さんかく座は3つの主要な星で構成される小さな星座ですが、その形状は非常に特徴的で見つけやすいという魅力があります。最も明るいのはβ(ベータ)星で、3等星として輝いており、さんかく座の中では一番目立つ存在です。
参考)さんかく座ってどんな星?【神話も紹介】
α(アルファ)星はさんかく座で2番目に明るい恒星で、**モサラー(Mothallah)**という固有名を持っています。この名前はアラビア語で「三角の頭」を意味する言葉に由来しており、2016年8月21日に国際天文学連合によって正式に承認されました。モサラーは黄白色の巨星を主星とする連星系で、近接連星に分類される分光連星という珍しい特徴を持っています。主星と伴星の距離はわずか0.04天文単位しかなく、1.736日という高速で公転しているため、主星の形が歪んだ楕円体となり、わずかな変光を示す楕円体状変光星となっています。
参考)さんかく座アルファ星 - Wikipedia
γ(ガンマ)星は4等星で、この3つの星が細長い二等辺三角形を形作っています。明るい星はないものの、周辺に明るい星が少ないため、比較的簡単に見つけることができます。
さんかく座には複数の神話的解釈が存在しますが、最も有名なのはギリシャ神話におけるシチリア島との関連です。豊穣の女神デメテルは農業や収穫の女神であり、彼女が愛し大切にしていた土地がシチリア島だったとされています。三角形の形がシチリア島の形に似ていることから、デメテルがこの星座を夜空に配置したと信じられました。
参考)さんかく座(Triangulum)/星座の基本を学ぼう② »…
ローマ神話では、農業の神でシチリア島の守護神ケレス(デメテルのローマ名)が、最高神ジュピターにお願いして島の形を天にあげたという伝説が伝えられています。シチリア島は三角形の形をしており、古代ギリシャ神話では重要な場所として認識されていました。
参考)さんかく座
また別の説として、「Δ(デルタ)はゼウスの頭文字であるため、この文字が目立つように明るい星のないおひつじ座の上(北側)にヘルメース(ヘルメス)が置いた」という解釈も存在します。古代ギリシャではこの星座を「デルトトン」(デルタ座)と呼んでおり、ギリシャ文字の第4字Δに似ていることに由来していました。
参考)https://mirahouse.jp/begin/constellation/Triangulum.html
さんかく座は秋に見頃を迎え、天頂付近からやや東寄りの北天に位置する星座です。小さな星座ではありますが、その特徴的な三角形の形状から意外に見つけやすいという利点があります。
参考)さんかく座
具体的な見つけ方として、まず「秋の四辺形」として知られるペガスス座を見つけることから始めます。ペガスス座からアンドロメダ座の2つの2等星β(ベータ)星とγ(ガンマ)星をたどり、γ星の南を探すと、こぢんまりとまとまった3つの星が見つかります。これがさんかく座です。
参考)そうだ、奥三河に行こう! 秋の小さな星座、こうま座とさんかく…
さんかく座の目印となる星座はアンドロメダ座とおひつじ座で、そのちょうど間に位置しています。アンドロメダ座γ星の南に、同じくらいの明るさのおひつじ座α星(2等星)を見つけて繋ぎ、その線を3等分してアンドロメダγから3分の1のところに輝く3等星がさんかく座のβ星です。
20時に南中する時期は12月17日で、南中高度は約86度と非常に高い位置に昇ります。秋の宵、天頂付近にあるため、首を真上に向けて探すのがポイントです。
参考)http://yumis.net/space/star/tri.htm
さんかく座には**M33(さんかく座銀河)**という美しい渦巻銀河が存在し、この星座の最大の見どころとなっています。M33は正式にはNGC 598というカタログ番号も持つ天体で、さんかく座α星から約5度西に位置しています。
参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m33-j.shtml
この銀河の直径は約1,500光年に及び、地球からの距離は約235万光年とされています。アンドロメダ銀河(M31)に次いで近い大型の渦巻銀河で、局所銀河群に属しています。M33の特徴は、銀河円盤部が地球に対してほぼ正面を向いているため、写真では大きく広がった2本の腕が見事に写り、非常に迫力のある姿を見せることです。
M33は満月の倍ほどの広がりを持つひじょうに立派な銀河ですが、観測条件には注意が必要です。空の透明度が良くなかったり、光害があったりする空ではまったく見えないため、M33の見え方は空の条件を判断するひとつの尺度となっています。暗い空では肉眼でも見ることができ、双眼鏡や小型望遠鏡でより詳細に観察できます。
中心部には200以上のO型星やウォルフ・ライエ星といった大質量星が存在し、大マゼラン雲のタランチュラ星雲に匹敵する局所銀河群最大級の星形成領域とされています。星生成が活発で若い星々が多く含まれる、青く輝く美しい銀河です。
さんかく座銀河M33の詳細な観測方法と天体写真はアストロアーツのメシエ天体ガイドで確認できます
さんかく座は古代から様々な文明で認識されており、それぞれの文化で独自の呼び名と解釈を持っていました。トレミーの48星座のひとつとして、紀元前の昔から知られている由緒ある古典星座です。
古代エジプトでは、さんかく座を「ナイルの家」や「ナイル川のデルタ」と呼んでいました。これはナイル川の三角州(デルタ地帯)を表したものであるという説が有力です。ナイル川が地中海に注ぐ河口部分は三角形の扇状地を形成しており、古代エジプト人にとって非常に重要な農業地帯でした。この肥沃な三角州の形が、夜空のさんかく座と結びつけられたのです。
参考)星座八十八夜 #39 名前どおりに三角の星座「さんかく座」 …
古代バビロニアでは、さんかく座を「アガル」と呼び、農業の神を表すとされていました。また中世のアラブ天文学者たちは、さんかく座を「アル・ムサラス」(三角形)と呼び、ラクダの肩甲骨を表すとしていました。アラビアではこの星座のα星とβ星を結ぶ線を「アル・ミーザーン(秤竿)」と呼んでいたという記録も残っています。
キリスト教の時代に入ると、さんかく座は「神と精霊と人間の調和」をうたった三位一体のシンボルとされたり、初代ローマ法王である使徒ペテロのかぶっていた三角形の頭巾と見られたりしました。日本でも「三角星」と呼ぶ地方があり、星の並びと星座名が一致するシンプルさが特徴でした。
古代からの星座の歴史については佐久市天文台の公式ページで詳しく解説されています
これらの古代文明での多様な解釈は、人々が夜空の星々をどのように観察し、自らの文化や生活に取り入れてきたかを示す貴重な記録となっています。さんかく座という小さな星座が、これほど多くの文明で認識され、それぞれ独自の意味を与えられていたという事実は、星座が持つ普遍的な魅力を物語っています。