェラッツを見つけたら、そこから北東の方向へ、同じくらいの明るさの星が2つ並んでいるのを探してみてください。 アルフェラッツから順に、「ミラク」、「アルマク」と並んでいます。 この3つの星の並びが、アンドロメダ姫の胴体から足にかけての部分にあたります。ちょうど真ん中に位置するのが、目的の星「ミラク」です。 ✨
もう一つの探し方として、北の空に一年中見ることができる「カシオペヤ座」を目印にする方法もあります。 Wの形が特徴的なカシオペヤ座は、見つけやすい星座の一つです。 そのWの形から、アンドロメダ座がある東の方向へ目を向けると、先ほど紹介したアルフェラッツからの星の並びが見つかるでしょう。
参考)Salon de Astronomy(星空を楽しむ部屋) 見…
ミラクは、有名なアンドロメダ銀河(M31)を探すための絶好の目印でもあります。 ミラクを見つけたら、そこから少し北西の方向に双眼鏡を向けてみましょう。 すると、ぼんやりとした光のシミのようなものが見えるはずです。それが、250万光年も彼方にあるアンドロメダ銀河です。 さらに、ミラクを挟んでアンドロメダ銀河と反対側には、さんかく座銀河(M33)もあります。 このように、ミラクは秋の天体観測の重要なナビゲーター役を果たしてくれるのです。
参考)星空案内 - 2021年11月の星空
より詳しい星座の探し方については、以下のサイトも参考になります。
【星座図鑑】見つけ方や誰かに教えたくなる星の話 | Hondaキャンプ
ミラクは、ただ夜空に輝いているだけの星ではありません。実は、天文学的に見て非常に興味深い特徴をいくつも持っています。その中でも特筆すべきは、「変光星」と「連星」という二つの性質を併せ持っている点です。
変光星とは、その名の通り、地球から見たときの明るさ(光度)が変化する星のことです。 変光星にはいくつかのタイプがありますが、ミラクは星自体が膨張したり収縮したりすることで明るさが変わる「脈動変光星」に分類されると考えられています。
参考)天文の基礎知識:12. 変光星 - アストロアーツ
脈動変光星の中でも有名なのは、くじら座にある「ミラ」という星で、約332日の周期で2等級から10等級までと、劇的に明るさを変えることで知られています。 ミラクの変光周期や変光範囲はミラほど大きくはありませんが、不規則に明るさを変える半規則型の変光星とされており、その繊細な変化が天文学者たちの興味を引きつけています。 星が呼吸をするかのように、膨らんだり縮んだりしながら輝きを変えている姿を想像すると、宇宙の壮大さを感じずにはいられません。
さらに、ミラクは一つの星のように見えて、実は二つの星が互いの重心の周りを回りあっている「連星」でもあります。 主星であるミラクAは、オレンジ色に輝く明るい赤色巨星です。 そして、そのすぐそばには、ミラクBと呼ばれる伴星が寄り添っています。
参考)連星・多重星・変光星についてまとめました。
しかし、この伴星ミラクBは非常に暗く、また主星のミラクAに近すぎるため、高性能な望遠鏡を使っても分離して観測するのは極めて困難です。 そのため、ミラクが連星であることは、視線速度の変化などを通して間接的に明らかにされました。
参考)ミラク・ゴースト (NGC404)
このように、ミラクは明るさを変えながら、もう一つの星と静かに舞い続ける、複雑で神秘的な天体なのです。肉眼では一つの点にしか見えない星に、これほどドラマチックな姿が隠されているとは、驚きですよね。
変光星や連星の仕組みについて、より深く知りたい方はこちらの資料が役立ちます。
ミラクが属するアンドロメダ座には、古代ギリシャから伝わる悲しくも美しい神話が秘められています。 この物語の主人公は、古代エチオピアの王女アンドロメダです。
物語は、アンドロメダの母である王妃カシオペヤが、自身の美しさを鼻にかけ、「海の精霊ネレイスたちよりも美しい」と自慢してしまったことから始まります。 これに激怒したのが、海の神ポセイドンでした。ポセイドンは罰として、巨大な海の怪物「ケートス」(くじら座のモデル)をエチオピアに送り込み、国中を大混乱に陥れたのです。
困り果てた父のケフェウス王が神託を仰ぐと、「国を救うためには、娘のアンドロメダをケートスの生け贄に捧げなければならない」という非情な答えが返ってきました。 国を救うため、アンドロメダは海岸の岩に鎖で縛り付けられ、怪物の到来を待つ身となります。アンドロメダ座の星座絵は、まさにこの時の姿を描いたものだとされています。
絶体絶命の危機に瀕したアンドロメダの前に現れたのが、英雄ペルセウスでした。 ペルセウスは、怪物メドゥーサを退治した帰りで、その首を携えていました。彼は、岩に縛られたアンドロメダの美しさに心を奪われ、彼女を救うことを決意します。 襲い来るケートスに対し、ペルセウスはメドゥーサの首を突きつけます。その首を見たものは石になってしまうため、ケートスは一瞬にして石化し、アンドロメダは無事に救出されました。
その後、二人は結ばれ、幸せに暮らしたと伝えられています。 この物語に登場する人物や怪物は、アンドロメダ座、カシオペヤ座、ケフェウス座、ペルセウス座、くじら座として、今も秋の夜空を彩っているのです。ミラクの輝きを見つめながら、この壮大な神話に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。 📜
ギリシャ神話と星座の関連について、こちらのサイトで詳しく解説されています。
