リギル・ケンタウルスは全天で3番目に明るい恒星で、視等級はマイナス0.27等です。 この星はケンタウルス座のα星として知られ、太陽系からわずか4.3光年という驚くほど近い距離に位置しています。 この距離は全恒星の中で最も近く、夜空に輝く星の中では例外的な近さを誇ります。
リギル・ケンタウルスの明るさは、その距離の近さに由来しています。 絶対等級で見ると4.252等であり、太陽の絶対等級4.8等とほぼ同じレベルです。 つまり、この星は本質的な明るさも太陽に近い、非常に親しみやすい恒星なのです。
興味深いことに、リギル・ケンタウルスは現在も太陽系に接近しつつあり、約2万8000年後には3.1光年まで近づくと考えられています。 この宇宙規模での「ご近所づきあい」は、天文学者だけでなく星座愛好家にとっても魅力的な話題です。
リギル・ケンタウルスは肉眼では一つの星に見えますが、実際には三重連星系です。 主星のα星A(リギル・ケンタウルス)は0等級、第一伴星のα星B(トリマン)は1.4等級で、この二つが互いに公転周期80年で周回しています。
参考)https://turupura.com/guide/star/rigirukento.html
この二つの星は2秒角から22秒角の範囲で離れて見えるため、双眼鏡や5cm程度の望遠鏡があれば容易に分離して観測できます。 α星Aは表面温度5800度の黄色い星で、質量は太陽の1.227倍、大きさは太陽の1.100倍と、太陽に非常によく似た性質を持っています。
参考)ケンタウルス座アルファ星 - Wikipedia
さらに興味深いのは、この連星系から0.2光年離れた位置に存在する第三の伴星、プロキシマ・ケンタウリ(α星C)です。 プロキシマは11等級の赤色矮星で非常に暗く、肉眼では見えませんが、天体力学的な観測から、A・Bと連星系を構成していることが判明しています。
ケンタウルス座は南天の星座で、日本では観測に制限があります。 東京などの本州では地平線近くにケンタウルス座の上半身しか見えませんが、沖縄県まで出かければ全身を観察できます。
参考)ケンタウルス座とは?見つけ方や見どころ
日本でケンタウルス座を観測できる時期は5月から8月頃で、特に6月上旬がおすすめです。 ただし、6月の日本は梅雨の時期にあたるため、晴れた夜空を選ぶ必要があります。ケンタウルス座を見つける際の目印は、二つの1等星、リギル・ケンタウルスとハダル(β星)です。
参考)星空案内 - 2023年5月の星空
リギル・ケンタウルスを天体望遠鏡で観察すると、黄色をした0.0等星の主星とオレンジ色をした1.3等星の伴星からなる美しい二重星であることがわかります。 伴星は主星から11AU(天文単位)離れた位置を約80年かけて周回しており、その姿は天体観測の醍醐味を味わえる対象です。
観測地点としては、北緯29度以南の地域であれば地平線上に昇る姿を捉えられます。 南半球では一年中観測できる星座として親しまれており、ケンタウルス座α星とβ星を結んだ線を延長すると、有名な南十字星を見つける手がかりになります。
参考)Centaurus(ケンタウルス座)【天空に輝く神話の戦士】…
リギル・ケンタウルス星系における惑星の存在は19世紀から議論されてきましたが、実際の発見は21世紀に入ってからです。 2012年、チリのラシーヤ天文台のHARPS(高精度視線速度系外惑星探査装置)を用いた観測で、α星Bの周りを回る惑星が発見されました。
参考)https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/7901
この発見では視線速度法(ドップラーシフト法)が使われ、秒速51cm(時速1.8km)という極めて小さい動きを検出しました。 これは視線速度観測としては史上最高精度の観測であり、惑星探査技術の進歩を象徴する成果です。
さらに注目すべきは、プロキシマ・ケンタウリでの惑星発見です。 2016年にプロキシマ・ケンタウリの周りで地球サイズの惑星Cbが発見され、その後2019年から2020年にかけても複数の惑星候補が報告されています。 プロキシマは赤色矮星であり、生命居住可能な領域に惑星が存在する可能性が研究されています。
参考)302 Found
太陽系に最も近い恒星系であるα星Aにも、生命居住可能な惑星が存在する可能性が調査されています。 太陽とよく似た性質を持つリギル・ケンタウルスAの周りに地球型惑星が発見されれば、将来の惑星探査や生命探索の最重要ターゲットとなるでしょう。
参考)太陽系に近い恒星「ケンタウルス座α星A」に生命居住可能な惑星…
リギル・ケンタウルスという名前は、アラビア語で「ケンタウルスの足」を意味する「rigl qanṭūris」に由来します。 この名前はラテン語の星座名とアラビア語の「足」という言葉が組み合わさった比較的新しいもので、オリオン座β星リゲルと同じ語源を持っています。
参考)Names of stars in Centaurus.
ケンタウルス座そのものは、ギリシャ神話の半人半馬の一族、ケンタウルスを描いた星座です。 ケンタウルス座のモデルになっているのは、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスと関係のあるフォーロスだと伝えられています。
参考)https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/kentaurusu.shtml
神話によれば、ケンタウルス族はテッサリア王の息子イクシオンが大神ゼウスの妃ヘラに思いを寄せたことから誕生しました。 ゼウスが懲らしめのためにヘラの姿をした雲を送り、その雲から生まれたのが半人半獣の姿をしたケンタウルスです。多くのケンタウルスは粗暴でしたが、フォーロスは例外的に礼儀正しい存在でした。
フォーロスはヘラクレスがエリュマントスのイノシシを退治する際に道案内を務めましたが、その後の祝宴で起きた騒動により、流れ矢を受けて命を落としてしまいます。 ヘラクレスは深く後悔し、神々に頼んでフォーロスを星座にしたと伝えられており、これがケンタウルス座の由来となっています。
つるちゃんのプラネタリウム - リギルケンタウルスの詳細解説
リギル・ケンタウルスの物理特性や二重星としての詳しい観測データが掲載されています。
アストロアーツ - プロキシマ・ケンタウリの惑星発見に関する記事
太陽系に最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリでの惑星発見についての詳細情報です。
星座図鑑 - ケンタウルス座の神話と伝説
ケンタウルス座にまつわるギリシャ神話の詳しい物語が紹介されています。