エリダヌス座は全天で7番目に大きな星座で、約190個もの肉眼で見える星によって構成されています。この星座の最大の特徴は、オリオン座のリゲルの近くから始まり、南の地平線へと長く蛇行しながら流れる川の形です。
参考)エリダヌス座ってどんな星座?【神話も紹介】
星座の南端には、α星アケルナルが青白く輝いています。アケルナルはアラビア語で「川の果て」を意味し、全天で9番目に明るい0.5等星です。この星は地球から約140光年の距離にあり、高速で自転しているため赤道方向に膨らんだ楕円形という珍しい形状をしています。ただし、日本の本州からは南過ぎて見ることができず、奄美大島や沖縄より南でなければ観測できません。
参考)http://yuminglove.music.coocan.jp/seiza5eri.htm
川の起点となるβ星クルサは2.8等星で、オリオン座のリゲルのすぐそばに位置し、「オリオンの足台」という意味を持ちます。その他にも、γ星ザウラク(3.0等星)、θ星アカマル(3.3等星の重星)などが川の流れを形作っています。
参考)秋の星座エリダヌス座の見つけ方
特に注目すべきはε星で、地球からわずか10.5光年という近距離にあるK型主系列星です。この星は太陽に似た性質を持ち、太陽系外惑星を持つことが確認されているため、かつてオズマ計画で地球外文明探査の対象となりました。
参考)エリダヌス座 - Wikipedia
さらに、ο²星は連星系で、伴星が白色矮星という珍しい天体です。通常、白色矮星は観測が非常に困難ですが、この星系では比較的容易に観察できるため、天体観測愛好家にとって貴重な対象となっています。
参考)https://star-party.jp/owner/?p=474
エリダヌス座を構成する星々は全体的に暗めのものが多く、3等星以下がほとんどですが、星々が適度な間隔で配置されているため、一度見つけると次からは意外に簡単に識別できる特徴があります。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/huyu/eridanusumain.shtml
エリダヌス座の神話は、太陽神ヘリオスとその息子パエトン(ファエトン)の悲劇的な物語に由来します。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/eridanusu.shtml
太陽神ヘリオスは毎日、天を駆ける太陽の馬車を東から西へと御する役目を担っていました。ヘリオスとクリュメネという女性の間に生まれたパエトンは、自分が太陽神の息子であることを友人たちに信じてもらえず、その証を立てるため父の神殿を訪ねました。
参考)http://yumis.net/space/star/greece/eri-g.htm
ヘリオスは息子との再会を喜び、誓いを立てて何でも一つ願いを叶えると約束しました。するとパエトンは「父上の太陽の馬車を一度御させてほしい」と申し出たのです。太陽の馬車は大神ゼウスでさえ御することが困難なほど気性の荒い天馬が引いており、ヘリオスは困り果てましたが、誓いを立てていたため断ることができませんでした。
参考)エリダヌス座の神話を紹介します。
ヘリオスはパエトンに、決して下を見ないこと、手綱を決して離さないことをきつく言い含めました。しかし、パエトンは友人たちに自分が太陽の馬車に乗っている姿を見せつけたくなり、自分の町を探そうとして下を見てしまったのです。
あまりの高さに目が眩んだパエトンは手綱を離してしまい、天馬たちは暴走を始めました。馬車が低く飛べば地上のすべてが焼き尽くされ、高く飛んだ場所では氷河が地上を覆いました。空では恐ろしいライオンが吠え立て、サソリが毒針で攻撃してきて、パエトンはますますパニックに陥りました。
このままでは地上も天上の世界も大火災になってしまうと判断した大神ゼウスは、やむなく雷を投げつけて馬車を打ち落としました。炎に包まれたパエトンの身体は、エリダヌスという大河に落ちていったのです。
参考)https://contest.japias.jp/tqj2001/40225/elidanus.html
