ちょうこくぐ座は、ギリシア神話に登場しない比較的新しい星座です。この星座は、18世紀のフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカイユ(1713-1762年)によって1750年代に設定されました。ラカイユはアフリカ大陸南端のケープタウンに滞在し、南天の天体を観測した際に、星座のない領域を埋めるために17種類の新しい星座を作りました。
参考)ちょうこくぐ座ってどんな星座?【神話も紹介】
当初この星座はフランス語でLe Burins(ル・ビュラン)、ラテン語でCaelum Sculptoris(カエルム・スクルプトーリス)と名付けられ、「金属彫刻用のみ座」と呼ばれていました。現在では「彫刻用ののみ」や「たがね」を意味するラテン語のcaelumから、ちょうこくぐ座として設定されています。
参考)ちょうこくぐ座 - Wikipedia
星座絵に描かれている彫刻具は、金属や石を彫る時に用いる硬化鋼でできた「のみ」や「たがね」のような道具で、2本を交差するように置いて真ん中を紐で結び、まるでハサミのように描かれています。ラカイユがこの星座を含む南天の星座群に芸術や科学にちなんだ名前をつけたのは、祖国フランスに花咲いた芸術文化を記念したものであろうと言われています。
参考)https://mirahouse.jp/begin/constellation/Caelum.html
ちょうこくぐ座は88星座の中で8番目に面積の狭い星座で、125平方度の領域しかありません。星座を構成する星はいずれも暗く、最も明るい星でも4等星のα(アルファ)星で、他は3つの5等星と6等星以下の星々から構成されています。
参考)ちょうこくぐ座とは?見つけ方や見どころ
ちょうこくぐ座α星は、この星座で最も明るい恒星で、視等級4.45等の二重星です。固有名はついていません。α星Aは黄白色の主系列星(F2V型)で、表面温度は約6,991K、質量は太陽の約1.48倍、半径は太陽の約1.3倍です。地球からの距離は約65.8光年で、年齢は約9億年と比較的若い星です。
参考)ちょうこくぐ座アルファ星 - Wikipedia
伴星のα星Bは赤色矮星(M0.5型)で、12.5等級の閃光星です。くじら座UV型変光星に分類され、光度がランダムに変化します。主星と8.6秒離れて見え、軌道長半径は206天文単位と推定されています。
参考)ちょうこくぐ座アルファ星とは - わかりやすく解説 Webl…
ちょうこくぐ座γ星は4.574等の主星Aと8.07等の伴星Bからなる連星で、はと座との境界線近くに位置しており、その大きな固有運動により2400年頃に境界線を越えてはと座の領域の星となる見込みです。
星の並びは平仮名の「く」の字を左右にひっくり返したような形を描いており、この姿から「のみ」や「たがね」を想像することは難しい配置となっています。
参考)http://yumis.net/space/star/south/cae.htm
ちょうこくぐ座は南天の星座で、オリオン座の足元で輝くはと座よりもさらに南に位置しています。日本では北海道南部以南で全体を見ることができますが、領域が狭く明るい星もないことから非常に目立たない星座です。観測に適した時期は冬で、20時に南中するのは1月29日頃、1月15日の21時正中となります。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology_49.html
日本からは地平線ギリギリ、南中高度が約17度程度にしか見えないため、星座の星々を実際に見ることは困難です。うさぎ座のずっと南の低い位置に見られますが、暗い星ばかりで星の並びも目立ちません。
ちょうこくぐ座をはっきりと見ようと思えば、南半球まで出かけるのがベストですが、明るい星が全くない星座のため、星図を片手に探してもわかりにくい星座です。実際にニュージーランドのテカポ湖で観測した記録でも、同じような明るさの星が多く、どれがちょうこくぐ座に属する星かもよくわからなかったという報告があります。
位置の目安としては、概略位置が赤経4h50m、赤緯-38度付近で、隣接する星座はとして、はと座、うさぎ座、エリダヌス座、とけい座、かじき座、がか座があります。最も明るいα星でさえ4.4等星という明るさですから、満天の星の中で探すのは至難の業となります。
参考)ちょうこくぐ座の天体と位置がわかる星図や写真|天体写真ナビ
ちょうこくぐ座にはメシエ天体は存在せず、小望遠鏡で見るべき観察対象にあまり恵まれていません。しかし、いくつかのNGC天体が観測対象となっています。
参考)冬の星座|星空大全 書籍連動 天体観測編
主な観測対象として、NGC1572とNGC1679が挙げられます。これらは綺麗な銀河ですが、いずれも非常に小さく見えるため、観測には大口径の望遠鏡が必要です。その他にも、NGC1567、NGC1570、NGC1571、NGC1585、NGC1595、NGC1598、NGC1616、NGC1658、NGC1660、NGC1668、NGC1687、NGC1701、NGC1759などの銀河が散在していますが、どれも小さな銀河ばかりです。
また、IC天体としてはIC2068、IC2106などの銀河も確認されています。星座の中には見応えのある星団や星雲もなく、天文ファンの間でも注目度が低い星座となっています。観測対象としては重星が2つピックアップされている程度で、一般的な天体観測においては優先度の低い領域となっています。
星座占いの世界では、誕生日に太陽と一緒に昇ってくる星を「誕生日星」と呼び、その日に生まれた人の守護星として人生を象徴すると言われています。
参考)ちょうこくぐ座「Caelum (カエルム)」の探し方や神話と…
ちょうこくぐ座α星(アルファ・カェリー)は、6月2日の誕生日星となっています。この星の星言葉は「独特で斬新な感覚」とされ、この日に生まれた人の特徴として、豊かな個性を持つ、発想も及ばないアイデアが浮かぶ、人とは全く違う個性を持っているという傾向があるとされています。
ちょうこくぐ座は比較的歴史が新しい星座であり、神話などもないため、誕生日星の解釈では6月2日生まれの人の運勢を中心に展開されます。この星座が持つ「彫刻具」というモチーフは、何かを創造する、形作るという意味合いから、創造性や独自性といった解釈に結びついているのかもしれません。
肉眼での観測は困難な暗い星ですが、自分の誕生日星として意識してみると、夜空を見上げる楽しみが一つ増えることでしょう。