ミラクは肉眼でも2.1等級の明るさで見える恒星ですが、望遠鏡を使うことで、その美しさをさらに深く味わうことができます。 ここでは、望遠鏡でミラクを観測する際の楽しみ方と、いくつかの注意点をご紹介します。
望遠鏡でミラクを捉えると、その美しいオレンジ色の輝きがより一層際立って見えます。 この色は、ミラクが赤色巨星であることを示しており、星が進化の最終段階に近づいている証拠でもあります。 大気の揺らぎが少ない、コンディションの良い夜には、その力強くもどこか儚い光に魅了されることでしょう。
参考)久々の遠征で大失態 〜 「北極星がない・・・」
先述の通り、ミラクは伴星を持つ連星ですが、伴星は非常に暗く主星に近いため、一般的なアマチュア向けの望遠鏡で分離して見ることは困難です。 しかし、がっかりする必要はありません。ミラクの周辺には、望遠鏡で楽しめる見どころがたくさんあるからです。
ミラクはアンドロメダ銀河を見つけるための良い目印になります。 まずは低倍率のファインダーや接眼レンズでミラクを視野の中心に導入し、そこから少しずつ北西の方向へ望遠鏡をずらしていくと、ぼんやりとした楕円形の光の塊が見えてきます。それがアンドロメダ銀河です。 空の暗い場所であれば、その雄大な渦巻き構造の一部も見えるかもしれません。
ミラクのすぐ近く(約7分離れた位置)には、「ミラクのゴースト」という愛称で呼ばれる銀河「NGC404」が存在します。 しかし、これは上級者向けの挑戦的な天体です。なぜなら、すぐ隣にあるミラクが非常に明るいため、その光に邪魔されて淡い銀河の姿がかき消されてしまうからです。 この現象が、まるでミラクの光が生み出したゴーストのように見えることから、この名が付きました。 観測するには、倍率を上げてミラクを視野の外に追いやり、慎重に目を凝らす必要があります。根気強く探せば、淡い光芒としてその姿を捉えることができるかもしれません。
天体観測は、月明かりのない、空気が澄んだ暗い場所で行うのが理想的です。 街中から観測する場合は、できるだけ周囲の明かりを遮断できる場所を選びましょう。また、望遠鏡を設置する際は、安定した場所にしっかりと固定することが大切です。
参考)https://www.nayoro-star.jp/kitasubaru/other/m_kitasubaru/2012/m_k_1209.pdf
ミラクの観測は、一つの星を深く見つめるだけでなく、それを道しるべとして、より広大な宇宙へと視野を広げていく楽しみを与えてくれます。今度の晴れた夜には、ぜひ望遠鏡を片手にミラクとその周辺の宇宙散歩を楽しんでみてください。
多くの星空ファンがアンドロメダ銀河に目を向ける中、その目印となる星「ミラク」のすぐそばに、もう一つの興味深い天体が隠れていることはあまり知られていません。その名は「NGC404」、通称**「ミラクのゴースト」**。 なぜこの銀河は「ゴースト」などという不思議な名前で呼ばれているのでしょうか。そして、その正体とは一体何なのでしょうか。
NGC404が「ミラクのゴースト」と呼ばれる最大の理由は、その観測の難しさにあります。 この銀河は、アンドロメダ座のβ星であるミラクからわずか7アーク分しか離れていない位置に存在します。 これは、天球上では指の幅よりもずっと近い距離です。
ミラクは2.1等級という非常に明るい恒星のため、望遠鏡で観測するとその強烈な光が視野いっぱいに広がります。 一方、NGC404は11等級と非常に暗い銀河です。 そのため、ミラクの圧倒的な輝きの中に、NGC404の淡い光が埋もれてしまい、まるで蜃気楼か幽霊のようにぼんやりとしか見えないのです。 この様子が、あたかも「ミラクの光が生み出したゴースト」のように見えることから、このユニークな愛称が付けられました。
参考)望遠鏡はベランダでも楽しい
NGC404は、地球から約1000万光年の距離にある「レンズ状銀河」です。 レンズ状銀河とは、渦巻銀河と楕円銀河の中間的な特徴を持つ銀河のことを指します。NGC404は比較的小さな銀河ですが、その中心部には太陽の数万倍から数十万倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが存在する可能性が指摘されています。
参考)超大質量ブラックホールの誕生を解明する手がかりが見つかる -…
さらに興味深いのは、この銀河の星形成の歴史です。最近の研究では、NGC404は過去に他の小さな銀河と合体した痕跡があり、その影響で数億年前に一時的に星形成が活発になったと考えられています。 現在は比較的静かな状態にありますが、中心部のブラックホールの活動や、周囲を取り巻くガスの存在など、多くの謎を秘めています。
普段は明るいミラクの陰に隠れて目立たない存在ですが、「ミラクのゴースト」は、銀河の進化やブラックホールの成長過程を解き明かすための重要な手がかりを秘めた、天文学的に価値のある研究対象なのです。 アンドロメダ座を観測する機会があれば、ぜひこの「ゴースト」探しにも挑戦してみてください。ミラクの輝きのすぐそばで、遥か彼方の銀河が放つ淡い光を捉えることができたなら、それは忘れられない体験となるでしょう。 🔭
「ミラクのゴースト」NGC404に関する専門的な解説は、以下の記事で読むことができます。
アンドロメダ座β星に隠れている「ミラクの幽霊」 その正体と名前の由来は?

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