脈動変光星なぜ膨張と収縮で周期光度関係が成立するのか

夜空に輝く星の中には、規則的に明るさを変える脈動変光星が存在します。これらの星はなぜ膨らんだり縮んだりするのでしょうか?その謎に周期光度関係やカッパ機構から迫ります。星が脈動するメカニズムを知りたくありませんか?

脈動変光星なぜ膨張と収縮を繰り返すのか

この記事で分かること
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脈動変光星の基本メカニズム

星が膨張と収縮を繰り返す理由と、カッパ機構による脈動発生の原理を解説

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周期光度関係の仕組み

変光周期と光度の関係性、セファイドやミラ型など代表的な脈動変光星の特徴

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宇宙観測への応用

脈動変光星を用いた距離測定法と宇宙研究における重要性

脈動変光星がカッパ機構で明るさを変える原因

 

脈動変光星が明るさを変える根本的な理由は、星の内部で働く「カッパ(κ)機構」と呼ばれる現象にあります。この機構は、恒星内部から外側に向かう放射エネルギーの流れ効率が変化することで、星の膨張と収縮という脈動を自発的に引き起こします。

 

参考)脈動変光星

カッパとはガスの不透明度(opacity)を意味し、星が収縮する際に特定の層でガスの不透明度が上昇すると、放射エネルギーが蓄積されます。蓄積されたエネルギーは次に起こる膨張を強くするため、脈動を少しずつ成長させる効果を持ちます。星全体として減衰効果よりも成長効果が優れているとき、カッパ機構による脈動が発生するのです。

 

参考)カッパ機構 - 天文学辞典

具体的には、恒星内部で高温になるにつれて重い元素の不完全電離層が現れ、不透明度と温度の関係に「コブ」が生じます。セファイドやRRライリ型脈動星では数万度の層にあるヘリウムイオン(He+)の不完全電離層で、B型星のベータセファイドでは数十万度での鉄の不完全電離層でカッパ機構が働いています。ミラ型変光星や高速振動Ap星では、水素の電離が脈動活動の原因であると見られています。

 

参考)κ機構 - Wikipedia

このように、星の内部構造と元素の電離状態が複雑に関係することで、規則的な脈動が生み出されているのです。

 

参考)ケプラー革命と星震学 2016年版(平成28年版)

脈動変光星の周期光度関係が成立する理由

脈動変光星の最も重要な特徴の一つが、変光周期と平均光度の間に成り立つ「周期光度関係」です。この関係は、恒星の内部構造の不安定性が変光の原因となっていることから説明できます。

 

参考)周期-光度関係

周期と星の平均密度の平方根との積がほぼ一定であるという理論予測が、さまざまな変光星に対して観測的にも成り立っています。これは星自身が球対称を保ったまま膨張収縮を繰り返す基本振動モードに起因しており、周期が長い星ほど明るく、短いものほど暗いという明確な関係があります。

 

参考)星までの距離はどうやって測定するの?

セファイド変光星では、変光周期が1日から50日程度で、絶対等級の比較的大きい周期的脈動星として知られています。一方、ミラ型変光星は周期が80日から1000日にもなり、変光範囲が2.5等級以上と非常に大きいのが特徴です。くじら座ο星ミラは約332日の周期で最大2.0等級から10.1等級まで変光する代表的な例です。

 

参考)天文の基礎知識:12. 変光星 - アストロアーツ

この周期光度関係を用いると、変光周期から光度(絶対等級)を求めることができるため、それと見かけの等級を比較することで変光星までの距離を算出できます。波長が長くなるにつれ関係式の周りのばらつきは小さくなり、近赤外線での観測が高精度の距離決定に有利です。

脈動変光星の種類とセファイドやミラ型の特徴

脈動変光星にはいくつかの主要なタイプがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。代表的なものとしてセファイド型、ミラ型、たて座デルタ型などが挙げられます。

セファイド変光星の特徴
ケフェウス座δ星を代表とするセファイド型は、5日8時間47分の規則正しい周期で、極大光度3.7等から極小光度4.9等まで約1等級変光します。変光範囲は0.1等級から2等級まで、周期は1日から50日程度で、極大期のスペクトル型はF型ですが極小期にはG-K型となります。セファイドは絶対等級の比較的大きい周期的脈動星で、距離測定の基準として広く利用されています。

 

参考)https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1981/pdf/19810407.pdf

ミラ型変光星の特徴
ミラ型は晩期型の巨星で、M型のスペクトルを持つものが90%以上と最も多いのが特徴です。変光範囲は2.5等級以上と非常に大きく、周期は80日から1000日にもなります。くじら座ο星ミラは約332日の周期で規則的に変光する代表例ですが、ミラ型は一般的に脈動が不規則な傾向があります。

 

参考)ミラ型変光星が脈動が不規則なのに、セファイド型変光星が、変光…

たて座デルタ型変光星の特徴
たて座デルタ型はセファイド型に似ていますが、非常に短い変光周期を持ちそのほとんどが1日以下です。スペクトル型はA~Fに限られており、セファイド型同様に周期光度関係が成立します。これらの星の自転は高速で、一般的に1日に1~2回自転しており、太陽の10数倍も自転スピードが速いため星は極方向にややつぶれた扁平な形状になります。

 

参考)脈動変光星 - Wikipedia

アストロアーツ:天文の基礎知識 変光星の詳細な分類
脈動変光星の各タイプの特徴や変光メカニズムについて、図表を用いてわかりやすく解説されています。

 

