ペロプスとタンタロスの呪い ギリシャ神話の悲劇と戦車競走

ギリシャ神話の英雄ペロプス。彼の名はペロポネソス半島の由来ですが、その生涯は父タンタロスの罪に端を発する呪われたものでした。戦車競走での勝利と裏切り、そして子孫にまで続く悲劇の連鎖。この英雄の栄光と呪われた一族の物語の全貌をご存知でしょうか?

ペロプスの物語

呪われた英雄ペロプスの物語
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父タンタロスの罪

神々を試すため、息子ペロプスを料理して捧げた父。物語はここから始まる。

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戦車競走と裏切り

愛する女性を射止めるための命がけのレース。しかしその勝利には裏切りが隠されていた。

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呪いの連鎖と悲劇

裏切りは新たな呪いを生み、その呪いは子々孫々まで受け継がれ、一族を悲劇に陥れる。

ペロプスの父タンタロスの大罪と神々の罰

 

ギリシャ神話に登場する英雄ペロプスの物語は、彼の父であるリュディア王タンタロスの大罪からその幕を開けます 。タンタロスは全能の神ゼウスの息子とも言われ、神々の寵愛を一身に受ける特別な存在でした 。彼は神々の宴に招かれ、神々しか口にできない不老不死の酒「ネクタル」と食べ物「アムブロシア」を共にすることを許されるほどでした 。しかし、その特別な扱いは次第に彼を傲慢にさせ、取り返しのつかない罪を犯すに至ります。
タンタロスは、神々の全知全能性を試そうという、恐ろしくも不遜な考えに取り憑かれます 。彼は神々を自らの宮殿での宴に招き、その席でとんでもない料理を振る舞いました。それは、なんと彼自身の息子であるペロプスを殺し、その肉を調理したものだったのです 。ほとんどの神々は、その料理が何であるかにすぐに気づき、手をつけませんでした。しかし、一人だけ、娘ペルセポネを冥府の王ハデスに奪われた深い悲しみに沈んでいた女神デメテルだけが、気づかずにペロプスの左肩の肉を口にしてしまったのです 。

 

参考)ペロプス(ぺろぷす)とは? 意味や使い方 - コトバンク

神々はタンタロスの非道な行いに激怒しました。そして、バラバラにされたペロプスを再び生き返らせることにします 。運命の女神の助けを借りて、ペロプスの体は元の姿に戻されました。しかし、デメテルが食べてしまった肩だけは戻しようがありませんでした。そこで、神々はその代わりに輝く象牙でできた肩を与えたと言われています 。この象牙の肩は、ペロプスの子孫にも受け継がれる身体的な特徴となったのです。

 

参考)タンタロスとその息子ペロプス。冥界の下のタルタロスでの永劫の…

一方、大罪を犯したタンタロスには、神々から永遠の罰が下されました 。彼は死後、冥界の最下層であるタルタロスに落とされます 。そこでの彼の罰は、喉の渇きと飢えに永遠に苦しむというものでした。彼の頭上にはたわわに実った果樹の枝が垂れ下がり、足元には清らかな水が湧く湖がありました。しかし、彼が水を飲もうと身をかがめると水は引き、果物を取ろうと手を伸ばすと枝は高く舞い上がってしまい、決して満たされることはないのです 。この神話は、「もどかしい」といった意味を持つ英語の "tantalize" の語源にもなっています。父タンタロスの罪と罰は、ペロプスの一族に暗い影を落とし、これから始まる長い悲劇の序章となったのでした。

 

参考)タルタロス、カオス(混沌)から誕生したギリシャ神話の地獄 -…

参考リンク:タンタロスの罰について、神話の背景と共に詳しく解説されています。

 

神々に愛されたタンタロスの奇妙な行動[永遠の罰]

ペロプスの戦車競走とヒッポダメイアとの結婚

神々の手によって蘇ったペロプスは、立派な青年に成長し、エーリス地方のピサを訪れます 。そこで彼は、王オイノマオスの娘である絶世の美女ヒッポダメイアに一目惚れし、結婚を申し込みます 。しかし、オイノマオス王は娘の求婚者たちに、命がけの戦車競走を課していました。そのルールとは、「王との戦車競走に勝利すれば娘との結婚を認めるが、敗北すればその場で殺される」という過酷なものでした 。
王がこのような試練を課した理由については、いくつかの説が伝えられています。一つは、王自身が娘ヒッポダメイアに恋心を抱いていたためという説 。もう一つは、「娘の夫となる者に殺される」という神託を受けており、それを恐れたためという説です 。いずれにせよ、王は軍神アレスから授かった神馬が引く無敵の戦車を駆り、これまで13人もの求婚者たちを打ち負かし、その命を奪ってきました 。

 

