やぎ座神話と構成する星|起源・形・主要恒星を解説

やぎ座は古代バビロニアから伝わる歴史ある星座で、神話に登場する牧神パーンの変身した姿がモチーフです。主要な星にはアルゲディやデネブ・アルゲディなどがあり、それぞれに興味深い特徴があります。やぎ座の神話と星々の魅力をご存知ですか?

やぎ座の神話と構成する星

やぎ座の魅力ポイント
🐐
古代からの歴史

バビロニア時代から知られる古い星座で、ヤギと魚が合体した不思議な姿

主要な恒星

アルゲディ、ダビー、デネブ・アルゲディなど個性的な星々で構成

📖
パーンの神話

怪物から逃げる際に変身を失敗した牧神パーンの姿が星座になった伝説

やぎ座の起源と古代バビロニアからの歴史

 

やぎ座の起源は、古代バビロニアのシュメールやアッカドで考えられた「ヤギ魚」という想像上の生物にさかのぼります。前半身がヤギ、後半身が魚という不思議な姿をした生物で、シュメール語では「SUHUR MAŠ」、アッカド語では「suḫurmāšu」と呼ばれていました。メソポタミアには水、知識、技術を司るエア神が存在し、この山羊魚はその象徴として考案された架空の動物でした。

 

参考)やぎ座 - Wikipedia

この星座はプトレマイオスによって正式に設定され、黄道十二星座のひとつとして古くから知られています。黄道上に位置するため、太陽・月・惑星が通過しやすく、占星術でも重要な役割を担ってきました。最も古い星座のひとつとして数千年にわたって人類に親しまれてきた歴史があり、星座の原形はシュメール人がつくり、それに続くメソポタミアの人々が発展・整理していったと考えられています。

 

参考)やぎ座 - 新興出版社啓林館・文研出版 万博プロジェクト

インドにもヨーロッパの占星術が取り入れられ、さらに中国経由で日本にも伝わったため、やぎ座には「磨羯」という訳語が付けられました。この東西文化の交流によって、やぎ座の知識は世界中に広まっていったのです。

 

参考)古典作品に見る星座神話㊺やぎ座|丹取惣吉

やぎ座の神話|牧神パーンの変身失敗物語

ギリシャ神話では、やぎ座は羊飼いの神パーンの変身しそこねた姿がモチーフとされています。パーンは山羊のような角に尖った耳を持ち、腰から下は山羊そのもので、毛むくじゃらの足にはひづめがある不思議な姿をした神様でした。この神話では、パーンを主人公とした興味深い物語が伝えられています。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/yagi.shtml

ある日、天上の神々がオリンポスから降りてきて、ナイル川の畔で宴会を楽しんでいました。太陽と音楽の神アポロンが琴を弾き、音楽の女神ミューズたちが舞い踊る華やかな宴会でしたが、突然として怪物テュフォン(ティフォン)が現れます。テュフォンは大地の神ガイアが復讐のために生んだ怪物で、頭は100個もあり、口からは火を吹き、体は蛇と竜を合わせたような恐ろしい姿をしていました。

神々は大きな唸り声を上げて現れたテュフォンを見て、あわてて逃げ出します。大神ゼウスはたちまち鳥になって天空へと舞い上がり、愛の女神アフロディアとその子エロスは魚の姿になってナイル川に逃げ込みました。その中で一番あわてたのが牧神パーンで、急いでナイル川に飛び込んだものの、急ぐあまり下半身は魚、上半身は山羊のままという中途半端な姿になってしまいました。後に神々はこの姿を喜んで、この時の記念にとパーンの姿を星座にしたと言われています。

エラトステネースは、この星座のモチーフとなったのはアイギパーンであるとしており、これはパーンそのものを指すか、パーンに関係する別個の存在を指すのか解釈が分かれていますが、おそらくはパーン自身のことであろうと考えられています。ヒュギーヌスの『神話集』では、パーンの助言によって野獣に姿を変えて難を逃れた神々の希望によってパーンは星々の間に置かれることになり、ヤギの姿に変えたことから「ヤギの角」という意味の Aigōkeros と呼ばれたとされています。