川辺に集まったパエトンの5人の姉妹たちは、いつまでも涙を流し続けました。そこへ通りかかった勇士ヘラクレスが川に飛び込んでパエトンの遺体を収容し、エリダヌス河の河口に大きな方形の岩を立てて慰霊碑としました。姉妹たちが差し出した青く輝く宝石をヘラクレスが慰霊碑の上に据えると、それは夜になるとパエトンの霊を弔うように青くまばゆい光を放つようになりました。
いつまでも泣き止まなかったパエトンのすぐ下の妹は、いつしかポプラの木にその姿を変えてしまい、姉妹たちが流した涙は「琥珀」という透明な石となって川辺に残されました。ヘリオスは死んだ息子を記念するため、エリダヌス河の姿を天に上げることを大神ゼウスに願い出て許され、こうしてエリダヌス座が誕生したのです。
参考)https://aqumari.com/mimas/asia/a_06.html
エリダヌス座のモデルとなった川については、古代から複数の説が存在しています。
参考)https://ryutao.main.jp/constellation_eri.html
最も有力な説の一つは、北イタリアのポー川をモデルとするものです。ポー川は古代ギリシアでは琥珀を産することで知られており、パエトンの姉妹たちが流した涙が琥珀になったという神話とも符合します。古代ローマ時代には「パドゥス川」とも呼ばれており、ゲルマーニクスの記述にもこの名前で登場しています。
参考)古典作品に見る星座神話⑧エリダヌス座|丹取惣吉
一方、古代エジプトでは、エリダヌス座をナイル川の流れとして見ていたようです。エラトステネースは、ナイル川が川で唯一南に水源があることを根拠に挙げています。実際、この星座は空の南の方に位置しており、ギリシャでは標高差の影響で北から流れる川ばかりであったことを考えると、南に流れるナイル川との関連性が見て取れます。
さらに、エリダヌス座の近くには「りゅうこつ座α星カノープス」が輝いていますが、カノープスという名前は、ナイル河口にあった同名の都市に由来しています。この地理的な符合も、エリダヌス座をナイル川と見なす根拠の一つとされています。
他にも、ローヌ川、ドナウ川、ライン川など、ヨーロッパの様々な大河がこの星座のモデルとして挙げられることがあります。これは、古代の人々がそれぞれの文化圏で身近な大河を天上の川と重ね合わせて見ていたことを示しています。
ギリシア神話では、エリダヌスは「神々の世界を流れる大河」として登場し、エリダヌスという名前自体が川の神の名前でもあります。星の並びは太古の昔から川の流れと考えられており、文化や時代を超えて、人々は夜空に流れる星の川を見出してきたのです。
興味深いことに、この星座が確立された当初は、θ星アカマル(「川の果て」の意)が端の星であり、現在のα星アケルナルが組み込まれたのは大航海時代以降のことです。時代によって星座の形が変わるという例は珍しく、エリダヌス座の歴史の面白さを物語っています。
エリダヌス座は10月から3月にかけて観測できる冬の星座で、特に1月中旬頃に南中します。冬の夜空でオリオン座が東の空に昇るとき、南東の空に淡く広がる姿を見ることができます。
参考)http://www.bao.city.ibara.okayama.jp/stardb/sky/data/sky0110.html
この星座を見つける最大のポイントは、オリオン座の1等星リゲルです。リゲルは青白く輝く目立つ1等星なので、すぐに見つけることができます。エリダヌス座は、このリゲルのすぐ北西(リゲルの近く)にあるβ星クルサから始まり、そこから南の地平線へと長く延びています。
参考)エリダヌス座とは?見つけ方や見どころ
星座の流れを追うと、リゲルの付近からο¹星、ο²星、γ星、δ星、ε星、ζ星、η星あたりまでが川の上流部分です。ここから星座は大きくカーブして、くじら座π星を掠めながら、τ¹星からτ⁹星まで9つの星が並び、次のυ¹星、υ²星で再びカーブして3等星のθ星へと至ります。
観測の際に注意すべき点がいくつかあります。まず、エリダヌス座は南の空の低いところに位置しているため、できるだけ南の空が開けた場所で観察する必要があります。都会では光害の影響もあり、見つけるのが非常に難しい星座です。
参考)エリダヌス座
