つる座の神話と構成する星、南天に輝く十字の特徴と観測時期

南天に美しく輝くつる座は、2つの2等星が作る十字形が特徴的な星座です。新しい星座のため神話は伝わっていませんが、アルナイルやティアキといった明るい恒星が魅力的な存在です。つる座にはどのような天体が含まれ、日本からはどのように観測できるのでしょうか?

つる座の神話と構成する星

つる座の魅力ポイント
2つの2等星が作る十字形

アルナイルとティアキが東西に並び、特徴的な十字のパターンを形成します

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新しい星座のため神話なし

16世紀末の大航海時代に設定された比較的新しい星座です

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南天の美しい銀河を含む

つる座トリオ銀河など、観測に適した複数の銀河が存在します

つる座の神話と歴史的背景

 

つる座は16世紀末にオランダの航海士ペーテル・ケイセルフレデリック・デ・ハウトマンによって考案された比較的新しい星座で、古代ギリシャの神話や伝説は存在しません。1598年に作られた地球儀で「Krane」(オランダ語)および「Grus」(ラテン語)と記されたのが最初の記録とされており、どちらも「鶴」を意味する言葉です。17世紀初頭にドイツの天文学者ヨハン・バイエルが星表に取り上げたことで、正式な星座として広く認知されるようになりました。

 

参考)つる座ってどんな星座?【神話も紹介】

当時、つる座は「さぎ座」や「フラミンゴ座」とも呼ばれていた時期があり、もともとはみなみのうお座の一部だったとも言われています。大航海時代の探検家たちが南半球の星空を記録する中で、新たに発見された動物の名前をつけた星座の一つであり、翼を広げて優雅に空を飛ぶ鶴の姿をイメージして作られました。世界各地の文化では、鶴は長寿、幸運、知恵の象徴とされており、中国では仙人が鶴に乗って天に昇るという伝説があり、日本でも「鶴は千年、亀は万年」という言葉が親しまれています。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/aki/turumain.shtml

つる座の歴史と文化的意義について(天文学のシンボル「鶴」の姿)

つる座を構成する主要な恒星アルナイル

つる座α星「アルナイル(Alnair)」は、つる座で最も明るい恒星で、視等級1.7等の青白く輝く星です。アラビア語で「輝くもの、光り輝くもの」を意味する النير(al-nayyir、アン=ナイイル)という言葉に由来しており、2016年7月20日に国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループによって正式に承認されました。

 

参考)つる座アルファ星 - Wikipedia

アルナイルの自転速度は非常に速く、赤道付近では約236km/sに達します。太陽の3.6倍の半径を持つつる座α星が1日未満で自転している計算になり、水素による核融合の最終段階にあると考えられています。本来は明るく青白く輝く美しい恒星ですが、日本では地平線低くしか昇らないため、大気の影響を受けて観測しにくいという特徴があります。

 

参考)秋の星座「つる座」見つけ方

興味深いことに、アルナイルの名前の語源は「輝く魚の尾」を意味するアラビア語に由来しており、この名が示す通り、つる座の星たちは本来、傍で輝くみなみのうお座の一部だった歴史があります。

 

参考)つる座とは?見つけ方や見どころ

つる座の2等星ティアキと特徴的な配置

つる座β星「ティアキ(Tiaki)」は、視等級2.11等の赤色巨星で、つる座で2番目に明るい恒星です。α星のアルナイルと比べて特に暗いわけではありませんが、長い間固有名が知られていませんでした。2017年9月5日、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループによって、トゥアモトゥ語由来の「ティアキ」という固有名が正式に定められました。

 

参考)つる座ベータ星 - Wikipedia

ティアキは脈動変光星の一種である「不規則変光星」に分類されており、2.0等から2.3等の範囲で明るさが変化します。スペクトル分類はM4.5IIIで、表面温度は約3,480Kと比較的低く、赤っぽい色調が特徴的です。地球からの距離は約177光年で、絶対等級は-1.6と非常に明るい恒星です。

 

参考)つる座ベータ星とは - わかりやすく解説 Weblio辞書

つる座の最大の特徴は、アルナイル(α星)とティアキ(β星)が東西に並び、3等星のγ星「アルダナブ」と交差して十字形を形成することです。この十字のパターンは、翼を広げて立つ鶴の姿を表しており、はくちょう座に似た美しい配列として知られています。アルダナブの名前はアラビア語で「尻尾」を意味し、つる座の頭部に位置する星として認識されています。

