夜空に輝く星々の位置を正確に示すため、天文学では「天球」という巨大な仮想の球体を想定します 。そして、その天球上に引かれた最も重要な基準線の一つが「天の赤道」です 。
これは、私たちが住む地球の赤道を、そのまま宇宙空間にまでぐーっと拡大して天球に貼り付けた大円だと考えてください 。地球の赤道が北半球と南半球を分けるように、天の赤道は天球を「天の北半球」と「天の南半球」に分けています 。
この天の赤道を基準(0度)として、天体の南北方向の位置を示すのが「赤緯(せきい)」です。これは地上の緯度に相当します 。そして、東西方向の位置を示すのが「赤経(せきけい)」で、地上の経度にあたります 。赤経のスタート地点(0時)は、天の赤道と後述する「黄道」が交わる「春分点」に定められています 。
つまり、天の赤道は、広大な宇宙で天体の住所を表すための、いわば「基準となる大通り」のような存在なのです。私たちが普段見ている星々も、すべてこの天の赤道を基準とした住所(赤経・赤緯)を持っているのです。
この天の赤道は、地球の自転軸に対して垂直な面であるため、地球の自転とともに動くように見えますが、天球上では固定された線として扱われます 。星空観察の際には、この天の赤道をイメージできると、星々の動きがより立体的に理解できるようになります。
天の赤道や天球座標について、図解でさらに理解を深めたい方は以下のサイトが参考になります。
「黄道(こうどう)」とは、地球から見て、太陽が1年をかけて天球上を移動していく「見かけ上の通り道」のことです 。もちろん、実際に太陽が動いているわけではありません。地球が太陽の周りを公転しているため、地上にいる私たちからは、太陽が星座の間をゆっくりと移動しているように見えるのです 。
この黄道は、いわば「太陽専用の道」です。地球の公転軌道面を天球にまで延長したもの、と表現することもできます 。太陽は毎日約1度ずつ東へ移動し、1年(約365日)かけて黄道を一周し、元の位置に戻ってきます 。
そして、この黄道上に位置している12個の星座が、星占いでおなじみの「黄道12星座」です 。古代の人々は、太陽がどの星座の近くに見えるかによって、1年を12の季節に分け、暦として利用していました 。例えば、太陽がおひつじ座の方向にある時期が、春の始まりとされていたのです。
黄道も天の赤道と同様に、天体の位置を示す基準として使われることがあります。黄道を基準とした座標系を「黄道座標系」といい、「黄経(こうけい)」と「黄緯(こうい)」で天体の位置を表します 。主に太陽系の惑星や彗星など、黄道面に比較的近い軌道を持つ天体の位置を示す際に便利です 。
面白いことに、月食や日食といった現象もこの黄道が深く関わっています。月の通り道である「白道(はくどう)」が黄道と交差するタイミングで、満月または新月が起こると、月食や日食が発生するのです 。
より詳しい黄道の説明については、以下のリンクで分かりやすく解説されています。
ここまで、天の赤道が「地球の赤道」基準の線、黄道が「太陽の通り道」基準の線であることを解説しました。この二つの線は、実は同じ平面上にはありません。地球の自転軸(地軸)が、公転面に対して約23.4度傾いているため、天の赤道と黄道も同じく約23.4度の角度で交差しているのです 。
この2つの円が交わる点は2つあります。それが「春分点(しゅんぶんてん)」と「秋分点(しゅうぶんてん)」です 。
これらの点は、私たちの生活に身近な「季節」の定義において、非常に重要な役割を果たしています。
さらに、黄道が天の赤道から最も北に離れる点を「夏至点(げしてん)」、最も南に離れる点を「冬至点(とうしてん)」と呼びます 。太陽がこれらの点を通過する日が、それぞれ「夏至」と「冬至」です。このように、天の赤道と黄道の位置関係が、地球上の季節の移り変わりを生み出しているのです。
| 特徴 | 天の赤道 | 黄道 |
|---|---|---|
