エリダヌスと馬の神話 アケルナルと星座の歴史物語

エリダヌス座と馬にまつわる神話をご存じですか?太陽の馬車をめぐる悲しい物語から、輝く一等星アケルナルの驚くべき素顔、さらに古代文明とのつながりまで、壮大な宇宙の謎に迫ります。あなたの知らない星空の物語を一緒に紐解いてみませんか?

エリダヌスと馬の物語

この記事でわかること
📜
神話の悲劇

太陽の馬車を暴走させた少年の物語

星の正体

超高速で自転する不思議な星アケルナル

🌍
古代の叡智

星座と古代エジプト文明の意外な関係

エリダヌス座の神話と暴走する太陽の馬

 


夜空に壮大に横たわるエリダヌス座。この星座には、ギリシャ神話の中でも特に有名で悲しい物語が秘められています 。物語の主人公は、太陽神ヘリオスアポロンとも言われます )の息子、パエトーンです 。「自分が本当に神の子である証を見せたい」と願ったパエトーンは、父ヘリオスに無謀なお願いをします。それは、一日だけ天空を駆ける「太陽の馬車」を運転させてほしい、というものでした 。
父の忠告を振り切り、パエトーンはついに太陽の馬車に乗り込みます。しかし、若く未熟な彼には、神々しい4頭の駿馬を到底操ることができませんでした 。
  • 🔥ビュロエイス (火のように熱い)
  • 🌅エオオス (曙の)
  • ☄️アイトン (燃え盛る)
  • ☀️フレゴン (燃える)

これらの馬たちはたちまち暴走し、天の軌道を大きく外れてしまいます 。馬車が地に近づきすぎた場所は焼き尽くされ砂漠となり、逆に離れすぎた場所は凍てつく氷の世界と化してしまいました。天も地も大混乱に陥ったこの事態を収拾するため、全能の神ゼウスは苦渋の決断を下します。ゼウスは雷霆を放ち、暴走する馬車を撃ち落としたのです 。
馬車もろとも撃ち抜かれたパエトーンは、燃えながら真っ逆さまに墜落し、北イタリアを流れるエリダヌス川に落ちて命を落としました 。この悲劇の川こそが、後に天に上げられ「エリダヌス座」となったと伝えられています。彼の死を嘆き悲しんだ姉妹たちは、エリダヌス川のほとりでポプラの木に姿を変え、彼女たちが流した涙は美しい琥珀になったと言われています 。星座に刻まれた「馬」との関わりは、このように若者の無謀な挑戦と、それを巡る悲しい結末を今に伝えているのです。

エリダヌス座の神話についてさらに詳しく解説しているページです。

 

https://www.astroarts.co.jp/phenomena/2018/12/21_eridanus/index-j.shtml

エリダヌス座の見つけ方と川の果てアケルナル


エリダヌス座は、全天88星座の中で6番目に大きな星座であり、その姿はまるで天を流れる大河のようです 。しかし、その長大さとは裏腹に、明るい星が少ないため、夜空で見つけるのは少し難しいかもしれません 。見つけるためのヒントは、冬の星座の代表格であるオリオン座からスタートすることです 。
まず、オリオンの左足で輝く一等星「リゲル」を見つけましょう。エリダヌス座は、そのリゲルのすぐそばから流れ始めます。そこから、うねうねと蛇行しながら南の地平線へと向かって伸びていく星の連なりがエリダヌス座です 。おうし座くじら座の近くをかすめながら、S字を描くように流れていく様子を辿ってみてください 。
ただし、エリダヌス座の全体像を日本から観測するのは非常に困難です。なぜなら、星座の大部分が南の低い空に位置しており、特にその南端は地平線の下に隠れてしまうからです 。この星座の南の終着点に輝くのが、一等星アケルナルです 。アケルナルはアラビア語で「川の果て」を意味し、その名の通り、壮大なエリダヌス川の終点に位置しています 。
このアケルナルは、日本では沖縄や九州南部など、かなり南の地域でないと水平線の上に姿を現しません 。もし、あなたがオーストラリアやニュージーランドなど南半球へ旅行する機会があれば、ぜひ夜空を見上げてみてください。そこでは、日本では決して見ることのできない、雄大なエリダヌス座の全景と、その果てで青白く輝くアケルナルの美しい姿を堪能できるでしょう 。星座観測アプリなどを活用するのも、広大な夜空から目的の星座を見つけ出すための有効な手段です 。

