へび座神話と構成する星の謎を探る

へび座は頭部と尾部に分かれた珍しい星座で、古代ギリシア神話のアスクレピオスと深い関わりを持ちます。ウヌクアルハイやM5球状星団など、へび座を構成する星々にはどんな秘密が隠されているのでしょうか?

へび座の神話と構成する星

へび座の魅力
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頭部と尾部に分断

へびつかい座によって東西に分かれる唯一無二の星座構造

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医療の象徴

古代ギリシアの名医アスクレピオスと共に描かれた蛇

明るい天体群

M5球状星団やM16わし星雲など観測価値の高い天体を含む

へび座とアスクレピオス神話の深い結びつき

 

へび座は単独の神話を持たず、へびつかい座と一体の物語として語り継がれています。この星座のモデルとなったのは、太陽神アポロンの息子で名医として知られたアスクレピオスが持つ杖に巻きついた蛇です。古代ギリシアでは、蛇は現代のような恐ろしいイメージとは異なり、医療のシンボルとして尊重されていました。アスクレピオスは賢者ケイロンのもとで医学を学び、研究と修練を重ねた結果、ついに死者さえも生き返らせる力を手にしました。

 

参考)https://ryutao.main.jp/mythology_53.html

この能力に困惑したのが冥界の王プルトーでした。死者が次々と蘇生されては冥界の秩序が乱れてしまうため、プルトーはゼウスに訴え、ゼウスはアスクレピオスを殺して夜空に上げて星座としました。興味深いことに、アスクレピオスは蛇から薬草の効果を学んだとも、死後に蛇の姿に変わって人々を救い続けたとも伝えられています。この蛇が、へびつかい座に抱えられたへび座として描かれているのです。

 

参考)へび座とは?見つけ方や見どころ、神話まで

現在でも「アスクレピオスの杖」として、蛇が巻きついた杖は医療職の象徴として世界中で使用され、世界保健機構(WHO)でも採用されています。

 

参考)感染拡大の終息を願って ~「アスクレピオスの杖」に思う~

へび座の詳しい神話と由来については、星座と神話の専門サイトで解説されています

へび座の頭部を輝かせる主要な構成星

へび座は3等星が2個程度と際立って明るい恒星はありませんが、頭部側には比較的明るい星が集中しています。最も明るいのがへび座α星のウヌクアルハイで、2.63等級の明るさを持ちます。この名前はアラビア語で「蛇の首」を意味する「Unuq al-ḫayya」に由来し、2016年8月21日に国際天文学連合によって正式な固有名として承認されました。地球から約74光年の距離にあり、太陽の約13.5倍の半径を持つ巨星です。

 

参考)へび座ってどんな星座?【神話も紹介】

頭部のもう一つの注目すべき星がへび座θ星のアルヤです。この星は実際には三重星系で、θ¹星とθ²星がともにA型主系列星の5等星として互いに22.4秒離れて見え、1,100au以上離れた軌道を18,000年以上かけて周回していると推測されています。アルヤという固有名は、アラビア語で「(羊の)太った尾」を意味する「alyah」に由来します。

 

参考)へび座シータ星 - Wikipedia

へび座にはギリシア文字の符号が付けられた星が31個あり、そのうち25個が頭部に位置しています。頭部は尾部の2倍以上の面積があり、明るい星や星団、星雲も多いのが特徴です。夜空の暗い場所では、これらの星々が五角形のような形に集まって見え、蛇の頭部の姿を想像できます。

 

参考)へび座 - Wikipedia

へび座の尾部を形作る星々と天の川

へび座の尾部には、ギリシア文字が付けられた星がζ、η、θ、ν、ξ、οの6個しかありません。尾部は天の川と重なっているため、暗い星が多く、頭部に比べて目立ちにくい領域です。しかし、この領域にも注目すべき星があります。

 

参考)「へび座」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

へび座η(イータ)星は尾部で最も明るい恒星で、3.25等級の明るさを持ちます。尾の星の並びの中では一番明るく、特定の固有名は持っていませんが、尾部を構成する星々の中心的な役割を果たしています。この星は黄色の巨星として知られています。

 

参考)へび座

尾部は天の川の濃い領域と重なっているため、双眼鏡や望遠鏡で観察すると、背景に広がる無数の微光星と共に美しい眺めを楽しむことができます。へび座全体では、頭部がおとめ座てんびん座の近くに位置するのに対し、尾部はいて座やたて座、わし座といった夏の天の川の濃い領域に隣接しています。

