「テッサリア」という地名に、星座や神話の香りを漠然と感じつつも、「具体的にどこ?」と聞かれると、首をかしげてしまう方は少なくないでしょう。テッサリアは、古代から現代に至るまで、ギリシャの中東部に位置する広大な地方です。まずは、その地理的な位置関係から詳しく見ていきましょう。
現代のギリシャ共和国の行政区画においても、「テッサリア地方(Περιφέρεια Θεσσαλίας)」として存在しています。首都アテネから北へ約300km、第二の都市テッサロニキからは南へ約200kmの位置にあり、ギリシャ本土のほぼ中央に位置する交通の要衝です。
テッサリア地方の最大の特徴は、その地形にあります。西にピンドス山脈、東にオサ山、ペリオン山、そして北には神々が住まうとされる有名なオリンポス山がそびえ、四方を山々に囲まれた広大な平原が広がっています。この「テッサリア平原」はギリシャ最大の穀倉地帯であり、古代から豊かな農業地帯として知られてきました。肥沃な大地は、小麦や綿花、野菜などの栽培に適しており、「ギリシャのパンかご」とも呼ばれるほどです。また、この平原は古代において、優れた馬の産地としても非常に有名でした。テッサリア産の馬は、マケドニアのアレクサンドロス大王の愛馬ブケファロスに代表されるように、古代世界で最高級の軍馬として名を馳せたのです。
まとめると、テッサリアは以下の特徴を持つ場所と言えます。
古代ギリシャの歴史や神話を理解する上で、この「山々に囲まれた肥沃な平原」という地理的特徴が、人々の生活や文化、そして神話の形成に大きな影響を与えたことを覚えておくと、物語がより立体的に見えてくるはずです。
テッサリアの肥沃な大地は、数多くの神話や英雄たちの物語を生み出す舞台となりました。その中でも最も有名なのが、ギリシャ神話最強の英雄と謳われるアキレウスの物語でしょう。
アキレウスは、テッサリア南東部にあったプティーア国の王ペレウスと、海の女神テティスの間に生まれました。女神である母テティスは、息子を不死身にするために、冥界の川ステュクスの水に彼の体を浸しました。しかし、その際に踵(かかと)の部分だけを掴んでいたため、そこだけが唯一の弱点として残ってしまったという伝説はあまりにも有名です。「アキレス腱」という言葉の語源ともなっています。
p>英雄として名高いアキレウスですが、彼の少年時代はテッサリアの豊かな自然の中で育まれました。特に彼の人格形成に大きな影響を与えたのが、テッサリアのペリオン山に住んでいたとされる半人半馬の賢者、ケンタウロス族のケイローンです。多くのケンタウロスが野蛮で粗暴な性格だったのに対し、ケイローンは医学、音楽、狩猟、占星術などあらゆる学問に精通した賢者でした。アキレウスはケイローンのもとに預けられ、心身ともに厳しい修行を積み、英雄としての礎を築いたのです。
| 名前 | テッサリアとの関わり |
|---|---|
| アキレウス | テッサリアのプティーア出身。ギリシャ神話最強の英雄。 |
| ケンタウロス族 | テッサリアの山地に住んでいたとされる半人半馬の種族。 |
| ケイローン | ケンタウロス族の賢者。アキレウスやイアソンなど多くの英雄を育てた。 |
| イアソン | テッサリアのイオルコス王国の王子。アルゴナウタイを率いて金羊毛皮を探す旅に出る。 |
| ラピテス族 | テッサリアに住んでいたとされる人間の部族。ケンタウロス族との激しい戦い(ケンタウロマキア)で知られる。 |
このように、テッサリアは単なる地名ではなく、神話の英雄たちが駆け巡り、数々の伝説が生まれた「物語の大地」なのです。アキレウスの強さやケイローンの賢明さは、テッサリアの険しい山々と豊かな平原という自然環境が育んだものなのかもしれません。
テッサリアと聞くと、「魔女」や「魔術」を連想する人もいるかもしれません。実際、古代ローマの文学作品などでは、テッサリアは強力な魔術や呪術が盛んな土地として描かれています。なぜ、テッサリアはそのようなイメージを持たれるようになったのでしょうか。その背景には、ギリシャ神話の中でも特に有名な「イアソンと金羊毛皮の物語」が深く関わっています。
テッサリアのイオルコス王国の正当な王位継承者であったイアソンは、叔父ペリアスに王位を奪われ、それを取り戻すための試練として、コルキス(現在のジョージア)にあるという「金羊毛皮」を持ってくるよう命じられます。イアソンはギリシャ中から英雄たちを集め、「アルゴナウタイ」と呼ばれる冒険隊を結成し、アルゴ船に乗って過酷な旅に出ました。
数々の困難を乗り越え、目的地のコルキスにたどり着いたイアソン。しかし、金羊毛皮は火を吹く雄牛や竜に守られており、手に入れるのは不可能に近い状況でした。ここでイアソンを助けたのが、コルキスの王女であり、恐るべき魔力を持つ女神ヘカテの巫女でもあったメディアです。
メディアはイアソンに一目惚れし、彼を助けるために強力な魔術を使います。
メディアの魔術の助けにより、イアソンは無事に金羊毛皮を手に入れ、彼女を連れて故郷テッサリアへと帰還します。しかし、物語はここで終わりません。イアソンに王位を返す約束を破った叔父ペリアスに対し、メディアは再び恐ろしい魔術を使います。ペリアスの娘たちを騙し、「若返りの儀式」と称して、父親を釜で煮殺させてしまったのです。
