ろ座 神話と構成する星から探る化学実験の炉

ろ座は18世紀にフランスの天文学者ラカイユが設定した新しい星座です。化学実験用の炉をモチーフにしたこの星座には、どのような神話や構成する星があるのでしょうか?

ろ座 神話と構成する星

この記事で分かること
🔬
ろ座の由来と歴史

18世紀にラカイユが化学者ラボアジエに捧げた科学実験用の炉をモチーフにした星座

ろ座を構成する主要な星

α星ダリムをはじめとする暗い星々で構成される目立たない星座

🌌
ろ座に存在する天体

ろ座銀河団やNGC1316など観測価値の高い銀河が多数存在する領域

ろ座の神話と由来:化学者への献上星座

 

ろ座は1750年代にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカイユによって設定された比較的新しい星座で、古代ギリシャ神話のような伝説は存在しません。ラカイユは南半球の星空を観測し、科学や技術にちなんだ名前の星座をいくつも命名しました。この星座が「炉(Fornax)」と名付けられた背景には、同郷フランスの化学者アントワーヌ・ラヴォアジエへの敬意があったとされています。

 

参考)ろ座ってどんな星座?【神話も紹介】

ラボアジエは「近代化学の父」と呼ばれる天才化学者で、錬金術時代からの化合物の俗名を廃止し、構成元素に基づいた合理的な命名を提唱した人物です。彼は今日の化学命名法の基礎を築きましたが、フランス革命の恐怖政治のもとでギロチンに処せられ命を落としました。ラカイユはラボアジエの死後、彼の栄光を称えるために化学実験用の炉をモチーフにしたこの星座を設定したと考えられています。

 

参考)ろ座とは?見つけ方や見どころ

星座絵では炉の下で火が燃え、上にはレトルト(蒸留に使う器具)で繋がった実験器具が2個乗った絵が描かれています。ラカイユは炉の他にも、ぼうえんきょう座、ポンプ座、とけい座など、科学道具を星に例えた星座を多数設定しています。これらの星座は「星座らしくない」「ロマンがない」といった辛口な評価を受けることもありますが、科学者への尊敬や友情といった温かい心を私たちに教えてくれる存在です。

 

参考)ろ座|星や月|大日本図書

ろ座を構成する星:α星ダリムと暗い星々

ろ座を構成している星には明るい恒星がひとつもなく、南の空低くに位置するため日本からは非常に目立たない星座です。その中で最も明るい星がろ座α(アルファ)星で、唯一の4等星として周りに明るい星がないため比較的見つけやすい存在です。

 

参考)ろ座|やさしい88星座図鑑

ろ座α星は2017年9月5日に国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループによって、固有名「ダリム(Dalim)」として正式に承認されました。この星はF型スペクトルの準巨星とG型スペクトルの主系列星による連星系で、主星Aは主系列星から進化したばかりの準巨星であると考えられています。興味深いことに、この連星系は過剰な赤外線を放出しており、恒星を取り巻く物質の存在が示唆されています。

 

参考)ろ座アルファ星 - Wikipedia

以前はエリダヌス座12番星とされたこともあり、ジュゼッペ・ピアッツィのパレルモ・カタログでは「Dalim」、イライジャー・バリットの「Star Atlas」では「Fornacis」という名称が見られました。約35万年前には、ろ座α星はA型主系列星のHD 17848と約0.265光年の距離にまで接近したという記録も残されています。ろ座の肉眼星数は約60個とされていますが、いずれも暗い星ばかりで構成されています。

ろ座の銀河団と天体:NGC1316を中心とした宇宙の宝庫

ろ座は暗い星ばかりで構成される目立たない星座ですが、銀河団が存在するためたくさんの銀河があることで天文学的に非常に有名です。ろ座銀河団(Fornax Cluster)は約6500万光年の距離にあり、1億光年以内ではおとめ座銀河団についで2番目に空間密度が高い銀河団です。この銀河団には600個以上の銀河が含まれており、画面内に見える黄色い楕円銀河はすべてろ座銀河団に属しています。

