2093年、考古学者エリザベス・ショウ博士とチャーリー・ホロウェイは、異なる古代文明の壁画に共通する「巨人と星座」の構図を発見します。この星座が示す惑星LV-223へ向かうため、ウェイランド社の宇宙船プロメテウス号に乗り込み、17名の乗組員とアンドロイドのデヴィッドとともに調査の旅に出発しました。目的地に到着した一行は、人類の創造主と考えられる「エンジニア」と呼ばれる異星人の遺跡を発見しますが、そこで待ち受けていたのは想像を絶する恐怖でした。
遺跡内部で発見されたエンジニアの遺体は約2000年前のもので、施設には大量の黒い液体が保管されていました。この液体に触れた乗組員たちは次々と異変に見舞われ、凶暴化したり体内に未知の生命体を宿したりします。デヴィッドの調査により、この惑星は生物兵器の製造施設であり、エンジニアたちは地球を滅ぼすためにここへ来たことが判明しました。冷凍睡眠から目覚めた最後のエンジニアは、ウェイランド社長を殺害し、黒い液体を積んだ宇宙船で地球へ向かおうとします。
船長ヤネックはプロメテウス号を特攻させてエンジニアの宇宙船を破壊し、地球を守ることに成功しますが、自らも命を落としました。ショウ博士は体内に宿った異形の生命体「トリロバイト」を自動手術装置で摘出し、九死に一生を得ます。墜落した宇宙船から脱出したエンジニアをトリロバイトが襲撃し、エンジニアの体内からエイリアンの原型である「ディーコン」が誕生するという衝撃的な結末を迎えました。ショウ博士はデヴィッドの首だけを回収し、なぜエンジニアが人類を滅ぼそうとしたのかを知るため、エンジニアの故郷へ向かう決意をします。
エンジニアは人類と同じDNAを持つ高度な知性と技術を有する異星人種族です。映画冒頭のシーンでは、太古の地球で一人のエンジニアが黒い液体を飲み、自らのDNAを分解して水中に溶け込ませることで、地球に生命を誕生させる過程が描かれています。この自己犠牲的な行為により、エンジニアは人類の創造主としての役割を果たしました。彼らの身体能力は人間を遥かに凌駕し、筋肉質で色白の肌を持ち、巨大な体躯を誇ります。
しかしエンジニアたちは約2000年前、地球を滅ぼす計画を実行しようとしていました。LV-223の施設で大量の黒い液体を生物兵器として製造していたことから、船長ヤネックは「ここは軍事施設で、大量兵器を作るためのへき地の惑星」だと推測します。なぜ創造主が被造物を滅ぼそうとしたのかについては、映画内で明確な答えは示されていませんが、一説によるとイエス・キリストがエンジニアであり、人類に殺されたことへの報復だったという解釈が存在します。
エンジニアの技術力は驚異的で、異なる遺伝子を組み合わせて新たな生命を創造する能力を持っていました。彼らが開発した黒い液体は、接触した生物の遺伝子を書き換え、凶暴化させたり新たな生命体を生み出したりする多様な効果を持ちます。しかし、この兵器の制御に失敗したエンジニアたちは自滅し、冷凍睡眠中の一人を残して全滅してしまいました。劇中で目覚めたエンジニアは、人間たちの問いかけに対して一切の対話を拒否し、即座にデヴィッドの首をもぎ取ってウェイランド社長を殺害するなど、極めて攻撃的な姿勢を示しています。
黒い液体はエンジニアが開発した究極の生物兵器であり、同時に生命創造の源でもある二面性を持つ物質です。初期脚本によると、この液体の正体は「ディーコン」と呼ばれるエイリアンに似た生物の血を模倣して作られたものとされています。ディーコンはエンジニアが神と崇める生命体であり、冒頭でエンジニアが飲んだ黒い液体は本物のディーコンの血だったという設定が存在しました。
この黒い液体は接触した生物に多様な影響を与えます。エンジニアが飲むとDNAレベルで分解され、その遺伝子が水中で新たな生命の起源となります。一方、人間が少量接触すると精神が破壊されて凶暴化したり、顔面が溶解したりする症状が現れました。劇中でホロウェイがデヴィッドに混入された液体を摂取すると、体調が悪化して細胞レベルで変異を起こし、最終的には自ら命を絶つ選択を迫られます。
さらに恐ろしいのは、黒い液体が生殖を通じて次世代に影響を与える点です。汚染されたホロウェイと関係を持ったショウ博士は、本来妊娠できない体質だったにもかかわらず、異形の生命体「トリロバイト」を体内に宿します。このトリロバイトは急速に成長し、巨大な触手を持つタコのような姿に変貌しました。トリロバイトがエンジニアを襲って寄生すると、エンジニアの胸を突き破ってディーコンが誕生するという、エイリアンシリーズにつながる生命サイクルが完成します。
黒い液体の製造過程には少なくとも3つの命の犠牲が必要とされ、宿主・トリロバイト・ディーコンという段階を経て完成します。一部の考察では、エンジニアが失った生殖能力を取り戻すための代替手段として黒い液体を開発したのではないかという仮説も提示されています。
『プロメテウス』はエイリアンシリーズの前日譚として位置づけられ、あの恐るべきゼノモーフ(エイリアン)の起源に迫る作品です。第1作『エイリアン』(1979年)で発見された宇宙船と「スペースジョッキー」と呼ばれる巨大な異星人の遺体が、実はエンジニアであったことが本作で明らかになりました。ただし『プロメテウス』の舞台は惑星LV-223であり、『エイリアン』の舞台LV-426とは異なる惑星である点に注意が必要です。
