アルデバランという名称は、アラビア語の「アッ=ダバラーン」(الدبران)に由来します。この言葉は「後に続くもの」「追跡者」という意味を持ち、同じおうし座に位置するプレアデス星団(すばる)よりも少し遅れて東の地平線から昇ってくることから名付けられました。
参考)アルデバラン|日本大百科全書・世界大百科事典|ジャパンナレッ…
日本でも同様の観察から「すばるの後星」「後追い星」という和名があります。ヨーロッパでは、この名前が10-11世紀のアストロラーブに関する著作に既に登場しており、現在の「Aldebaran」という綴りが定着したのは17世紀初頭のバイエル以後です。
参考)アルデバランとは何? わかりやすく解説 Weblio辞書
アラビアの天文学者たちは、この星が実際にプレアデス星団を「追いかける」ように夜空を移動する様子を観察し、非常に詩的な名前を与えました。この名前は現在でも世界中で使用されており、天文学の歴史における文化的な繋がりを示す重要な例となっています。
アルデバランとプレアデス星団の位置関係は、この星の名前の由来そのものです。プレアデス星団は約6千万から1億歳の若い青白い星の集団で、おうし座の肩にあたる位置に輝いています。一方、アルデバランは地球から約68光年の距離にあり、プレアデス星団の約440光年よりもはるかに手前に位置しています。
参考)おうし座 山形新聞連載「星空案内」;柴田晋平著
視覚的には、プレアデス星団が先に東の地平線から昇り、その後をアルデバランが追いかけるように昇ってきます。この天文現象は、古代の人々にとって季節の変化を知らせる重要な指標でした。
参考)アルデバラン(あるでばらん)とは? 意味や使い方 - コトバ…
アルデバランの近くには、V字型に配列したヒアデス星団もあります。見た目ではアルデバランがヒアデス星団の中に位置しているように見えますが、実際にはアルデバランは距離が65光年ほどで、150光年の距離にあるヒアデス星団とは無関係です。
参考)http://www.starclick.ne.jp/backnumber/1999win/taurus/taurus4.html
アルデバランは、数千年にわたって世界中の古代文明で観察され、尊敬されてきました。紀元前3000年頃のバビロニアでは「星の中の導き星」として知られ、おうし座の到来が春分を意味し、バビロニアの年の始まりを示す重要な天体でした。
ペルシャでは、アルデバランは四季を象徴する四大王星の一つとして位置づけられ、レグルス、アンタレス、フォーマルハウトと共に特別な地位を与えられていました。メソポタミアの人々はこの星を「光の使者」と呼び、神聖視していました。
中世ヨーロッパでは「Cor Tauri」(牡牛の心臓)という名前で呼ばれることもありました。また、オーストラリアのアボリジニ文化では、この星は別の男の妻を盗んだ先祖Karambalが煙となって空に輝いているという伝説があります。北極のイヌイットの人々は、アルデバランを北極熊として見ていました。
アルデバランはスペクトル型K5III型に属する赤色巨星で、既に主系列星の段階を終えています。表面温度は約3500Kで、太陽の表面温度5778Kよりもかなり低温ですが、その分赤みがかったオレンジ色に輝いて見えます。
参考)http://www.bao.city.ibara.okayama.jp/stardb/gal/data/gal0086.html
この星の直径は太陽の約44-45倍もあり、質量は太陽の約1.16倍です。明るさは太陽の約150倍で、見かけの等級は0.86等級、全天で13-14番目に明るい恒星です。地球からの距離は約65-68光年です。
参考)ヒアデス星団 - Wikipedia
赤色巨星の外層は星の中心から離れているため重力による束縛が弱く、徐々にガスが星から流出していきます。アルデバランも将来的には外層を失い、中心核が露出する段階を迎えると考えられています。
スピリチュアルな観点から見ると、アルデバランは「希望」と「愛」を象徴する星と考えられています。夜空の中で最も明るい星の一つであることから、古来より幸運の星として扱われてきました。
参考)https://ameblo.jp/keikoanaguchi/entry-12375279316.html
占星術の世界では、アルデバランは「ロイヤルスター(王者の星)」の一つとされ、成功、名誉、リーダーシップを象徴するとされています。ペルシャの伝統では四季を守護する四大王星の一つとして、特別な力を持つと信じられていました。
スターシードの概念では、「アルデバラン星人」という存在が語られることがあります。このタイプは想像力が豊かで、視野が広く、過去・現在・未来を併せて考えることができる壮大な想像力を持つとされています。また、人を惹きつける魅力を持ち、リーダー的な存在になりやすいという特徴が挙げられています。
参考)アルデバラン星人とは?使命や能力、性格や外見の特徴【スターシ…
アルデバランは冬の星空で非常に目立つ星であり、初心者でも簡単に見つけることができます。最も確実な探し方は、まず冬の代表的な星座であるオリオン座を見つけることです。
参考)アルデバランとは?特徴や神話、観測方法を解説
オリオン座の三ツ星(ベルト星)を見つけたら、その並びをそのまま西の方へ延長していくと、赤みを帯びた明るい星が見つかります。これがアルデバランです。また、プレアデス星団(すばる)のすぐ近くにある赤い星としても識別できます。
参考)おうし座の探し方|星座を見つけよう
観測に最適な時期は11月から3月で、特に20時から24時頃に南の空に昇る時間帯がベストです。都市部でもよく見えるほど明るいため、特別な機材がなくても肉眼で十分に観察できます。双眼鏡や望遠鏡を使えば、アルデバランの赤みがかった色合いがよりはっきりと観察できます。
アルデバランは冬のダイヤモンドを構成する六つの一等星の一つでもあります。シリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、リゲルと共に大きな六角形を形作り、冬の夜空の最も美しい星の配列の一つとなっています。
参考)冬のダイヤモンド|富山市科学博物館 Toyama Scien…
ギリシャ神話では、おうし座は主神ゼウスが変身した白い牡牛の姿とされています。ゼウスはフェニキアの王女エウロペに一目惚れし、彼女を連れ去るために美しい白い牡牛に変身しました。
参考)すばる星空倶楽部
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エウロペが牡牛の背に乗ると、ゼウスは彼女を乗せて海を渡り、クレタ島へと運びました。この神話から、おうし座は愛とロマンスの象徴ともされています。エウロペとゼウスの間には何人かの子供が生まれ、その中にはミノス王も含まれていました。
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アルデバランは、この天空の牡牛の「燃える目」として描かれることが多く、英語では「bull's eye」(雄牛の目)という呼び名もあります。さらに別の神話では、おうし座はゼウスによって牛に変えられたイオの姿だという解釈もあります。この神話では、ゼウスが妻ヘラの怒りを避けるために、愛人イオを牛に変身させたとされています。
参考)星座八十八夜 #44 大神ゼウスの化身の白い牛「おうし座」 …
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