みなみのうお座の神話と構成する星、フォーマルハウトの輝き

秋の夜空にひときわ輝く一等星フォーマルハウトを持つみなみのうお座。古代バビロニアから伝わる歴史とギリシャ・シリア神話、そして星座を構成する美しい星々の秘密を知っていますか?

みなみのうお座の神話と構成する星

みなみのうお座の魅力
秋の夜空の唯一の一等星

フォーマルハウトが白く輝き、寂しげな秋の南天を彩ります

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古代から伝わる神話

ギリシャ神話とシリアの伝説が交錯する神秘的な星座

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紀元前3200年から知られる歴史

プトレマイオスの48星座として受け継がれてきました

みなみのうお座の神話、女神の変身と魚の姿

 

みなみのうお座にまつわる神話は複数の伝承が存在しています。最も有名なギリシャ神話では、オリンポスの神々がナイル川のほとりで宴会を楽しんでいた際、突然怪物テュフォン(ティフォン)が襲撃してきました。驚いた神々は様々な姿に変身して逃げましたが、このとき愛と美の女神アフロディーテ、または太陽の神アポロンが魚に変身した姿がみなみのうお座になったと伝えられています。

 

参考)みなみのうお座|やさしい88星座図鑑

一方で、シリア神話には別の興味深い伝説があります。シリアの女神デルケトー(別名アタルガティス)は豊穣を司る地母神でしたが、人間の美青年との禁断の恋に落ちてしまいました。アフロディーテの怒りを買って呪いを受けたとも伝えられるこの恋は悲劇的な結末を迎えます。デルケトーは女の子を産みますが、罪と恥の意識に苛まれて湖に身を投げてしまい、その体は魚へと変わったとされています。この女神を助けた魚、あるいは魚に変身した女神自身がみなみのうお座のモデルになったという説もあります。

 

参考)みなみのうお座

エラトステネースやヒュギーヌスといった古代の学者たちは、みなみのうお座には12個の星があると記録していました。また、みなみのうお座はうお座の2匹の魚の親魚だという解釈もあり、みずがめ座から流れ落ちる水を飲む魚として描かれることから、複数の神話が重層的に結びついた星座であることがわかります。

 

参考)みなみのうお座 - Wikipedia

みなみのうお座を構成する星、フォーマルハウトを中心に

みなみのうお座の最大の特徴は、全天21個の一等星の一つであるα星フォーマルハウトです。秋の夜空で唯一の一等星として白っぽく輝くこの星は、見かけの明るさが1.16等級で、アラビア語で「魚の口」という意味を持っています。星座絵では文字通り魚の口の位置に描かれており、名前と位置がぴったり一致しています。

 

参考)https://ryutao.main.jp/mythology_59.html

フォーマルハウトは太陽系から約25光年の距離にある連星系で、主星のA星はスペクトル型A4VのA型主系列星です。B星は見かけの明るさ6.48等のK型星で、りゅう座BY型変光星に分類されており、10.3日の周期で6.44等から6.51等まで0.07等の振幅で変光しています。さらに、C星は見かけの明るさ12.624等、スペクトル型M4Vの赤色矮星で、2013年にこの星系の一員であることが確認されました。

フォーマルハウト以外の星は全て4等星以下で非常に暗く、目立つ星雲や星団もありません。フォーマルハウトから西の方へ暗い星々がいびつな楕円形に連なっており、これが魚の体を表していますが、暗いためにはっきりとは見えないのが実情です。肉眼で確認できる星は約50個程度とされています。

 

参考)みなみのうお座ってどんな星座?【神話も紹介】

興味深いことに、みなみのうお座ε星の北西1.4度付近にはNGC7314という比較的明るい銀河が位置しており、Vバンド(可視光)で10.9等の明るさを持つ複雑な構造を見せています。

 

参考)#124129: NGC7314 (みなみのうお座の銀河) …

みなみのうお座の見つけ方、秋の四辺形を目印に

みなみのうお座を見つけるには、秋の代表的な星座の目印である「秋の四辺形ペガススの大四辺形)」を利用するのが最も簡単です。この四辺形の西側の辺をそのまま南へ延ばしていくと、南の空低くに明るい星が一つ見つかります。これがフォーマルハウトです。

 