また、星座を構成する星には暗いものが多く、アケルナル以外は3等星以下がほとんどです。そのため、月明かりの少ない夜を選び、光害の少ない場所での観察が推奨されます。星図やスマートフォンの星座アプリを用意しておくと、星々の位置関係を確認しながら観察できます。
日本からの観測では、α星アケルナルは見ることができません。アケルナルは南緯57度付近に位置するため、東京をはじめとする本州の多くの地域では地平線より下になってしまいます。奄美大島や沖縄より南まで行かなければ、エリダヌス座の全景を捉えることはできないのです。
参考)エリダヌス座|やさしい88星座図鑑
観測の準備としては、寒い時期の観察が多いため防寒対策が必須です。双眼鏡があると、より多くの暗い星を確認でき、星座の全体像を把握しやすくなります。赤色ライトを使用すれば、夜目を保護しながら星図を確認できます。
星々の間隔が程よく離れているため、一度その姿を探し出すと次からは案外簡単に見つけ出すことができる星座です。全天で7番目に大きく、空の中で大きく蛇行しながら地平線まで落ちていく姿は、なかなか見ごたえがあります。
エリダヌス座ε星は、地球に非常に近い恒星として特別な注目を集めています。わずか10.5光年という距離は、肉眼で見える恒星としてはアルファ・ケンタウリ、シリウスに次いで3番目に近く、太陽の隣人とも呼べる存在です。
参考)エリダヌス座イプシロン星 - Wikipedia
この星はK2型主系列星で、太陽と比べて質量は0.83倍、半径は0.735倍とやや小さめです。しかし、最大の特徴はその若さにあります。エリダヌス座ε星は誕生から7億~8億年ほどしか経っておらず、太陽(約46億歳)と比べて非常に若い恒星なのです。
参考)10.5光年先に若い太陽系そっくりの惑星系 - アストロアー…
この若さが、星の特異な性質を生み出しています。エリダヌス座ε星のスペクトルは非常に変化に富んでおり、多くの輝線を持っています。また強い磁場を持ち、自転周期は11.2日という速さで自転しています。りゅう座BY型変光星に分類されており、3.70等から3.75等の範囲でわずかに明るさを変えていますが、変光範囲が小さいため眼視観測では変光を確認できません。
最も興味深いのは、太陽系外惑星の存在です。2000年に、木星の3倍ほどの質量を持つ系外惑星が発見されました。さらに研究が進み、この星系には「デブリ円盤」が存在することが確認されています。デブリとは、星の周りに惑星系が形成された後に残されたガスや塵、岩石質や氷質の小天体などです。
2017年の航空機天文台「SOFIA」による遠赤外線観測では、暖かいデブリが惑星の軌道付近に細い帯状に分布していることが確かめられました。この位置は太陽系の小惑星帯の付近に相当し、さらに理論的には太陽系の天王星軌道あたりにも帯が存在することが示唆されています。
理論計算によれば、およそ0.53天文単位の軌道に地球に似た惑星があれば、居住に適している可能性があると考えられています。ただし、星の年齢が若すぎるため、地球のような惑星を持っているとしても知的生命体はまだ存在していないだろうと推測されています。
エリダヌス座ε星は太陽に比較的似た性質を持つため、1959年のオズマ計画で地球外文明探査のターゲットになりました。この計画では、高度な文明を持つ惑星があるとの想定の下に電波によるメッセージが送られましたが、文明の存在を示唆する証拠は得られませんでした。
研究者たちは「エリダヌス座ε星系は太陽系の若いころの姿を見ているようなもの」と評価しており、太陽系の形成過程を理解する上で非常に興味深い研究対象となっています。太陽系が誕生した約46億年前、まだ惑星が形成されつつあった頃の姿が、この星系に残されているのです。
アストロアーツ - 10.5光年先に若い太陽系そっくりの惑星系
エリダヌス座ε星系の詳細な観測結果と、太陽系との比較について専門的な情報が掲載されています。デブリ円盤の構造や惑星系の形成過程に関する最新の研究成果を知ることができます。

ハッブル宇宙望遠鏡 Hubble NASA 宇宙銀河 星雲 星空 天文学 魅力的な銀河エリダヌス座 ポスター アートパネル キャンバスウォールアート現代 印刷 版画 壁掛け 壁の絵 部屋飾り16x16inch(40x40cm)