 

参考)へび座の天体と位置がわかる星図や写真|天体写真ナビ

へび座のM5球状星団:北天屈指の輝き

へび座の頭部には、M5(NGC 5904)という北天を代表する球状星団があります。このM5は視直径約23分角の大型球状星団で、初夏の夕方に観望の好機を迎えます。明るさは5.95等級で、北天ではヘルクレス座のM13に次ぐ明るさを持ちますが、実際の明るさではM13よりも上回っています。

 

参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m5-j.shtml

M5は約24,500光年の距離にあり、100,000個以上の星から構成されています。形は楕円型ですが、銀河系の重力のためにややゆがんでいるのが特徴です。興味深いのは、この球状星団が100個以上の変光星を含んでおり、その多くがこと座RR型変光星として周期半日程度で明るさを変えていることです。年齢は約130億年と推定され、最古の球状星団の一つに数えられています。

 

参考)M5 (天体) - Wikipedia

M5の見つけ方は、へび座α星とμ星を底辺としておとめ座の方を向いた正三角形を作ると、その頂点付近に見つかります。目が良い人なら暗い星空で肉眼でも確認でき、双眼鏡なら楽に探し出せます。10cmの望遠鏡で120倍程度に倍率を上げると、周囲が星に分解でき始め、球状星団の美しさを感じられます。20cmの望遠鏡では中心付近まで星に分解でき、見事な眺めとなります。

M5球状星団の詳しい観測方法は、アストロアーツのメシエ天体ガイドで紹介されています

へび座のM16わし星雲:創造の柱の舞台

へび座の尾部には、M16(NGC 6611)という有名な散光星雲散開星団の複合天体があります。この天体は「わし星雲」という愛称でも知られ、へび座とたて座の境界付近、いて座に近い場所に位置しています。約3度南にはオメガ星雲M17があり、同じ視野に両方を入れて観察できます。

 

参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m16-j.shtml

M16で眼視の主な対象となるのは散開星団部分(NGC 6611)ですが、写真撮影では真っ赤な姿をした星雲が明るい散開星団を背景に美しく写ります。拡大すると、星雲の中には星の胞子と考えられている小さく丸い暗斑(グロビュール)が観察できます。最も有名なのは、星雲の中心に食い込む暗黒星雲で、象の鼻のように見えます。

 

参考)https://www.sendai-astro.jp/nishikouen/photo/nebu/04m16.html

この暗黒星雲の先端部分は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像によって「創造の柱」(Pillars of Creation)というニックネームで世界中に知られるようになりました。この領域では現在も新しい星が誕生しており、星形成の現場を目の当たりにすることができます。10cmの望遠鏡では散開星団として星が集まった感じに見え、20cm以上になると条件が良ければ散光星雲の濃い部分も確認できますが、基本的には写真撮影向きの天体です。

へび座観測の最適な時期と見つけ方のコツ

へび座は夏の星座で、南の空低く観察できます。構成する星は暗いため、都会の明るい夜空では蛇の姿を想像するのは難しいでしょう。観測に最適なのは夜空の暗い場所で、大きな将棋の駒のような形をしたへびつかい座と共に、蛇が東西に伸びる様子を見つけることができます。

へび座を探す際の目印として有効なのが、へびつかい座α星のラス・アルハゲです。この2等星は比較的明るく探しやすいため、まずこの星を見つけてから、その両側にあるへび座の頭部と尾部を探すとよいでしょう。頭部側では、へび座α星のウヌクアルハイが最も明るい星として目印になります。

 

参考)Instagram

へび座は全天88星座の中で23番目の面積を持つ比較的大きな星座ですが、頭部と尾部に分断されているという点で全天でもユニークな存在です。この分断は、2世紀の天文学者プトレマイオスが、もともと一つだったへびつかい座とへび座を分けたことに由来します。そのため、へび座は南中時刻が頭部と尾部で2回あるという珍しい特徴を持っています。

 

参考)<星旅星めぐり>へびの星座 全天でもユニーク、二つの領域に分…

夏の夜、さそり座やいて座を観察した後、その北側に視線を移すと、へびつかい座とへび座の組み合わせを見つけることができます。頭部は比較的明るい星が多く見つけやすいのに対し、尾部は天の川の中に溶け込んでいるため、星図を参考にしながら探すのがおすすめです。

 

 


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