 

参考)https://dic.pixiv.net/a/%E3%81%A4%E3%82%8B%E5%BA%A7

つる座の観測時期と見つけ方のポイント

つる座は秋の夜空に見られる南天の星座で、日本では南の地平線近くに位置するため、観測にはいくつかの条件が必要です。10月中旬の夜21時頃、または9月下旬の0時頃、8月中旬の3時頃が南中する時期で、高度は約8°と非常に低い位置になります。

 

参考)https://starwalk.space/ja/news/october-constellations-and-stars

見つけ方としては、秋の夜空に輝く唯一の1等星である「みなみのうお座」のフォーマルハウトを目印にするのが効果的です。フォーマルハウトのずっと南へ目を向けると、東西に並ぶ2つの明るい星(アルナイルとティアキ)が見つかります。この2つの2等星を横軸にした「十」字のような形がつる座の特徴的な配置です。

北半球では、つる座は南の地平線すぐ上に低く見え、フォーマルハウトのすぐ下に広がります。観測する際は、南の地平線が開けた場所を選ぶことが重要で、空気が澄んだ暗い場所でないと見つけるのが難しい場合があります。東京より北の地域では一部が地平線の下に隠れてしまいますが、九州や沖縄などの南の地域では、つる座全体の姿をより良く観測できます。

一方、南半球では、つる座は夜空高くに昇るため、暗い場所であれば簡単にたどることができ、その美しい十字形の配列を鮮明に観測できます。

つる座の観測方法と地平線近くでの見え方について(三菱電機 DSPACE)

つる座に含まれる銀河と深宇宙天体

つる座には観測価値の高い銀河が複数存在しており、特に「つる座トリオ銀河」として知られる銀河群が天体写真愛好家の間で人気です。このトリオには、NGC7582、NGC7590、NGC7599が含まれており、同じ視野内に大きく明るい銀河が3つ見える点が特徴的です。しし座のトリオ(M65、M66、NGC3628)よりもコンパクトにまとまっており、西側の銀河NGC7582はエッジオンに近い向きで、中心の集光が観測できます。

 

参考)つる座の天体と位置がわかる星図や写真|天体写真ナビ

つる座の方向約2400万光年以上先には、棒渦巻銀河「NGC 7496」が存在します。棒渦巻銀河とは、中心部分に棒状の構造が存在する渦巻銀河のことで、ハッブル宇宙望遠鏡による観測でその詳細な構造が捉えられています。この銀河は南天の「つる座」の方向に位置し、88星座の中で鳥をモチーフとした9つの星座の一つであるつる座の領域に含まれています。

 

参考)88星座の中の鳥は9つ。つる座の銀河をハッブルが捉える

さらに、つる座には惑星状星雲のIC5148や、銀河のNGC7496、NGC7531、NGC7552、そしてNGC7424(グランドスパイラル銀河)など、魅力的な深宇宙天体が多数存在しています。これらの天体は、中・大口径の望遠鏡を使用した観測や天体写真撮影の対象として人気があり、南天観測の醍醐味を味わえる天体群として知られています。

つる座のπ星は二重星になっており、6.4等星のπ1星と5.6等星のπ2星が4秒角の間隔で並んでいて、双眼鏡で分離できます。実は2つの星にはもう一つずつ星が付随しており、π1星は2.7秒角離れたところに10.9等星があり、π2星には4.7秒角離れたところに12.0等星が並んでいるという興味深い多重星系です。

つる座の銀河NGC 7496をハッブル宇宙望遠鏡が捉えた画像について(sorae)

天体名 種類 視等級 特徴
α星アルナイル 恒星 1.7等 青白く輝く、自転速度が速い
β星ティアキ 恒星 2.11等 赤色巨星、不規則変光星
γ星アルダナブ 恒星 3.0等 十字形の縦軸を形成
NGC 7496 銀河 - 棒渦巻銀河、約2400万光年先
つる座トリオ銀河 銀河群 - NGC7582、7590、7599

 

 


初級講座弦理論 (発展編)