おうし座の最も有名な神話は、ギリシャ神話の最高神ゼウスが美しいフェニキア王女エウロパに恋をして、白く美しい牡牛に姿を変えた物語です。野原で花を摘んでいたエウロパは、雪のように真っ白で優しい瞳をたたえた牡牛を見つけ、その背に乗ってしまいます。すると牡牛は突然走り出し、山を越え海を渡ってクレタ島まで連れ去ったのです。そこでゼウスは正体を明かし、エウロパを我が物としました。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/ousi.shtml
この牡牛の姿こそが、現在の夜空に輝くおうし座として描かれています。興味深いことに、ゼウスがエウロパを連れて行った大陸が、彼女の名前にちなんで「ヨーロッパ大陸」と呼ばれるようになったという伝説も残されています。ゼウスは白鳥の姿でスパルタ王妃レダに近づいたこともあり、動物に変身して女性に近づくのはゼウスの常套手段でした。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology_11.html
この神話は古代から語り継がれ、星座の成り立ちとともに多くの芸術作品のモチーフにもなってきました。
おうし座にはもう一つの神話があり、それは川の神イナコスの娘イオが牛の姿に変えられてしまった悲劇的な物語です。イオはゼウスの妻ヘラの神殿に仕える美しい女性でしたが、ゼウスに愛されてしまいます。ヘラは夫の浮気に気づき、嫉妬からイオを1頭の牛の姿に変えてしまいました。
参考)牡牛座(おうし座)の神話を簡単で読みやすく物語形式で紹介!!…
牛に変えられたイオは牛舎に閉じ込められ、体中に100の目を持つ怪物アルゴスに監視されます。アルゴスは98の目が眠っても、残り2つの目で常に辺りを見張っているため、イオは逃げることができません。困り果てたゼウスは伝令神ヘルメスに救出を命じ、ヘルメスは眠りの神ヒュプノスが作った魔法の笛でアルゴスの全ての目を眠らせることに成功します。
イオは無事に救出されますが、この時の牛の姿がおうし座になったとも伝えられています。また、100の目を持つアルゴスはその後クジャクに生まれ変わり、クジャクの羽の模様が100の目に見えるようになったという言い伝えも残されています。
おうし座を構成する最も目立つ星は、赤く輝く1等星アルデバランです。アルデバランという名前はアラビア語で「後から続くもの」を意味し、プレアデス星団の後に昇ってくることから名付けられました。この星はおうし座の牡牛の右目の位置に輝き、視等級は約0.85で全天21個ある1等星の一つです。
参考)おうし座(牡牛座)|やさしい88星座図鑑
プレアデス星団(すばる)は、おうし座の背中の位置で輝く最も美しい散開星団の一つです。肉眼でも6~7個の星が集まって見え、全体としては1等星ほどの明るさで輝きます。ギリシャ神話では、プレアデスは巨人アトラスとプレイオネの間に生まれた美しい7人の娘として伝えられています。日本では古来「すばる」や「むつらぼし」という名前で親しまれてきました。
参考)星座八十八夜 #44 大神ゼウスの化身の白い牛「おうし座」 …
アルデバランの近くにはV字型に広がるヒアデス星団があり、これがおうし座の顔の部分を形作っています。ヒアデス星団は地球から約150光年の距離にある散開星団で、地球に最も近い散開星団の一つです。アルデバランはこの星団の中で輝いているように見えますが、実際には手前にあり星団とは無関係です。
参考)星の世界「プレアデス星団を見よう」
おうし座の2番目に明るい星は、牡牛の角の先端に位置する2等星エルナト(おうし座β星)です。エルナトという名前はアラビア語の「アン=ナトフ」に由来し、「角で突くこと」を意味しています。この星は視等級1.65で白く輝き、地球から約134光年の距離にあります。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/huyu/ousimain.shtml
興味深いことに、エルナトはかつてぎょしゃ座の五角形を構成する星の一つとしても扱われていました。現在では正式におうし座に属していますが、両方の星座に関連する珍しい位置にあります。エルナトは特異星に分類され、特に水銀・マンガン星として知られています。太陽と比べてマンガンの含有率が20倍も高く、カルシウムとマグネシウムは8分の1と低い特徴を持ちます。
