けんびきょう座神話と構成する星の特徴

けんびきょう座は18世紀に設定された新しい星座で、南天の低空に位置する暗い星座です。神話は伝わっていませんが、その歴史や構成する星々にはどのような特徴があるのでしょうか?

けんびきょう座神話と構成する星

けんびきょう座の3つのポイント
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18世紀の新しい星座

フランスの天文学者ラカイユが1756年に設定した科学器具シリーズの星座で、当時の顕微鏡を形どっています

暗い星々で構成

最も明るい星でも4.7等級と暗く、γ星、ε星、α星などが主要な恒星です

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神話は伝わらない

新しい星座のため古代からの神話や伝説はありませんが、科学の発展を象徴する星座です

けんびきょう座の神話と由来の歴史

 

けんびきょう座には古代ギリシャ神話のような伝説は一切伝わっていません。この星座は18世紀半ば、1756年頃にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカーユによって設定された新しい星座で、当時の科学革命を象徴する星座の一つです。

 

参考)けんびきょう座ってどんな星座?【神話も紹介】

ラカーユは南天の観測を行った際、それまで星座が設定されていなかった領域に14個の新しい星座を設定しました。けんびきょう座はそのうちの一つで、顕微鏡、望遠鏡、炉、ポンプなど、当時の最新科学器具や美術道具をモチーフにした星座群の中に含まれています。

 

参考)星座八十八夜 #22 ラカイユの科学実験シリーズ「けんびきょ…

元々この領域はみなみのうお座の一部とされていましたが、ラカーユがその一部を切り取って新しい星座を作成したため、現在でもみなみのうお座1番星、2番星、3番星、4番星がけんびきょう座に属しています。顕微鏡は16世紀頃に発明されましたが、実用的に使われるようになったのは18世紀に入ってからで、ちょうど活躍し始めた顕微鏡をラカーユが星座の名前に採用したのです。

 

参考)https://ryutao.main.jp/mythology_33.html

ラカーユが描いた顕微鏡は現在のものとは形が随分と異なっており、当時の顕微鏡が大がかりな装置だったことがわかります。1922年5月にローマで開催された国際天文学連合(IAU)の設立総会で、けんびきょう座は現行の88星座の一つとして正式に選定され、学名は「Microscopium」、略符は「Mic」と定められました。

 

参考)けんびきょう座 - Wikipedia

けんびきょう座を構成する主な星の特徴

けんびきょう座は5等星以下の暗い星々から構成されており、肉眼で探し出すことが非常に困難な星座です。最も明るい星でも4.7等級と暗く、星の固有名はなく寂しい星座となっています。

けんびきょう座で最も明るい恒星は**γ星(ガンマ星)ε星(イプシロン星)**で、どちらも4.7等級(正確にはγ星が4.67等級、ε星が4.71等級)です。γ星は黄色い巨星で、けんびきょう座では最も明るく見える星として知られています。一方、ε星は青白色の主系列星で、フラムスティード番号では「みなみのうお座4番星(4 PsA)」とも呼ばれます。

 

参考)けんびきょう座

**α星(アルファ星)**は見かけの明るさが4.89等級(約4.9等級)の5等星で、黄色い巨星です。α星には10等星の伴星があることも確認されています。

 

参考)https://ameblo.jp/proton-child-tycho/entry-12677017755.html

**θ星(セータ星)**は4.80等級の二重星で、けんびきょう座の中では比較的明るい部類に入ります。

 

参考)けんびきょう座とは (ケンビキョウザとは) [単語記事] -…

その他、けんびきょう座の領域内には約40個の肉眼で見える星が存在しますが、いずれも暗い星ばかりで、星座絵の姿をイメージすることは非常に難しいとされています。2022年4月現在、国際天文学連合(IAU)が認証した固有名を持つ恒星は一つもありません

 

参考)けんびきょう座|やさしい88星座図鑑

けんびきょう座の位置と見つけ方のコツ

けんびきょう座は南天の星座のひとつで、秋頃を見頃としています。日本では北海道南部以南でほぼ全体を見ることができますが、南の空の低いところに位置するため、見える期間や時間はあまり長くありません。

具体的な観測時期としては、9月30日頃に20時に南中(真南の空で最も高い位置にくる)し、南中高度は約18度と非常に低いです。大まかな位置は、みずがめ座の南下、やぎ座の下に位置しています。

 

参考)秋の星座けんびきょう座の見つけ方

けんびきょう座の探し方は、やぎ座を頼りに探し出すと見つけやすいとされています。やぎ座の逆三角形の南よりの頂点にあるω(オメガ)星と、インディアン座α(アルファ)星との間がけんびきょう座のおおよその位置です。やぎ座が真南の空に輝く頃、その下に輝いているのがけんびきょう座です。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/aki/kenbikyoumain.shtml