 

参考)ろ座銀河団 - Wikipedia

銀河団の中心にはNGC1399があり、他に主な構成メンバーとしてNGC1427AとNGC1404があります。特に注目すべき天体がNGC1316(ろ座A/Fornax A)で、ろ座の方向約6000万光年離れた位置にあるレンズ状銀河です。NGC1316は電波銀河であり、1400MHzでは全天で4番目に明るい電波源として知られています。

 

参考)NGC 1316 - Wikipedia

この銀河はかつてガスが豊富な二つの銀河が合体してできたとみられている巨大な楕円銀河で、画像にみられる塵の暗い筋はかつてNGC1316に飲み込まれた銀河の星間物質の名残だと考えられています。口径20cm以上の望遠鏡で楕円形に見え、小さな円形の光芒の中心部は恒星状に強く光ります。ろ座銀河団は、サブグループ(エリダヌス座銀河群)がメイングループ(ろ座銀河団)に吸収される際の現象を見せてくれ、銀河スケールの上位構造についての手がかりを与えてくれる貴重な観測対象です。

 

参考)銀河が合体してできた巨大な楕円銀河NGC 1316

銀河が合体してできた巨大な楕円銀河NGC 1316の詳細画像と解説 - アストロピクス

ろ座の観測時期と見つけ方:南の空低くに輝く冬の星座

ろ座は秋の終わりから冬にかけて見頃を迎え、南の空低く見える星座です。日本国内からは南の低い位置に見え、明るい星もなく目立たないため観測は容易ではありません。20時南中は12月23日ごろで、南中高度は約21〜23度程度となります。

 

参考)ろ座

ろ座は秋の星座くじら座のすぐ下に位置しており、日本からも見られる位置にあります。くじら座のα星を探し出すと、そのずっと南にろ座α星がポツンと光っているのが確認できます。南半球では10月〜2月頃に最もよく見えますが、日本では沖縄など南の地域でかろうじて見えることがあり、基本的には南半球向けの星座と言えます。

 

参考)Fornax(ろ座)について知ろう!【南天に輝く「炉」の星座…

ろ座の概略位置は赤経2h30m、赤緯-33°で、概略面積は約398平方度(全天41位)です。南東の空でひときわ明るく輝くおおいぬ座の1等星シリウスと、南西の空の位置関係を参考にすると探しやすくなります。観測する際は、炉の上の実験器具の中で熱に反応してポコポコと化学変化が起きている様子を想像しながら、ラカイユが描いた科学への情熱を感じ取ることができるでしょう。

ろ座と周辺星座の関係:エリダヌス座との境界領域

ろ座は南天の星座の中でも、隣接するエリダヌス座と密接な関係を持っています。かつてろ座α星はエリダヌス座12番星とされた時代もあり、両星座の境界は歴史的に流動的でした。現在では、ろ座とエリダヌス座の境界部に広がるろ座銀河団が、両星座の領域にまたがって存在しています。

 

参考)https://stellarscenes.net/object/ngc1316.html

NGC1316とNGC1317は、ろ座とエリダヌス座の境界部に位置する銀河で、どちらもろ座銀河団に属する重要な天体です。NGC1316のすぐ北側に位置する小型の銀河がNGC1317で、これらは対照的な銀河として知られています。エリダヌス座銀河群は、ろ座銀河団に従属していると考えられており、将来的にメイングループに吸収される可能性が指摘されています。

 

参考)https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/8478

この境界領域は、銀河団の進化を研究する上で貴重な観測対象となっており、サブグループがメイングループに吸収される際の現象を観察できる希少な領域です。ろ座はくじら座の下に位置し、南の空低くに見える星座として、エリダヌス座やくじら座といった周辺の星座との位置関係を理解することが、観測の際の重要なポイントとなります。天文観測においては、これらの周辺星座を手がかりにして、ろ座の位置を特定するのが効果的です。

 

参考)https://mirahouse.jp/begin/constellation/Fornax.html

 

 


年少バトルロワイヤル