エリダヌス座の一等星アケルナルの意外な素顔


エリダヌス座の南端で輝く一等星アケルナルは、夜空で9番目に明るい恒星として知られています 。しかし、その輝きの裏には、他の星には見られない非常にユニークで驚くべき素顔が隠されています。実はアケルナルは、ただの丸い星ではないのです。
アケルナルの最大の秘密は、その「形」にあります。この星は、とてつもない速さで自転しています。その速さは、赤道付近で秒速250km以上にも達すると考えられています。この驚異的な自転速度によって生じる強力な遠心力のために、アケルナルは完全な球形を保てず、赤道方向に大きく膨らんだ極端な回転楕円体、つまり「かぼちゃ」や「レモン」のような形をしているのです 。
その歪みは驚くべきレベルで、赤道方向の直径は極方向の直径に比べて50%以上も長いと推定されています。これは、もし地球が同じくらい歪んでいるとしたら、エベレストの高さが4,000kmにも達する計算になります。このような極端な形状を持つ星は、そう多くは見つかっていません。
このいびつな形状は、星の表面温度にも影響を与えています。遠心力の影響が少ない極地の温度が約20,000℃に達するのに対し、最も膨らんだ赤道付近の温度は約10,000℃と、大きな温度差が生じていると考えられています 。つまり、アケルナルは見る場所によって明るさや色が違って見える可能性がある、非常に不思議な天体なのです。
さらに、アケルナルは単独の星ではなく、すぐ近くを公転する伴星を持つ「連星」であることも分かっています 。地球から約139光年離れた宇宙に浮かぶ 、この高速回転するかぼちゃ形の星は、エリダヌス座の神話だけでなく、科学的な探究心をも刺激する魅力に満ち溢れています。

国立天文台によるアケルナルの解説ページです。

 

https://www.nao.ac.jp/astro/sky/winter/achernar.html

エリダヌス座と古代エジプト文明の知られざる関係


私たちが親しんでいる星座の物語の多くはギリシャ神話に由来しますが、そのルーツをさらに遡ると、古代メソポタミアや古代エジプト文明に行き着くことが少なくありません 。天文学発祥の地ともいわれるこれらの地域では、占星術や暦のために詳細な天体観測が行われ、現在の星座の原型が作られていました 。エリダヌス座もまた、例外ではありません。
エリダヌス座はギリシャ神話では「川」に見立てられていますが、実は古代エジプトにおいても「川」と結びつけられていました。その川とは、エジプト文明の母なる大河、ナイル川です 。古代エジプトの人々は、夜空を大きく蛇行して流れるエリダヌス座の姿に、自らの文明を育んできた偉大なナイル川を重ね合わせたのです。
ナイル川は、古代エジプトにとって単なる水源以上の意味を持っていました。定期的な氾濫は肥沃な土壌をもたらし、農業を可能にし、文明の礎を築きました。人々の生と死、豊穣と再生のサイクルは、すべてナイル川と共にありました。この地上における生命線の象徴であるナイル川が、天の世界にも存在すると考えたのは、ごく自然な発想だったのかもしれません。
ギリシャ神話のパエトーンの悲劇が星座に投影される以前、古代エジプトの天文学者たちは、南の地平線から昇り、天を横切る星々の流れにナイル川の神聖な姿を見ていたのです。星座という文化が、いかに古い時代から、異なる文明の間で独自の解釈を加えられながら受け継がれてきたかを示す、非常に興味深い一例と言えるでしょう。エリダヌス座を眺めることは、ギリシャ神話の世界だけでなく、さらに数千年を遡る古代エジプトの壮大な宇宙観に思いを馳せる旅でもあるのです。

星座の起源と古代文明の関係について詳しく書かれた書籍の紹介です。

 

星座の起源―古代エジプト・メソポタミアにたどる星座の歴史

エリダヌスという名の競走馬と星座の意外な関係


「エリダヌス」という名前は、神話や星座の世界だけに留まりません。驚くべきことに、日本の競馬界にもその名を持つ馬が存在します。その名も、競走馬エリダヌスです 。
JRA(日本中央競馬会)に登録されているこの馬の名前の由来は、公式情報によると、まさに「エリダヌス座より」とされています 。広大な宇宙に流れる大河の星座の名前が、ターフを駆け抜ける一頭のサラブレッドに与えられているというのは、なんともロマンチックな話ではないでしょうか。
神話の中で太陽の馬車が暴走したように、競馬の世界もまた、力とスピードが支配する厳しい世界です。競走馬エリダヌスは、2022年のデビュー以来、数々のレースに出走し、その名の通り、天を駆けるような走りを見せてきました 。その戦績は、勝利の栄光もあれば、惜しくも敗れる悔しさもあり、まさにドラマに満ちています。
星座や神話に由来する名前を持つ競走馬は他にもいますが、「エリダヌス」という、日本では全体を見ることが難しい南天の星座から名付けられた例は、特にユニークと言えるでしょう。この馬の馬主や生産者が、夜空に輝くエリダヌス座に 어떤想いを馳せ、その名を授けたのか、想像が膨らみます。
もし競馬に興味を持つ機会があれば、ぜひ「エリダヌス」という名前を探してみてください。その走りの向こうに、夜空を壮大に流れる川と、太陽の馬車を巡る古代の物語が見えてくるかもしれません。天文学と競馬という、一見すると全く異なる世界が、「エリダヌス」という一つの名前によって結びついているという事実は、私たちの日常に隠された意外な面白さを示唆してくれます。

 

 


エリダヌス座シータ 1 (バンブー・コミックス)