| 基準 | 地球の赤道面 | 地球の公転面(太陽の見かけの通り道) |
| 座標系 | 赤道座標(赤経・赤緯) | 黄道座標(黄経・黄緯) |
| 傾き | 黄道に対して約23.4度傾いている | 天の赤道に対して約23.4度傾いている |
| 交点 | 春分点、秋分点 | |
| 関連天体 | すべての天体の位置基準 | 主に太陽、月、惑星、黄道12星座 |
天の赤道や春分点の位置は、実は永遠に不変というわけではありません。非常にゆっくりとした周期ですが、少しずつズレていく「歳差(さいさ)運動」という現象が存在します 。
これは、地球が完全な球体ではなく、赤道部分が少し膨らんだミカンのような形をしていることが原因です。この膨らみに対して、太陽や月の引力が影響し、地球の自転軸がまるで回転するコマの首振り運動のように、ゆっくりと円を描くように動くのです 。この首振りの周期は非常に長く、約25,800年かけて1周します 。
この歳差運動により、天の赤道と黄道の交点である春分点が、黄道上を少しずつ西向きに移動していきます 。その速さは1年で約50秒角(1度を3600分割した単位)というわずかなものですが、長い年月をかけて大きな影響を及ぼします。
最も有名な影響が「星座占いのズレ」です。約2000年前に黄道12星座が定められた時代、春分点は確かにおひつじ座にありました。しかし、歳差運動によって春分点が移動した結果、現在の春分点はうお座にあります。そして、西暦2600年頃にはみずがめ座へと移っていきます。
つまり、現代の一般的な星座占いで「私はおひつじ座」と言っている人の誕生日に、太陽が実際に見えている方向にあるのは、おひつじ座ではなく、うお座なのです。これは、占星術が約2000年前の星空を基準にしているため起こる現象です。
さらに、この歳差運動は「北極星」も変えてしまいます。現在はこぐま座の「ポラリス」が天の北極(地軸の延長線上)に最も近い星ですが、紀元前3000年頃の古代エジプトでは、りゅう座の「トゥバン」という星が北極星でした。そして、今から約12000年後には、こと座の1等星「ベガ」が北極星になると予測されています。夜空の絶対的な目印だと思っていた北極星が、実は時代によって移り変わるというのは、宇宙の壮大さを感じさせる話です。
歳差運動の仕組みについては、以下の国立天文台のページが専門的で信頼できます。
太陽の通り道である黄道には、実は12星座だけでなく、13番目の星座が存在することをご存知でしょうか。それが「へびつかい座」です 。
天文学的に見ると、太陽は11月30日から12月18日頃にかけて、さそり座といて座の間にある「へびつかい座」の領域を通過しています。黄道がこの星座の領域を横切っているため、「へびつかい座」もまた、まぎれもない「黄道星座」の一つなのです 。
ではなぜ、星座占いでは「へびつかい座」は無視され、12星座として扱われるのでしょうか?
その理由は、占星術が誕生した古代バビロニア時代に遡ります 。当時、メソポタミア文明では1年を12ヶ月とする暦が使われていました。彼らは、黄道上の星座を暦に合わせて12等分し、それぞれの月に星座を割り振ることで「黄道12星座」という概念を作り上げたのです 。
当時の天文学では、星座の領域は現代ほど厳密に定められておらず、12という数字のほうが暦と一致して都合が良かったため、へびつかい座は意図的に除外されたと考えられています。つまり、天文学的な事実よりも、文化や暦の便宜が優先された結果なのです 。
この事実は、天文学(天体の動きや物理法則を探求する科学)と占星術(星の位置関係から運命などを占う文化)が、似ているようで全く異なるルールに基づいていることを示しています 。
もし、あなたの誕生日が11月30日から12月18日の間なら、天文学的には「へびつかい座」生まれと言えるかもしれません。自分の本当の誕生星座が何なのか、調べてみるのも面白いでしょう。