参考)戦車競走 - Wikipedia

挑戦者にとって絶望的とも思えるこの状況で、ペロプスは知恵を巡らせます。彼は海神ポセイドンから授かったという翼の生えた馬、あるいは黄金の戦車を持っていたとも言われていますが 、それでも正攻法では勝てないと考えたのかもしれません。ペロプスは、オイノマオス王の御者(戦車の操縦士)であったミュルティロスに密かに接触し、買収を試みます 。ミュルティロスもまた、かねてからヒッポダメイアに想いを寄せていました。ペロプスはそんな彼の心を見抜き、「競走に勝てたら、王国の半分と、ヒッポダメイアとの初夜の権利を譲る」という破格の条件を提示し、協力を約束させたのです 。

 

参考)「呪われた一族」(タンタロスの裔・ペロプスの一族)……『オレ…

この取引に応じたミュルティロスは、主君であるオイノマオスの戦車に細工を施します。戦車の車輪を車軸に固定している青銅製の留め具を抜き取り、代わりに蜜蝋で作った偽物の留め具を差し込んだのです 。そして、運命のレースが始まりました。競走が白熱し、戦車の速度が最高潮に達したとき、熱で蜜蝋の留め具が溶け、オイノマオスの戦車の車輪が外れてしまいます。戦車は激しく横転し、オイノマオス王は車から投げ出されて命を落としました 。死の間際、王は御者ミュルティロスの裏切りに気づき、「ミュルティロスはペロプスの手にかかって死ぬだろう」と呪いの言葉を吐いたと言われています 。こうしてペロプスは、不正な手段によって勝利を掴み、美しいヒッポダメイアを妻として迎えることに成功したのでした。

 

参考)ミュルティロス - ぼくのかんがえたサーヴァント @ ウィキ…

参考リンク:ペロプスとヒッポダメイアの戦車競走について、神話の詳細が記されています。

 

戦車競走 - Wikipedia

ペロプスがかけたミュルティロスの呪いとその後の悲劇

オイノマオス王を打ち破り、ヒッポダメイアを手に入れたペロプスでしたが、彼は勝利の立役者であるミュルティロスとの約束を守るつもりはありませんでした 。特に、ヒッポダメイアとの初夜の権利を譲るという約束は、彼にとって到底受け入れがたいものだったのでしょう。ヒッポダメイア自身もミュルティロスに体を許すことを拒んだとも言われています。
祝勝の航海の途中、ペロプスはミュルティロスを騙し、背後から突き飛ばして崖から海へと突き落としてしまいます 。裏切られ、死の淵に立たされたミュルティロスは、絶命する寸前に、自らを裏切ったペロプスとその一族に対して、壮絶な呪いをかけました。「お前の一族は、子々孫々に至るまで、裏切りと憎しみによって血塗られた運命を辿るだろう」と 。このミュルティロスの呪いこそが、父タンタロスの罪から始まったペロプス家の悲劇を、決定的なものにしたのです。

 

参考)ミュルティロスとは? 意味や使い方 - コトバンク

この呪いは、恐ろしいほどに正確に実現していきます。ペロプス自身はペロポネソス半島一帯を支配する偉大な王となり、古代オリンピックの創始者とも称えられる英雄となりました 。オリンピアには彼の聖域「ペロピオン」が設けられ、競技会の際には彼を称える儀式が行われたほどです 。しかし、その栄光の裏で、呪いは着実に彼の子孫たちを蝕んでいきました。

 

参考)ペロプスの神話とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

ペロプスとヒッポダメイアの間には、アトレウス、テュエステス、ピッテウスなど多くの子供たちが生まれましたが、彼らの代から呪いの連鎖が始まります。異母兄弟であるクリュシッポスを、ヒッポダメイアが実子であるアトレウスとテュエステスをそそのかして殺害させるという事件が起こります。この事件をきっかけに、ペロプスの一族には兄弟間の憎悪、不貞、子殺し、そして復讐という、血で血を洗う悲劇が次々と巻き起こっていくことになるのです 。ミュルティロスの最期の叫びは、ペロプス一族の未来を永続的に縛る、決して解けることのない呪いとなったのでした 。

 

参考)テュエステース - Wikipedia

参考リンク:ミュルティロスの呪いがペロプス一族に与えた影響について解説されています。

 

ミュルティロスとは? 意味や使い方 - コトバンク

ペロプスの子孫アトレウスとテュエステスの確執

ミュルティロスの呪いは、ペロプスの息子たち、特にアトレウスとテュエステスの代で、最もおぞましい形で現実のものとなります 。二人の兄弟は、父ペロプスが支配したミケーネの王位を巡って、激しく対立しました 。この王位争いの鍵を握っていたのが、「黄金の毛皮を持つ羊」の存在でした。神託によれば、この魔法の羊を持つ者がミケーネの王になる運命だとされていたのです。
元々、この羊はアトレウスが持っていました。しかし、弟のテュエステスは兄の妻であるアエロペを誘惑し、不倫関係に陥ります 。そして、アエロペをそそのかして黄金の羊を盗み出し、「羊を持つ自分が王になるべきだ」と主張したのです。追い詰められたアトレウスですが、彼は大神ゼウスに祈りを捧げ、奇跡を起こすことで王位を正当化しようと試みます。ゼウスはこれに応え、天空を駆ける太陽を東から西へではなく、西から東へと逆行させたのです 。この超自然的な現象を目の当たりにした民衆はアトレウスこそが神に選ばれた王であると認め、テュエステスは国から追放されました 。