脈動変光星の動径振動と非動径振動の違い

脈動変光星の脈動には「動径振動」と「非動径振動」という2つの主要な振動モードが存在します。この違いを理解することは、脈動変光星の複雑な挙動を把握する上で重要です。

 

参考)https://tenkyo.net/kaiho/pdf/2011_03/2011-03-01.pdf

動径振動(radial oscillation)
動径振動とは、星全体がほぼ球対称形を保ったまま膨張と収縮を繰り返す振動モードです。セファイドやミラ型変光星ではこの動径振動が主に観測されており、基準振動を行うもののほか、半径方向に複数の節をもつ倍振動をしているものもあります。この振動モードでは、星の表面全体が一様に膨らんだり縮んだりするため、光度変化も規則的で予測しやすい特徴があります。

非動径振動(non-radial oscillation)
一方、非動径振動は星の表面の一部が膨張し、他の部分が収縮する振動モードです。表面の水平方向に振動が起こるため、より複雑な脈動パターンを示します。太陽型振動星、高速振動Ap星、ケフェウス座β型星などで非動径振動が検出される例が増えています。

たて座デルタ型変光星のように高速自転する星では、星が極方向にややつぶれた扁平な形状になるため脈動パターンが特に複雑になります。これらの星では動径振動と非動径振動が混在し、55もの脈動パターンが観測される例もあります。

 

参考)系外惑星を探すTESSのデータから、恒星の脈動の秘密を解き明…

近年の観測技術の進歩により、非動径振動の検出例が増加しており、星震学(asteroseismology)という新しい研究分野が発展しています。

脈動変光星を利用した銀河までの距離測定法

脈動変光星、特にセファイド変光星は、宇宙の距離を測定する上で極めて重要な役割を果たしています。この測定法は「標準光源法」とも呼ばれ、現代の宇宙論における距離スケールの基礎となっています。

 

参考)宇宙での距離測定②|島袋隼士

セファイド変光星による距離測定の原理
セファイド型変光星の変光周期を測定すると、周期光度関係から絶対等級(本当の明るさ)を知ることができます。その絶対等級と観測される見かけの等級を比較することで、その星までの距離を計算できるのです。具体的には、銀河の中にあるセファイド変光星を見つけて変光周期を測ると、周期光度関係から絶対等級が分かり、それによって銀河までの距離を精度良く求めることができます。

 

参考)国立科学博物館-宇宙の質問箱-銀河編

測定可能な距離範囲
セファイド型変光星を用いた距離測定では、数十Mpc(約数千万光年)の天体の距離まで測定されています。天の川銀河内の比較的近い位置にあるセファイド型変光星を詳しく観測し、それを基準として遠方のセファイド型変光星の「変光周期−見かけの明るさ」の関係と併せて用いることで、数十Mpc程度の天体の距離測定も可能になりました。

ハッブルの法則との関連
セファイド変光星が暗くて見つからないほど遠くにある銀河の距離は、ハッブルの法則(銀河までの距離と銀河が遠ざかる速度が比例する関係)を用いて求めることができます。この法則の比例定数(ハッブル定数)を正確に求めるためにも、セファイド変光星が重要な役割を果たしました。

近くの銀河の場合には、星の本当の明るさと色の関係に加えて、その銀河の中にある脈動変光星を使うことによって距離を推定します。こうした段階的な距離測定法により、宇宙の大規模構造の理解が深まっています。

国立天文台:星までの距離の測定方法
年周視差から脈動変光星を使った距離測定まで、段階的な測定手法が詳しく解説されています。

 

脈動変光星研究における最新観測技術の進展

脈動変光星の研究は、最新の宇宙望遠鏡や観測技術の発展によって大きく進歩しています。特にケプラー宇宙望遠鏡とTESS(トランジット系外惑星探査衛星)の貢献は目覚ましいものがあります。

TESS衛星による観測の革新
2018年に打ち上げられたTESSは、本来は太陽系外惑星を探索するための衛星ですが、その高精度な測光能力が変光星の観測にも大きく役立っています。TESSは4台のカメラで視野全体の画像を撮影し、事前に選ばれたターゲット星は2分ごとに撮影しています。この高頻度観測により、たて座デルタ型変光星のような短周期の脈動をとらえることが可能になりました。

延長ミッションでは、視野全体の画像取得の頻度が30分から10分に変更され、さらに多くの脈動変光星の詳細な脈動パターンをとらえることができると期待されています。ケプラー宇宙望遠鏡の観測により、たて座デルタ型変光星は数千個以上見つかっています。

複雑な脈動パターンの解明
最新の観測では、たて座デルタ型変光星HD 31901の55もの脈動パターンが検出されるなど、従来考えられていたよりもはるかに複雑な脈動の実態が明らかになってきています。これらの星は高速自転により極方向につぶれた扁平な形状を持ち、脈動パターンが極めて複雑になるため、詳細な解析が必要です。

TESSのデータを用いた研究により、一見ランダムに見える脈動パターンの中にも、規則性を持つものが存在することが判明しています。こうした発見は、星の内部構造や回転の影響をより深く理解するための重要な手がかりとなっています。

現代の観測技術は、従来は観測が困難だった非動径振動の検出例を増やし、星震学という新しい研究分野の発展を促しています。これにより、星の内部構造をより詳細に探ることが可能になってきました。

系外惑星探査衛星TESSによる恒星脈動研究
TESSの観測データがどのように脈動変光星の研究に活用されているか、音声化された脈動パターンの事例とともに紹介されています。

 

 


脈動変光星