スペクトル分類で知る星の色と温度とOBAFGKMと進化

この記事では、恒星のスペクトル分類を通じて、星の色や表面温度、OBAFGKM型といった分類の基本から、星の進化の謎を解き明かします。夜空の星々の多様性は、一体何によって決まるのでしょうか?

スペクトル分類と星の関係

この記事でわかること
🌡️
星の温度と色

スペクトル分類の基本であるOBAFGKM型と、それが示す星の表面温度や色の関係を解説します 。

⚖️
星の質量と寿命

HR図を用いて、スペクトル分類が星の質量や進化、そして寿命とどのように関連しているかを読み解きます 。

👩‍🔬
分類法の歴史

現代のスペクトル分類の基礎を築いた、アニー・ジャンプ・キャノンをはじめとする女性天文学者たちの功績に迫ります 。

スペクトル分類の基本 OBAFGKM型と星の温度

 


夜空に輝く星々は、一見すると同じように見えますが、実は一つ一つ個性豊かです 。その個性を解き明かす鍵となるのが「スペクトル分類」です 。スペクトル分類とは、恒星から届く光をプリズムのように波長ごとに分け(これをスペクトルと呼びます)、その光の成分を分析して星を分類する方法です 。スペクトルには、星の大気中の原子や分子によって特定の波長の光が吸収された「吸収線」が現れ、この吸収線の種類や強さが星の表面温度を知る手がかりとなります 。
現在、最も広く使われているのは「ハーバード分類」または「MK分類」と呼ばれる方法で、星を表面温度の高い順にO、B、A、F、G、K、Mの7つの主要な型に分類します 。これは「Oh, Be A Fine Girl/Guy, Kiss Me」という覚え方で有名です 。さらに、各アルファベットを0から9までの数字で10段階に細分化し、より詳細な温度を示します(例:G2型)。私たちの太陽は「G2型」に分類される、ごく平均的な星です 。
以下に、主要なスペクトル型とその特徴をまとめました 。
  • 🔵 **O型星**: 表面温度は30,000K以上と非常に高温で、青色に輝きます 。質量も太陽の16倍以上と非常に大きく、光度も極めて高いですが、その分寿命は数百万年と非常に短いです 。
  • ⚪ **B型星**: 表面温度は10,000K~30,000Kで、青白い色をしています 。
  • ⚪ **A型星**: 表面温度は7,500K~10,000Kで、白色に輝きます 。水素の吸収線が最も強く現れるのが特徴です 。
  • 🟡 **F型星**: 表面温度は6,000K~7,500Kで、黄白色をしています 。
  • 🟡 **G型星**: 表面温度は5,200K~6,000Kで、太陽もこの仲間で黄色い星です 。カルシウムの吸収線が強く見られます 。
  • 🟠 **K型星**: 表面温度は3,700K~5,200Kで、オレンジ色に見えます 。
  • 🔴 **M型星**: 表面温度は3,700K以下と最も低く、赤色をしています 。低温なため、酸化チタンなどの分子による吸収線が多く見られます 。

近年では、M型星よりさらに低温の天体として、L型、T型、Y型の褐色矮星なども発見されています 。これらは星と惑星の中間的な存在と考えられています 。

国立天文台のウェブサイトでは、MK分類についてさらに詳しく解説されています。

 

https://oao.nao.ac.jp/stock/term/mk/

スペクトル分類でわかる星の色とウィーンの変位則


星の色がスペクトル型、つまり表面温度によって決まることは前述の通りです 。高温の星ほど青白く、低温の星ほど赤く見えるこの現象は、物理学の「ウィーンの変位則」によって説明できます 。この法則は、物体が放射する光のエネルギーが最大になる波長(最も強く輝く光の色)は、その物体の温度に反比例するというものです 。
数式で表すと「λ_max = b / T」となります。ここでλ_maxはピーク波長、Tは絶対温度、bはウィーンの変位定数と呼ばれる定数です 。恒星は物理学的には「黒体」という理想的な物体に非常に近い性質を持っているため、この法則がよく当てはまります 。
具体的には、以下のように対応しています 。
  • 🌡️ **高温のO型・B型星**: 表面温度が高いため、エネルギーが最大になる波長は短く、スペクトルの青色側に偏ります 。そのため、私たちの目には青白く見えます 。
  • 🌡️ **中温のG型星(太陽など)**: 黄色や白色の光を最も強く放射するため、黄色く見えます 。
  • 🌡️ **低温のK型・M型星**: 表面温度が低いため、エネルギーが最大になる波長は長く、スペクトルの赤色側に偏ります 。そのため、赤みがかって見えます 。

つまり、夜空で星の色を見分けることは、その星の表面温度を推測していることと同じなのです 。例えば、冬の夜空で青白く輝くおおいぬ座シリウス(A型星)は高温の星であり、赤く見えるオリオン座ベテルギウス(M型星)は低温の星であることが色から判断できます 。このように、物理法則を知ることで、星空の楽しみ方が一層深まるでしょう 。