やぎ座を構成する主要な星とその特徴

やぎ座は2~3等級程度の暗い星々で構成されていますが、下向きにとがった大きな逆三角形のような特徴的な形をしています。最も明るいα星アルゲディでも3等星であり、都会の明るい空では見つけにくい星座です。星座を構成する星の中で目印となるのが、やぎの頭に位置するα星アルゲディとやぎの尾にあたるδ星デネブ・アルゲディです。

 

参考)やぎ座 — 天空を登る山羊の物語 9/4|星遊びクリエイター…

主要な恒星の一覧

  • α星アルゲディ: アラビア語で「子山羊」を意味する名前を持つ4等級の二重星です。肉眼でも見える二重星で、双眼鏡を使えば街中でも簡単に2つに分かれて見えます。暗いほうをプリマ・ギエディ(4.55等)、明るい方をセクンダ・ギエディ(3.25等)と呼びます。興味深いことに、α1は望遠鏡で見るとさらに二重星で、α2は大口径でないと分離しない三重星なのです。

    参考)星空案内 - 2022年9月の星空

  • β星ダビー: アラビア語で「犠牲として捧げる羊などを屠殺する者の守り星」または「屠殺者の幸運(の星)」を意味します。3等星のβ1星と6等星のβ2星からなる連星系で、太陽系からの距離は340光年です。黄白色の3等星と白色の6等星のペアで、双眼鏡があれば2つに見えます。色の対比が美しく、望遠鏡で見るアルビレオといった感じでぜひ見ておきたい二重星とされています。

    参考)http://yumis.net/space/star/greece/cap-g3.htm

  • δ星デネブ・アルゲディ: アラビア語で「山羊の尾」を意味し、星座の中でこの星の位置する場所から付けられた名前です。2.9等級でやぎ座の中では最も明るい星で、バビロニアでは「エア」神とされ知性の神、聖なる目の神でした。この神は古代に人類に法律と正義、文明を与えたとされており、社会性や法律にかかわりがあります。

    参考)デネブ・アルゲディ:山羊の尾|さくらい

  • γ星ナシラ: アラビア語で「夏の終わりの緑野の守り星」または「幸運をもたらすもの」を意味し、もともとγ星とδ星の両方に付けられた名前でした。3.7等級の準巨星で、「アルシャト」という固有名も認証されています。​

やぎ座を見つけるには、南の地平線近くで輝くみなみのうお座の1等星フォーマルハウトと、天の川にあるわし座の1等星アルタイルの真ん中辺りを探すとよいでしょう。

 

参考)やぎ座(山羊座)|やさしい88星座図鑑

やぎ座の詳しい星の配置と特徴について(星座図鑑)

やぎ座の球状星団M30と天体観測

やぎ座には興味深い天体として球状星団M30(NGC 7099)があります。みなみのうお座とやぎ座の境界付近に位置し、1764年8月3日にシャルル・メシエによって発見されました。メシエは「41番星に近い星雲で、3.5フィートの望遠鏡でどうにか見える」と記録しています。

 

参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m30-j.shtml

M30の特徴は、中心部が非常に明るく密集していることです。見かけのサイズは視直径12分程度で、空が良ければ双眼鏡で周囲がややにじんだ恒星状に見えます。10cm望遠鏡では中心が明るい星雲状に見えますが、倍率をあげても周囲を星に分解するのは難しいでしょう。20cmクラスでも倍率を高めてようやく周囲の星が分解できる程度ですが、中心が明るいので見ていて楽しい対象とされています。30cm以上の口径があれば、空の条件の良いときには微光星が中心まで密集している様子が観察でき、かなり見応えがあります。

M30はM15と同様に、中心部分が密集して星の重力の相互作用で中心部が崩壊していると考えられています。この球状星団を見つけるには、やぎ座の三角形の左端にあたるδ星(2.9等)からやや西よりに南下すると、5等級の41番星のすぐ西(0.4度)に位置しています。やぎ座δ星からは6.6分西、7度3分南の場所にあります。

 