 

参考)https://tiu-tijc.repo.nii.ac.jp/record/31/files/KJ00004010959.pdf

しかし、アトレウスの怒りは収まりませんでした。彼は妻の不貞と弟の裏切りに対し、残忍極まりない復讐を計画します。しばらくして、アトレウスは和解を装ってテュエステスをミケーネに呼び戻し、盛大な宴を開きました 。何も知らないテュエステスが宴を楽しんでいると、アトレウスはメインディッシュとして豪華な肉料理を勧めます。テュエステスがその肉をほとんど食べ終えたとき、アトレウスは血の滴る皿を持ってきました。その皿の上に乗っていたのは、幼い子供たちの手足と首でした。それは、テュエステス自身の息子たちのものだったのです 。アトレウスは、テュエステスに自分の子供の肉を食べさせるという、想像を絶する復讐を遂げたのでした。

 

参考)https://blog.goo.ne.jp/chimaltov/e/45ac8e99784a6f6fc8c81e6990bb4beb

このおぞましい所業に絶望したテュエステスは、アトレウスへの復讐を誓います。彼はデルポイの神託所を訪れ、どうすれば復讐を遂げられるか尋ねました。すると、「自身の娘ペロピアとの間に息子をもうければ、その子が復讐を果たすだろう」という信じがたい神託が下されます 。テュエステスは神託に従い、正体を隠して娘を襲い、息子を孕ませます。その息子こそがアイギストスでした。何も知らずにアイギストスを育てたアトレウスは、やがて成長したアイギストスに、出生の真実と父の復讐の意志を告げられます。そして、アイギストスは自らの手で、育ての親であり伯父でもあるアトレウスを殺害し、父テュエステスの長年にわたる復讐を完遂させたのです 。この一連の事件は「アトレウス家の悲劇」として知られ、呪われた一族の物語の中でも特に有名なエピソードとなっています。

 

参考)アガメムノン

参考リンク:アトレウスとテュエステスの確執と、それに連なる悲劇について詳述されています。

 

アガメムノン | 古代ギリシャの神話と伝説

ペロプスと星座:おうし座との意外な関係

ペロプスの物語は、その壮絶な悲劇性から多くの文学や芸術の題材となってきましたが、実は夜空に輝く「星座」とも意外な繋がりを見出すことができます。直接的に「ペロプス座」という星座は存在しませんが、彼の家系を辿ることで、特におうし座との興味深い関係が浮かび上がってきます。

 

ペロプスの父はタンタロスですが、その母については諸説あります。その一つに、アトラスの娘であるプレイアデスの一人、プリュートーであるという説があります。プレイアデスとは、ギリシャ神話に登場する7人の美しい姉妹のことで、彼女たちは死後、天に上げられて星になったとされています。このプレイアデス姉妹が形成しているのが、おうし座の背中のあたりに位置する「プレアデス星団」、日本では「すばる」として知られる星々の集まりなのです。もしこの説が正しければ、ペロプスは夜空で輝くプレアデス星団の乙女たちの甥にあたるということになり、彼の血筋が天界にも繋がっていた可能性を示唆しています。

 

また、ペロプス神話の重要なエピソードである戦車競走も、星座との関連が指摘されています。ペロプスに買収され、主君を裏切った御者ミュルティロスは、後に「ぎょしゃ座」になったという説があるのです。ぎょしゃ座は、その名の通り手綱を握る御者の姿をした星座であり、ミュルティロスの悲劇的な最期と、優れた御者であったという彼の経歴が、この星座の由来として語られることがあります。ペロプスの勝利の影には、天の星座となった男の裏切りと呪いがあったのかもしれません。

 

さらに、ペロプス自身の身体的特徴である「象牙の肩」も、星との関連を思わせます。一説によれば、この象牙の肩は夜空で月のように白く輝いていたとされ、人々はその輝きを特別なものとして見ていたと言われています。古代の人々が、地上のできごとや英雄たちの物語を天の星々に投影していたことを考えると、この輝く肩が特定の星や星座と結びつけて語られていた可能性は十分に考えられます。

 

このように、ペロプスの物語は、単なる地上の悲劇に留まりません。彼の家系、彼に関わった人物、そして彼自身の伝説が、おうし座やぎょしゃ座といった星座の神話的背景に複雑に織り込まれているのです。星座に興味を持つとき、それぞれの星が持つ物語だけでなく、このように英雄たちの血脈や因縁が隠されていることを知ると、夜空を眺める楽しみがより一層深まるのではないでしょうか。

 

 


スピリッツ BS70 契約編:真 第3章 全天の覇神 R 勇士将軍ペロプス