参考)おうし座ベータ星とは - わかりやすく解説 Weblio辞書
おうし座の角は左上に2本伸びており、このV字型の配置がおうし座を見つける際の重要な目印となります。中心核では水素による核融合が終わりに近づいており、今後200万年以内に主系列から進化して橙色の巨星になると予測されています。
参考)おうし座 - 冬の星座 - 星空 - Yahoo!きっず図鑑
おうし座には印象的な天体として、かに星雲(M1)が存在します。この星雲はおうし座の角の先端ζ(ゼータ)星の北1.5°のところに位置し、超新星爆発の残骸として知られています。西暦1054年に出現したおうし座超新星の残骸で、その記録は中国や日本に残されており、日本では鎌倉時代の歌人・藤原定家の「明月記」にも記載されています。
参考)http://www.starclick.ne.jp/backnumber/1999win/taurus/taurus5.html
この超新星爆発は太陽の数億倍という光とエネルギーを一気に放出する大爆発で、昼間の空でも見ることができたほど明るく輝いていました。藤原定家の記録には、木星ほどの明るさの見慣れない星が現れて輝いていたと記されています。現在のかに星雲は肉眼では確認できませんが、口径10cmクラスの望遠鏡で倍率を50倍程度にすると、ひし形のような形をしたわたがしのような淡い星雲が見えてきます。
かに星雲は電波からX線までさまざまな波長の光で明るく輝いており、中心には周期33ミリ秒で高速回転する中性子星(パルサー)が存在します。夜空が暗く大気が安定している時に口径20cm程度の望遠鏡で観察すると、もやもやとした突起状の筋が周辺に伸びている様子が確認でき、佐渡島のような形をした淡い星雲の姿が見えます。
参考)超新星残骸 M1 (かに星雲) - ぐんま天文台
群馬県立ぐんま天文台 - M1かに星雲の詳細な観測情報と画像
おうし座は冬の代表的な星座で、11月から2月頃の夜空で観察しやすい位置にあります。見つけ方の基本は、まず冬の星座の目印であるオリオン座の三ツ星を探すことです。オリオン座の三ツ星から右方向(西側)に視線を移すと、オレンジ色に近い赤い色で輝く1等星アルデバランが見つかります。
参考)夜空にぬっと巨体を突き出すおうし座。その姿には太古の信仰と祭…
アルデバランの周辺でアルファベットのV字型に星を結ぶと、おうし座の顔の部分が浮かび上がります。このV字はヒアデス星団を形作っており、牡牛の顔を表現しています。顔のすぐ右上(北西方向)をよく見ると、星がたくさん集まっているプレアデス星団(すばる)が確認できます。プレアデス星団は肉眼でも6~7個の星が見え、冬の初めに東の空から昇ってくる最初の目印となります。
参考)https://kumanichi.com/assets/page/myseiza_03.pdf
おうし座は大きな星座で、星空の綺麗な場所で星を繋いでいけば、雄牛の形を簡単に連想することができます。V字を伸ばした左上には2本の角が伸びており、その先端にはエルナトが輝いています。黄道十二宮の一つでもあるため、星座占いの世界でもよく知られており、非常に古い歴史を持つ星座として親しまれています。
参考)https://www.astroshop-tomita.com/post/%E5%86%AC%E3%81%AE%E6%98%9F%E5%BA%A7-%E3%81%8A%E3%81%86%E3%81%97%E5%BA%A7
📊 おうし座の主要な構成星
| 星の名前 | 等級 | 色 | 距離 | 位置 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| アルデバラン(α星) | 1等星 | 赤橙色 | 約65光年 | 牡牛の右目 |
「後から続くもの」の意味 |
| エルナト(β星) | 2等星 | 白色 | 約134光年 | 角の先端 | 水銀・マンガン星 |
| プレアデス星団 | 1等星相当 | 青白色 | 約440光年 | 背中の位置 | 7姉妹の伝説 |
| ヒアデス星団 | 複数星 | 様々 | 約150光年 | 顔の部分 | 最も近い散開星団 |
🌟 おうし座観察のベストタイミング
参考)おうし座にまつわるお話
おうし座は黄道十二星座の一つとして古代から重要視され、バビロニアやエジプトなど多くの文明で牡牛の象徴として描かれてきました。その美しい星の配置と豊かな神話は、今も多くの星空愛好家を魅了し続けています。