インディアン座は、16世紀末の大航海時代に誕生した比較的新しい星座です。1595年から1597年にかけて、オランダの航海士ペーテル・ケイセルとフレデリック・デ・ハウトマンが東インド諸島への航海中に天体観測を行いました。彼らの観測記録を基に、オランダの天文学者ペトルス・プランシウスが1597年に製作した地球儀に初めてこの星座を記しました。
参考)インディアン座ってどんな星座?【神話も紹介】
その後、1603年にドイツの天文学者ヨハン・バイエルが星図「ウラノメトリア」にこの星座を掲載したことで、世界中に広く知られるようになりました。ケイセルたちがマダガスカルからスマトラ、ジャワにかけて航海した際に接したアフリカ南部、マダガスカル、東インド諸島の原住民をモデルにしたと考えられています。星座絵では、羽飾りの付いた帽子をかぶり、手に矢を持ったインディアンの姿で描かれています。
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日本では、かつてインド人座(印度人座)、インデアン座、インデヤン座などと呼ばれた時代もありましたが、現在は統一してインディアン座と呼ばれています。新しい星座であるため、ギリシャ神話や古代の伝承は存在しない珍しい星座です。
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インディアン座の詳細な由来と歴史については、Wikipedia日本語版に詳しく記載されています
インディアン座を構成する星々は全体的に暗く、肉眼で見える星は約40個程度です。最も明るい恒星はインディアン座α星(アルファ星)で、3.1等星の明るさを持ちます。この星には「ペルシアン(Persian)」という固有名が知られていますが、国際天文学連合による正式な承認はまだありません。
参考)インディアン座アルファ星 - Wikipedia
ペルシアンという名前の由来は興味深いもので、17世紀にイエズス会の宣教師が作成した星図において、インディアン座の領域が「波斯(ペルシャ)」とされていたことに由来します。明末期の崇禎帝の時代(1631-1635年)に編纂された天文書『崇禎暦書』でも、この領域に「波斯」という星官が置かれていました。
参考)インディアン座アルファ星とは - わかりやすく解説 Webl…
インディアン座α星は橙色巨星で、物理的には既にヘリウム燃焼過程の段階にあり、中心部ではトリプルアルファ反応によってヘリウムから炭素や酸素が生成されていると考えられています。また、12等星と14等星の赤色矮星と思われる伴星と連星系を形成しているという特徴もあります。
その他の星々としては、4等星が3個、5等星が6個、6等星が33個存在していますが、いずれも暗い星ばかりです。星座全体の構成は、漢字の「人」の字のような特徴的なラインを描いており、この配置がインディアン座を見つける際の手がかりになります。
参考)インディアン座とは?見つけ方や見どころ
| 星の等級 | 個数 | 備考 |
|---|---|---|
| 3等星 | 1個 | α星ペルシアンのみ |
| 4等星 | 3個 |
比較的暗い |
| 5等星 | 6個 | 肉眼での観測は困難 |
| 6等星 | 33個 | 望遠鏡が必要 |
インディアン座は南天の星座で、日本の本州からはほとんど見ることができません。しかし、沖縄や奄美大島などの南方では全体の姿を観測することが可能です。インディアン座は、クジャク座とツル座の間に位置しており、大まかには「みずがめ座」の南下に存在しています。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology_05.html
具体的な探し方としては、まず秋の唯一の1等星である「みなみのうお座」のフォーマルハウトを目印にします。フォーマルハウトから更に南に下がると、つる座にある2つの2等星が並んでいます。このつる座のβ星を中心として十字を描くようにたどっていくと、γ星を見つけることができます。
参考)南半球の星座「インディアン座」を紹介します。
インディアン座の星々は「人」の字のような、または鳥の足のような形に並んでいます。3等星以下の暗い星からできているため、星座図などを参考にしながら星をたどるようにして探すことが推奨されます。観測に適した時期は10月から11月ごろで、特に沖縄では南の低空に10個ほどの星が楕円形を描いているのを確認できます。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/minami/indian.shtml
南半球のオーストラリアなどまで出かけると、天高くで輝く姿を見ることができ、より観測しやすくなります。南緯60度以下の地域では周極星座となる可能性もあり、一晩中地平線の上に見える場合もあります。
参考)https://starwalk.space/ja/news/circumpolar-constellations
南半球におけるインディアン座の詳しい観測方法については、こちらのサイトで図解入りで解説されています
インディアン座には、目立つ星は少ないものの、興味深い天体がいくつか存在します。最も注目されるのは、NGC7090という系外銀河です。この銀河は明るさが11等級ほどで、紡錘状の形をした美しい渦巻銀河として知られています。
NGC7090は南半球の天体写真愛好家の間で人気のある撮影対象となっており、オーストラリアの天文フォーラムなどでは頻繁に撮影画像が公開されています。オーストラリアなどの南半球に天体観測に訪れた際には、ぜひ撮影してみたい対象の一つとされています。
また、インディアン座のθ星(シータ星)は、4.5等級と7.1等級の星から構成される二重星として知られています。二重星は、天体望遠鏡で観測すると2つの星が分離して見える美しい天体であり、アマチュア天文家に人気があります。
その他にも、NGC7083やNGC7192といった天体が存在しており、これらも天体写真撮影の対象として注目されています。インディアン座は決して華やかな星座ではありませんが、これらのディープスカイオブジェクトを観測・撮影する楽しみがあります。
参考)My_EMS_Binoscope-3_Springhills…
インディアン座の領域は、東洋天文学においても興味深い歴史を持っています。17世紀の中国明末期、崇禎帝の時代(1631-1635年)に、イエズス会士のアダム・シャール(湯若望)が徐光啓らとともに編纂した天文書『崇禎暦書』において、現在のインディアン座とぼうえんきょう座の領域に「波斯(ペルシャ)」という星官が設けられました。
この「波斯」という名称は、ペルシャ地方を指す言葉で、西方の文化や知識を象徴するものでした。イエズス会の宣教師たちは、ヨーロッパの天文学知識を中国に伝える際に、この領域をペルシャと関連付けたと考えられます。これが後に、インディアン座α星の固有名「ペルシアン」の由来となっています。
東洋と西洋の天文学が交わるこの時代背景は、文化交流の歴史としても重要です。『崇禎暦書』は、中国の伝統的な天文学に西洋の観測技術や理論を組み込んだ画期的な書物であり、後の清朝の暦法にも影響を与えました。インディアン座の領域が「波斯」と呼ばれたことは、この文化交流の一例として、天文学史上興味深い事実といえます。
このように、インディアン座は単なる星座の名称だけでなく、東西文化交流の歴史を物語る貴重な記録でもあります。現代でも、この歴史的背景を知ることで、星座観測により深い意味を見出すことができるでしょう。