ただし、領域が狭く明るい星もないことから非常に目立たない星座で、目につくほどの明るい星が1つもないため、星座の姿をイメージするのは困難です。概略位置は赤経20h50m、赤緯-37度、概略面積は約210平方度で、全天88星座の中で66位の広さです。

どんな星座案内書にも「低い上に見るべき天体もない」「顕微鏡を想像するのは難しい」「暗い星ばかり」などと書かれ、目印になる星列も乏しい星座として認知されています。

けんびきょう座に存在する天体と銀河

けんびきょう座には双眼鏡や天体望遠鏡で楽しめる目立った天体は少ないものの、いくつかの興味深い天体が存在しています。

まず銀河としては、NGC 6925という渦巻銀河が知られています。NGC 6925は光度11.3等、視直径4.1分の銀河で、赤経20h34m18.0s、赤緯-31°59'00"の位置にあります。南の空の低いところにあるため撮影は困難ですが、何とか撮影可能な天体の一つです。

 

参考)けんびきょう座の天体と位置がわかる星図や写真|天体写真ナビ

また、NGC 6923という渦巻銀河も存在します。その他、NGC 6957、IC5105といった銀河も領域内にあり、多数の銀河が散在していますが、いずれも観望には不向きな天体とされています。

NGC6958という楕円形をした銀河もありますが、こちらも観望には不向きです。

恒星としては、**AU星(けんびきょう座AU星)**が特に注目されています。AU星はりゅう座BY型変光星で、太陽から約31.7光年の距離にある小さな赤色矮星です。視等級は8.73等で肉眼では見ることができませんが、周囲にデブリ円盤と太陽系外惑星が発見されており、2020年には系外惑星「けんびきょう座AU b」がトランジット法で発見されました。

 

参考)蒸発する惑星が引き起こす「しゃっくり」 - アストロアーツ

この惑星は主星からわずか960万kmの距離を8.46日周期で公転しており、半径は地球の約4倍というガス惑星です。ハッブル宇宙望遠鏡の観測により、惑星の大気が蒸発して流出する様子が捉えられ、「しゃっくり」のように間欠的にガスが流出する現象が確認されました。

また、AX星は太陽系から約13光年の距離にある赤色矮星で、閃光星に分類される爆発変光星です。

けんびきょう座とラカイユの科学器具シリーズ

けんびきょう座は、ニコラ・ルイ・ド・ラカーユが設定した南天の14星座の中でも特に科学器具をテーマにしたシリーズの代表的な星座です。ラカーユは1751-1752年に南アフリカのケープタウンで天体観測を行い、それまで星座がなかった南天の領域に新しい星座を次々と設定しました。

 

参考)ニコラ=ルイ・ド・ラカーユ - Wikipedia

ラカーユが設定した14星座には、科学実験器具や美術の道具をモチーフにしたものが多く含まれています。けんびきょう座と同様の科学器具シリーズには、ぼうえんきょう座(望遠鏡)、ろ座(炉)、ポンプ座はちぶんぎ座(八分儀)、コンパス座じょうぎ座(定規)などがあります。

 

参考)ラカーユの星座|さわさわ☆星空コミュニケーター|Clubho…

美術関連の星座としては、がか座(画架・イーゼル)、ちょうこくぐ座(彫刻具)、ちょうこくしつ座(彫刻室)などが設定されています。その他、テーブルさん座(テーブル山)、とけい座(時計)、レチクル座(レチクル・照準器)、らしんばん座(羅針盤)、インディアン座なども含まれます。

これらの星座の多くは、日本からは観望しづらく、地域によっては全く見えないものもありますが、18世紀の科学革命と啓蒙時代の精神を反映した貴重な天文学的遺産となっています。ラカーユは1756年に刊行された『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載された星図の中で、フランス語で「le Microscope」という名称を初めて描き、のちの1763年に刊行した著書『Coelum australe stelliferum』でラテン語化された「Microscopium」と呼称を変更しました。

当時の科学器具は文明の利器として華々しいイメージを持っていましたが、現実のけんびきょう座は「低い上に見るべき天体もない」星座として、そのイメージとは裏腹な存在となっています。しかし、その控えめな姿こそが、科学の地道な探求精神を象徴しているとも言えるでしょう。

蒸発する惑星が引き起こす「しゃっくり」 - アストロアーツ
けんびきょう座AU星の系外惑星に関する最新の観測結果と、若い赤色矮星を回る惑星の大気流出現象について詳しく解説されています。

 

星座八十八夜 #22 ラカイユの科学実験シリーズ「けんびきょう座」 - アストロアーツ
けんびきょう座の見どころや探し方、ラカイユが設定した科学器具シリーズの星座について詳しく紹介されています。

 

 


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