赤色矮星は太陽と比べて大きく異なる性質を持つ恒星です。質量は太陽の7%~50%程度で、最も小さいものでは太陽質量のわずか7.5%しかありません。これはプロキシマ・ケンタウリのように、太陽の約7分の1の質量しか持たない赤色矮星が存在することを意味します。
参考)赤色矮星 - Wikipedia
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サイズについても顕著な違いがあります。赤色矮星の半径は太陽の9%~50%程度で、最も小さいものは太陽半径の約0.09倍にまでなります。例えば、超低温の赤色矮星SPECULOOS-3は太陽の0.12倍の半径(木星の約1.2倍)しかなく、表面温度は2800Kと推定されています。一方、太陽に近い最も低温な赤色矮星の表面温度は約2000K程度です。
参考)「赤色矮星」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞…
赤色矮星の物理特性やサイズの詳細については、こちらのWikipediaページが参考になります
明るさに関しては、赤色矮星は太陽の1万分の1程度の光度しかないものも珍しくありません。プロキシマ・ケンタウリは可視光での明るさが太陽の1万8000分の1に過ぎず、最大級の赤色矮星であるラランド21185でさえ、明るさは太陽の180分の1程度です。太陽系に近い恒星の約70%は赤色矮星であるにもかかわらず、肉眼で見える赤色矮星は一つもありません。
参考)宇宙最期の日まで輝く人類移住の希望の星「赤色矮星」が理解でき…
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赤色矮星の最も特筆すべき特徴は、その驚異的な寿命の長さです。太陽の主系列星としての寿命が約100億年であるのに対し、赤色矮星の寿命は質量に応じて1兆年から10兆年にも及びます。この違いは、赤色矮星の核融合反応が非常にゆっくりと進行するためです。
参考)“赤色矮星”ってどんな天体?1000億年も輝き続ける長寿の恒…
太陽質量の0.1倍の赤色矮星の場合、寿命は10兆年にわたると考えられており、これは現在の宇宙年齢(約138億年)の700倍以上に相当します。プロキシマ・ケンタウリのような太陽の7分の1の重さの赤色矮星では、寿命が4兆年と推定されています。宇宙誕生以来、赤色矮星で主系列段階を終えたものは一つも存在しないのです。
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参考)https://dic.pixiv.net/a/%E8%B5%A4%E8%89%B2%E7%9F%AE%E6%98%9F
恒星進化の観点からも、太陽と赤色矮星は異なる道をたどります。太陽のような恒星は、水素が枯渇すると赤色巨星へと膨張し、最終的には外層を放出して白色矮星となります。白色矮星はさらに長い時間をかけて冷却し、最終的には光と熱を完全に失った黒色矮星へと変化すると考えられています。
参考)恒星進化論 - Wikipedia
恒星の進化過程について、天文学辞典で詳しく解説されています
一方、赤色矮星は質量が小さいため、主系列段階が終わった後も赤色巨星にはならず、直接白色矮星へと進化すると考えられています。しかし、赤色矮星の寿命があまりにも長いため、現在の宇宙年齢ではまだその最終段階を観測することができません。
赤色矮星の周囲にも、液体の水が存在可能なハビタブルゾーンが存在します。しかし、赤色矮星は太陽よりもずっと暗いため、惑星が表面に液体の水を保つには、星のすぐ近くを公転しなければなりません。例えば、プロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーンは、主星からわずか600万キロメートル(0.04天文単位)程度の距離にあります。
参考)302 Found
赤色矮星の周囲では、惑星の居住可能性にいくつかの課題があります。最大の問題は、星に非常に近い位置を公転するため、潮汐ロック(自転と公転の同期)が起こりやすいことです。潮汐固定された惑星は、片面を常に主星に向け、もう片面を常に反対側に向けることになり、極端な温度差が生じる可能性があります。
参考)赤色矮星系の居住可能性 - Wikipedia
さらに、赤色矮星は太陽よりも活動的で、強力なフレアを頻繁に起こします。プロキシマ・ケンタウリでは、2019年に継続時間わずか7秒ながら、紫外線で通常の14000倍、ミリ波でも1000倍以上明るくなる巨大フレアが観測されました。このようなフレアが発生すると、惑星の大気の大部分が燃やし尽くされてしまう可能性があります。
参考)ハビタブルゾーン - Wikipedia
赤色矮星L 98-59系で発見されたハビタブルゾーン内の惑星について、詳しい情報が掲載されています