参考)M30 (天体) - Wikipedia

観測の際の注意点として、M30は秋の球状星団であるM15やM2と比べると暗く小さいうえにかなり南に位置するため、空の条件が良いときにM30が南中する時間帯(10月中旬20時ごろ)をねらって観望する必要があります。ちなみに、ひと晩で全メシエ天体を観測する「メシエマラソン」においてはリストの最後に位置することが多く、夜明け直前に見られるかどうかギリギリになりがちで、その筋からは微妙に嫌われていたりします。

 

参考)M30(球状星団、やぎ座)

M30の観測方法と詳細情報(AstroArts メシエ天体ガイド)

やぎ座の見つけ方と観測の季節

やぎ座は秋の星座に分類されますが、夏の星座であるいて座のすぐとなりにあるため、夏休みが終わってすぐの初秋の頃が見頃になります。やぎ座から、みずがめ座、うお座、みなみのうお座、くじら座など水がらみ星座が並ぶ秋の南天ですが、明るい星が少ないので都会ではポッカリ穴があいているような感じのするさみしい空になります。

 

参考)https://star-party.jp/binodehosimi/?p=497

📍 やぎ座を探すポイント
やぎ座を見つけるための具体的な方法として、南の地平線近くで輝くみなみのうお座の1等星フォーマルハウトと、天の川にあるわし座の1等星アルタイルの真ん中辺りを探すのが効果的です。大きな三角形をした分かりやすい形をしていますが、最も明るいα星アルゲディでも3等星であり、暗い星が多く見つけにくいかもしれません。

しかし、このあたりは双眼鏡を使って見ると意外にたくさん見所があります。α星アルゲディは目の良い人なら肉眼でも見える二重星で、双眼鏡で見れば明らかに左右に分かれて見えます。面白いのは、このα1、α2の左右にほぼ一列に暗い星が並んでいるところで、明るさも間隔も違う星が4個並んでいる姿は少し楽しめます。

やぎ座の形は逆三角形で、右はしの星が山羊の角、左はしが尾にあたります。3等星以下の暗い星のため、なかなか見つけることができませんが、惑星が近くにある年には、やぎ座を探す際の良い目印になります。例えば2021年には、やぎ座のある位置に木星と土星がいたため、探しやすい状況でした。

 

参考)秋の星座 「やぎ座」のお話

やぎ座が占星術と文化に与えた影響

やぎ座は黄道十二星座のひとつとして、占星術において重要な位置を占めてきました。バビロニア時代は山羊座が冬至点で、この星域は海や水と関連付けられていました。デネブ・アルゲディの意味は12サインの山羊座とも類似性が見られ、立法者としての性質を持つとされています。

中国の星官では、やぎ座の星々は複数の星官に配されました。β・α²・ξ・π・ο・ρの6星が牛を飼うことを表す星官「牛」に、τ・υ・17の3星が堰を表す星官「羅堰」に、ω・24・ψの3星がけんびきょう座にあるみなみのうお座3番星とともに天子の田を表す星官「天田」に、それぞれ配されました。

ユダヤ文化においても、やぎ座は重要な象徴として扱われてきました。東ヨーロッパの17世紀から18世紀の木造シナゴーグでは、黄道帯の装飾として山羊座が描かれており、古代ユダヤ美術のモザイク床から木造シナゴーグの天井画まで、黄道は最も一般的な占星術のシンボルの一つでした。これは主にカルデアとバビロニアの占星術に起源を持ちながらも、強い文化的差異を超えてユダヤの民衆芸術と建築に使用されたことを示しています。

 

参考)https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/23311983.2023.2200616

やぎ座の起源である山羊魚という象徴は、メソポタミアの神エアの知恵と技術、そして水の領域を表しており、この概念がギリシャに伝わってパーンの神話と結びつき、さらにインドや中国を経て日本にまで伝わったという文化交流の歴史は、星座が単なる天体配置以上の意味を持っていることを示しています。重層的に神話をコレクションすることで、恒星の理解が深まり、やぎ座の持つ多様な文化的側面が見えてきます。

 

 


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