この一連の物語、特にメディアの常軌を逸した強力な魔術は、古代ギリシャ・ローマ世界に衝撃を与えました。そして、メディアが最終的にイアソンと共に暮らした土地がテッサaliaであったことから、「テッサリア=魔女の国」というイメージが定着していったと考えられます。古代ローマの詩人ホラティウスやオウィディウスも、自身の作品の中でテッサリアの魔女について言及しており、彼女たちが月を空から引きずり下ろし、死者を蘇らせるほどの力を持つと記しています。神話の世界だけでなく、人々の認識の中でも、テッサarriaは神秘と恐怖が入り混じる魔術の地となっていったのです。
夜空を彩る星座の多くがギリシャ神話に由来することはよく知られていますが、テッサリア地方は特に「射手座(いて座)」と「ケンタウロス座」という2つの星座と深い関わりを持っています。
これらの星座のモデルとなったとされるのが、前述の英雄アキレウスの師でもある、賢者ケイローンです。ケイローンは、粗暴な他のケンタウロスとは一線を画す、知恵と慈愛に満ちた存在でした。彼はテッサリアのペリオン山で暮らし、アキレウスのほか、医神アスクлеpiosやアルゴナウタイを率いたイアソンなど、数多くの英雄たちに知識と技術を授けました。
ケイローンが星座になった経緯については、いくつかの説がありますが、最も有名なのは英雄ヘラクレスとのエピソードです。
ここで興味深いのは、「射手座」と「ケンタウロス座」という2つのよく似た姿の星座が存在する点です。なぜケイローンをモデルにした星座が2つあるのでしょうか?
一説には、野蛮なケンタウロス族(いて座)と、賢者であるケイローン(ケンタウロス座)を区別するために、2つの星座が作られたとも言われています。テッサリアの山中で英雄を育てた一人の賢者の物語が、時を経て夜空の星となり、今も私たちに語りかけているというのは、非常にロマンチックな話ではないでしょうか。星座早見盤を片手に、テッサリアの英雄譚に想いを馳せてみるのも一興です。
神話や伝説の舞台となったテッサリアですが、その面影は現代にも確かに息づいています。歴史や星座に興味を持ったなら、次はその地を実際に訪れてみたくなるのが人情というもの。ここでは、ガイドブックには載っていないような少しマニアックな視点も交えながら、テッサリア地方で訪れるべき遺跡や観光スポットを紹介します。
1. メテオラ修道院群:天空の聖域 🧗♀️
テッサリア観光のハイライトといえば、何と言ってもメテオラでしょう。天に突き出すようにそびえ立つ巨大な奇岩群の頂上に、 중세의 비잔틴 수도원이 위태롭게 자리잡고 있습니다. 「메테오라」란 그리스어로 「공중에 떠 있는」이라는 의미로、그 이름 그대로 비현실적인 경관이 펼쳐집니다. かつて는 20以上の修道院がありましたが、現在活動しているのは6つ。俗世から隔絶された環境で、何世紀にもわたり信仰が守られてきました。神話の時代とは直接적인 관계는 없지만、신들이 사는 올림포스 산을 바라보는 이 땅이、고대부터 신성한 장소로 여겨졌음을 느끼게 해 줍니다.
2. ディミニとセスクロの遺跡:ギリシャ最古の集落跡 🏛️
より歴史を遡りたいなら、ヴォロス近郊にあるディミニ(Διμήνι)とセ스크ロ(Σέσκλο)の先史時代の集落跡がおすすめです。これらは紀元前5000年~4000年頃の新石器時代のもので、ギリシャ文明の夜明けを告げる非常に重要な遺跡です。特にディミニ遺跡では、同心円状に何重もの石壁が巡らされたアクロポリス(城塞)が見つかっており、高度な社会組織が存在したことがうかがえます。神話に語られる英雄たちの 시대보다 훨씬 이전에、このテッサ리아の地で人々がどのような生活を送っていたのか、想像力をかき立てられます。
ギリシャ文化省が運営する下記のサイトでは、ディミニ遺跡の考古学的な情報が詳しく解説されています。訪問前の予習に最適です。
ODYSSEUS - Ministry of Culture and Sports | Dimini
3. ペリオン山:ケンタウロスの故郷を歩く ⛰️
英雄アキレウスやイアソンが賢者ケイローンから教えを受けた場所、ペリオン山(Πήλιο)へ足を運んでみてはいかがでしょうか。現在は美しい伝統的な村々が点在する風光明媚な観光地となっており、ハイキングやスキーを楽しむことができます。石畳の小道が続くマクリニツァ村이나、伝統的な建築물이 남아 있는ツァγκα라다村など、絵画のような風景が広がります。特に、「ペリオン鉄道」という小さな蒸気機関車(地元では「ムツリス(smudgy)」の愛称で呼ばれています)に乗れば、山の斜面を走りながら、眼下に広がるパガシティコス湾の絶景を楽しむことができます。ケンタウロスが駆け巡ったであろう森の中を列車で進む体験は、神話ファンならずとも感動すること間違いなしです。
これらの場所を訪れることで、「テッサリアはどこ?」という問いは、単なる地図上の知識ではなく、歴史と神話が息づく具体的なイメージとして心に刻まれるでしょう。英雄たちの足跡と天空の奇観、そして古代文明の息吹を感じる旅は、きっと忘れられない体験になるはずです。