へびつかい座は、ギリシア神話に登場する医術の神アスクレピオスの姿を表した星座です。アスクレピオスは太陽神アポローンとラリッサ王の娘コローニスの間に生まれた半神半人で、ケンタウロスのケイローンのもとで医術を学び、ギリシャ一番の名医へと成長しました。彼の医術の腕前は神々をも凌ぐほどで、女神アテナから授かったメドゥーサの右側の血管から流れた蘇生作用のある血を使い、ついには死者までも生き返らせることができるようになったのです。
参考)へびつかい座ってどんな星座?【神話も紹介】
しかし、死者が蘇ることで冥界に死者が来なくなり、冥界の王ハデス(プルトーン)は世界の秩序が乱れると激怒しました。ハデスの訴えを受けた大神ゼウスは、アスクレピオスを雷で打ち殺してしまいます。ところが、ゼウスはアスクレピオスの功績を認め、彼を天に上げてへびつかい座として星座にしました。こうして死してなお、アスクレピオスは医術の象徴として夜空で永遠に輝き続けることになったのです。
参考)アスクレピオス へびつかい座になった、死者を甦らせる医術の天…
この神話は古代バビロニア時代から存在しており、当時はへびつかい座とへび座は一つの星座として認識されていました。その後、古代ギリシア時代にプトレマイオスが48星座を設定する際に、2つの星座に分割されたという歴史があります。
へびつかい座は夏の南の空に広がる大きな星座で、将棋の駒のような形に星が並んでいます。1等星は存在しませんが、2等星が2つ含まれており、全体で約160個の肉眼で見える星で構成されています。
参考)へびつかい座|やさしい88星座図鑑
最も明るいα星は「ラスアルハゲ(Rasalhague)」と呼ばれ、2.07等星です。この名前はアラビア語で「蛇を採る者の頭」を意味する「raʾs al-ḥawwāʾ」に由来しており、2016年7月21日に正式な固有名として承認されました。この星は将棋の駒のような形の頂点に位置し、周囲に明るい星が少ないため思いのほか目立つ星です。近くにはヘルクレス座のα星ラスアルゲティが輝いており、名前が似ているため少し紛らわしいという特徴があります。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology_54.html
2番目に明るいη星は「サビク(Sabik)」という固有名を持ち、2.42等星です。この名前はアラビア語の「sābiq」に由来し、「勝利者」や「制圧者」という意味があると考えられています。この名前は、両足で巨大な怪物(さそり座)を踏みつける蛇使いの姿から名づけられたとされ、2016年8月21日に正式承認されました。
参考)http://yumis.net/space/star/greece/ophser-g3.htm
その他にも、β星ケバルライ(2.8等星)、δ星イェド・プリオル(2.7等星)、γ星ムリフェンなど、固有名を持つ星々が多数含まれています。特にイェド・プリオルは、アラビア語の「yad(手)」とラテン語の「Prior(前のほうの)」が組み合わさった名前で、蛇使いの手の位置にある2つの星のうち手先に近い方の星を指します。
へびつかい座の特徴的な点は、その一部が黄道帯に位置していることです。黄道とは太陽が1年かけて天球上を移動する見かけの通り道のことで、通常は12の星座(黄道十二星座)が配置されています。しかし実際には、へびつかい座の一部も黄道帯に引っかかっているため、13番目の星座として扱われることがあります。
参考)へびつかい座とは?13星座とへびつかい座について知っておこう…
1995年には「13星座占い」の本が出版され、欧米や日本で一躍話題となりました。この考え方では、へびつかい座はさそり座といて座の間に位置し、11月30日から12月17日頃がへびつかい座の期間とされます。しかし、占星術においては黄道帯を12等分して星座を定義しており、三つの行動形態や四大元素といった考え方があるため、13の星座では体系が成り立たないという理由から、伝統的な占星術では採用されていません。
参考)へびつかい座とは?新たな占星術視点 - オパール姉さんのお話
それでも、天文学的には太陽が実際に通過する星座にへびつかい座が含まれることは事実であり、現代の天文現象に基づいた新しい視点として注目を集めています。へびつかい座は占星術の伝統的な枠組みとは別に、天文学的な観点から独自の位置を確立しているのです。
なぜアスクレピオスは蛇を持つ姿で星座になったのでしょうか。この疑問に対する明確な答えは古代から伝わっていませんが、いくつかの興味深い説が存在します。
最も有力な説は、蛇が脱皮することから「不死」や「再生」の象徴とされていた点です。古代の人々にとって、皮を脱いで生まれ変わる蛇の姿は、死と復活を繰り返す生命の神秘そのものでした。また、アスクレピオスが蛇の毒をも良薬として使うことができたという伝承もあり、毒を薬に変える医術の力が蛇と結びついたとも考えられています。
参考)https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1425107882625/html/common/54f66b0d045.htm
特筆すべきは、アスクレピオスが死者を蘇らせるために使用した「メドゥーサの血」の伝説です。女神アテナがアスクレピオスに授けたメドゥーサの血には、右側の血管から流れた血に死者を蘇生させる効果があり、左側の血管から流れた血には人を殺す力があったとされています。この両義性は、まさに医術が持つ「治療と毒」の二面性を象徴しており、蛇の毒が薬にも毒にもなるという性質と重なります。
参考)メドゥーサ - Wikipedia
現代でも、アスクレピオスの杖に蛇が巻き付いた図柄は、世界保健機関(WHO)や多くの医療機関のシンボルマークとして使用されています。夏の夜空に輝く「へびつかい座」は、医術の象徴として数千年の時を超えて私たちに語りかけ続けているのです。
参考)http://yokohama119.kenkyuukai.jp/special/?id=11590
へびつかい座を実際に夜空で探すには、周辺の星座との位置関係を知ることが重要です。この星座は夏の南の空低く、さそり座の真上に位置しています。特に目印となるのは、さそり座の1等星アンタレスで、この赤く輝く星から頭上へ視線を移すと、将棋の駒のような形をしたへびつかい座の星の並びを見つけることができます。
参考)https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/html/m107-j.shtml
へびつかい座は非常に広大な星座で、へび座と合わせると全天で最も大きな星座となります。へび座は、へびつかい座が持つ蛇の姿を表しており、へびつかい座の東側(頭部)と西側(尾部)に分かれて配置されています。この独特な配置は、古代バビロニア時代に一つの星座だった名残とも言えます。
参考)星座八十八夜 #8 死人も生き返らせた医学の神「へびつかい座…
また、へびつかい座の領域には7つもの球状星団が存在し、メシエ天体として知られるM107もその一つです。これらの球状星団は、望遠鏡を使えば観測できる美しい天体で、星座観察の魅力をさらに高めてくれます。へびつかい座のいびつな五角形の外側、さそり座のアンタレスの北に位置するM107は、天体観測の際の良い目標となります。
アストロアーツの星座図鑑では、へびつかい座の詳しい位置と見つけ方が解説されています

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