一方で、赤色矮星の長い寿命は、生命が長期間にわたって進化し、生き残ることができる大きなメリットとなります。太陽の寿命が残り50億年であるのに対し、赤色矮星の周囲では何千億年、場合によっては何兆年もの時間が残されているのです。
赤色矮星は非常に暗いため、観測には大型の望遠鏡が必要です。太陽系に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリは、地球からわずか約4.2光年の距離にある赤色矮星で、質量は太陽の約0.12倍、光度は太陽のわずか0.0016倍しかありません。表面温度は約3000K程度と推定されています。
参考)太陽系に最も近い恒星を周回する地球型惑星の発見 2018年版…
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プロキシマ・ケンタウリは赤色矮星研究の重要な対象となっており、アルマ望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など、地上と宇宙の9つの望遠鏡を使った観測が行われています。2017年にはアルマ望遠鏡によって巨大フレアが初めて観測され、赤色矮星のフレアがミリ波で観測されたのもこのときが初めてでした。
参考)プロキシマケンタウリの巨大フレアを多波長で観測 - アストロ…
太陽系の近くには多数の赤色矮星が存在しています。最新の研究によって、太陽の近くに存在する60個の恒星のうち50個は赤色矮星であることが判明しました。これは宇宙にある恒星の約70%が赤色矮星であるという推定と一致します。
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太陽にもっとも近い恒星プロキシマ・ケンタウリの巨大フレア観測について、アルマ望遠鏡のプレスリリースで詳しく解説されています
赤色矮星を周回する伴星の発見も進んでいます。2025年には、すばる望遠鏡の赤外線分光装置IRD、ケック望遠鏡の高コントラスト撮像観測、ガイア宇宙望遠鏡の位置天文データを組み合わせることで、地球から約55光年先の赤色矮星を周回する褐色矮星が新たに検出されました。この天体は木星の約60倍の質量を持ち、約4.3天文単位の軌道を約20年かけて公転しています。
参考)地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の共演で発見された、赤色矮星を周回する…
赤色矮星と白色矮星は、名前は似ていますが全く異なる天体です。赤色矮星は現在も核融合を続けている主系列星であるのに対し、白色矮星は恒星の進化の終末期にとりうる形態で、恒星の残骸です。
白色矮星は、太陽質量の0.8倍以下の恒星が赤色巨星の段階を経て、外層を失った後に残る核の部分です。大部分が電子が縮退した物質によって構成されており、地球程度の大きさにまで収縮しています。白色矮星の有効表面温度は、高いもので150,000K、低いもので4,000Kをわずかに下回る程度まで及び、色も青白色から赤色まで広い範囲に及びます。
白色矮星は核融合反応が停止しているため、新たにエネルギーを生み出すことはできません。残された熱を宇宙空間に放出しながら、長い時間をかけてゆっくりと冷却していきます。最終的には光と熱を完全に失った黒色矮星へと変化していくと考えられていますが、宇宙の年齢はまだ白色矮星が黒色矮星になるほどの時間が経過していません。
興味深いことに、白色矮星の周囲でも居住可能な惑星が存在する可能性が研究されています。典型的な0.6太陽質量の白色矮星の場合、約0.012天文単位を公転する地球型惑星は、時間とともに変化するハビタブルゾーン内で約7億年間にわたって生命を支える条件を維持できると推定されています。さらに、一部の大質量白色矮星では、ネオン22の蒸留によって冷却が遅延し、約100億年間も「休止」状態が続くことが発見されています。
参考)http://arxiv.org/pdf/2411.18934.pdf
| 特徴 | 赤色矮星 | 太陽 | 白色矮星 |
|---|---|---|---|
| 質量 | 太陽の7%~50% | 1太陽質量 | 太陽の0.8倍以下の恒星の残骸 |
| 半径 | 太陽の9%~50% | 約70万km | 地球程度 |
| 表面温度 | 2000~3600K | 約5778K | 4000~150000K |
| 寿命 | 1兆~10兆年 | 約100億年 | 冷却に極めて長期間 |
| エネルギー源 | 水素の核融合 | 水素の核融合 | 残留熱の放出 |
| 光度 | 太陽の1/10000~1/180 | 1太陽光度 | 様々 |
宇宙最後の日まで輝き続けるのは、恐らく赤色矮星だと考えられています。太陽のような大きな恒星が次々と寿命を迎えていく中、赤色矮星は何兆年も先まで光と熱を放出し続けるのです。そのため、もし人類が太陽の死後も生き延びるとすれば、赤色矮星の周囲が最後の居住地になるかもしれません。