スペクトル分類とHR図で読み解く恒星の質量と進化と寿命


スペクトル分類は星の温度を示すだけでなく、星の質量、明るさ(光度)、そして進化段階を理解するための非常に重要な手がかりとなります 。これらの関係性を一覧できるようにしたものが「HR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)」です 。HR図は、縦軸に星の絶対等級(明るさ)、横軸にスペクトル型(表面温度)をとって、星をプロットしたグラフです 。
HR図を見ると、星々はランダムに分布しているわけではなく、いくつかのグループに分かれていることがわかります 。
  • 🌟 **主系列星**: 図の左上から右下にかけて帯状に分布するグループで、恒星が一生の約90%を過ごす安定した段階です 。O型星のように高温で明るい星は左上に、M型星のように低温で暗い星は右下に位置します 。太陽もこの主系列星の一つです 。
  • 🌟 **巨星・超巨星**: 主系列の右上には、低温(赤色)でありながら非常に明るい星々が分布しています 。これらは主系列の段階を終え、外層が大きく膨張した「赤色巨星」や「赤色超巨星」です 。
  • 🌟 **白色矮星**: 図の左下には、高温でありながら非常に暗い星々が存在します 。これらは星が一生を終えた後の「燃えかす」である「白色矮星」です 。

HR図からわかる最も重要なことの一つが、星の質量と寿命の関係です 。主系列星では、質量が大きい星ほど核融合反応が激しく進むため、光度が非常に高くなります 。燃料(質量)は多いものの、その消費率(光度)が桁違いに大きいため、結果として寿命は劇的に短くなります 。星の寿命は、おおよそ質量のマイナス2乗から3乗に反比例すると言われています 。例えば、太陽の寿命が約100億年なのに対し、太陽の10倍の質量の星の寿命はわずか数千万年しかありません 。逆に、太陽の半分の質量の星は、数千億年という宇宙の年齢よりも長い寿命を持つと考えられています 。

天文学辞典では、HR図が恒星の進化を理解する上でいかに重要かが解説されています。

 

https://astro-dic.jp/hr-diagram/

スペクトル分類を支えた女性天文学者とハーバード分類の歴史


今日私たちが当たり前のように使っている恒星のスペクトル分類ですが、その礎を築いたのは、20世紀初頭のハーバード大学天文台で活躍した女性天文学者たちでした 。中でも特筆すべきは、アニー・ジャンプ・キャノン(Annie Jump Cannon)の功績です 。彼女は、生涯で35万個以上もの星のスペクトルを驚異的な速さと正確さで分類し、現在のOBAFGKMによる「ハーバード分類」を確立しました 。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、天文学の世界は大きな変革期にありました 。写真技術の登場により、かつては一つ一つ望遠鏡で観測していた星々を、写真乾板上に大量に記録できるようになったのです 。ハーバード大学天文台長であったエドワード・ピッカリングは、この膨大な天体写真のデータを整理・分類するために、多くの女性を「コンピューター(計算手)」として雇用しました 。当時、女性が専門職に就く機会は非常に限られており、この仕事は男性研究者に比べて低い賃金でした 。
キャノンもその一人として、1896年にハーバード大学天文台のスタッフとなりました 。彼女たちは、男性天文学者が観測した写真乾板上のスペクトルを地道に分析し、分類するという、忍耐と集中力を要する作業を担いました 。当初の分類法は複雑でしたが、キャノンは星のスペクトルが主に表面温度によって決まることを見抜き、吸収線の特徴に基づいてOBAFGKMのシンプルな系列に再編成しました 。彼女の分類法は非常に合理的で使いやすかったため、すぐに国際的な標準として採用されることになりました 。
キャノンの業績は「ヘンリー・ドレイパーカタログ」としてまとめられ、現代天文学の基礎データとして今なお活用されています 。彼女の功績を称え、米国天文学会は若手の女性天文学者に贈る「アニー・J・キャノン賞」を創設しました 。星座を見上げる時、その星の分類の裏には、キャノンのような先駆者たちの情熱と献身があったことに思いを馳せてみてはいかがでしょうか 。

スペクトル分類の吸収線からわかる星の大気の元素


スペクトル分類が星の温度を教えてくれるのは、スペクトルの中に刻まれた「吸収線」のおかげです 。星の中心で核融合によって生み出された光は、星の表層にあるガス層(大気)を通過してきます 。この時、大気中に存在する特定の原子やイオンが、それぞれ固有の波長の光を吸収するため、その部分だけ光が弱くなります 。これが、スペクトル上では暗い線、すなわち吸収線として観測されるのです 。
どの元素が吸収線を形成するかは、星の大気の温度に大きく左右されます 。
  • ⚛️ **高温の星(O型、B型)**: 温度が高すぎるため、水素原子でさえ電子が剥ぎ取られた電離状態にあります 。そのため、中性水素原子による吸収線は弱く、代わりにヘリウムイオンなどの吸収線が見られます 。
  • ⚛️ **中温の星(A型)**: 表面温度が約10,000KのA型星では、中性の水素原子が光を吸収するのに最適な状態となります 。そのため、水素原子の吸収線(バルマー線)が最も強く現れるのが特徴です 。
  • ⚛️ **太陽のような星(G型)**: 水素線はA型星より弱くなりますが、代わりにカルシウムイオン(Ca II H線・K線)や、鉄などの中性金属原子による無数の吸収線が見られるようになります 。
  • ⚛️ **低温の星(K型、M型)**: 温度が低いため、原子同士が結合して分子を形成することができます 。そのため、酸化チタン(TiO)やバナジウムオキシド(VO)といった分子による幅広い吸収帯(分子バンド)がスペクトルを覆い尽くすようになります 。

このように、スペクトルに現れる吸収線のパターンを調べることで、私たちは遠く離れた星の大気に含まれる元素の種類だけでなく、その星の正確な表面温度まで知ることができるのです 。かつては星の構成元素を知ることなど不可能だと考えられていましたが、スペクトル分析という手法が、宇宙の化学組成を解き明かす扉を開いたと言えるでしょう 。

 

 


はじめての小惑星ガイド: スペクトル分類から小惑星族まで Leo Yoshida の宇宙ガイド