参考)みなみのうお座とは?見つけ方や見どころ

秋の南の空には明るい星がほとんどなく、この辺りではみなみのうお座のフォーマルハウトだけが白く輝いているため、比較的見つけやすい星座といえます。ただし、日本からは南中高度が約24度と低い位置にあるため、南の方角が開けた場所での観測が適しています。10月17日頃に20時に南中します。

 

参考)星座八十八夜 #29 秋の南空の目印「みなみのうお座」 - …

フォーマルハウトが見つかったら、そこから西の方向へ目を向けると、暗い星々が楕円形に並んでいるのが魚の体の部分です。みなみのうお座は隣接するみずがめ座の水瓶から流れ落ちる水を口で受け止めている姿で描かれているため、みずがめ座と一緒に探すとイメージしやすいでしょう。

 

参考)みなみのうおざ【〈南の魚〉座】

フォーマルハウトは惑星と間違えられることもありますが、星は瞬きますが惑星は瞬かないという違いで見分けることができます。また、全天21個の一等星の中では決して明るい方ではありませんが、秋の南の空では他に明るい星がないためよく目立ち、どことなく寂しげな雰囲気を漂わせています。

 

参考)みなみのうお座の探し方|星座を見つけよう

みなみのうお座の歴史、古代バビロニアからの起源

みなみのうお座は紀元前3200年頃にはすでに知られていた非常に古い星座で、古代バビロニアに起源を持つと考えられています。古代バビロニアでは、現在のみずがめ座の原型となった「偉大なるもの」を意味する名を持つ「グラ(Gula)」が抱えた壺から流れる水に繋がる形で魚が描かれており、これがみなみのうお座の原型とされています。

 

参考)みなみのうお座とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

紀元2世紀にクラウディオス・プトレマイオスがまとめた「トレミーの48星座」の一つとして正式に記録され、エラトステネース、ヒュギーヌス、ヒッパルコスといった古代の学者たちも記述を残しています。これらの学者たちは、みなみのうお座には12個の星があると一致して述べており、古代から詳細に観測されていたことがわかります。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/aki/minaminouomain.shtml

興味深いエピソードとして、1928年に88の星座が国際天文学連合によって正式に決められた際、みなみのうお座は尾の部分の星を近くのつる座に取られてしまい、現在の姿になりました。そのため、つる座のγ星(ガンマ星)には、アラビア語で「尾」という意味の「アルダナブ」という固有名が付いています。これは星座の境界線が変更された歴史的な証拠の一つといえるでしょう。

 

参考)そうだ奥三河へ行こう!秋の星座みなみのうお座のお話

みなみのうお座フォーマルハウト周辺の天文学的発見

フォーマルハウトは単なる美しい一等星というだけでなく、現代天文学における重要な研究対象となっています。この星は「ロイヤルスター」の一つとして知られ、古代ペルシャの占星術では4つの王の星の一つに数えられてきました。神秘主義、理想主義、カリスマ性、芸術性といった象徴的な意味を持つとされています。

 

参考)みなみのうお座:フォーマルハウト|さくらい

2008年には、ハッブル宇宙望遠鏡の観測により「フォーマルハウトb」という系外惑星が直接撮影されたと発表され、大きな話題となりました。しかし、その後の詳細な分析により、2020年にアリゾナ大学のAndrás Gáspár氏とGeorge Rieke氏が、これは惑星ではなく2つの小さな天体が衝突した結果生じた塵の雲であった可能性が高いとする研究結果を発表しました。赤外線による観測では天体が確認されず、フォーマルハウトを取り囲む塵の環を乱すような影響も与えていなかったことから、惑星ではないと結論づけられたのです。

 

参考)系外惑星「フォーマルハウトb」は存在しておらず、塵の雲だった…

それでもフォーマルハウトは約25光年という比較的近い距離にあり、塵の円盤を持つことが確認されているため、今後も惑星系の研究において重要な観測対象であり続けるでしょう。この星の周辺では、まだ発見されていない天体や現象が隠されている可能性があり、天文学者たちの注目を集め続けています。

みなみのうお座の詳細な星表とデータについては、Wikipediaの解説が参考になります
フォーマルハウトの特徴や双眼鏡での観測方法については、星座と神話の専門サイトで詳しく解説されています

 

 


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