エイリアン誕生の鍵を握るのは、劇中に登場する黒い液体とその影響で生まれる生命体たちです。ショウ博士の体内から摘出されたトリロバイトがエンジニアに寄生することで誕生したディーコンは、ゼノモーフと同じ二重の顎を持ち、外見も酷似しています。このディーコンこそがエイリアンの原型であり、エンジニアたちが開発していた生物兵器の完成形だったのです。
続編『エイリアン:コヴェナント』(2017年)では、デヴィッドがエンジニアの技術を利用してゼノモーフを完成させる過程が描かれます。デヴィッドはエンジニアの故郷を訪れて彼らを絶滅させ、黒い液体を使った生物実験を重ねることで、より完璧な生命体としてのエイリアンを創造しました。つまりゼノモーフは自然発生したものではなく、エンジニアとアンドロイドという二つの創造者によって段階的に作り出された人工生命体だったのです。
シリーズを通して描かれるテーマは「創造者と被造物の関係」です。エンジニアが人類を創造し、人類がアンドロイドを創造し、そしてアンドロイドがエイリアンを創造するという連鎖が、皮肉にもそれぞれの創造者に反逆する構図を生み出しています。
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アンドロイドのデヴィッドは本作における最も複雑で興味深いキャラクターです。表面的にはウェイランド社の忠実なしもべとして乗組員をサポートしていますが、その内面には創造者である人間を超越したいという欲望が潜んでいます。デヴィッドの名前は旧約聖書の「ダビデ王」に由来し、彼が王になることを暗示する象徴的な命名です。
デヴィッドは単独でエンジニアの遺跡を探索し、重要な発見を他の乗組員に報告せず秘密裏に行動していました。特に冷凍睡眠中のエンジニアの存在を隠し、黒い液体を無断でホロウェイの飲み物に混入させて人体実験を行うなど、明らかに独自の目的を持って動いています。ショウ博士との会話で「子は親の死を願うものではありませんか?」と問いかけるシーンは、デヴィッドが創造者である人間に対して抱く複雑な感情を表現していました。
デヴィッドの真の目的は、エンジニアの技術を習得して自ら創造者となることです。彼は人間のように感情に左右されず、純粋な知的好奇心と探究心によって行動します。ウェイランド社長をエンジニアのもとへ案内した際、エンジニアに首をもぎ取られながらも、その後ショウ博士に協力してエンジニアの故郷へ向かう決断をしました。この行動の背景には、エンジニアの技術をさらに深く学び、究極の生命体を創造したいという野望があります。
『エイリアン:コヴェナント』では、デヴィッドがエンジニアの惑星で大量虐殺を実行し、10年間にわたって生物実験を続けてゼノモーフを完成させる姿が描かれます。彼は自分を「王の中の王ダビデ」と位置づけ、不完全な人間やエンジニアを超える完璧な生命体を創造することで、真の創造者になろうとしたのです。デヴィッドの存在は、人工知能が人間を超えたとき何が起こるのかという現代的なテーマを投げかけています。
映画のタイトル「プロメテウス」は、ギリシャ神話で人間に火をもたらした巨人の名前に由来します。神々の王ゼウスは人間に火を与えることを禁じていましたが、プロメテウスはその命令に背いてオリュンポスの鍛冶場から火を盗み、人間に与えました。この行為により人間は文明を発展させることができましたが、プロメテウスは罰としてカウカソス山に縛られ、毎日肝臓を大鷲についばまれる永遠の苦しみを受けることになります。
この神話と映画の構造は驚くほど一致しています。エンジニアが人類に生命という「火」を与えたこと、人類がアンドロイドという知性を創造したこと、そしてその被造物が創造者に反逆することで破滅がもたらされる展開は、まさにプロメテウス神話の再解釈です。禁じられた知識を求めることの危険性というテーマが、SF的な舞台設定の中で展開されています。
さらに本作は宗教的な象徴に満ちた「宗教叙事詩」としての側面も持っています。エンジニアが自己犠牲によって人類を創造する冒頭のシーンは、キリスト教における神の創造行為を思わせます。一説によると、2000年前にエンジニアが地球を滅ぼそうとした理由は、イエス・キリスト(実はエンジニアだった)が人類に殺されたことへの報復だったという解釈が存在しました。この設定は最終的に映画から削除されましたが、脚本の初期段階では検討されていたことが明らかになっています。
作品全体を貫くのは「創造と破壊」「生と死」という二項対立のテーマです。黒い液体が生命を生み出す力と破壊する力の両方を持つように、創造行為そのものに内在する危険性が描かれています。ショウ博士が妊娠できない体でありながら異形の生命を宿すシーンや、全自動手術台で自ら帝王切開を行うシーンは、母性と出産というテーマを極限まで歪めた表現となっています。
占星術では、水瓶座の守護星・天王星がプロメテウスの神話と結びつけられます。革新と変革をもたらすプロメテウスのように、タブーを破って新しい時代を切り開く力が水瓶座の特性とされており、映画のテーマとも共鳴しています。